英雄太郎左衛門はチートアイテムを使って物語をハッピーエンドへと導く
この作品には[チート要素]がふくまれます。苦手なかたはご注意ください。
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英雄太郎左衛門は苦戦していた。家来の猿は犬死にし、残った犬と雉も、猿真似のような戦しかできぬ。
「諦めるな! 我らは正義の味方、必ずや悪の権化たち、アッキーズを成敗しなくてはならんのだ。なぜなら我は主人公であり、貴殿らはその家来であり、物語をハッピーエンドに導く使命を負っている存在なのだから!」
そこに迫ってきたアッキーズ。
「ぐわははは、愚かな人間とその一味、悪の権化アッキーズが、真なる悪の繁栄のため、貴様らをぶち殺してくれるわあ!」
「許さんぞ、アッキーズ。貴様らは俺たち人間と動物たちを長年にわたり意味もなく殺戮してきた真なる悪だ! 貴様らを倒さんことには、正義は廃れ、ハッピーエンドは望めん!」
「ふはは、そんなのは、俺たちずる賢い真の悪党には、善良な正義を信ずる愚か者どもによる詭弁にしか思えんがな」
「なんだと真の悪党め!」
「なぜなら、偉大なるチートアイテムを使えば、正義を成就させかつ物語をハッピーエンドへ導くことができるのだからな!」
「なぬ、そんな方法が……、しかし、いったいどうやったらそんなことが!」
そこで犬が吠えた。
「いけません、正義の太郎左衛門さま。惑わされてはなりませぬっ」
「黙れ犬、殺してしまうぞ」
「ひええ……!」
アッキーズのことばに、犬はおとなしくなった。
アッキーズは、ドクロマークの入ったチートアイテムをサンダルの下から取りだして言った。
「いいか、正義の英雄太郎左衛門、よく聞け。このチートアイテム『アッキーズマシン・ゼロゼロゼロワン』を起動させれば、物語をハッピーエンドに導くことができる」
「ほんとうか。いやしかし、貴様らは悪の権化、ハッピーエンドを望むはずのない貴様らの言葉を信用してはならんな」
「いやいや、我ら悪の権化も物語のキャラクターの一部であるから、ハッピーエンドを望まぬわけにはいかんのだ。すべて、正義が成就せねばならん」
「しかし、そうなると貴様らは」
「そこでだ」
アッキーズはいっそう「悪」の顔をして、こう迫った。
「貴様らが望むのは、善良なる正義の成就、ハッピーエンドで間違いなかろう」
「ああ、もちろんだ」
「ということは、それを成し遂げるのが貴様らでなくともかまわんわけだ」
「いや、ならん。なんせ、我は主人公であるから、物語をハッピーエンドに導く使命を負っている存在なのだ」
「そこでだ」
アッキーズは、よりいっそう「悪」の顔をして言った。
「貴様と我と、その役割を、そっくりそのまま入れ替えてしまえば良いのだ」
「なにっ?」
「このチートアイテム『アッキーズマシン・ゼロゼロゼロワン』を起動させると、まずは主人公が入れ替わる。アッキーズである我が主人公としてその使命を負い、そして貴様は我のロール、真の悪、悪の権化を受け継ぐことになる」
「しかしそれでは」
「さらに! このチートアイテムは、主人公を入れ替えるだけではなく、物語の筋をゆがめることもできるのだ。つまり、じつはアッキーズの罪業はすべて冤罪であり、じつは英雄太郎左衛門とその一味が真の犯人だったという具合に、筋を変えることができるのだ」
「な……!」
「そこで我らが貴様らを倒し、物語をハッピーエンドへと導けば、おのずと善良なる正義の成就も果たせると、こういうわけだ」
ここで、雉が吠えた。
「そんなの間違ってる!」
「焼き鳥にしてしまうぞ!」
「ひええ!」
アッキーズのことばに、雉はおとなしくなった。
アッキーズは表情を緩めて言った。
「英雄太郎左衛門よ。貴様が望むのは正義の成就によるハッピーエンドであって、貴様とその一味による勝利ではなかろう」
「むむ……」
「貴様らの勝利にこだわれば、戦を長引かせ、猿のようなみじめな死に方をする仲間も出てくる。それは正義を愛する者として、本意ではなかろう」
「むむ……」
「肩の荷を降ろすが良い。さすれば貴様の望みは、我らアッキーズが叶えてやろうからに」
「しかし我は……」
結局、英雄太郎左衛門はチートアイテムを受け取った。そして、使った。
こうして、不甲斐ない主人公によってバッドエンドまっしぐらだったはずの物語は、無事にハッピーエンドへと導かれたのである。読者は大満足である。めでたしめでたし。