表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

その巨塔、虚構につき

「少しいいかしら?」


割って入ったナターシャに、ハンナと彼女の連れの男は眉を顰めた。カフェで急に知らない人から声をかければ誰だってそうだろう。だがそんな一般的反応、ナターシャにとってどうでもよかった。犯罪者の状況なんて考えてやる筋合いなんてないんだから。

そんなワケで、不審がる2人どころか店内中の野次馬のような視線すらも気に止めることなくナターシャは片眉を上げた。今の今まで後ろ姿しか見えなかった彼女の顔は、写真より少し窶れて見えた。だからといって何かが変わるワケでもない。

ツンと表情を澄まして、自分をまじまじと見つめていくる赤毛の女性を指差した。


「ヘレナね」

「いえ。ハンナです」

「ああ、そうだったかも」

「つーか誰だよアンタ」


不愉快そうに男が口を開く。


「わざわざ俺たちの邪魔してきてなんの用なわけ?」

「話に来たのよ、彼女と」

「わ、私?」ナターシャに顎で指され、ハンナは肩を跳ねさせた。その様子を見て男は呆れた様に肩を竦める。

「ほら。なあこの子知らないってさ、アンタのこと。ほんとなんなの、野暮すぎ」

「野暮だぁ?」


いちいち横から入るノイズに、神経が逆撫でられて仕方ない。ツンと済ましていた顔はとうに忘れて、ナターシャの眉間にはシワが寄り始めていた。


「はあ、分かった。じゃあ礼儀正しく」


息を吐き捨てて、ナターシャはスラックスパンツのポケットから革張りの警察手帳を開き突きつけた。

ハンナたちの目の前で開いた2つ折りの手帳。下面では、オリーブの木と実を模した金のバッジが天井のシャンデリアの元で光り輝く。 記章の植物に、彼らの瞳は大きく見開かれた。橄欖(かんらん)組、生活安全課のマークだ。そして、生活安全課には特殊麻薬取締班が属している。


「生活安全課長、ナターシャ・ウィンザーよ。権限は…そうねアンタを野暮にするくらい、偉いの」


尻ポケットから手錠を引き抜きながら、顔を青ざめさせるハンナの手を取った。


「ヘレナ改め、ハンナ・ルイス。アナタを指定特殊薬物所持で現行犯逮捕する」

「は、そんな!私は…!」

弾かれた様に立ち上がるハンナの手を、まるで犬のリードでも引くかのように手元に引っ張った。ハンナはよろめき真っ赤なヒールがおぼつかない足取りで絨毯を踏む。その間に、カチャリと金属音。


「どう?野暮用に見える?」


手首に回された冷たい感触に、ハンナは声も出ない様子だった。自身の右手首に落ちた手錠に大きく目を見開いて、絶句している。

いつの間にか、ティーブレイクを彩っていたクラッシックは止まり、変わりに店内中の視線がナターシャ達の一席に集中していた。

右手を拘束されたハンナと、彼女を掴むナターシャ。そして目の前の現実に生唾を飲み込んだ連れの男。


昼間から堂々と行われる逮捕劇なんて、そうお目にかかれるものではない。店内では囁きあう者から、スマホを起動し動画を撮る者も出てき始めている。穏やかな昼下がりは影もなく、どこのテーブルもざわめきだっていた。

だろうとやはり関係ない。むしろ好都合と言ったところ。今回の標的はハンナであって、ハンナでない。派手に逮捕することによって、彼女を薬へと唆した売人組織への警告も兼ねている。どうせここに居る連れの男は売人だろうと下っ端だろう。


「その場から動くな!」


ナターシャの目を盗んで逃げ出そうと腰をあげた男に言い放つ。


「アンタにも話がある。座って、動くな」


睨んでくる男に、そう釘を刺した。


どこの組織に属しているのかはしょっぴけば分かること。ただ今は、どこかの下っ端を白昼堂々金ヅルを捕まえて、売人組織の顔に泥を塗っておけばいいのだ。

チッと舌打ちして椅子に座り直す男。彼にも手錠を掛けてしまえば早いのだが……

だが今回のホシはハンナだけ。この売人が特殊指定薬物を持っていたとも使用したとも、また先に彼女に渡した小包が薬物だという、売人の証拠もまだ揃っていないのだ。


こんな状況だっていうのに部下は何やってんだか…、一向にこちらに来ないアレンを思って、ナターシャは苛立ちを噛み締める。

どうせ、計画と違うじゃないですか。とか言って。ご自分で始めたなら最後までご自分で。とか言うんだろう。彼の席は店の出入口に近い。ああ、見張っていました。とかぬけぬけと言うに決まっている。


うんざりしながら警察手帳をしまい、ハンナの左手首にも手錠を落とした。彼女は項垂れたまま、抵抗ひとつしない。


「アンタの名前は?」

ハンナを押さえながらナターシャは男に聞く。モンスとだけ名乗った男は、はあっとため息を吐いた。


「つーかおまわりさん、勘弁しろよ。現行犯逮捕っつーけどさ、俺も、あとそこの女も、なんだっけ特殊麻薬?持ってねぇーよそんなヤバいやつ。そもそも根拠ねぇだろ根拠が」

「根拠?」眉根を吊らせたナターシャに、男は頷く。


「そ、そうです。何かの間違いよ」


ハンナは弾かれたように顔を上げナターシャを見上げると、こくこくと頷きだす。まるで事前に示し合わせたかのよう。


「ほーら。根拠ねぇんだよつーか証拠?だってこれ誤認逮捕じゃね?職権濫用じゃん」

「だから現行犯だっつってんの。アンタがこの子に物を渡したの、こっちは見てたのよ」

「だから中身みたかつってんだよ、教えてやろうか、キシリトールなんだけど?現行犯つーなら検知器に回せよほら。ここにあればの話だけど」

「ああそう…くそムカつく」


ナターシャは舌打ちづく。

検知器を持ち出すなんて全く…誰の入れ知恵なんだか。

特殊指定薬物を判別する検知器は、市内のラボでも2つしか置いていない。というより現在2機しか開発できていない貴重な装置だ。今も尚フル活動で休まず特殊指定薬物の成分を分析しているそれらを、売人1人逮捕する為に持ち出せるワケがない。ちなみに検知薬の開発はまだ実用段階とは程遠く、検知器を使用するとなるとレントゲン車の様な専用車をまず用意しなければいけないのだから。

そんなのをここに持ってこいなんて、無理難題ももいいところ。


言葉を詰まらせたナターシャに、モンスはこれみよがしにニヤニヤと笑っていた。それがまたナターシャの神経を逆なでて仕方がない。これであげ足を取ったつもりなんだろうか。鼻をあかしてやったと得意げだ。気に食わない気に食わない、腸が煮えくり返るほどに気に食わない!

苛立たしさのままに舌打ちづいた。


「アレン!」


呼びつけた。

この入れ知恵された馬鹿をどうにか負かしてよ、って。なにせあの部下、ナターシャが苦手な"オモチャ"を沢山持ち歩いているんだから。その中には嘘発見器もあったはずだ。

というか、昨日も飽きずに発見器を胸ポケットから取り出してみせたんだから今も持ち歩いていないワケがない。そう思っているナターシャは昨日もまんまと嘘を暴かれた側。腹ただしい以上のなにものでもない。


「はい、ほら」

急ぐ様子も見せずに歩いてきたアレンは、ナターシャの傍に立つと申し訳程度に警察手帳をハンナたちに見せた。


「特殊麻薬取締班です」

心底嫌そうな表情を浮かべる顔には、この現状が予定と違って不満だと。そうハッキリ書いてある。


「は、うける。検知器の名前じゃねぇーんだ」

「………。検知器なら用意がありますよ」


椅子にのけぞって座っていたモンスが片眉を上がる。意外な答えだったのはナターシャにとっても同じことだった。意外というか…むしろ小学生の見栄。内情を知らないであろうモンスの顔には、万が一を考えたのだろう。僅かに緊張が浮かんでいるが、ナターシャからしたら危うく、バカなの?と口から出かけた所だ。


「ホラ吹きが」


ボソッと吐いたナターシャの言葉ををわざわざ拾う嘘つきは、

「別にかましていませんが」と。ホシ2人を見据えたまま冷めた口調で答えた。


「分かった分かった。さっさと嘘発見器かけて。この男に」

「ああ。あれ、証拠になりませんよ。なにやっても嘘になる様作っているんですから駄目でしょう」

「は」

「そんな事より」


項垂れるハンナを掴んでいたナターシャがぐいと押しやられた。アレンに押しやられたのだ。

人をわざわざ押し退けておいて何をするのかと思えば、アレンは椅子に置かれていた小さなバッグを取り上げる。ハッと赤毛が揺れた。目の前で持っていかれる自身のバッグに、ハンナがはじめて顔を上げたのだ。


「あ、ねぇ!なにするの…」


控えめな声を無視して、アレンは彼女のブランドバッグをテーブルの上に置き直すと、躊躇うことなく漁って、ポーチ、ハンカチ、手帳とテーブルに中身を出していく。


「何探してんのよ。検知器?」

「いいえ」


一蹴したアレンが、「これです」と小包をテーブルに投げつけた。ハンナの肩がビクッと跳ね、モンスの表情が僅かに強ばる。さっきこのテーブルで取引されたものだろう。


「これは、貴方が彼女に売ったもので間違いないな」アレンの問いに、モンスは苦い顔をしながら頷く。

「そうだけどいやだから」

「キシリトール」

「そうそ。それ。なあ?」


ハンナもまた、頷く。そう言われてはこちらに確かめる術はない。だがアレンだけはやはり淡々としていて、先程嫌そうな顔で開いた警察手帳を小包の上にポイと乗せた。


「は…?」

ナターシャの眉が顰められた。だって、小包の上に、黒革の警察手帳が乗っけられたのだから。…なにこれ。奇行につぐ奇行だ。

だが、「これは貴方がご所望した検知器です」とアレンは言う。


「警察も馬鹿ではないので、貴方の様に抜け道を見つける人間が出てくる事はとっくに想定している」


元凶のアレンはただただ抑揚なく無表情のまま告げる。


「そして、未詳科学研究班も馬鹿ではないので、そんな抜け穴はもう塞いだ」


時間にして3秒だった。

突然、ピピーン!警察手帳から思いもしなかったアラーム音が響いた。

生唾を飲んだモンスは、仰け反っていた椅子から背を離す。ハンナは生唾を飲み込んだ。予想外の音が、警察手帳から聞こえてきたのだ。ナターシャがギョッとする間にも、手帳は「AD417」と機械の声で数字を読み上げる。頭にAbnormal Dragがつく数字なんて、1つしかない。ナターシャの目が見開いた。


「今ので検知したっての」

「ええ。まあ厳密にはスキャンニングしたデータを未研に送る寸法ですが」

「…そう、なら話は早いわね。ハンナ・ルイス!」


華奢な肩を跳ねさせて、怯えるような目で彼女はナターシャを振り返る。だがナターシャは冷ややかに一瞥して口を開いた。


「罪状は教えてあげたわよね。正式に、逮捕よ」


ハンナは抵抗する様子も見せなかった。もう半ば現実を受け入れていたのだろう。ハンナを後ろに向かせ膝つかせていたナターシャは、彼女の手錠のロックを掛け直しながらアレンに顎で指示をする。

「もちろん」と、警察手帳と特殊薬物を胸ポケットにしまい、アレンはモンスの元へ向かった。


「モンス…いや偽名だな。マルティオ・アッバーテ。貴方を逮捕する」


その後だった。銃声を聞いたのは。



悲鳴だけが鼓膜を震わせて耳が痛い。店内は突如として恐怖に包まれていた。人と人が人を押し退け血相を変えて走り出して、パニックが起こっていた。

弾かれたようにナターシャが振り返ると、アレンの背中越しに見えたのは、天高く掲げられた銃口。煙を吹いていた。

モンスが、天井に向けて撃ったのだ。


「全員動くな!!」


怒声が悲鳴を切り裂き響き渡る。あんなに耳の限界まで音で溢れていたこの店が、一斉に静まり返る。


「1人でも動いたらぁ!こいつの脳みそぶちまける」


空を向いていた銃はゆっくり下ろされ、ゴツッと、彼を逮捕しようと踏み寄った部下へと向けられる。彼の額に押し付けられた銃口、ナターシャの目が大きく見開いた。


状況は、今一転した。


ギリッと、悔しさで噛み締めた歯が鳴いた。

モンスが銃を持っていたなんて、全くの計算外だったのだ。


アレンが膝をつかされしゃがませられると、ナターシャとモンスとの間に遮るものがなくなった。彼の座った目が良く見えた。

それはモンスも同じ事で。


「武器捨てて手ぇ挙げろ!殺されてぇのか」


ナターシャの手が、腰に挿さる警棒にあるのがバレてしまった。

従うのは癪だが、ここで挑発してはまずいだろう。男の目は本気だった。


「…分かってるわよ」


これは苦渋の決断だった。

ナターシャはゆっくり腰から警棒を引き抜くと、床に落とす。そして、男の指示通りに手を顔の高さにあげた。悔しさと怒りで歯が擦り切れそうだ。


だが、一番大人しくするべきアレンが、その手をジャケット胸ポケットに突っ込まれたまま、手をあげようとしない。目の前の発砲に対して、即座に反応したのだろう、胸ポケットの中で武器を掴んで離さない。

それが、モンスの神経を逆撫でた。


「いいねぇ、ここ1発いこうぜ"ごしょもー通りに"さあ!」


まずい、タトゥーの指が銃の安全装置を外した。


「アレン!」


見兼ねたナターシャが、強情な部下を一喝した。

そんな意地はこんな状況下で得策とは言えない。それどころかまさに言葉通りの自殺行為である。


ナターシャの促しに、アレンは屈辱そうに胸ポケットから手を抜いた。そして取り出したスプレー缶をゆっくりテーブルに上げる。


"催涙スプレー"

やっぱり出させて正解だった、とナターシャは思った。銃に催涙スプレーが勝てるとは思えない。

ラベルを一目見たモンスも、ふんっと鼻で笑った。ナターシャ達が持ち捨てられた武器が、警棒と催涙スプレーで、自身の勝利を確認したらしい。


「はっ、まとりが銃持てねぇって噂、見た感じまじみてぇだな。女、立ちな」

「わ、私…?」呼ばれたハンナが、怯えた顔でモンスを見上げた。


「掴まりてぇのかよ、さっさとこっち回れ」


…意外だった。どうしてそんな危険な事を。

フォーマルな服にヒールを履いているハンナは、いかにも世間知らずそうであり、しかも彼女の両手は手錠されているのだ。どう考えても1人で逃げた方が楽である。

どうしてそこまで固着するのか。怪訝に思いながら、ナターシャは踏んで押さえていたハンナの手錠から足を引いた。


不安げに立ち上がった赤毛が、ナターシャの横を通り過ぎていく。確保した2人に逃げられかけている。その瞬間ゾッとした。

派手に行こうと、大胆に行こうと、そして組織への見せしめにしてやろうと。そんなナターシャの予定は転覆し、今では目の前で犯罪者の逃走に手も足も出ない。そして、犯人に屈した警察官と世に晒している。

急に思い出した視線の存在は、一人二人では足りない何十人だ。この場の失態を、何十人もが目にしている。

目の前がぐらりとしそうだった。ハンナが言われるまま、男の元へ辿り着く…


「待って!」

「ナターシャさん」


声を上げていた。こんな時になって窘めてくるアレンを無視して、ナターシャは続ける。


「彼女の手錠は指紋で鍵をかけたわ!そこにはGPSが埋め込まれてる。取りたいなら両手、切り落とすしかないわよ」

「へぇ…手ぇ切るより指切った方が楽だろ」

「バカね、生体認証よ知らないの?死んだ細胞は反応しない」


俯いたハンナは、ナターシャの言葉に顔を青ざめさせていた。自分がこの先、逃げきれたとしても代償があると悟った様だった。元々この処遇を受け入れていた彼女であるし、逃走心が消えていくのが目に見えて伝わってくる。

チッとモンスは舌打ちした。


「じゃあ外せよ、下手な真似したら殺す」


やはり変だ。どうして彼女に執着するのか分からない。どうみたってただの取引相手のはずなのに。


「ええ、もちろんよ」


8cmのヒールが床に捨てた警棒を跨いだ。たった数歩の距離を慎重に歩き、ハンナに後ろを向かせて手錠を掴んだ。手錠中央の固定部に設けられた小さなマス目に指紋を押し当て、解除の操作をする。


視線を感じて目だけ動かすと、アレンと目が合った。彼は2秒程見つめてきた後、目を伏せる。


ああ、悟った。


「おい、あとどのくらいかかる」

痺れを切らせモンスが怒鳴る。ナターシャは足を開いて口を開いた。


「ほら終わったわよ!」

そしてハンナの背中を、ヒールで蹴飛ばした。

両手が使えずよろけるハンナ。彼女の悲鳴と男の銃声はほぼ同時だった。


弾丸が、身体を逸らしたアレンにかわされ赤い絨毯に穴を開ける。どうやらアイコンタクトが通じていたらしい。というよりかは、ハンナが倒れ込みモンスにぶつかったので射線がずれた。ここまではナターシャの計算通りだったのだが…。

この衝撃に手放すと思っていた銃はまだ、男の手にがっちりと握られている。


チッと舌打ちするうちにも、モンスはハンナを押し退け銃口をナターシャに向けた、瞬間その銃は空を舞う。床に捨てられた警棒を掴んだアレンが、銃を下から振り上げたのだ。


音もなく絨毯に落ちた拳銃をアレンは蹴って遠くに捨てた。ナターシャは彼から警棒をひったくると、踏み込んで男の喉元に突いた。





「14時21分、マルティオ・アッバーテ、逮捕」


男の呻き声を聞きながら、アレンは胸ポケットから取り出した手錠を、やっとタトゥーの腕におとした。

***



「あららー、やっちゃいましたね」


翌日、少し遅めに出勤したアレンは、テレビに釘付けの新人、エマに苦いものを飲み込んだ。


警察署の三階オフィス、生活安全課特殊麻薬取締班。繊細な彫刻が施された支柱に無遠慮に取り付けられた現代式の壁掛けモニターは、朝の報道番組を映していた。トップニュースとして取り上げられているのが、昨日の午後3時、市街のカフェで突如繰り広げられた逮捕の一部始終である。

逮捕劇というより、もはや事件扱いだけれど。


実際の映像こそ、ニュースで流れなかったが、キャスターが口頭で説明、時には小道具まで用意して再現したおかげで、逮捕までの流れはとてもわかりやすいものになっていた。これでは、警察がどんなに権力でねじ伏せても意味が無いように思えた。


暴行陵虐罪、犯罪者相手とはいえやりすぎた警察官による白昼堂々の逮捕劇と、何処も彼処も言っている。


暴行陵虐罪については、フリップまで出して懇切丁寧に説明までしてくれている始末で。

投稿された大元の動画は既に削除済みであり、今では誰もが確認できない。問題の警察官が特定される前に事は済まされたのが不幸中の幸いだったが、これが逆に反感を買った。メディアはとうとう警察の姿勢を問う方向へと向かったらしい。

暴行陵虐罪に加えて隠蔽体質まで持ち上げて、憎たらしいほど丁寧な問題提起である。


アレンの眉間は狭まりシワがよる。


翌日にはもう、昨日の逮捕劇は事件と化していた。

そして、生活安全課長の席に彼女の姿はなかった。





その巨塔、虚構につき。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ