日常 #1
水曜日
P.M 3:45
「今週末、4人で旅行行こうぜ!」
■■大学 軽音楽部。
4回生。今野雅弘は突拍子もなく、そう言った。
あと15分後には、ライブが始まるのだ。
機材や会場のセッティング担当者らが忙しなくあちこちを動き回り、小さなライブ会場では、ひしめき合う観客のざわめきが舞台裏にまで漏れ聞こえてくる。
舞台のすぐ隣にある狭い控え室の中は、周りの喧騒と反し、静寂と緊張が張り詰めていた。
そのような雰囲気の中、彼はそれを気に留める様子は微塵もない。
今野という男は、言動に時と場所をあまり選ばない男なのである。
控え室内にいる他の3人は、いつもの調子を崩さない今野に呆れながらも、安堵した。
「出たぁ!マサさんのぶっとび発言!」
3回生。平野冴子は、そう囃し立てた。
「いい加減、『空気を読む』ってのを覚えたほうが、身の為だぞ?」
4回生。依田信博はニヒルな笑みを浮かべ、今野に向けて言った。
「相変わらす、無茶苦茶なことを言いますね。」
2回生。園部拓馬は、ぶっきらぼうに言い放った。
「えーなんで?いいじゃん旅行!今回はぁ、マサさんの計画にさんせーい!」
平野は愛らしい笑顔を満面に、右手を勢いよく、ぶんと振り挙げた。
その様子を見て、呆れたように園部は溜息をつく。
「『計画』じゃなくて『思いつき』、でしょう。男性3人と女性1人じゃあ、考えないといけないことが色々あるでしょうに。」
「あ、そっかぁ」と平野は上げた右手をゆっくりと下ろし、首を傾げながら下げた右手を顎に添え、考える素振りをした。
「何を言うタク!折角、可愛い可愛いいサエコ様が『行きたい』と仰ってんだぞぉ!これを無碍にするとは、貴様、男が廃るぞ!」
今野は、両手で平野を掲げるように勢いよく指し、首を園部に向かって突き出しながら、妙な抗議をした。
「お前ら五月蝿いぞ。そろそろ集中だ。」
あと5分だぞ、という依田の言葉に、控え室は漸く静寂を取り戻した。
「旅行の話は、打ち上げの時に、な。」
依田の言葉と重なるように、舞台上で司会をしていた後輩が、舞台からさっと顔を覗かせ「そろそろです」と短く言い、素早く顔を引っ込ませた。
『さぁ皆さん!大っ変、お待たせしましたっ!今日の主役!あの4人が!愈々ご登場です!』
司会のハイな呼びかけに、観客の興奮が小さな会場から溢れんばかりに、絶頂へ登ってゆく。
「よっしゃあ!行くぜぇ!」
「なんか、ドキドキしてきちゃった!」
「いい加減慣れて下さいよ、サエコ『せんぱい』。」
「ほらほら。さぁ、楽しもう!」
水曜日
P.M 4:00
歓喜と興奮の爆発の中。
4人は舞台へ飛び出した。