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42 元従業員との再会

 旧都ハワーには王都から馬車で向かう。

 王都もそこを抜けると田園風景になる。

「のんびりした風景が続いてるなあ」


 こちらの世界では都市部の外側はほとんど人が住んでいない。

 といっても、どこまでも家が立ち並んでいる日本のほうが変わっているのかもしれない。

 たとえば、東京から郊外に行く電車に乗った外国人が「家が途切れないのでずっと東京が続いてるように感じた」と語ったなんて話もある。


「ここもそうやけど、旧都はもっとのんびりしているんとちゃいますか」

 景色には興味はないのか、カレンは馬車の中でハルナに寄り添っている。三人乗りの真ん中にハルナがいた。


「そんなにくっつかんでもええやろ」

「いけずなこと言わんといてやあ」

 ナタリアがその様子を横から複雑な心境で見つめていた。自分もハルナにもたれかかることはできるが、そういうキャラではないので正面を向いている。


「わたし、出歩くんは危ないって言われとって、なかなか外出許可も出えへんかったんですわ。でもハルナはんとやったらええって言われましてん」

 ドラゴンを倒した女なのだから当然と言えば当然だろう。


「せやから、これからもハルナはんといろんんところ行けたらええなって」

「そ、それはダメよ!」

 あわててナタリアが言った。


「なんで、あんたが言うんや?」

 カレンがジト目でナタリアを見た。

「だ、だって……旅行っていうのはたまにあるからいいものなのよ……。そんなしょっちゅうやるべきものじゃないの……」


「そんなん、わたしの勝手なんとちゃいますの?」

「そこにハルナが入ってくるなら、あなただけの問題じゃないでしょ! ハルナには社長業もあるんだから無理よ! 副社長としてそう言わせてもらいます」


「わたしかて、味噌も醤油も作ってるのに」

「なんで、ケンカしてんねん、自分ら……。ほら、仲直りしい!」

 ハルナが両腕で、それぞれカレンとナタリアの首を抱えた。


 ちょうどハルナの胸の前で二人の顔がひっつく。それで、カレンのほうは少なくとも脱力してしまった。

「はぁ……私、変なところで悩んでるのかしら……」


「わたしはまだ諦めまへんからなあ……」

 そうこうしているうちに馬車は旧都ハワーについた。



「奈良いうかギリシャみたいな感じやな」

 ハルナは神殿の廃墟を歩いていく。天井もなくなって、柱などが寂しく突っ立っている。石造りだからこその風景だろう。日本は寺も神社も木造建築が基本だから、こういう遺跡はほぼ存在しない。


「現役の神殿もありますけどなあ。このへんは廃墟のエリアですなあ。かつては豪族ごとにこういう神殿を建てたと言いますわ」

「ああ、氏寺みたいなもんやな。やっぱり奈良やわ」


「ああ、そうや、これを持ってるとええですわ」

 カレンが出してきたのは円形の薄いクッキーだ。


「なんや、お菓子か?」

「わたしら用のものではありませんけどな」

 てとてと、何かがハルナのほうに近寄ってくる。ただ、殺意のようなものはなくて、もっと呑気だ。


「あっ、シカだわ!」

 ナタリアが陽気な声をあげた。都市部では見ない動物だから物珍しいらしい。

 シカがどこにそんなにいたのかというほどに集まってくる。


「そのシカ用のお菓子を食べにやってくるんやわあ」

 シカはクッキーに鼻を近づけてくる。

「ほんまに奈良公園そのものやな」


「ナラ公園?」

「そういうシカがたくさんおる公園があるんや。ちなみに奈良のシカは神の使いやから大切にされとる。宮島のシカとは偉さが違う。宮島の奴はただの島民やからな。たまに島から泳いで本州のほうやってきて強制送還されとるし」


「そういえば、このへんで信仰されてる神も、シカを使役しとったっていう伝説がありますなあ」


 かつては奈良公園の木陰でのんびりパンを食べていたら、いつのまにか無言のシカたちに囲まれているということも多かった。子供があれを経験すると、軽いトラウマになる。


 だが、最近では外国人観光客が増えたせいか、シカがおなかいっぱいでシカせんべいを食べてくれないという事態も起きている。座っているシカの前にシカせんべいが置かれているので、お供えにしか見えない。


 そのあたりでしばらくの間、シカにクッキーをあげながら遊んでいた。

 結果的にナタリアが一番楽しんでいた。

「私、シカが棲んでる山に行った経験もなくて、すごく楽しいわ!」


「うちは、まあまあ慣れてるから、これといった感慨はないなあ」

 カレンはあてがはずれたらしく、ぐぬぬ……といった顔をしていた。

「ハルナはん、あっちに現役の巨大な神殿がありますさかい、そっちも行きましょか」


 カレンに手をとられて、ハルナはそっちのほうに歩いていく。ナタリアはシカを愛でるのに忙しいらしく、気づいていない。

「なんや、今度は奈良の大仏かいな。あれやろ、その神殿にはものすごい大きな神像でもあるんやろ」


「あれ、ようご存じですなあ。この国最大級の神像があるんですわ」

 やっぱり奈良っぽいぞとハルナは思った。

「でも、この世界の大仏やとしたら、なんや動いたりしそうやな」


 廃墟からしばらく進んでいくと、たしかに生きている町のほうに出た。神官たちがぞろぞろ歩いているし、観光客用らしい店舗もいくつか並んでいる。


 その奥にこの世界でこれまで見た中でも最大級の石造りの建物がある。個人が作れる規模ではないから、王城か宗教建築かのどちらかといったところだ。


 神殿に近づくに連れて、ハルナは神殿の意匠に特徴があるのに気づいた。

「なんか魚が書いてあるな。これ、鯉か……?」


「ああ、ハルナはん、意外と博識なんやなあ。ここの神様は鯉に乗ってこのあたりのため池にやってきたって言われてるんや。せやから鯉も神の使いなんやわ」

「ほんまに鯉と関りがあるんか……」


「ベーンテーンと言う女神様で、芸事や商売にご利益があるってことで、長らく信仰されてはるんや」

「弁天!? 厳島神社の弁財天か!? なんか嫌な予感がするな……」


 ハルナは思わず身構えた。たんなる偶然だろうか? ここは島でもなんでもない内陸部だし、最初は奈良っぽいと思っていたが、どうも広島っぽいものが多い気がするのだ。


 ちなみに弁財天は本来、インド由来の女神で、厳島神社で祀っている日本神話の神とは別物のはずである。しかし、長らく弁財天と日本神話の女神は一緒くたにされており、その状態は明治初期の神仏分離後も根強く残っている。


「戦いにならんかったらええんやけどな。もっとも、うちはやる時はやるで」

「嫌やわ。神殿で戦うなんてことになるわけないわ」

 冗談だと思い込んでいるカレンと一緒に神殿の中に入る。隅っこの入口で拝観料を支払って、僧侶に案内してもらいながら、解説を聞くらしい。


 だが、そこで意外な再会があった。

「あれ! 店長! ハルナさんじゃないですか!」


「ココン、なんでここにおるんよ! あっ、そうか、ここの宗派の僧侶やってんな……」

 ココンはハルナのもとで働いた冒険者第一号で、その後、パーティーを組んで、冒険に復帰していた。


「はい、あれから紆余曲折ありまして、この神殿でおつとめをさせていただいています。これも何かの縁ですし、ベーンテーン様のご説明をさせてください」


 神殿の中にはミロのヴィーナスみたいな巨大な女神像が設置されていた。

 手に持っているのは皿だろうか。手にアイテムを持っていることが多いのは西洋の絵画も仏像も共通しているが、ここもそれに近い。


「サイズ的に神像が先にあって、その周辺に覆いみたいな建物作ったっていうほうが正しいなあ。このサイズやと中に入らんやろ」


「そのとおりです。ですから、この神殿はまさにベーンテーン様をお祀りするハコですね。ちなみに昔はさらに大きかったらしいです」


「そこは奈良と同じやな。けどなあ、あの皿の中身もなんか違和感あるんよなあ……」

 奈良の大仏殿も戦火で焼けたりして作りなおしているが、その時に横幅はちょっと縮小されている。


「あのお皿の上には人間の欲望の数だけのヒモが載っていると教義ではなっていますね。そレを全部実現させるほどの力をベーンテーン様はお持ちなのです」


「ヒモ? いや、あれ、麺とちゃうかな……」

「麺ですか? まさか。そんな信仰は異端のものですよ。というか、店長、神殿の中で茶化すのはやめてくださいね……」


「いや、うちは本気なんやけどな。あの皿の上のやつ、広島焼きっぽいフォルムに見えるんや……」

 ――と奇妙なことが起こった。


『娘よ、この声が聞こえるか』

 どこからか、頭に大きく響くような声がする。

「なんや、いったい誰やねん!?」


『私はこの神像にして、この神殿に祀られているベーンテーンである』


熱出て、夜中に突然吐きまくってて、人生初の救急車に乗ったのですが、無事に回復しました。風邪がはやっているのはガチらしいので、皆さんお気を付けください! ノドが痛かったら今はやってる風邪です!

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