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「あ。あっちに行ってみましょう」
「ちょっと待って、リザさん。今更なんですけど、俺達のこと、そんな簡単に信じて良いんですか?」
「なにを? あなた方は助けに来てくださったのしょう? 信じるなんて当たり前です。そういえば、お礼がまだでしたね。依頼を引き受けてくださり、誠にどうもありがとうございました」
「依頼? 知ってたんですか?」
「ええ。だって。あの依頼をお願いしたの、わたくしですから。だから、全て自分でやったことなのですよ」
「まじですか」
「まじでした」
依頼を引き受けたのは俺だけど、その依頼内容にお嬢様を連れ出して助けることしか記されてなかった。すごいあやふやな達成条件だなあとは思って結婚式場に行ったけれど。まさか、その貴女。お嬢様からの依頼だったとは、思ってもいなかった。まじか。まじなのか。
「じゃあその腕はやっぱり」
「あまり、気にしないでください。たいしたことじゃないですから」
「たいしたことないなんてそんなレベルの痣じゃなかった……」
要するに、暴力を振るわれていたのだろう。だれにとは言わないけど。でも、それが一つの理由なのだろう。弱いものは乱暴される。強そうに見えるものも攻撃される。ほんとクズだよなあ。この世界。
「あんまり、平気なフリをしないでください。俺は、あなたのそんな顔が、大っ嫌いです。だから、やめてください。どうして、そんな顔が、できるんですか……」
「急にどうしたのですか? なにかあったのですか? わたくしが気分を害することを言ってしまったのならごめんなさい」
「どうしただって? 抽象的すぎて、言ってる意味がわかりません。なんでもでもないですよ。なんでも」
「すみません」
「謝らないでください」
俺は、言った。沈鬱な空気になってきたところで、やっと目的地に着いた。依頼人のところだ。中に入ると、そいつは暖かく拍手で迎えてくれた。その雰囲気でどんだけ、危ない任務だったのかようやくわかった。こいつ、呪ってやろうか。
「さすがだね。これは、凄い」
そうやって褒めてきた。なにが凄いのかよくわらなかったが、褒められたのはわかった。嬉しくない。とりあえず報酬金だけ受け取って、俺達は美味しいものを食べた。ほんと、衣食住の食だけしかしてねーな。
「ようやくお金も入ってきたとこで、じゃあ、解散!」
俺は言った。言ったのだが、なんだか、漫画のコマでいうシーンとした状態になった。だれもなにも、しゃべらない。意気揚々と言った俺のことを二人は上目遣いで見ているようだ。上目遣いやめろ。ドキッとしたんだけど。
ようやっとため息をもらしてこう言った。
「これだから、男ってやつは。鈍感なんだよ」
エレナがそう言って、リザの顔をチラッと見た。どうやら彼女の顔になにかついているらしい。うーん。だがしかし、左の目尻の下にほくろがあるだけだ。泣きぼくろがあるだけだぞ。なんだ、なにが言いたい。
「それにしても、スタイルいいね。べっぴんだしそんな容姿だと、男が群がるのも、無理はない。悪い男に引っかかるのも、偶然ではないんだろうね。そんな気がしてきた」
「だから、お前がそこから、無理やり連れ出したんだろーが!」
「そうだけど? でも、それは仕事だったからな」
「い、いいんです」
リザ・エディナが口を開いた。少し下を向いて、顔を見られたくないのだろうか。だれにだ。もしかして、俺が嫌われてるのか。あまり、好き嫌いに囚われないほうがいいのだろうけど。二元論に持ち込むと人間は異常になりそうだしな。
「わたくしは、ただ、あなた様に依頼で、連れてこられた。それだけなのです。まさか、あんな馬鹿な依頼を引き受けくれる人がいたなんて、未だに信じられないのですが、でも、その人はやってきたのです。わかっています。それが、お金のためでやったことだってことは。でも……」
「どうしたんですか。急にいっぱいしゃべられても、思考能力が遅い俺にはてんで理解が追いつかないのですが……」
「だから、お前は鈍感なんだよ。死ねよクソが」
「クソだって!? 死ぬほど嬉しい」
なにが鈍感なのかわからないままだった。どうしてリザが。彼女が、顔を上げようとしないのかもよくわからない。まあ、食事してるところをまじまじと見られるのは俺、苦手なんだよな。なんか恥ずかしくてな。そういうことなのかもしれない。彼女にも、なにか恥ずかしいことがあるのかもしれない。だから、さっきから俯いたままなのかも。
なんて、思っていたら、なんだか空気が張りつめていた。この空気をつくりだしたのは、リザだった。
「でも。いいじゃないですか。こんな気持ちになっても。浸っていたいんです。溺れていたいんです。嘘偽りなく、この気持ちはホンモノなんですから」
「いったいなにをおっしゃっていらっしゃるのでせうか?」
「さあねー。もう知らね。知ったこっちゃないし。好きにすればいいんじゃねーの」
エレナは言った。だけど、不可解なものはわかりたくなるものだろう。それが人間の性だ。わからないという判然としない不安感を、取り除きたいと行動するのが人間だ。それを諦めて、受け入れるのも人間だが。
「そうだ。俺を好きにしていいぞ。遠慮せずにいたぶっていいぞ。さあ。やるんだリザ」
「ええ、わたくしは、あなた様のことが好きなのです……」
「……」
会話が成立していなかった。まあ、世界は広いのだ。俺のことを世界のだれかより相対的に好いてくれる人はいるだろう。ありがとう。感謝感激。嬉しいでございます。
「そうか! うんありがとう! 俺もリザは好きだ」
彼女は恥ずかしそうに耳を真っ赤にしている。現実世界でもそういう人いたなあ。恥ずかしくなったり上がったりすると耳が赤くなるの。あれ、本人じゃどうしようもない性質だからなあ。普通と違う性質をもっていると劣等感に苛まれることがあると思うんだよ。難儀だと思うけど、頑張ってほしいな。
「どうした? 具合でも悪いのか? ふわふわしてるぞ」
なんだか様子が変だ。なんだか酔っ払いみたいになってる。足がすくんでいるようだ。ごめんな。俺のせいかもしんない。
「この馬鹿。この状況をつくり出したのお前だからなあ!」
リザが意味不明なことを言った。わからない。俺にはわからないのです。ごめんなさい。この世界のことはよくわかりません。異世界のことなんて……。
「ごめんな……ごめんな」
俺は謝り続けた。土下座すれば許してくれるだろうか。靴底を舐めれば許してくれるだろうか。わからない。いまは、彼女が正気に戻るのを待とう。
一時間待った。ようやっと目が冴えたみたいで、俺のことを真正面からガン見できるほどに回復した。よかった。よかった。
「急に、どうしたのだ?」
「いえ。なんでも、ございませんわ」
「言葉で言わなきゃわからないだろ」
「お前は言葉で言っても抽象的な言葉は全部わかんねーだろうが。空気で悟れよ。語感で悟れよバーカ」
エレナさんはどぎついなあ。
「つまり、リザは俺のことを相対的にでも好いてくれてるんだろ。それはわかった。その気持ちはわかるわ。だって俺、エレナよりリザの方が好きだし」
「はあ!? いまなんつった!? もういっぺん言ってみろこのクソ野郎!」
「ありがとう。俺はいいクソだ」
「見てみろ。おいまたこいつふわふわしてるぞ。ふわふわして、どっか遠い場所に行きそうだぞ。もう逝ったんじゃねーか」
「おい大丈夫かリザ。だ、だれがこんなことを! 許さねえ!」
「ここに確信犯がいるよ!」
と、そんなこんなで俺達は行動を共にすることになった。パーティが増えたことで、必要経費が増えた。食事代や宿代などにお金がかかる。やはり、依頼をこなしてお金を貯めるしかなさそうだ。
「あの戦闘になったら、戦えますです?」
「大丈夫。こう見えて、武術は心得てますし、回復魔法は使えます」
「それは心強い」
回復魔法はいい。エレナが接近戦で、リザが回復役で、俺が後方で攻撃魔法ぶっぱすれば、最強じゃね。俺の弱点であるHPは、あ、いや、ワンパンで死んだら意味ないよなあ。死んだら生き返れる呪文とか都合のいい世界ならいいんだけど。きっとそうじゃないよなあ。そんな無秩序な世界だと、人が溢れかえって大変だろうからなあ。やはり人口は多いよりは、少ないほうが生きやすいだろう。大規模な戦争とかもおきなくなるだろうし。
なんだか人生に問題が山積するのは、世界に人間が多いからなんじゃあないのかなと思えてきた。もうちょっと、人と人との間にゆとりがあってもいいよな。と、ゆとり世代の俺は思った。俺よりさらにゆとりになったらどうなるんだ……。人生には適度な抑圧は必要なものなのかなあ。
「難しそうな顔をして、どうしたのですか?」
物思いにふけっていると、声をかけられた。
「リザそれは違うぜ。正確には、難しそうな頭の悪そうな顔をして、どうたんだよ。難しそうな顔する暇があるなら、地球環境に厳しい人間を少なくするために、即刻、お前がまず死ねって言えばいーんだよ」
「……」
エレナさんは相も変わらず手厳しい。ていうか、また、俺の心情を読んだ……だと。こいつの読心術、末恐ろしいな。人間の域を超えてるじゃないか。
「悪いのは頭じゃない」
とりあえず言い返した。
「じゃあなんだよ」
「あんたは、思い込みが激しいことがある。そうやって悪いところを決めつけない方がいいと思うよ」
「なんだ。私を非難してるのか?」
「なんでそうなるの?」
「ふん。お前と話してるとダメだ。全然、会話になんねーな」
「俺はそうでもないけどね」
エレナと話すと面白いなって思う。彼女は、普通じゃないけど、でも、それ故に、いいところだっていっぱいあるんだ。もちろん悪いところだっていっぱい。
なんだか、笑えてきた。異世界人生最高。
「あははは。なんだか、わろけてきた。わろけてきた。あははは」
「どうしたってんだよ。気持ち悪いな」
「まあ、そう言うなよ。悪いだなんて。楽しもうぜ、楽しめるときには、楽しもう。だって、限りある生なんだからさあ。もう、可笑しい。あははは」
俺は、腹を抱えて笑った。
「変な奴」
変か。そういった評価になっても仕方があるまい。だって俺、普通じゃないもんな。もしくは、普通かもしれないけど。変じゃないかもしれないけど。ああ、もう面白い。
「頭がくらくらしてきた。酒でも飲んだかな」
「なに言ってるんですか? ここは酒場じゃないですか」
「ごめんな。そうかここは、酒場か。俺、酒飲むと人が変わるみたいなんだよ……」
「どうなるんですか?」
リザが心配そうに見つめている。泥酔した俺の半開きの目でもわかった。
「自覚症状はないんだけどさあ。酒を飲むと人が『優しくなる』みたいなんだよなあ。普段ならこれ以上やる必要はないってセーブするんだけど、そのリミッターが外れるわけ。抑制が効かなくなるみたいなんだよ。しかも『だれにでも』らしいぜ? どんな強面の男にも優しくなるし、どんな醜女でもどんな美人にでも優しくなる。どんな罪深い人間でも優しく接してしまうらしいんだ」
「その……優しいって具体的にはどういう……?」
「さあ。自覚症状はないから、わからないけど。あ。そこに嫌がってる人がいるのわかる?」
「え。どこですか?」
「そこだよそこ。あの長椅子に座ってる女性。酔っ払いに肩を組まれて嫌そうじゃない?」
「そんなこと、わかりませんよ?」
「まあ、近くであの子の表情を見たらわかるさ」
「あ、ちょっと待って」
制止を振り切り、俺はポンポンと酔っ払いおじさんの肩を触った。なんだといった風にこちらを振り向いた。
「あはは。あんた、間違えてるよ。肩を組むのはこの人でしょ。酔ってりゃあせわねえな。ほら。こっちこっち」
不機嫌そうにしていたが、とりあえず背もたれに肩をかけさせておいた。比喩ではなく肩の荷が下りた女性は「すみません。助かりました」といって軽く会釈をした。どうやら、嫌だったらしい。まあ、酒場という解放的な空間で良い思いをする人がいれば、嫌な思いをする人もいるよなあ。
リザのところまで戻ってみると、軽くひいてた。なんで、わざわざ赤の他人のことをわざわざ助けようとするのかが理解できなかったらしい。まあ、そうだろうな。ほんと、赤の他人だったもんな、いまのは。
「大丈夫かお前。いい精神科紹介するぜ? 閉鎖病練に入院した方がいいかもしれないぜ?」
エレナは俺の身を案じてくれたようだ。
「ありがとう。でも、エレナとリザがいるだけで、十分だ。それだけで心強い。自分には、もったいないよ。ありがとう」
「お前、大丈夫か? なんか言動が、かなり違和感」
「大丈夫大丈夫」
「全然、大丈夫じゃねーよ。なに急にいい奴になってんだよ。酒飲んで急変する奴はいるが、こんな風に変わる奴ってなかなかいねーぞ?」
「そんなことないよ。俺みたいなのは、世の中にいっぱいいるよ。こんなのはだれにでもできる。だれかが代替えしてくれる。オルタナティブって言葉があるだろ? 俺の代わりなんてだれかやってくれるんだよ。俺が異世界に行っていなくなっても、欠員がでた会社は他の新入社員を入れてうまくやっていくもんなんだよ。代わりなんていくらでもいるんだ。そういった世の中なんだよ」
「……なに言ってんだお前」
「こんなのは普通だってこと」
「どこが普通なんだ。異常だよお前。死ねよ」
どうやら俺に死んでほしいらしい。
「俺のことなんてどうでもいいんだよ。なあ。エレナとリザ。なにか悩みがあれば、なんでも俺に言えよ? 相談とかにはのってやるよ。一人で抱え込むことなんてないんだから。エレナは強そうに振舞っているけど、もう少し弱さを他人に見せてもいいんだぜ? リザはDVが過去にあってもしかしたらトラウマがあるかもしれないけど、でも、これからは自分で自由に生きていっていいだぜ? 自由に自分が好きな人に会いに行けるし、好きな場所に行けるんだぜ? もう、無理しないで自分のことに時間を使ってやっていいんだよ」
「……なんで、そんなこと言うのですか……」
リザは戸惑っている。なにか悪いこと言ったかな。自覚がない
「……なんで、そんな人間になられたのですか?」
「絶対に悪いことしないって神に誓ったからな」
「……神」
「嘘嘘、冗談だって。あはは」
なんか、笑えてきた。酔っ払ってるからか、もう眠い。眠くなってきた。多分、寝てしまった。この感覚はもう夢の中。目が覚めて、俺は気づいた。ここは、宿屋。頭が少し痛い。二日酔いかも。
そして例のごとく……。
「一体全体、俺はなんで、手枷されて、口にボールギャグされてんだーー!?」
しかも全裸である。スプリングコートはどこいった。あのスースーする感覚がない……だと。
「は! まさか、また八代夢黒は自身を抑制できなくて……、ついに、やってまったか」
「ええ。昨晩は、随分と楽しませて、もらいましたわ」
リザがなぜがプロレスラーみたいな耐水性の良さげな肌の露出度の高い服を着ている。しかも赤。マスクを被って、手にはイソギンチャクみたいな形状の黒い棒を思っている。おい。あんた。抑圧が解放され過ぎだ。どの方向に解放されてんだ。
「昨晩俺は楽しんで、こんな行為を許していたのか……!?」
「ええ。それは、もうノリノリでしたわ」
……ノリノリだったか。どうして、こんなことになってるんだ。しかも、手枷が鎖に繋がっていてベットから動けない。これ、やばいやつだ。全く移動ができない。
「あの、もちろん、自由にしてくれるんでせうよね」
「なに言ってるんですか。当たり前じゃないですか」
そう言って、近くに来て、イソギンチャクを俺に振りかぶりってきた。
「や、やめてくだしゃい」
俺は情けない声をあげた。すると、その棒をゆっくりと乳首に突きつけてきた。それで何度もボタンを押すようにプッシュしてくる。……意味がわからない。それから、それを思いっきり上に振り上げた。怖い。その棒をいったいどこに突き刺すの!? なに!? 先が読めな過ぎて怖いよ!? どこに突き刺すの!? それが振り下ろされた瞬間、死んだかと思った。ただの棒は俺の顔をかすめて枕に突き刺さっている。突き刺さっている。突き刺さってる。
「はあ、はあ。ごめん、なさい。だめでした。自分を抑えることができなくて……。こんな私じゃ、一緒にいたら迷惑ですよね」
「そ、そうだね。い、色々と衝動を抑えてほしな。ガクブルガクブル」
「実は男性恐怖症で、だから、ずっと怖かったんです。酒場のときも、ずっと。いま、やっと解放できて、私は自由になったんです。自分にされたことを思い出すと、息が苦くなって、訳がわからなくなるんです。でも、いま、こうやって八代様をいたぶることによって、随分と楽になりました。怖い思いをさせて大変申し訳ありません。本当にごめんなさい」
「お、おう……」
頭を下げられても、困る。どう反応したらいいのか。と、とりあえず、申し訳ない気持ちがあるなら、手枷を外してもらえるかな。いや、外したら、リザに男性恐怖を与えてしまうのでは……。では、このままの方がいいのか……。
「あ、あの。ちょっといいですか?」
「はい。なんでしょうか」
「あの、言いにくいのですが……」
「なんなりと、言ってください」
「小便はどうしたら……」
「それならご安心ください。ちゃんと、容器を用意しました!」
「え、リザさん!?」
「これに入れてください!」
俺は両腕を塞がれている。それはつまり、つまり、そういうことなのか!? そういうことなのでございますですか!? なにがどうなってるのこの状況!?
「問題はありません。ちゃんと掴んでいますから」
「ちょっなに勝手に握ってるんでるんですかっ!?」
「不快ですか?」
「い、いえ。爽快ですけど…」
「けど?」
「あんまり動かさないで……」
「不快ですか?」
「いえ……快感ですけど……」
なんか、男として悲しくなってきた。なんか、とても恥ずかしい。用を足しているところを、他人に見られるなんて……。しかも、非常に優れた品物ーー逸物を握られてるなんて……。ううぅ。でない。出ないよ。全然でない。
「どうしたのですか? いつもみたいに出していいんですよ?」
「ごめんなさい。いつもみたいに出ません。その状態のまま少し待ってください。そしたら、柔らかくなると思います。ふう。精神集中!」
「はい。いつでも準備オーケーです」
おーきーどーきー。なにも考えるな、なにも感じるな。いつもみたいに、朝のトイレを思い出すんだ。照準は彼女が合わせてくれている。あとは、全身の力を抜くだけだ。大丈夫。きっとうまくいく。
「よし! いまです! でます!」
「あ、でました。でました。本当によかったです」
容器の中にいっぱいになった液体をリザは便所に捨てにいってくれた。おかげで、膀胱炎になる危機感から脱することができた。本当によかった。
……朝から俺は一体全体、なにをやってるんだ。
「はあ」
「どうしたんだよため息をついて。お前らしいな」
同室で寝ていたエレナが起きていた。まだ、眠そうにあくびをしている。……絶妙なタイミングで起きてきたな。とりあえず、さっきの光景を見られなくてよかった。
「あのさ」
「なんだよ」
「手枷を外してもらえませんでせうか?」
「……嫌と言ったら?」
「トイレはどうする? 手伝うか?」
「な、なに言ってんだよこの変態! わ、私がお前の下の世話をするわけ……」
「……なんだか恥ずかしそうだな」
「そんなわけないっつーの。むしろ嬉しいわ。お前の弱味を握れるんだからな。だけど、そんなことしたらジョニーがかわいそうだろ? 彼だって生きてるんだ。いつ私に魔が差して、切断したり、圧縮しすぎて潰れたりするかわかったもんじゃない」
「……」
いったいこの方は、なんの話しをしているのでございませうかね。俺には、全く理解が及ばない。なんか、天井の黒いシミを数えてみた。
「あぁ。黒いなあ」
「なに遠い目をしてんだ。こら。ああん。いますぐに死ぬか?」
「こわす」
「壊す?」
「怖いです。早く、高瀬、じゃなって、手枷を外してくださいですますしまうま」
「ふん。仕方ねーな」
そう言って手枷を外してくれた。いや、どうなることかと思った。このままずっと監禁されたままなのかと思ったぜ。そんな異世界は嫌だなあ。鬼畜だ。
俺はスプリングコートを羽織り(全裸なので羽織れてない)これからのことを話した。
「どうするよ。暇なんだけど。なんか、巨大組織の陰謀とかないの? とある機関に狙われてたりしないの? そしたら、俺、頑張っちゃうよ」
「なんだそりゃ。暇なのがそんなに嫌か?」
「嫌じゃないけど、なんかここのところファンタジーファンタジーしてないからさあ。なんか、絶対的な悪がいないとつまんないよなあ」
まあ、そういうことなんだろうな。悪がいるから、人間は戦うんだよな。なにかを悪くして、それで、なにかを正したつもりになって、いい気になる。まさに、俺のことだ。俺がいる限り、この世に悪は栄える。
「それにしても」
と、彼女は切り出した。
「悪って、なんだろ」
「わからないのか?」
「わってるっつーの。ただ、きいてみたかっただけ」
俺たちは、とりあえず宿屋から出て、現状を把握した。いま、必要なのは食料と金だ。金だ。金だ。
「とりあえず、狩にいきますか」
と、そんなこんなで俺たちは町外れのフィールドにやってきた。リザとはさっきのことがあったので、なんとなく気まずい。だけど、そんなことも言ってられない。戦闘中はみんな必死なんだ。狩られるか、狩るかの二択。俺たちは気を引き締めてラディガの群れに向かった。ひたすら、メルトを使って奴らは一掃した。
「メルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルトメルト」
おそるべし無尽蔵な魔力。もしかして、俺、強いかもしんない。と楽観したのはいけなかった。気が緩んで目を離した隙にラディガの牙が俺の腹部を貫いたときは、死んだかと思った。オワタと思った。だが、リザが回復魔法で全快まで体力を戻してくれた。女神でいらっしゃいますか? って思った。
だいぶ魔物を倒したおかげで、さまざまな素材が手に入った。それを売れば金になる。レベルアップもしたし、来て良かったなと思った。これで無事に明日を生きることが出来そうだ。安穏安穏。




