夢現 #3
■■日
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「嫌、いや、イヤぁ!!」
平野の悲痛な叫びが、俺の耳に突き刺さった。
「落ち着けサエコ!俺がいる!大丈夫だから、な!?」
「何ですか、なんなんですか!これは!?」
俺が必死に体を抑える中、影がじたばたと暴れる。
うふふ…
「聞くな!こんな声は、まやかしだ!気にするな!」
「いやあああああ!」
俺の腕の中で、金切り声がつんざく。
華奢な体の、一体何処にこれ程の力があるのだろう。
影は俺の顔や体のあちこちを殴り、蹴り、のたうち回った。
あはは…
「おい!声を出すな!奴らに気付かれるぞ!」
俺は咄嗟に、周囲に視線を走らせる。
暗闇の中。
蠢く影。影。影。
額から汗が流れ、顔を伝う。
体が強張る。
「助けて!たすけてえぇ!」
その叫び声と共に、影が一層、暴れた。
「止めろ!やめろ!」
俺は叫びながら、暴れる影を力一杯突き飛ばし、その上に跨る。
きゃはは…
「いやぁ!やめてぇ!」
「黙れ、黙れ!だまれぇええ!」
左手で首を掴み、右手を振り上げ、思い切り振り下ろす。
「ぎゃっ!やめっ…ぐっ、ノぐっ、ざっ!…うぐっ」
何度も何度も、振り上げては、振り下ろす。
影の両腕が宙を掻き、俺の頬を爪が掠める。
拳に力が入る。
振り上げ、振り下ろし。振り上げ、振り下ろし。ふりあげ…
ふと、気が付く。
今まで、あんなにも五月蝿かったのに。
呻き声一つ、聞こえない。
影は、いつの間にか、動かなくなっていた。
「…サエコ?」
あっはははは!
慌てて平野の上から飛び退き、離れる。
「サエコ?サエコ!サエコ!?」
腰を抜かし、後ずさりながら、俺は平野の名を呼び続けた。
返事は、ない。
背中がトンネルの壁にぶつかった。
「おい、嘘だ、嘘だろ…」
俺は頭を抱え、項垂れた。
暗闇と混乱と喧騒と狂気の中、誰もが、唯一明瞭と聞き取れる声が、愚鈍な俺を笑う。
うふふ
そして、依田信博は目を覚ました。