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7 大阪のオバチャン、社員を雇う

 しかし、求人を出した翌日、夕方頃に一人目の冒険者がやってきた。

「あの、こちらが『ハルちゃん』の面接会場でしょうか?」


 衣服からして僧侶であるとすぐにわかる女性冒険者だ。こけしみたいなおかっぱ頭なのは宗教的な戒律によるものだ。僧侶は長い髪を認められていない。刃物も持てないので、代わりに魔法陣を描いたりするのが目的じゃなく殴打用と思われるゴツい杖を持っている。


「仕事に興味を持ってやってまいりました。レベル22の僧侶、ココンと申しま――わっ!」

 ハルナはすぐにココンという冒険者の手をつかんだ。


「せやで。うれしいわ~! おおきにな! 猫の手も借りたいところやったんやわ!」

「ええと、志望動機は接客業を通じて、僧侶としてのスキルアップを図るために――」


「お金はいくらほしいん? 何か買いたいものあるん? そういうかっこつけた理由いらんよ。もっとわかりやすく言ってくれたほうがええから!」

 ものすごくあけすけにハルナが尋ねる。


「えっ? これ、すでに面接はじまってるんですか……? 高位の儀式で使う道具一式が高価なんで、お金を稼ぎたいなと……。ただ、こっちでパーティー組むのも面倒で……」

「よっしゃ! 細かい条件は一回書面にするから待っといてな」

 こうして、最初の店員が採用された。



 そのあと、次第に店員の数は増え、ハルナを入れて従業員の数が八人になったところで、『ハルちゃん』は二十四時間営業に移行した。夜の当番は二人で勤務に当たって、交代に仮眠する形をとる。


 つまり、事実上のダンジョン内宿泊施設の誕生である。

 このサービスは本格的にダンジョン深部を攻略しようとする冒険者には高い評価で迎えられたのだった。



『ハルちゃん』が二十四時間営業となってから、三週間が経ったある日。

 その日、ハルナは休日で、宿屋のベッドでぐっすり快眠していた。


「ふあ~あ。朝十時ぐらいまで寝たったわ」

 雇った店員たちも慣れてきて、彼らで店をまわすことができるようになってきた。とくにココンはてきぱきと働いて、ハルナに次ぐ看板娘となっている。


 ハルナのキャラと比べると、ココンは徹底して事務的だった。僧侶に必要なのは公明正大なところなので、とにかくどんな客が来ようと平等の対応をした。


「そのラスクと傷薬ですね。お代は銅貨八枚です。まけてほしい? ダメです。定価をお支払いください。その代わり、どんなイケメンのお客様が来ても同じ値段を請求しますから! こちらを褒めても無駄です。神は虚飾を愛しませんから」


 最初、つっけんどんな感じでハルナも少し不安だったが、こういう冷たいキャラを好きな冒険者もそれなりにいたらしく、そっちの需要にこたえていた。昨日は夜番だったので、そろそろ出勤してきた店員と入れ替わりで地上に戻ってきているだろう。


 天気も良かったので、その日、ハルナはオールサックの市場をぶらつくことにした。

「まあ、黒門くろもん市場ほどやないけど、それなりににぎわってんな」

 黒門市場は大阪の代表的な市場で、現在は外国人観光客が押し寄せている。


 街道が通っているだけあって、オールサックの市場は品数はかなりのものだった。


 まず、サラミ、ソーセージ、ハムなどの肉の加工品。

 チーズもずいぶんといろんな種類のものが置いてある。

 オイルや香辛料、植物などを混ぜたソースを売っている店もある。


、いろんな種類の肉が吊るしてある店があったが、値段はがいして高い。こういうのは金持ち用の食べ物だ。

 金持ちは日本でも一般的ないろんな肉のほかに、小麦から作ったパスタ的なものを食べているのが常だった。これは麺的なものではなく、マカロニ的な短く小さく切ったもののほうだ。麺類は普及していない。


 一方で、貧乏人はアワやヒエなどの穀物をお粥状にして食べている。お粥状にするのは腹がふくれやすくするためだ。


 庶民でも多少生活にゆとりがあればパスタや肉を買うことができるが、本当に貧乏だとパンがやっとという有様だった。パンだけは最低価格が定めれているのだ。


 明らかに痩せている庶民たちとすれ違うことも多い。

 そんな庶民たちもハルナを見つけると声をかけてくれる。


 美少女がダンジョンで働いているという話を町で知らない者はもういない。

 というか、ハルナ自体が「おっちゃん、昨日よりかっこええでー!」「お嬢ちゃん、何歳? 三歳か~。じゃあ、飴ちゃん三個あげるわ~」みたいなノリで片っ端から知らない人に話しかけまくっていた。


 町の金持ちたちも夕食にハルナを招くのがステータスになっていた。

 それなりに収入自体はあるし、元がオバチャンとはいえ女性だから、男の冒険者みたいに土に汚れていたりもしない。


 それに今のハルナには、異国の地出身であるがゆえの、エキゾチックさとでもいうものがあった。見た目はこの国の人間であるはずなのに、大阪っぽさが残っているのだ。それも独特の力になっていた。


 ハルナとしても食べるのは大好きなので、積極的に金持ちの家に出向いていって、いろんなものを賞味する。


「このワインおいしいわ~。でも、ミックスジュースもほしいなあ。ああ、ミックスジュースっていうんは、いろんな果物をしぼったもんでな……」

「肉は臭みが残ってるけど、これはこれで悪くないなあ。ホルモンみたいなんも食べるんやな」

「ハーブはむしろ日本より多い気がするわ。日本でハーブハーブ言うてるのは、なんか調子乗ってる感じしたんやけど、こっちは自然やわ」


 そういう会話が金持ちには面白かったらしい。ハルナは思ったことを言ってるだけだ。なお、ミックスジュースの影響力が大阪は強い。


 そんな会食の中、よくハルナは「これだけのもんを、もっとたくさんの人が食べられたらええんやけどな」とこぼして、町の有力者を苦笑させたり、「ハルナさんは慈悲の心をお持ちですね」と感心されたりするのが常だった。


 よい食材はある。が、出回る範囲が狭い。それが庶民のところにまでいかない。日本と比べるとそこが違う。


「もっと、みんなに健康にええもんを食べさせることってできへんのやろか」


 ハルナはヒョウの顔が描いた服で歩きながら、考えた。高価な装備を買えるだけの金もあるし、一部の装備はグレードアップしているが、アニマル要素はいまだに残っている。


 ハルナは野菜を売っているところに通りかかった。

 野菜もそれなりに数がある。品種改良が進んでないのか、全体的に小さいが。


「ああ、これはキャベツやな。ちょっとこぶりやけど――――あれっ?」


 その時、ハルナの中に電撃が走った。


「そうや、別に大阪にあったもんをここで作ることはできるやん。それやったら、安うておいしいもん、ようさん用意できるわ!」


リニューアル前はいなかった新キャラをちょこんと出しました。次回は夕方以降に更新します!

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