ニートの最後
童貞。25歳。ニート。
自分の人生に清原トシノリは絶望した。
大学を出るも、就職先が見つからず部屋に引きこもって早3年。適当なこと言ってごまかしてきたが、ついに親にばれた。
両親の怒りは想像絶するものだった。
一人息子なのに、それこそ殺す勢いだ。
そして今日、そんな二人が話をつけに俺の居るアパートまでやってくる。
トシノリは考える。
選択肢は二つ。親に殺されるか、それとも働くか。
働く? いや無理だ。コミュ症だし……やっていける自信がない。
かといって、両親が許してくれるはずがない。
積んでる。積みだ。そういえば積んでるエロゲー隠しとかないと。
さっさくベッドの下に秘蔵のゲームを隠す。
往年の名作から、ニッチなのから……はぁ、ゲームの世界に行ければな……。
俺にはエロゲーで得た知識も、暇にかまけてウィキで身に着けた知識もある。今はやりの異世界転生すれば、俺だって無双できるに違いない。
はい、バカな考えでした。
まだ10時。
両親が来るのは昼過ぎだ。
最後の晩餐を買いに行こう。
最寄りのコンビニ目指して、トシノリは部屋を出た。
レジ袋の中にある梅おにぎり108円(税込)。これが俺の最後の晩餐だ。惨め。ひどく惨め。
しかし、仕方がない。俺には自分の人生をどうにかする才能がないから――なにかが泣くような声が聞こえた。
ミャー、ミャー……猫?
が、辺りを見渡しても、猫なんてどこにもいない。
いや、待て――歩道の隣の用水路を覗き込めば、子猫が流されていた。
他に人もいない。どうせなら、俺の人生に最後ぐらい、カッコいいことしたいじゃないか!
トシノリはガードレールを飛び超えると、用水路に飛び込んだ。
「待ってろ! 今助けてやるからなッ!」
自分でもわけの分からぬヒロイズムに押されて、子猫をキャッチ。だが……。
うぉッ! 深い。溺れる――。
なぜかいきなり深くなった水の中に、トシノリは引きずり込まれた。
何か、掴まるものは――無い。いや、それよりもあの子猫は――これもいない。
少なくともあの子猫を道連れにしなかったことには、ほっとする反面、自分がおぼれていれば世話ないだろうというのが反面。
とにかく、何か、何か助かる方法を。
おっ? ぷにぷに?
手に触れた感触。柔らかい。だがそれはトシノリの上にのしかかっているのだ。
いや、何とかしないと死ぬだろこれ!
トシノリは最後の力を使って、ぷにぷにを水面に持ち上げて、自分も顔を出した。
「は、はぁ、はぁ、死ぬかと、思っ――」
「これは予想外だったな」
一緒に持ち上げた、ぷにぷに、いや女の子がトシノリに向かって笑いかけた。