45 大阪のオバチャン、燕の魔王と戦う
常連だった兜の男に案内されて、ハルナとナタリアは魔王の城にやってきた。
その広間で魔王とハルナは初めて相対する。
魔王は見た目の年齢だけならハルナと大差ないものに見えた。闇そのものといった黒い髪をしている。その背中には魔族らしい翼が生えているが、いわゆる悪魔的な翼ではなく鳥類のそれだ。ただし、色は髪同様に漆黒と言っていいものだが。
「お初にお目にかかります。第三十五代魔王の『黒燕のスゥー・ワルロー』です」
「なるほどな。今度はスワローと戦ってことやな。わかりやすうてええわ」
「これまで感覚で行われていた統治システムを徹底したデータ形式のものに切り替えるべく、作業を行っております」
「ID野球みたいなもんやな」
ナタリアは面倒なのでもうツッコミも入れなかった。
「すでに話はついているかと思います。ここで純粋な一対一の戦闘をして、勝ち負けを決めます」
周囲に、さっと魔族の神官に当たる者たちが現れる。みんな、覆面をしているので顔はわからないが尻尾が生えている者が多い。
「勝負が終わった時点で、ケガはすべて回復させます。仮に死亡することがあっても、それも絶対に生き返らせます。厳密にはあなたの場合はアンデッドになってしまいますが、とにかく生き返らせるだけ生き返らせるという条件ですので」
「せやな。王国もうちが恋しいらしいわ」
王国としては、ハルナという戦力を失わずにすむなら悪い話ではないということで、必ず回復させるということを条件に許可を出したのだ。
「それでは、はじめさせていただきましょうか。どうか、よい戦いができますように!」
「せなや! フェアプレーは大事やからな!」
まず、猛烈な速度で魔王スゥー・ワルローが突っ込んでくる!
その手にはこれまた閉じた漆黒の傘が握られている。
「この傘の攻撃力はあらゆる武器に勝ります!」
ハルナも剣でその傘を防ごうとした。
しかし、その前に傘の一撃を腕に受けた。
「あっ! こんなに速いんか!」
ハルナもびっくりした。まさか、自分が攻撃を受けるとは思っていなかったのだ。
「だ、大丈夫なの!?」
ナタリアが叫ぶ。ハルナがやられる姿など一度も見たことがなかった。
「いや、すぐやられるほどのことはないけど、びっくりしたわ」
攻撃を受けたものの、一度ハルナは距離をとる。
「わたくしの攻撃を受けて、平然としているとは……」
魔王スゥー・ワルローのほうも驚いていた。かなりの打撃を与えたはずなのに、ダメージというほどのことになっていない。
「まあ、いいです。このまま押していけば、いつかは壁も破れます!」
また傘を持って、魔王は突っ込んでくる。また、剣での防御を回避されて、ハルナは腕をバシーンッ! と叩かれる。
「つっ……。やっぱり、速いなあ……。鳥類と戦ってる感じがあるわ。こりゃ、どうにか対処法考えんとな……」
「だから、なんでタンスの角に足ぶつけたぐらいの痛がり方なんですか!」
「はぁ? タンスの角に足ぶつけた時のほうが痛いやろ」
ハルナは真顔なので、魔王スゥー・ワルローの表情が険しくなる。
「ふざけないでくださいっ!」
さらに魔王は速度を上げる。徹底して、攻撃を仕掛けてくるらしい。
「なんなんや。全然、攻撃魔法使ってけえへんやん」
「あなたの能力で考えると打撃のほうが倒すのが早いんです! 魔法のダメージは強すぎる敵には知れていますからね!」
昔のRPGみたいなことを魔王は言った。剣士キャラなどがレベルを上げすぎると、魔法などよりはるかに強烈な一撃を与えることができるのだ。
「なるほどな。まあ、でもわかるわ。うちも炎出せるけど、出す気せえへんしな」
倒すとしたらやっぱり剣を使うべきだ。なにせ、剣士なのだし。
かといって、速すぎる相手に攻撃を与えないといけないので、その策は考えないといけない。
「さてと、紅ショウガ出しても攻撃しようがないし……温泉出してもしょうがないし……じゃあ、あれぐらいしかないか」
作戦は出せた。あとはタイミングよく使うだけだ。
「そろそろ、クリティカルヒットが出る頃じゃないですかね!」
また、正面から魔王が突っ込んでくる。
もう、とことん素早さで戦うつもりらしい。
しかし、ハルナもそろそろ反撃に出るつもりでいた。
「全体重をかけて激突してやりますっ!」
その様子をハルナははっきりと睨みつけている。
「喰らえやっ! 風魔法の六甲おろしっ!」
暴風がハルナのほうから魔王に向かって叩きつけられる。
この世界最強の風魔法と言って差し支えないハルナ専用の魔法だ。
「うわああっ! 何ですか、これは!」
魔王の飛行速度が落ちる。向かい風に真正面から突っ込む形になったからだ。
「よっしゃ! へろへろ球になってるやんかい!」
急速に勢いが落ちた魔王に対して、ハルナは剣をバットみたいに握り締めて待っている。
しかし、すぐには攻めない。
とことんまで引きつける!
「いてもうたるわっ!」
思わずナタリアも両手をメガホンみたいに口の前に出して、叫ぶ。
「かっとばしちゃいなさい、ハルナ!」
内角高めいっぱいに、ハルナは振りぬく。もちろんはらの部分で。
この剣は斬るのではなく、叩くためにあるものなのだ。
「ジャストミートやっ!」
胸に強烈な一撃を喰らった魔王スゥー・ワルローはライナー性の当たりのように、壁に一直線に激突した。
それから、ふらふらと床に落下する。どうにか手を挙げて、
「ま、参りました……」
と言うのがやっとだった。
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