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異世界お好み焼きチェーン ~大阪のオバチャン、美少女剣士に転生して、お好み焼き布教!~【改題しました】  作者: 森田季節
2章 大阪のオバチャン、お好み焼きを広める

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5 『冒険者のデパート ハルちゃん』

 ハルナは早速、町に戻ると、日持ちする食料品や回復用の薬草などを大量に買い集めた。

 その時点で資金は金貨六百枚はあった。日本円で三千万円だ。買い付けに問題はなかった。


「あとは店舗やな。木を持ってきて建てるより掘ったほうが早いな」

 ハルナはツルハシを購入すると、地下十三層に行き、猛烈に壁を掘った。


「そりゃ! そりゃ! ていっ!」

 レベル84なのでサクサク掘れる。二日ほどで十二畳分ほどの空間ができた。

「家賃いるんかな。まあ、誰の土地でもないからタダやろ」


 そこにテーブルなどを並べる。

 これは冒険者を雇って、荷物運びをやらせた。

 そして、天井に釘を打ちつけ、そこから看板を掲げる。


『冒険者のデパート ハルちゃん』の誕生である。


 所在地は地下十三層。

 そこそこの冒険者がちょっと無理をしてやってくるような階層だ。

 商品として、食料品や回復アイテムを並べた。


 さらに店の後ろではお茶を飲んで横になれるスペースも設けた。いわゆるお茶の木はこの世界にはなかったが、薬草茶は古くから飲まれている。お茶はハルナが炎の魔法を使えるので、それで水を沸騰させればよかった。水を運ぶのも面倒だが、そこはしょうがない。


「さあ、いらっしゃい、いらっしゃい! 疲れてる人は休んでいってや~! タダで休憩させたげるよ~! 薬草は銅貨五枚、パンやラスクは銅貨三枚、水も銅貨三枚や~! 買ってくれた人には飴ちゃんあげるで~!」

 ハルナの大きな声はダンジョンで共鳴して、十三層だけでなく、十二層や十四層まで響いたという。



 需要はものすごくあった。


 二日後にはオールサックの町に逗留している冒険者で知らない者はいないぐらいだった。

 ハルナ自身もおおわらわで次から次へと来る客の対応に当たっていた。


「なんや、こんなに人が来るんやったら、誰かやっとったらええのに……」

 まず、単純に半死半生で戻ってきた冒険者が懸け込み寺的に入ってくる。

 このあたりの階層からモンスターが強くなり、冒険者も命懸けなのだ。


 ハルナも何度か「危なかった……。助かった」なんて客の声を聞いた。死亡率低下に貢献しているらしい。


 また軽装で挑みたい戦士などにとっても、食事の荷物を軽減できる。

 荷物が減れば疲労も減る。一瞬の判断のミスが命取りになる冒険者にとってはありがたい場所なのだ。


 当時、携帯用に好まれた食品はラスクだ。古いパンを焼いたものを持っていき、腹が減った時にかじる。だが、砂糖が高級品のため、油につけて塩をまぶしたようなものが大半だった。


 しかし、『ハルちゃん』はそこでももっと上を行っていた。

「おお、このラスク、甘いぞ!」

 ラスクを購入した冒険者が思わず声を上げる。


「あんた、モグリだな。ここは甘いラスクが有名なんだぜ」

 開店して数日の間に、もう常連っぽい空気を出している人間がいるぐらいにはヘビーユーザーが生まれていた。


 別にハルナが砂糖の貿易に手を出したわけではない。飴ちゃんはカバンから無尽蔵に出てくるので、これを溶かしてパンにひたしたのだ。甘味が貴重な世界なのだから、これも爆発的に売れた。


 また溶かした飴は、水を加えて熱して飴湯としても販売した。

 これは、今でも関西の寺などで供しているところがある。とろんとしたやさしい甘さの飲み物だ。今の子供はあまり飲まないかもしれないが、甘味が少ない世界ではこれもありがたがられた。


 ほかに店では塩昆布も販売されている。

 最初は海藻を食べる文化がない世界だったため、受け入れられるのに時間がかかったが、ほどよい塩気が英気を養うということで、薬代わりに求める冒険者たちも増えてきた。


 また、ハルナの女性目線が役にも立った。


 夕方頃、その日五人目の女性冒険者が恥ずかしげにやってきた。

 ダンジョンは男社会なので、女性は珍しい。


「あの、すいません……」

「ああ、そこの通路を行って奥や。今は誰も入ってへんから、ゆっくりしていき」

 店の奥には小さな通路をいった先にトイレが用意されている。


 一般に、ダンジョンにトイレなどはない。敵がいない間に通路で用を足すのが当たり前だった。これは女子にはつらい。


 そのトイレがある『ハルちゃん』は女性冒険者にとって、それはそれは大切な存在になった。さすがに水洗式ではないが、炎の魔法で定期的にハルナが焼き切って、臭いがたまるのを防いでいる。


 そんなわけで、『冒険者のデパート ハルちゃん』はすぐに冒険者にとってなくてはならないものになった。食糧の調達場所として、休憩施設として。それはダンジョン探索に革命を起こしたと言ってもいい。


 けれども、そこまで評判になったのはなによりもハルナの人柄のおかげだ。


「あんた、眠そうやな。ちょっと寝ていき。ほら、毛布な」

 疲労の目立つ者にはタオルケットをかけて、そのまま何時間でも寝かせてやる。


「目、覚めたんか。これ、サービスのオレンジや。食っていき」

 お代もとらずに商品を渡すことも珍しくなかった。


 大阪のオバチャンは日本のオバチャンの平均よりおせっかい率が高い。ハルナも前世では、道を尋ねられたら、買い物を中断して目的地まで連れていっていた。


 時として鬱陶しいこの人なつっこさだが、今のハルナは文句なしに美少女なのだ。以前のデメリット部分が消失しているのだ。


 女っけのないダンジョンで、ハルナに癒されにくる冒険者が集まるのはごく当たり前なことだった。仮に男の冒険者が同じ品揃えで店を出しても、まったく勝負にならないだろう。むしろ、ダンジョン攻略ではなく、ハルナに会いに来るのが目的の冒険者が増えていた。


 実際、開店して一週間でハルナは3回求婚された。

「ハルナちゃん! 俺と一緒に世界のダンジョンをまわろう!」

「ごめんな、お兄ちゃん、うち、もうちょっと商売に気合入れたいねん」


 毎回断ったハルナだったが、本人は求婚されてかなり喜んでいた。

 どれぐらい喜んでいたかというと、その日、宿に帰るたびにおかみさんのマーサに「今日もプロポーズされたわ!」と報告していたぐらいである。


6月にアース・スターさんより発売します。よろしくお願いします!

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