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RE・VERSE  作者: 夏
2章 命のアースランド編
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命の賢者

  命の賢者


到着したその夜は歓待の晩餐会が行われ、夜も更けてその日は終わった。


翌日、あてがわれた城の一室で目を覚ますと身だしなみを整えて食事用にあてがわれている部屋に瑞穂たちと共に入るとそこにはこの城の海龍皇子が食事中だった。


「カイ、おはよう」

ライヤが開口一番そう声を掛けた。

「ライヤ、レイヤさんもおはよう。良く眠れたかい?」

「おかげさまで良いベッドだったのでよく眠れたよ。な、レイヤ」

「ああ」

「それはよかった」

海龍はそう言って笑みを浮かべた。

「王は?」

「とっくに食事を終えて執務に向かったよ」

「そうか」

そんな会話をしていると朝食が運ばれてきたので摂りだす。

「父上から今日の予定を言付かっているよ」

「昨日は聞く時間がなかったから仕方ないだろう」

「今日の午後にはポセイドン周辺以外の結晶がすべて集まる予定だからそれまでは城にいて欲しい。観光は明日にしてくれるとありがたいかな」

俺は瑞穂を見て頷いた。

「昨日のうちに今日集まるとは聞いている。街に出られないのは残念だけど仕方ないな」

「その代わりに城の図書室に入室する許可を貰っている」

そう言ったのはライヤだった。

「図書室?」

瑞穂が不思議そうに首を傾げた。

「ああ、ありがたいな。いろいろ知らないといけないことがあったから助かる、兄貴」

「水の舞を覚えたいと言っていただろう?」

俺は頷く。

「水の舞は現地に行かないと覚えられないみたいだからな」

「事実ですがレイヤさんならきっとすぐに覚えられます。僕と同じくらいに水に愛されているのですから」

そう海龍皇子は言ってほほ笑んだ。

実は水の舞をポセイドンの聖域内で舞う必要がある。水を再活性させるためには必須の舞であった。

その舞の力をもって世界中に水の力を再分布する力を強めるのが旅の目的の一つだ。

大地の舞も舞うのだがそちらの舞は既に習得しているので確認のためにも図書館に行かなければいけなかった。

図書室で水の舞を習得した後は確認のためにも一度舞ってみる必要がある。

「図書室に行けるのであればそちらに行こうかな。瑞穂は街に出てもいいんだぞ?」

「そう……ね。どうしようかな。興味はあるのよ。でも、行くならレイヤと一緒がいいかなって」

「俺のことは気にしなくてもいい。いい店をリサーチしてくれないか瑞穂」

「え?」

「そういうのは得意だろ?」

「でも」

「図書室の事が落ち着いたら一緒に行こう」

瑞穂は笑みを浮かべて頷いた。

「わかったわ。ここの侍女たちに聞いていい店探しておく」

比較的、社交的な面を持つ瑞穂は意外と同性と仲良くなるのに時間がかからない特技がある。

向こうの学校でもそうだったがこの世界でもそれは変わらなかったらしくクロノスでも神殿でも身の回りを世話してくれた侍女たちとすぐに仲が良くなっていた。

当然ながら彼女の情報収集率は非常に高い。

瑞穂自身もそれは理解しているのだろう。自分にできることを思っている節がある。

ふと、思った。

「瑞穂、気負わなくてもいいんだぞ。瑞穂がやらなくても伝手はいくらでもあるんだから、自分にできることを無理に探す必要はないんだからな」

その言葉に瑞穂は不意に表情が消えた。

すぐに慌てるような顔が浮かぶ。

「気負っていたつもりはないんだけど……。焦ってたのかな…」

俺はそんな瑞穂に笑った。

「瑞穂のやりたいことをすればいい。援護はするから心配するな」

無理難題は困るけどな、と付け加えた。

「……ありがと」


その日、瑞穂は昼から仲良くなったこの城の侍女たちと一緒に城下へと出かけていったのだった。

おれはといえば、その日は図書で書を読み漁り、翌日は水の舞を習得するために練舞踏堂に籠ることになった。

習得は難しくはなかったのだが問題があり練舞踏する羽目になった。

一番重要な水の反応が薄かったせいである。

舞はその力を高める性質がありその属性の舞は舞った属性が大いに反応し、その反応をもって始めて舞と呼ばれる。

前世レイヤの最たる得意な舞は風だった。

何を気負うことなく舞えば風は即反応していた。

恐らくはその無心と無邪気さが風に好かれたのだろう。

だが風と同じような心持では水は反応しない。

その事に気がついたのは海龍が様子を見にやってきたことで気がついた。

水が思うように反応しないまま昼を過ぎ疲労からひと休憩していた時に海龍皇子はやってきた。

入って開口一番海龍皇子は疑問を俺にぶつけた。

「今日のミズホちゃんは一緒じゃないのかい?」

「今日も城下町に出ているな」

「そうなんだ。もっと大人しい人かと思ったけど活動的なんだね」

おれは海龍の瑞穂の印象を聞いて思わず笑った。

「もう少し大人しかったら楽だったんだけど、アレは大人しそうに見えて我は強いほうだぞ」

「そうなんだ。覚えておくよ。それよりも舞がうまく機能しないって聞いたんだけど?」

「ああ、習得は出来たんだが、水たちの反応が薄くてな。何が悪いのかがよくわからないから困っているところだ」

「そうなんだね。…………僕も地方で舞うことがあるけど舞の型は全部覚えているわけじゃないんだよ。それでも水は応えてくれるんだ。何が悪いのかな…」

「全部覚えていない?」

「うん。時々舞に穴が開くことがあるよ。それでも水は応えてくれる。といってもいつも舞う時は水不足に喘いでいる地方がほとんどで必死なだけなんだけどね」

「必死か…」

「うん、早く水を地方の人たちにあげたくて必死に舞うんだ」

「……………」

「どうしたんだい?」

「それだな。癒したいという気持ち。その気持ちが水に伝わるのかもしれない」

「舞ってみる?」

「そうだな」


俺は練舞踏堂の中央に立った。

 俺の舞には命が籠る。命の賢者にはできない舞だ。だからこそこの地に命の活性を……!

同じ水の舞でも舞い手が違えば効果も違ってくる。

海龍皇子が舞えば圧倒的な水の量をもたらすことが出来る。雨をもたらし山河を豊かにする。

兄貴が舞えば水の力はその場に滞留し続ける。湖のように。

では俺が舞えば?

海龍皇子のような圧倒的な水の量はない。湖のようにたまることもない。

だが、調和をもたらす。

山河に染み渡り樹木を活性化させ、その地で足りない力をも活性化させ生命を強める。

水が強ければ炎が足りない。水の力を少し弱めて既存の炎たちを癒し活性化させる。

調和なのだ。

この地では近年、止まない雨のせいもあり、炎の力が下がり切っていて冬は暖を取ることは難しく、凍死者も少なからず出ているという。


俺の得意な舞である風の舞はその場で竜巻を起こすかのような横に廻る舞であるのに対し水の舞は縦に廻る。

頭を足元に下げれば足は上にあげる。この繰り返しである。


俺はこの地の活性化を思った。この地で恙なく皆が暮らしてゆけるように命の活性と調和を願って舞った。


その舞は効果的に水が反応した。

その水の反応に初めに気がついたのは海龍皇子だった。

「水が反応してるよ。成功だね!」

舞っている最中には気がつかなかったのだが練舞踏堂の外ではしばらくすると大騒ぎになった。

雨が止んだからである。

「外が随分と騒がしいね。ちょっと様子を見てくるよ」

「ああ」

乱れた息を整えてその場に座り込んだ俺はラルフが汗を拭くための布を手渡してきた。

「成功して何よりです」

「ああ、やっと習得出来たな」

ホッと一息ついていると海龍が慌てて入ってきた。

「どうかしたのか?」

「さっきの舞のせいなのかもしれないけど水都の雨が止んだんだ!」

「雨が止んだ?」

「ああ、この二年間どんなに願っても誰が舞っても雨は止まなかったのに!」

海龍はそう言いながら練舞踏堂の窓を開けた。

俺はその窓から外を覗くと海龍の言った通り、空には雨はなく曇天どころか晴れ間さえも覗き始めていた。

燦燦と落ちてくる日光とともに空には大きな虹がくっきりと出現していた。

その空を見ておれは気がついた。

「…………。風と水が動いたようだ。外に出て見ないとこれ以上は分からないが炎も動いているようだ」

俺はそう言いつつ、堂内にある明かり用の炎を見た。不自然な動きをしていた。

「レイヤ様の舞の効果ですね」

「そう考えるほうが現実的かもしれない。俺の舞の効果は基本、全の力で調和だからな」

俺たちは練舞踏堂を出た。

外に出て様子を見るためだった。

「本当に雨がやんでいるな」

城内でも異変に気がついたのか王たちも外に出て空を見上げていた。

ジッと気配を探る。

外に出たことで風がまとわりつくように俺の周囲を柔らかい風が通る。そんな柔らかな風にもかかわらず乾き始めた土からは砂が軽く舞った。

「…………強すぎた水は空からの炎で弱まり、残りの水は風と土で馴染んだ。俺のあの舞で、ここまで効果が出るとはな……」

さすがに驚いていた。

側の花壇に視線をおくるとそこには水害なのだろう、植物が腐り始めていた。

俺の姿を確認したのだろう。ライヤと地龍王が寄ってきた。

「舞を完成させたな、レイヤ」

それは確認だった。

「…………ああ」

周囲を見ると練舞踏堂の周囲は、以前は立派な庭園だったのだろう。多すぎる雨に打たれて植物は元気がなかった。

俺はその姿を見て庭園の開けた場所に歩を進めた。

「レイヤさん?」

海龍皇子が声をかけて近寄ろうとしたがそれはライヤに阻まれた。

「レイヤ、危険だぞ。今のお前では」

俺が何をしようとしているのか気がついたのかライヤは止めようとして声をかける。

俺は兄貴を見た。

「今、やらなくていつやるんだよ、兄貴」

おれは自然と兄貴に向かって笑って言った。

「仕方ないな……。後はまかせろ」

ライヤは呆れたようにため息交じりでそう言った。

「さすが兄貴だ」

おれはそう言うと左手を真横に翳し鎌を取り出した。

左手で握った鎌を大きく円を描くようにくるりと縦に回す。

右足のつま先を軸に鎌ごと横に廻る。大きく足を土に踏み込むように横に廻った体を止めると鎌を意識的に手放した。

鎌は俺の周囲を回るようにくるくると鎌先が回る。

鎌を手放したがおれは舞を止めず宙返りを数回、繰り返して土を踏みこむ。

踏み込んだその足で今度は横に廻りその身で風を巻き起こしやがて両腕を抱えるように止まる。

抱えていた両腕を大きく広げ左手に鎌が戻ってくると今度は剣舞のように振り回す。

「命の舞……!」

水の賢者、地龍が驚くように呟いた。

それは驚いても無理のない事だった。

命の舞は全の力を持つことを許された王の証を持つ者だけが舞える稀有な舞である。

この舞は複雑で命以外の舞を複合させたような舞なので全の賢者でも舞えないものが多い中、レイヤは先の夢でこの舞を思い出していたのだった。

この地に安息と豊潤を。そんな気持ちでレイヤは舞っていた。

その心のままに周囲は応えていく。

一振り舞うごとに周囲の庭園は瞬く間にその力を取り戻し、舞が終わる頃にはかつての庭園はおろか、水都中の植物たちに力を与えていた。


やがて舞が終わると俺は息も絶え絶えに立っていられなかった。

力尽きるように鎌も手元から消え、その場に崩れ落ちた。



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