その13
今晩は投稿できそうにないので、早めに投稿します。
木に近づくと、曽祖父ちゃんはどこかから銃剣みたいなナイフを取り出して枝打ちを始めた。
幹ギリギリに切っていく。凄い手際の良さだ。
俺は腰の刀に目をやって「でかいよなぁ?」とか思いつつ鯉口を切ろうとした瞬間、
「あ…これ使え、やる」
と叔父ちゃんがこっちを向いた。
手には刀子を持っている。
刀子とは、日本刀の鍛造技術で作った小刀の事である。昔はお武家さん達がカッターナイフの代わりに使っていたらしい。
「え? いいの?」
日本で買えば10万は下らない物だ。まぁ生涯所得より多そうな小遣いを貰った後なのでアレだけど。
「構わんよ。後で小柄も作ってやるけど…靴を何とかしないとな…」
確かに、この世界に来た時に履いていたのは普通の革靴だったので、行動が阻害される事はある。
ちなみに「小柄」と言うのは、刀の鍔に刺して置く小刀の事だ。刃が有る物が表、刃を付けない物が裏と呼ばれる。
通常は表裏の二本、場合によっては表が二本で裏が一本の三本、主に手裏剣の様に使う武器だ。
刃を付けない裏と言うのは、常に腰に刺してある刀で自分を傷つけないための配慮らしい。
貰った刀子のお蔭で枝打ちと皮むきが凄い勢いで終わる。
勿論、曽祖父ちゃんのお蔭もあるが。
葉と実の回収も終了した。
叔父ちゃんは全体を見渡し、
「こ~の辺かな~」
とか言いながら木を切って行く。
2m前後に切っているがかなり雑な感じだ。
そして20㎝程の丸太を一つ切り出してから、角材に整形していく。
角材の切り出し方が場所によって違っているのは節を避けているためだろう。
それにしても何でそのナイフで綺麗に切れるの? カンナが掛けてあるみたいだし。
「ねぇ、枇杷の皮って何かになるの?」
叔父ちゃんは、ちょっと考えてから
「さぁ?」
と言う。曽祖父ちゃんも首を横に振っている。
「さっきの商人にでも聞いてみようか?」
言いながらも手は止めず、あっという間に製材作業を終えてしまった。
「さて、乾燥だ」
言いながら角材と丸太を両脇に抱える叔父ちゃん。
俺も枝を担いで後に続く。
ちょっと普通では人間の持てる重さじゃないよな~、等と思いながらやって来たのはいやに背の高い納屋の様な建物だ。
「開けて」
両手がふさがっていて開けられない様だ。
入り口の引き戸を開けると中には照明がちゃんと点っている。
叔父ちゃんは、
「戸は開けといてね」
言いながら中へ入って行ったので、後から続いた。
内部は材木置き場のようで、材木屋に有るような仕切りまである。
角材を綺麗に並べていく叔父ちゃん。
さっき「乾燥」って言ってたけど、固い木材の乾燥って10年単位で時間がかかるんじゃなかったっけ?
丸太もその横に縦に並べて、
「枝はその辺に置いといて良いから…、皮も一応入れとこうか…」
聞いて皮を取に行った。
戻ると叔父ちゃんは壁に有るパネルの様な物を操作していた。
「あ、皮も適当に置いといて」
言いながらパネルの下にあるボックスの蓋を開け、ポケットから出した魔石をいくつか放り込む。
「魔石」はこの世界で照明やストーブに使われる動力源だ。モンスターからのドロップらしい。
この街では、門の外にいる「ボーパルバニー」と言う兎型のモンスターがドロップするので、かなり豊富に出回っている。
ただ、あの兎は可愛く見えて結構凶暴らしく、更にたまにクリティカルヒットを出すので要注意と聞いた。
ボックスの蓋を閉めてから、パネルを何か操作している。
と、こちらに向き直り、
「ホレ、出ろ出ろ。長いこと居るとミイラになるぞw」
何か怖いことをサラっと言ったよ!
慌てて外に出る。叔父ちゃんもすぐに出て来て戸を閉めた。
聞けばこの材木置き場全部が乾燥室になっているらしい。浴室乾燥機みたいな物なのだろうか?
アレ、最初に聞いた時に浴室を乾燥させる物だと思ったのだが、浴室全体を衣類乾燥機にする物だった。
マニュアルを書いて初めて判明したこの事実。宣伝した方が良いと思う。
「ここ、鍵って付けなかったの?」
聞いたら、
「この家に盗みに入るような命知らずはこの街に居ない。それに俺やお前じゃないんだから、あの戸が簡単に開けられるようなヒューマンは滅多にいない」
と言われた。
あの戸、意識してなかったけどかなり重かったのね。どうもこっちに来てから感覚が狂っている。
その後、居間でお茶を飲みながら木材の乾燥について聞いてみた。
どうも、この世界では建材に木を使う事が少ないらしく、使う場合でも生木を使ってしまうらしい。ただ、家具職人は乾燥した木材を使うので、それ用の乾燥器を持っているらしく、それを真似て建材が入れられるサイズにしたのが先ほどの材木置き場との事だった。
そして枇杷の木の乾燥については、本来であれば20年位かかるらしい。が、あの乾燥機ならば1日で終わるとか。
「狂いは起きないのか?」
と聞いたら、
「魔法だから」
と、返された。便利だな、魔法。
茶を飲んで一息つくと叔父ちゃんが、
「さて…」と言って立ち上がりながら、
「ちょっと付き合え」
俺に向かって言った。
「どっか行くのか?」
曽祖父ちゃんが叔父ちゃんに向かって言う。
「こいつの靴買ってくる」
あぁ、と言う顔の曽祖父ちゃん。
ついでにと言う感じで立ち上がる。
「暇だから儂も行く」
と言った。
考えてみれば三人で出歩くのは初めてかもしれない。
三等街区の一角、靴の工房が何件か見えている。
その中の一件に叔父ちゃんが入っていくので後から入る。
「ごめ~ん」
声を上げる叔父ちゃん。すかさず「は~い」と返事が返ってくる。
程なく若いドワーフが出て来た。
「すまないが、冒険者の靴が欲しいんだが」
そのまま親指でこっちを指す。
「こいつのなんで、サイズを計ってやって」
ドワーフが笑顔になる。
「こちらへどうぞ」
言われて指示された椅子に腰かけると、
「靴を脱いでこちらに足を載せて下さい」
言われた通りにメジャーの付いた板に足を載せた。
「29.5ですか…有ったかな?」
正直、足は大きい。普通に靴屋に行ってもそんなサイズは無い事がある。
程なくして店員さんが戻って来た。
椅子の前に編み上げのブーツを置いてメジャーの付いた板を取り除く。
「こちらを試してみて下さい」
見た目は所謂長靴で叔父ちゃんが履いている物とよく似ている。日本で言う安全靴みたいな外見だ。
足を入れてみると、何やら中敷きは絨毯の様な踏み心地。しかもちょっと踏んでみたら靴底はゴムで作られていて日本の靴の様だ。
つま先に至っては安全靴の様に鉄板か何かが入っているらしく、かなり硬い。これなら蹴りに使っても大丈夫だろう。
靴底も見てみるとブロックパターンでかなり頼もしい。発勁を使っても堪えそうだ。って、叔父ちゃん何度かやってるな。スゲーなこの靴。
「すごいピッタリ…」
言葉を漏らしたら、店員さんが破顔した。
「じゃ、それ下さい」
叔父ちゃんが言いながらポケットに手を突っ込んで金貨を二枚、出して店員さんに渡す。
店員さんも受け取って「有難うございます~」とか言ってるし。
それにしても靴一足20万かよ?