入城。目指せ成り上がり!
無言。終始無言。
あのエイス?とかいうお姫様と会ってからのミヤは、黙ったまま反対のソファーに座っている。
異世界に来たってのに、どうしてこんな重い空気に付き合わなきゃなんないんだよ。
第一、よく考えてみれば、この異世界は想像していたのとちがって、魔法が無い。いや、あるのかもしれないが……
「あの、ミヤ様?」
「何じゃ?」
「いえ、その、えっと……」
圧迫面接張りの不機嫌さで言われれば、ヒキニートのトシノリとしては、思わず口ごもる。
「聞きたいことがあったのなら、早く言わぬか」
「この、世界って、魔法とかって無いんですか?」
「マホウ?」
「たとえばですね、傷が、すぐ治ったりとか、風で敵を吹き飛ばしたりとか、そういう……」
「貴様らの世界にはあったのか?」
「無いですけど……」
「ならばあるわけがなかろう。阿呆か貴様?」
いつの間にか、貴様呼びになってる。クソガキが。こいつはやっぱりハーレムからはアウトだな。性格が悪い。
「と、言いたいところだがーー無いとも言い切れんな」
「えっと、それは……」
俺が言い切る前に、ミヤは自分の腰に下げた短剣を抜いて見せた。
「霊銀器……と、言っても貴様には解らぬじゃろうな。簡単に言えば、自らの魂の器、とでも言えばよいか? 霊銀に自らの魂を写し形となす。それが霊銀器じゃ」
おお? なんだなんだ。急にファンタジーな設定が出てきたぞ。ってか、魂の器とかよさそうな響きじゃないか?!
「その、霊銀器?とかって、言うのが、その短剣と言うわけですか」
「妾の場合はな。霊銀器に決まった形は無い。魂を写した者次第じゃ。そして、魂を写した霊銀器は、時に力を得る事もある」
キタキタキマシタ! これだよこれ!
不思議アイテムからのチートスキルの入手! やっぱりこれがないとな! いやーやっぱりイイね。異世界は!
「何を嬉しそうにしておるのかは知らぬが、力と言ってもそうたたいしたモノでもないぞ」
と言って、ミヤは短剣に触るように促した。
恐る恐る触ると……うッ! ビリっとしたぞ! 静電気みたいだ……って、これだけ?
「終わり? ビリっとして?」
ミヤは頷いた。
「物語や、太古の英雄譚には、貴様の言ったような力を霊銀器から引き出した、と記述もあるが、恐らく空想の出来事にすぎぬ。人の手は二つしかなく、足もまた二つ。向かう場所も届く範囲もこの体から外に出ぬのならば、そのような奇跡があり得るはずがなかろう?」
いや、それはごもっともな話なんですけれど。
なら俺は何のために異世界に来たんだよ。ビリってする程度とか、下敷きでもできるじゃねえかよ……待てよ、そうだ! だったら何か別の、マヨネーズとか作って売ってみるってのはどうだろう?
うん。いいぞ!
きっとガッポガッポと金が手に入って、それで何人もかわいい女の子たちと一緒に暮らせる(もちろん、コイツは除外だ)ようになる!
それだったら俺にだって――
「……下らぬことを考えたようじゃが、一つ忠告しておこう」
「え?」
「貴様の住んでいた世界と、この世界は理は近しい。人は人であり、文字は違えど言語もまた近しい、動物も植物も同じように存在しているじゃろう」
だが、そうミヤは区切った。
「それでもやはり違う世界じゃ。貴様の住む世界に霊銀器は無いようにな。貴様の住む世界とこの世界は違っている……それを憶えておけ」
何言ってんだコイツ。そんなの当たり前のことじゃないか。
そうしているうちに、馬車が止まり、リーシャさんが入ってきて、ミヤに耳打ちした。
「分かった……トシノリ殿、これより我らはハリス伯爵城へ入る故、妾は御歴々に挨拶をせねばならぬ。おぬしにはこのまま馬車に乗り、兵舎へ向かってもらうことになるがよろしいか?」
よろしいか、と聞かれても他の選択肢はない。
ミヤが降りると、馬車はまた動きだした。
窓の外を見れば、どうやら城塞都市というやつらしい。
巨大な門をくぐれば、いかにも中世ヨーロッパと言う感じの街並みが広がっている。
が、不思議なことにあまり人がいないみたいだ。
トシノリは、今までのこと(と言っても数時間の間のことだが)と、これからの計画を考えた。
とりあえず、ミヤを助けた。うんよし。
そのミヤは、逆賊三貴族を倒そうとしている。
ここで俺がかっこよく戦う選択肢もあるが、まあ無理だ。ククル何とかはショーもないし、一応後でてに入れるとしても、多分チートも備わって無いだろう。
うん、で、今はその騎士団たちが集まってるハリス伯爵の城に来た。
となると、あれだな、この町でマヨネーズ作ってみよう。それから知ってる限りの調味料を作って、現代文化で成り上がろう。
そう考えていれば、ようやく兵舎に着いたようだった。
コンコン。馬車の扉がノックされた。
「どうぞ」
「失礼いたします」
入ってきたのは、男の娘だった。
一瞬、短い髪の女の子かと思ったが、服装はいかにも兵士って感じだから、多分男の娘で間違いないだろう。おっpも無いし。
「エルファ・ティフ・ハグマーです。トシノリ殿のお世話をするようにと、リーシャ将軍から言付かりました」
「ああ、うん。ありがとう」
「では、こちらに」
エルファにしたがって馬車を下りる。
いやはや、ほんとにヨーロッパって感じだな。こういうのだよ異世界は!
おっと、そう考えたら腹が減ってきたぞ。結局、あのオニギリも食べれないままだったし。
「あのさ、この辺に、何か食べるところってないのか?」
「トシノリ殿は食事がなさりたいのですね。でしたら、街まで行ってみますか?」
「ああ、よろしく頼むよ。後、霊銀?買えるとこ教えて欲しいんだけど」
「霊銀ですか? 一応加治屋には余りがあると思いますから、大丈夫だと思います」
なんか、色々と雲行きが怪しい気がしたが、こうして街に来てみれば案外大丈夫そうだ!
待ってろ異世界! 俺が変えてやるぞーー!