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RE・VERSE  作者: 夏
2章 命のアースランド編
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新たな仲間

 新たな仲間


その日ラルフに抱えられるようにして与えられていた部屋に戻り、休んでいても力は戻る気配がなかった。

そこで兄貴と相談した結果、一度、ニブルヘイムの黒の神殿に戻ることになった。

当然だが水都の城内にある賢者専用扉で、だ。

そちらで療養するほうが力も戻りやすいと地龍王とライヤとで決まった。

とはいえ扉一つで移動できるので一時的なものだ。

本来の目的である海洋都市ポセイドンはこの水都アクアリムよりも東に位置しているためこの水都すらも中継都市だったりする。

海洋都市ポセイドンにある水源は世界最大の水源地である。

平面であるこの世界の端は海である。

大陸の端にある海は地下に回ると地下水となり土の下をめぐり土の下で浄化されてやがて水源に戻り海に帰る。

太陽という名の炎に温められた海は雲を作り、雲はやがて徐々に上昇していく。

上昇しすぎた雲は夜になると冷たい冷気にさらされて雨を生み出し山河を潤す。

山河を下り川となって海に合流する。

それが水と土の命のサイクルだ。

だが水源地に勢いがなければ海も滞り澱む。澱んでしまったら綺麗な水も雲もできにくい。

当然雲ができにくいと雨も降らない。

負のサイクルに陥る。それが今のこの世界の水事情だ。

因みに海で温められることで炎の勢いを殺し雨に変わることで冷やされる効果もあるので当然ながら炎の力にも影響が出る。

世界的な干ばつが続くもの雨が降りにくいせいで炎の力が強すぎているのである。

炎の力が強すぎれば台地に潤いはなくなり砂漠化が進む。砂漠化が進めば植物や動物たちも生きていけない環境ができる。

砂漠化が広がれば何も遮るものがないので風の力が増す。風の力が増せば砂漠地帯なら熱風となりさらに水の勢いはなくなる。

当然ながら人の生活にも支障が出るというわけだ。

そういった炎と風の力が強すぎる為各地で辛苦を舐めている人たちが多いのだ。


なので、まずは澱んだ水を浄化し強めることで勢いを取り戻すことになったのである。

その為には水源地である聖域で舞を舞う必要がある。

それも全の賢者の力を持つ者が水の舞を舞う事で浄化と共に力を強める必要があるのだ。


この地、水都に置いて二年近く降り続いた雨のせいで日光不足、土も水分を余分に含んでいるという事もあり環境はかなり悪かった。

今までは地龍王が土の力を使い、水はけをよくしていたという事で保っていられたのである。

俺が水の舞を舞ったことで強すぎた水の力と炎の力が弱まり、雨が止むと植物や風の力もかなり弱っていたため急遽、命の舞を舞ったのである。


過去二十年以上も舞い手がいなかった命の舞の効果は絶大だった。

現王ラインハルトはその病弱故に舞うことはできなかったので舞い手がいなかった。

今の俺も舞うための力は不足気味で舞ったものの、効果も水都以上には波及しなかったようだ。

それでも時間が経つにつれて効果はゆっくりと確実に水都を抜けてアースランド大陸全土に波及するものと思われた。

というのも命の舞は他の舞と違いすぐに効果が出ることは少ないからだ。

調和を基本の力とする全の力の舞なので時間が経つにつれて徐々に効果が強まり現れるからだ。

それでも効果がそれなりにすぐに現れたのは、この地がそれほどまでに調和していない乱れた力の地だったという事だ。

そんな俺は今その舞を舞ったせいで身動きかとれない状態だった。

うまく力が回復しないせいである。

水都で集まった結晶も取り込んだが、容量は増えたものの、力はさほど回復しなかったのである。

そんな事情もあり、回復したての水都ではなかなか力を回復できないのも仕方ない事なので、ひとまず先の神殿に身柄を移された。

今、一階では水都と繋がったことで地龍王と兄貴と炎王とで会談が行われている。

水源地ポセイドンの後に向かうのは炎の地の予定だからである。

とはいえ、俺の今の問題は会談ではない。

【虚脱状態】の俺を心配する瑞穂だ。

舞を舞ったあの日も軽く街に出かけていた瑞穂は、途中で雨が止んだのを見て慌てるようにして城に帰ってきたのだという。

雨が不意に止んだのを見てなぜか不安になったという。

俺を心配して慌てるように城に帰ると、部屋には【虚脱状態】の俺がいたというわけだ。

俺を心配して俺の身の周りの世話を始めているのだがこれは俺にとって地獄に近い。

意識しない侍女たちならいざ知らず、瑞穂では羞恥が勝る。

おまけに手作りの粥も持ってくるのだが瑞穂は料理が壊滅状態なのは昔からなので困る。

なぜか何をどう作ってもきれいな見た目と裏腹に壊滅的な不味さはいつも変わらない。

手作りなので食べないという選択肢は俺にはほぼない。

いつもなら一口だけ食べて突き返すのだが今は無理だった。

その料理が、俺の状態がなかなか回復しない理由の一つな事に、本人の瑞穂は気がついていない。

虚脱状態の俺は自力で物を食せる状態ではないのも要因の一つだ。

そんな中さすがに三度目になる頃にはラルフ達もその粥が原因で悪化していることに気がつくというものである。

俺の目の前に置かれたその粥を引き留めたのはライヤだった。

「瑞穂、君、これ味見しているか?」

その質問は至極当然の質問だった。

「してないわ。だって玲也はまずくても食べてくれるもの。それにこの粥の材料は体にいい物ばかりで作っているのよ」

「君ね……。この世界には併せてはいけない食材という物が結構あるんだぞ。知らないままに作った粥だろう、ソレは」

「そんなのあるの?」

「ミズホ様、やはり知らないままに作られておいでだったのですね……」

ラルフが呆れた。

「瑞穂の作ったソレは食べさせるな。これ以上悪化させるわけにはいかない。これからは神殿の料理人に用意させたものを食べさせてやれ」

「ええ……。でも一口くらい……」

瑞穂は残念そうに呟いた。

「いけません!」

ラルフはそう言って瑞穂から原因の粥を取り上げた。

俺はといえばその一連の粥問答を見守るしかなかった。

瑞穂は受け取った粥をいつものように俺に食べさせたのだった。

「玲也、ごめんね。あの粥がそんなに悪いものだと思わなかったのよ…」

「………分かってくれたらもういいから……」

「玲也の回復が自己回復しかないのは辛いわ。ほかに手段は、ないのかしら飲み薬とか」

「あるにはありますよ。薬ではなくスキルですが」

「そんなスキルがあるの?」

「………聖女のスキルにエレメンタルブーストという特技がある。文字通り賢者の力を増幅するスキルだ。だがこの世界に聖女は自然には生まれないから今は誰も使えない」

そう言ったのはライヤだった。

「有名なスキルだ。聖女とは冥王の妃の別名で現王ラインハルト様には妃は居ない。だから誰も使えない」

補足したのは俺だったが余計な一言を言ったのはラルフだった。

「可能性があるのはミズホ様が覚醒なされれば使える可能性もでます」

「そうなんだ……」

瑞穂は少し考え込んでしまったが不意に立ち上がる。

「これ持っていくね。ゆっくり休んでいてね」

「ああ」

瑞穂はそう言って足早に部屋を出て行った。

俺はといえばやっと普通に食事が終えたことで幾分、睡魔が襲っていた。

「兄貴…助かったよ。いくら言っても聞いてくれなかったから…」

「お前もお前だ。なぜ拒否しなかった?」

「……なぜって……拒否してたけど、いつも無理に飲まされたから…」

ライヤは額に手を当てうめいた。

「その体では完全に拒否できないか…」

呻くように呟いた。

「俺たちのほうでも気がついてやれなかったことは悪かった」

「…………うん」

その言葉が最後のように睡魔に誘われた俺だった。

俺の体調はその日を境に順調に回復していったのである。



やっと力も回復して神殿の扉から再び水都から水源地の海洋都市ポセイドンへ向かうため水都入りをするとそこで改めて旅に海龍皇子が同行することになった。

海龍皇子が同行することは初めから予定されていたことだったので驚くことなく合流を果たす。


その時に初めて海龍皇子から旅に慣れるためにもお互いに名を呼び捨てで呼び合うことになった。

だが、海龍と呼ぶには長すぎると判断して”カイ“と呼ぶことにするとその呼び方に海龍皇子も気に入った様子だった。


カイが合流したことで同行者も増える。

カイとその護衛者二人、それと専属の侍女が一人同行することになる。

当然だが兄貴たち一行もいる為これまではギリギリ拡張せずに済んでいた車も少し拡張機能を作動させることになった。

とは言え空間のエキスパートといえる兄貴謹製の改造車である。見た目は何も変わらないからこそ、その高機能さがうかがえた。

そんな移動用の車にやはり驚いたカイ一行だった。


水都を地龍王たちに見送られて海洋都市ポセイドンへと海龍皇子たちを乗せて出発してもしばらくカイの興奮は収まらなかった。

「馬車の発展型ってきいたけど本当にすごいね。早い上に揺れもほとんどないし、椅子も高級馬車に乗っているような柔らかさもある」

「かなり気に入ったらしいな」

そう言ってきたのはライヤだった。

「もちろんだよ。これも量産できるようになるの?」

「城で工夫中といったところだ」

「未定なんだね。それでも凄い技術だよね。異世界ってすごいんだね」

「この世界のような魔法文明じゃなく科学文明だから発展状況が違うんだよ」

「もしかして、魔法が発展してないの?」

「ああ」

俺はそう答えた。

「エネルギー事情も違うからすり合わせが難しいんだ。とはいえ、一から作り出すことを考えれば楽なほうだろう」

ライヤが補足するように言った。

「じゃあこの乗り物は異世界の物なのかい?」

俺とライヤは見合わせる。

「半分以上はそうなるかな。動力部を少し弄っただけだからな」

「この乗り物は動力部でこの世界にはない資源を使っているから、それを俺の力で作り出して消費しているんだ。俺がいないとこれはしばらくすると動かなくなるからな」

「そうなんだ……」

「だからこそコレはレイヤが持っているんだが、先日その動力部をこの世界の魔術系動力に変換する術式の開発に成功したと開発部が報告してきたな」

ライヤのその報告におれは少し驚いた。

もう少しかかると思っていたからだった。

「もう少しかかると思ってたけど、結構早いな。ひょっとして電力?」

「ああ。この世界の雷の力と同種だったようだ」

「それは良かったな。基本的な元素の力は異世界とさほど変わらないらしいな」

「そうらしい」



水都から水源の海洋都市ポセイドンまでは国境から水都までの距離と同程度の距離かある。

海洋都市というだけあり海に隣接していてそれなりに海からの交易で栄えている都市だ。

このアースランド王国の第二の都市として有名でもある。

当然ながら一日で行ける距離ではないため中継町で一泊予定だ。

その中継町での宿も皇子海龍が同行という事もあり王国で手配済みだ。

中継町までは通常馬車では丸一日かかる距離で一度の宿泊だけでは海洋都市には到着しないのが馬車の道程だがこの乗り物ではそれなりに早いので十二時間ほどかかる距離も八時間ほどで済んだ。

途中昼食等の休憩を挟んでの時間なのでそれなりに早く到着したと言っていいだろう。


もっとも、それだけ長い時間走れば当然、燃料も底につきかけるが、切れる前に宿に到着したのは恩の字だった。

宿にはカイ達が中に入り宿を取っている間に、インベントリ内にある燃料を取り出しいつものようにラルフ達に預けると早々に燃料を補給して空の容器を受け取った。

燃料だけはかなりの容量をインベントリ内に用意してある。

兄貴曰く、燃料のいらない別の車もこの世界に持ち込んだらしいがその車は城の研究者の元にある。

主流としてはそちらを考えているという。


長時間、同じ面子で旅をしていると当然ながら仲が良くなるのも当然である。

それは瑞穂とカイ皇子も同じだったようですぐに打ち解けてしまった。

さすがは社交力の高い瑞穂というべきだろう。

カイ皇子もそれなりに社交力も長けているのか気のいい友達を見つけたという感じで瑞穂との仲もそつなくこなしていた。とは言え、時折、俺をうかがうようにしているので少し計算ずくかもしれないと感じたが害意も敵意もないので処世術だろう。

その効果は護衛たちにもあったのかそれぞれの護衛たちも仲間意識が出来ているらしい。

自然とおれたちの護衛も交代制に切り替えたようだ。


今回の旅はカイ皇子の同行にはそれなりに理由もある。

水源地の聖域には命の賢者か、その後継者の同行と許可が必須なのである。

今回の旅程でうまく成功した後は他の国への同行もカイ皇子は予定している。

地龍王曰く、世界を見て廻り、知ることも大事だというのである。

それだけでなく世界中の水不足解消にも次期後継者が同行していれば回復も容易いというのも理由の一つである。

当然ながら俺の力と相乗効果が期待できるので別々で旅をするよりも効果的であり建設的だ。

そう言った理由から他の後継者の同行も検討中という。

だが、ライヤ曰くカイ皇子以外は難しいのではないかという。

なぜなら性格の問題で動の賢者の後継者は一つ処に居ないというほどの旅好きで捕まらないからだ。

力の後継者は逆に無口すぎる上に旅嫌いとライヤは聞いているらしい。

なかなかに曲者ぞろいだという。

それはカイ皇子にもしたたかさを感じたのでその感想には頷ける気がした。

賢者とは言え一国を治める王子や皇太子たちである。曲者ぞろいなのにも納得である。


カイ皇子はこの宿は顔なじみなのだろう。宿に到着後に入って支配人の出迎えがあった。

「お久しぶりでございます、海龍皇子様。お待ち申し上げておりました」

「馴染みの宿か」

フードを目深にかぶっていた俺がそう聞くとにこやかに笑って言った。

「うん。ポセイドンに行くときにはいつも泊ってるんだ。警備もしっかりしているから安心なんだ」

「そうか」

「馴染みの宿ならなおさらいつものように注意するべきだな」

「それは言えますね。念入りに注意しておきます、レイヤ様」

「頼む」

「気に入らない?」

カイが不安げに聞いてきた。

「いや、そういう事じゃないんだ。カイのおすすめの定宿ならなおさら泊まることは承知の事実だろうから警戒はすべき、なだけだ。襲撃の予定も立てやすいだろうしさ」

「…………そうだね」

「そう言いながら玲也は、料理が楽しみなんじゃないの?」

瑞穂が茶化してきた。

「何を今更。旅のだいご味だろうが」

「やっぱり羨ましいわ。いくら食べても太らない人はいいわよねぇ」

「心配せずとも覚醒すれば瑞穂も俺たちと同じようになる。気にすることじゃない」

ライヤはそう言った。

「魔力を操作できる貴族以上にしか知られていない事実だからね。必要以上の食事は魔力に変換されるのは」

カイが瑞穂に教えてくれる。そんな俺は頷き補足した。

「この世界で太るのは食事じゃなくて心の在り方だからな」

「そうなの?」

「ああ、心に邪念があると太りやすくなるんだ」

「嫉妬や憤怒、怠惰とか七欲に過剰にさらされ続けると太ると言われている」

ライヤがさらに補足してきた。

「太ったら痩せられないの?」

「心のありようだから、一夜にして激減したと聞いたこともあるかな」

「そうなんだ…」

「宿の準備が整ったみたいだから部屋に行こうよ」

「そうだな」

おれはその時やっとかぶっていたフードを後ろに下ろした。

そこで初めて支配人を見て言った。

「くれぐれもよろしく頼む」

さすがに支配人も俺の存在に気が付き、驚いていたがそこは支配人だけありすぐに身を正すとお辞儀をして答えてくれた。

「了解いたしました。ごゆっくりとおくつろぎくださいませ」

さすがはカイ皇子の定宿というべき高級宿か。その後、宿の警備がすぐに強化された。


その日は何事もなく宿で一泊したのだが翌日、町を出た後に問題が起こった。

襲撃にあったのである。


この辺りは、ちょうど大都市との間にあり、町との間に距離がある。一泊した街も宿場町として栄えていたのだが、少し町を離れるとこの大陸の唯一の森が広大に広がっており、当然ながら盗賊などの隠れ家もあるようで少し治安が悪いらしかった。

それはカイたちも知っていたらしく街を出てすぐにラルフ達に治安が悪いから警戒を強めるように言ったことでも理解できた。

カイがそう忠告した直後だった。

大きな陥没音が聞こえたのは。

その陥没音で車は急停止して、ラルフ達護衛たちが警戒度を上げ周囲を見回し車から飛び出す。

外で警戒していた者たちが報告してきた。

「前方に大きな衝撃と共に地面が陥没しているようです。どうやら土魔法を使ってきた模様」

背後からカイの護衛たちが合流して言った。

「この近辺の盗賊の常とう手段です。前方の行く手をふさぎ周囲を取り囲んで襲撃してくるのは」

「なるほど。ラルフ、襲撃は任せる。おれは陥没を直そう」

「僕がやるよ。君はまだここで目立つわけにはいかないからね。町に近すぎる」

そう言ってきたのはカイだ。

「…………。そうだな。任せても?」

「僕も頼ってほしいな。命の後継者の力の見せどころだしね」

カイはそう言ってほほ笑んだ。

「瑞穂と兄貴はそのままこの中にいてくれ。俺は念のために外に出る」

ライヤは頷いた。

「気を付けてね」

「ああ」

俺はそう言って改造銃を取り出し腰に下げた剣を確認してフードを目深にかぶったまま、外に出た。

車から外に出た時、先に出ていたラルフが近寄っていた賊を薙ぎ払う。

その隙を狙ってラルフめがけて弓矢が死角から飛んできた。

おれはその矢に気が付き、持っていた銃を発砲して相殺した。

飛んできた方角に向けてラルフが風魔法を放つとしばらくして崩れ落ちる音が聞こえた。

この銃、中から出る弾は魔力弾で持っているだけでその人間の魔力を取り込み圧縮して弾になるため、魔法銃とでもいえる代物でもある。

真剣部分も高密度した銃身の鋼部分と魔力を一時的に固形化させている特徴があるためこの世界にある魔力の籠った物質には無敵である。

接触した即座に分解または融合してしまうので物によると消滅するのである。

この飛んできた矢もその魔力弾の影響で相殺し、矢は消えたのである。

全の魔力を持つ俺だと消滅機能が付くのだ。

もちろん対象が味方だと撃った俺の意識に左右されるので回復弾にもなる。

これが兄貴の魔力だと勝手が違うので消滅ではなく、当たった対象の時が止まる可能性が高い。もっとも、物理ダメージは俺だろうと兄貴だろうと銃なので発生するが。

こういった追加効果は俺ならではだが、物理的なものは消滅するが、人や生き物だとどうなるかといえば、おそらくは即死効果が出ると思われる。恐らくどこに命中しても即死するだろう。

自身の魔力なので狙い定めた対象に追尾する機能があるので命中率も高い。

ある意味で使いどころに困る武器でもある。なので、基本は自衛手段だ。

とはいえ、その特殊効果も賢者の血筋という特殊な魔力故の物なので一般人が持つと弾は普通の魔力弾で鉛玉のような物理効果がある。

動力が持つ者の魔力という事もあり使える魔力が空になれば当然使えず、使えば使うほど魔力も消費するデメリットもあるのだが、それ以上に弓の矢よりも破壊力と殺傷力はあるので魔物対策にはもってこいの武器だ。手のひらよりも少し大きめだが弓を背負うよりも荷物にはならない上に、女子供にも護身用としても持たせられるのも大きい。

向こうの世界の銃の設計図を基に俺の改良を加えた代物だ。この世界に来てからも少し魔石で改良を加えたが設計図は既に兄貴に手渡してある。

研究設備が落ち着いたらこちらでも作ってみると言っていたのでそのうち流通するだろう。

そんな銃にもカイはびっくりしたようだ。

「レイヤたちって変わった物をたくさん持ってるね。さすがは異世界育ちってわけだね」

「便利なものは持ち帰ってきたからな」

そう言いつつも周囲を警戒していた俺は徐々に周囲を取り囲まれつつあることに気が付く。

「外に出た以上は自分の身は守れよ?」

「心配いらないよ。それよりもあまり馬車から離れないようにしてほしいな。離れると巻き込まれるからね」

そう言いつつも俺はカイの事を心配はしていなかった。

「了解です」

ラルフからそう答えがあった。


賢者の後継者は基本的に自分の身は自分で守ることを義務付けられる。

武芸はもちろん一国の主となるためには相応の知識も必要かつ、人を使う事にも長ける術と目を養われる。

命の賢者の最たる特徴は傷の癒しに特化していることで有名だが隠されるようにして別の特技がある。

世界のすべての毒を知り尽くしているという事だった。

一撃で殺せる毒から毒と分からないような微弱な毒や、人の心を操ることのできる毒までもが使える。

毒といっても一言でいうには幅が広い。

継続性のある毒や意識を失わせるだけの毒まで様々だ。

そんな命の賢者であるがこのカイという男。かなり優秀なのだという。

彼の毒の知識には兄貴も一目置いているというから優秀さがうかがえる。

どうやら周囲にいつの間にか近寄らせない視覚系の毒を撒いたようだ。

その効果のうちにとカイは土魔法の準備に入る。

周囲を警戒しつつも俺は思った。

 この調子なら俺が動くまでもないな


と、その時不意に殺気を感じたので銃を剣に構える。目の前で金属音が響く。

同時に剣に負けたのか相手の剣が真二つに折れ、剣先が地面に落ちた。

その動線に驚くことなく何もない目の前をさらに踏み込んで横に剣を振った。

鈍い音が響き相手の隠形スキルが解除されたようだった。

俺が振った剣は相手の足を両断したらしい。

両足が胴から離れていた。

俺の剣の機能から両足の機能が失われていた。

切断された両足は矢と同じように消える。

地面には血だまりと呻くこともできずに意識を失った男が倒れていた。

「まだ来るならこいつと同じように両手足を奪ってやる」

周囲にきこえるように脅しをかけた。

その時カイが声を掛けてきた。

「魔法を掛ければ戻るのにそれは脅しとは言わないんじゃないのかい?」

この世界では回復魔法を掛ければ欠損した部位でも元に戻るのが特徴なのでそう言ったのだ。

「それはない。この剣は特殊な剣でな。切り落とした部位はその機能ごと消滅させる機能があって切り落とされれば魔法を掛けても回復しない。正常な部位に回復魔法を掛けても意味がないのと同じだ」

「え」

「そこの奴の切り口を見ろ。血だまりが拡がっていないだろう」

カイはそう言われて初めて注視したのだろう。驚いていた。

「…………。本当だ。切り口が皮膚で覆われてる」

「衝撃で気絶しただけで既に痛みはないはずだ。両足の機能事態が消されたから、切り落とした両足は消えたんだ」

俺はそう言いながらも構えた銃を再び何もない空間を両断する。

「ぐあ!」

再びうめき声が漏れて姿を現す者がいた。

二人目は腕だったようで片腕が切り落とされた。

「カイの幻惑のおかげか見つけやすいな」

スキルを使ってなお、幻惑から気配を感じやすかった。

恐らく視覚を打破しようとして殺気や気配が漏れているのだろうと思われた。

それは周囲に散った護衛たちも同じだったようで比較的早く制圧して戻ってきた。

盗賊は基本返り討ちという名の殺害が認められている存在だ。

それはどの国も同じ共通事案なので向かってきた賊は倒したようだった。


ラルフが帰還してきて聞いてきた。

「逃げた者は追わなくてもよろしいですか?」

「構わん。今は賊殲滅が主ではないからな」

俺はそう言ってカイを見た。

そのカイは目の前の陥没を早々に直したようだった。

カイも頷いた。

「父上が今回の水源浄化が成れば環境は持ち直すだろうから、しばらくしてから賊殲滅に乗り出すつもりだと聞いているからね。このあたりも確か候補地のはずだから今はそれでいいと思う」

車からライヤが出て来て言った。

「殲滅したなら早く出発しよう」

俺は頷きラルフに声をかける。町との間に距離があるため時間のロスは野宿につながる。ライヤはそれを気にしているようだった。

「換金できるものを拾ったら出発だ」」

「は」

賊の持ち物は基本倒した者の持ち物になる。それも世界共通だ。

それは王室であっても変わらない。


しばらくして出発準備が整ったらしくラルフが乗り込んで移動を始めたのだった。

襲撃してきた賊たちは俺たちを狙ったわけではなくあの町から出てきた高級な乗り物に金になると判断して襲ってきた、ただの近隣の賊たちだった。


そうして出鼻をくじかれた感がある出発を取り戻すかのように順調に進みその後は何事もなく水源地の海洋都市ポセイドンに到着したのだった。



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