その14
やっと仕事納めになりまして、投稿再開です。
その後、三人で街を散策。
夕刻も近くなったので、ダラムさんの露店の方に足を向ける。
丁度、店じまいの支度をしている所だった。
「よう!」
叔父ちゃんが気軽に声をかける。
振り向いたダラムさんが、
「あ、旦那方!」
陽気な声を上げた。
「今日は旦那方のお蔭で大繁盛でした。あっという間に売れちゃって…お蔭で掛売の分も払えます!」
言ったダラムさんを叔父ちゃんが手で軽く制する。
「慣例通り掛売の清算は年末で構わんよ。商売の種銭に使いな」
叔父ちゃんの言葉にダラムさんがびっくりした様子だ。
そうか、この世界は晦日商売があるんだ。
晦日商売とは、日本の古い風習で毎月月末に纏めて代金を払うという物である。本当に信用のある人はお盆と暮れ、年に二度の支払いで良かったらしい。
「よ、よろしいんですか?」
言ったダラムさんに叔父ちゃんは、
「信頼しているから大丈夫だよ」
と一言。すかさず、
「有難うございます!」
とはダラムさんの返事。
「でも今は、そんな話じゃないんだ。君、ロックウッドの皮、樹皮って何かに使えるか知っている?」
叔父ちゃんの問いにダラムさんは考え込む。
「ロックウッドの皮ですか…」
と、思わぬ方向、後ろから答えが返って来た。
「使えるぞい」
振り向くと、魔術師らしき装束の老人。
「ありゃ、ちょっと特殊なポーションの材料になる」
簡単に解説してくれた。
「丁度、儂が探しておった物なのじゃが、あるかの?」
聞いた老人に、
「多分明日には乾燥が終わると思いますが、この店に持ち込んで置くので買ってやってください」
叔父ちゃんの機嫌が悪そうだ。
「これは失敬をした。儂の名前はバイラル・ジン、エルフの錬金術師じゃ」
丁寧な自己紹介が有った。つか、名前それかよ、斜め上すぎるわw
聞けばジン氏は病気回復用のポーション材料を探していたと言う。
「ロックウッドがなかなかなくて困ってなぁ…しかし助かった、感謝しかない」
ジン氏の言葉に叔父ちゃんは、
「いや偶然ですよ。お役に立てて良かった」
軽い調子で応える。
「…それにしても、お前様方、何か見覚えが…」
老齢のエルフであれば知っていても不思議ではないだろう。
叔父ちゃんと曽祖父ちゃんの顔を交互に見比べている。
と、急に立ち止まり、
「も、も、もしやタダシ様にキチゾウ様では?」
叔父ちゃんが慌てて口の前に人差し指を立て、シーッ! とやっている。
「止めて下さい往来で」
小声で制した。
結局そのまま冒険者ギルドまで付いてきてしまったジン氏である。
受付嬢はこちらの顔を認めると、
「少々お待ちください」
と言って奥へと消えた。
程なくしてビルボ氏が現れる。
「いつもの部屋へどうぞ。丁度良かった、バイラル老師もご一緒下さい」
すぐに応接へと通された。
すかさずお茶が出てくる。そしてお茶を出してくれた受付嬢はすぐに、
「失礼いたします」
と言って部屋を出ていく。
「こちらが、紹介させて頂こうと思っていた錬金術師のバイラル老師、こちらは…ご存知でしたね?」
叔父ちゃんとジン氏を交互に見た。
「先ほど気づきましたわい、これで命を救われたのは三度目になりまする」
こちらにペコリと頭を下げる。
「ん? 三度?」
叔父ちゃんが不思議そうな顔をする。
「アレじゃ、ギルドから依頼された商隊の護衛。あの中に有った顔だ」
曽祖父ちゃんが言った。
「あ~、あの時の!」
叔父ちゃんが膝を打つ。
「それで、何か儂の様な者で役に立てる事があるなら何でも言って下され。喜んで協力しますぞ」
話がどんとん拍子に進んでいる。
「バイラル老師はこの国でも最高位の錬金術師です。きっとお力になって下さると思います」
ビルボ氏が言う。何か凄い人が出てきちゃったよ。
「あ、こいつは自分の甥っ子でカズキと言うんですが、錬金術師さんに聞きたいことがいくつかあるらしく…」
叔父ちゃん、丸投げする気満々でしょ?
「カズキ様、東洋の言葉で一つの木と言う意味ですか? 素晴らしい御名だ」
ジン氏が言う。スゲー物知りだこの人。合ってるよw
ジン氏は名刺をくれた。この世界にもあるんだ、名刺。
「いつでも訪ねて下され、何なら呼び出してもらえればすぐに駆けつけますじゃ」
気軽に言ってくれているが、流石に年長者を呼びつけるような非礼は働きたくない。
「いずれお邪魔させて頂きます」
とだけ言って置いた。
「で、材料揃いそう?」
叔父ちゃんがビルボ氏に聞く。
「ハイ、明日の午前中には揃うかと」
ビルボ氏が応える。はぇ~なオイ。
「あと、何処かミスリル以上の精錬が出来る工房で借りられるところって当てはある?」
叔父ちゃんがビルボ氏に聞く。
ビルボ氏は、
「はい、何件か。今夜のうちに打診しておきましょう」
と請け負ってくれた様子。
「じゃあよろしく」
叔父ちゃんが話を絞めた。