その11
微妙に短いですが、切りの良い所まで。
少し経って、軽食と茶が無くなった頃、叔父ちゃんが立ち上がる。
「さ~てと、行くべ」
本当に軽いなこの人。
「あ、この森デッドリーベアが湧いてるんで、周辺警戒よろしく」
まぁ、熊位なら問題にならないだろう。
小一時間、森の中を探したが、肝心の枇杷の木が見当たらない。
「ん~」と言って叔父ちゃんが座り込む。近場に有った大木に背を預けて、
「ちょっとの間だけ、この周りを護ってて。すぐ戻れると思う」
言ってすぐに意識が消えた様だ。何しているんだろう?
と、デッドリーベアらしき足音が複数聞こえて来た。
目をつむり数を数えてみる。総数6頭。
静に鯉口を切る。
突進してくる順は、割と解るので戦術を頭の中で組み上げた。
「まいる!」
口の中で小さく呟いてから、先ほど叔父ちゃんに教えてもらった歩法で相手の目の前に飛び出し、抜刀一閃。
その後は次々に4頭の熊を倒していく。
が、残りの一頭が叔父ちゃんに迫っていた。
「ヤベッ!」
慌てて叔父ちゃんが座っていた場所に急行したら熊が挽肉になっている。
叔父ちゃんは平気な顔で、
「ドロップの回収した?」
膝が砕けそうになるから止めてよ、そういうの…
叔父ちゃんの誘導で枇杷の木のある場所まで行ってみる。
「マジかこれ?」
藻わず言葉が漏れた。
直径30センチは有りそうな枇杷の巨木が聳えている。
木を見上げていた叔父ちゃんは、
「何かもったいない位の大木だな…」
感心した様子だ。この人でもこんな顔するんだ?
何か新たな一面を見た気がする。
「まぁ、仕方ないか…」
意を決したようにポケットに手を突っ込んでから、ふとこっちを向いた。
「お前の方が速いか? これ根元から切って」
俺かよ!
仕方なしに刀の鯉口を切って木に近づく。しゃがみ込みつつ、
「抜く手は見せぬぞ…」
小声で言ってから一挙動で抜いて切って鞘に戻す所まで練習のつもりでやってみた。抜刀術の基本だ。
「見えたよ」
叔父ちゃんから突っ込みが入る。
そりゃああんたには見えるでしょうよ!
殆ど手応えもなし、木にも変化が見られないので「失敗か?」と思っていたら、叔父ちゃんがつかつかと近寄って来た。
一瞬木を見上げてから、足の横腹で軽く木の根元をコンと蹴る。
瞬間、俺にも見えない速度で後退した。まるで瞬間移動だ。
木の方は蹴った所からずれて叔父ちゃんの方に倒れて行く。
その大木を事もなげに左手で受け止める叔父ちゃん。
簡単そうに持ち上げて、丸ごとポケットにねじ込もうとしている。
入るのかよそれ…
思った瞬間、叔父ちゃんの後ろにデッドリーベアが立ち上がっていた。
ヤベッ! 警戒を怠った!
立ち上がろうとした瞬間、叔父ちゃんの右裏拳が一閃。
熊が振り上げた前足と頭が消し飛んでいた。
『撲殺の勇者』こえぇ~、まず勝てる気がしない、ってか道場でも勝てた試しがないけど。
木の方は最初だけゴソゴソやっていたが、ポケットに入り始めたらスルスルと入ってしまった。
ド〇えもんかよあんた。
まぁ、用件は済んだので早々に森を後にする。
帰りは先ほどの様に速度は出さず、巡航速度と言った感じで走る。
2時間とかからずに城壁が見えて来たので街道筋に戻った。
「そう言えばお前、ドロップ品を売る宛てはあるの?」
聞かれたので正直に答える。
「ダラム・ズバって露天商と知り合って、殆どそいつに売ってる」
しばし考える様子。
「ズバ家の嫡男?」
何か知っているらしい。
「三男だから修行しているんだって言ってた」
やっぱり思案顔。
「まぁ、すぐに売りに行こうぜ、俺も付き合うから」
何かの切り替えに成功したらしい。だけど目の奥に怖い光がある。
何なんだろう? さすがに読み切れない。