その12
ちょっと仕事のせいで更新が遅くなっています。
ご容赦を。
城門を抜けて、いつもの露店の場所へと急ぐ。
ダラムの露店が見えて来たので指さす。
叔父ちゃんの顔が一瞬強張った後、何故かひどく柔和な物になった。
近付いていくと向こうが気が付いたらしい。
「あ、旦那~」
手を振って迎えてくれた。
「今日はね、ちょっとあるんだ」
言ってポーチからドロップ品を取り出していく。
前回と同じドロップ品が七揃、他に心臓が二つと胃袋が一つ肝臓も一つ。
目の前に並べて見せたらダラム君は目を丸くしていた。
「す、すみません。コレ手持ちの現金じゃ…」
言いにくそうに言葉を発するダラム。
すかさず、俺の後ろから叔父ちゃんの声で、
「ズバの家名を持っている人間なら掛売で構わんよ」
と。
キョトンとしたダラムがこちらに向いたのでコクリと頷いて見せた。自分にもわからない時の対処法だw
「ダラム君、だっけか? 君の家がこの国一番の豪商になった経緯は聞いているのか?」
相変わらず目の奥が怖い。こんな叔父ちゃん始めて見るかも…
「はい。撲殺の勇者様に良くして頂いて商業のトップに立てたのだとか。初代は自分と同じ商家の三男だったと聞いています」
あ~、何となく解ってきちゃった。
と、頭の上にドンと手が置かれる。
「こいつ、撲殺の勇者の甥っ子、贔屓にしてやって」
ダラムの瞳が開く。
「あの噂、本当だったんですか……じゃあ貴方は…」
「気にしない方が良いよ。もう世代が違うんだから」
いつの間にかいつもの軽い調子に戻っているよこの人。
「あ、そう言えばロックウッドなんて買取頼める?」
叔父ちゃんがいつもの調子で言う。
「はい、勿論! 今は相場が上がっているので高値で買い取れます!」
ダラムが元気に応えていた。
家に帰ってから叔父ちゃんは庭で製材作業をやっている。庭と言っても普通の家庭の規模ではない。どこの寺社かみたいな広さだ。
そこにポケットから出した枇杷の木を横たえ、何か大型のナイフでスルスルと皮を剥いている。
「ねぇ、ズバさんて知り合いなの?」
思いっきりストレートに聞いてみた。
「あぁ、あいつの先祖だけどな」
何やら歯切れが悪い。
「何が有ったの?」
やはりストレートに聞いてみる。この手の問いはごまかさない事が多い。
「ズバって家は地方の零細商人で、子供が多いと三男以降は『商人修行』とか言って放り出される事が多かったんだ。これは他の商家でも同じらしいんだが、この街で俺と知り合った」
あら? 結構重い話なの?
「だから、知り合ったズバに優先的にドロップを売っていたんだ。こっちも適正価格で買ってくれるし、あっちもどんどん儲かる。それがズバ家が大商人になる切っ掛けだった」
渋い表情で続ける。
「その子孫がダメな先祖と同じ事をしていて面白いはずは無いだろ?」
完全に理解できた。
つか、ダラムを応援して本家をぶっ潰したい。
初めて見つけた目標かも知れない。
叔父ちゃんが庭で作業をしているのを縁側から眺めていると、曽祖父ちゃんが顔を出した。
「お、枇杷の木か。また立派な…」
全員の感想が同じらしい。日本でもこんなにデカイ枇杷の木は見た事が無い。
「それにしても何をする気なんだ?」
曽祖父ちゃんが、俺の横に並んで座りながら口にした。
「聞いてないけど、多分弓を作るつもりだと思う」
聞いていた材料から想像できるのはそんな感じだ。
「それにしちゃデカイのぉ」
確かに。巨人の弓でも作れそうだ。って、まだジャイアントは見た事ないけど。
「それにしても惜しい。今からでも大工にならんかな」
無理だと思うよ。今の仕事が好きみたいだし。生きたい様に生きて、収入にしちゃうような人だし。
以前、前田慶次が主人公のマンガを読んで「これ、叔父ちゃんの事か?」と思ったくらいだ。
「一の馬鹿とは大違いだ。腕は良いし頭は切れるし…、それに比べてあの馬鹿は不器用な上に仕事も覚えようとしやがらねぇ…」
爺ちゃん、俺にとっては良い人なんだけど何かボロクソに言われてるよw
「見とけ。もうすぐ切るぞ」
見ると木から少し離れた場所に立って木を計る様に見ている。
と、皮を剥いた辺りに近寄って、プツリと言う感じで横に切った。
何であの直径の丸太が、あの短いナイフでバターでも切るかのように切れるのか謎だ。
そのまま、上の方の処理を続けていく。今度は枝が出ているので切り落としながらだ。
「あの長さ、解るか?」
その言葉にフルフルと横に首を振って見せた。
「ありゃ、乾燥させて材木にするとちょうど日本の材木の長さになるんだ。アレを武志は勘でやりおる」
スゲー、出来ないよそんな事。
「本来は木挽き屋とか材木屋と言う専門職があるんだが、何故かあいつはできる」
木材は、物によって収縮率がかなり違うと聞いた事がある。計算式が頭の中に有るのだろうか? それにしても長さの測定はどうしているのだろう?
「この家を建てた時の建材も武志が全部調達してくれた。似た木質の物があればそれを、無ければ自分で採りに行って行って材木にしてくれたから、えらく楽だった」
遠い目をした曽祖父ちゃんが言う。
これが物作りのスキルなのだろうか?
作業を続けていた叔父ちゃんが振り向いて、
「お~い和樹、あ、爺ちゃんもいた。ちょっと手伝ってくれ。枝打ちと葉っぱ、実の回収、枝は纏めといてくれればいいから」
「あいよ!」
間髪を入れずに曽祖父ちゃんが言う。これは職人としての生来のスキルだろう。
立ち上がる曽祖父ちゃんに遅れじと「はい!」と言いながら立ち上がる。
そこに有ったサンダル(多分叔父ちゃんの)を突っかけて庭に降りる。曽祖父ちゃんは自分の雪駄を履いていた。
実は三人とも足裏の形が同じだ。爺ちゃんも入れると四人同じ、ただ俺だけサイズがでかい。
叔父ちゃんが26cm、俺が29㎝なので、叔父ちゃんのだとかろうじて履ける。爺ちゃんや曽祖父ちゃんのは流石に無理だ。
無論靴は誰のでも無理だけど。叔父ちゃんのサンダルだと違和感が無い、と言うか足に馴染むので履きやすいw