6.ProjectH(ハーレム)1:優男への八正道~Yasao is right(モテるためには優男になろう)~その2前半
今回は長いので無理やりぶった切って前半、後半にしちゃいました。切るところなかったので気持ちの悪い切り方になってます。ご容赦ください。
「いい、優翔。今度はしくじらないでね。」
「わかってるって、晃汰!」
「それと、ちゃんとオレからの指示を見てね。」
意気揚々とクラスメートのもとに歩いていく冴英皇の背中に向かって、もう一度青野は念を押す。
前回の失敗をもとに、慰めようとした相手に非があった場合の対処の仕方を何度もシミュレーションした。手筈通りにいけば今度こそ優男になれるはずだ。
―頑張れ、優翔。
青野は心の中でエールを送る。
疲労と倦怠に満ちた金曜の教室を冴英皇は優雅に突き進む。
―見るんだ、女子たち!この学年一、いや、いずれはこの学校一イカした男になるこのオレを!
青野との演習に加え、みっちりと自主練を重ねた冴英皇の目は自信に満ち溢れている。
残念ながらそんな彼をクラスの女子たちは何とも言えない哀れみの目で見ている。女子という生物は流行に敏感なもので一度冷めてしまった冴英皇への憧れは今となっては微塵もない。
冴英皇は失恋した可哀想な子としか思われていないのだ。
男子である冴英皇たちにはそのようなことは決して分からないのだが。
「なんでそんな悲しい顔をしているんだネ?(せっかく彫刻のように美しい君の顔が台無しだよ。)」
いつもの冴英皇だったら声に出してしまっているだろう()内の言葉を何とか飲み込む。
特訓の成果が表れている。
これは『“四諦”其の一、自分を主張しない』の効果だ。
少し語尾が気取ってるような気もしないではないが青野からしてみればどうでもいいことだった。
―自分を飾る言葉を発しないなんて。成長したな、優翔。
青野の冴英皇に対する評価は大変に失礼である。
冴英皇が声をかけたのはクラスで一番背の低い女の子、栗山美紀だ。
ダークブラウンのくせ毛にパッチリおめめ。
丸顔という言うよりは童顔である。
セクシーな女の子に夢中になる15.6の男子からは全く注目を受けないものの同い年の女子たちからはゆるキャラ的な存在としてかわいがられている。
「この間の身体測定で身長が1cmも伸びてなかったの~。」
それを聞いた青野は頭が痛くなる。
―でたー、難しいの来ちゃったー。否定はできないけど肯定しても泣くやつじゃん。ここはいったんこの作戦だ!
『清少納言作戦!』
青野はそう書かれた落書きボードを冴英皇に見えるように掲げた。
冴英皇たちは難問に上手に切り返すため“八正道”、“四諦”以外にも様々な戦術を用意していたのである。
ボードを確認した冴英皇が目で“了解”と合図を送る。
「小さい方が可愛いヨ。清少納言を言ってるネ。小さいものはみなかわいいってヨ。」
―え、ちょっと待って。しゃべり方明らかに変じゃね?!いや、言ってることはいいよ。でもしゃべり方がそれ全部台無しにするくらい変!
『語尾!!もっと自然に。』
青野は急いでそれだけ書いてボードを掲げた。
ちらっと横目で見る冴英皇。
青野はとりあえず指示が伝わっていることにほっとする。
その様子を見て佐英皇は再び栗山に視線を戻す。
「栗山さんが持ってるストラップ、あれかわいいネ。」
「え?あ、これ~?」
急に話題が変わったことに多少の違和感は感じつつも、栗山は嬉しそうにマリモのストラップを取り出した。
「北海道公認マスコットのマリリンだよ。もふもふで、淡い緑色なのがすっごくかわいいと思うの。何よりもこのつぶらな瞳が大好き!」
マリリンを顔に押し当ててかわいがる栗山。そんな栗山のことを天使を見るような顔でクラス中の女子が眺めている。
―平和だ。
自然と青野の心まで癒される。
冴英皇は差し出されたストラップを眺めながら言った。
「もしこのつぶらな瞳が切れ長の二重になって、丸いフォルムがスラっとした細身になったらどうするネ。」
「そんなの絶対に嫌だー!」
「それと一緒ネ!人にはそれぞれに個性があるネ!身長が低いのも栗山さんの個性ヨ!だから落ち込むことはないネ!栗山さんはそのままでかわいいネ!」
―ぜんっぜん、直ってねぇ!むしろ悪化してる。めっちゃいいこと言ってるはずなのに内容入ってこないぞ、おい!
さっきとは打って変わって顔色の悪くなる青野。
―たしか語尾に関する“八正道”あったよな。早くあのふざけた喋り方を改善しないと。
震える手でページをめくるため、それを見つけるのに少し時間がかかってしまった。
―あった!『“八正道” 其の八、「ね」「よ」で会話文を締める』……って、これか―――、語尾が変な原因!!
冴英皇は自主練の過程で間違った“八正道”の使い方を習得してしまったようである。
指摘に引用しようとしたものがこの事態を招いた原因そのものだったと知って青野は少し狼狽する。
―今すぐ止めないと!
青野は急いでペンを走らせる。
だがしかし、相変わらず腕の震えが止まらなずうまくボードに字を書くことが出来ない。
青野がボートと格闘している間に冴英皇たちの会話はどんどん進んでいく。
「私、ちっちゃくてもいいんだ。ありがとう。なんかすっきりした!」
「そうネ、それはよかったネ!」
キメ顔でウインクする冴英皇。
-口調も相まって、いつにもましてうざーい!!はっきり言ちゃったけどほんとウザイ!なんか腹立つ!
そっちの悩みが解決したのは何よりだけど、こっちの悩みは解決してないんだからな!!
「あ、ところで冴英皇くん、そのしゃべり方……」
恐る恐る栗山がきりだした。
―ほらみろ、やっぱり変だって!
「かわいい!」
―は、はぁ~?
一気に解けた緊張のせいで床に座りこむ青野。
―どんな性癖してるんですか、栗山さん……。
やっぱり女子は分からない。そう痛感した青野だった。
「そうネ!じゃあ、これからずっとこれでしゃべるネ!」
「それはやめろー!」
思わず声に出してから青野は我に返って口をつぐんだ。
「あ、いや、今のは、その……。」
後半へ続く。