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41 旧都へ行こう

『ハルちゃん』グループの進撃は快調に続いている。

 王都近辺のダンジョンなどにオープンしたダンジョン型店舗は、幸先いい売り上げを記録していた。冒険者のニーズはたしかにあったのだ。


 これを目のあたりにしていた商人たちは悔しがったという。

 おそらく、彼らもダンジョンに店をかまえれば儲かるかもと思ったことは一度ぐらいあっただろう。しかし、実行に移せなかったのだ。


 だいたい、冒険者の経験がないとどこに店を開くべきかもよくわからない。


 それに、ダンジョンの店舗で雇えるのはそれなりの深さでもやっていける強さを持った冒険者だが、そもそも実力ある冒険者なら雇われて働く必要はない。

 商人に使われるという立場からして嫌がる冒険者は多いから、人が集まらない。


 その点、ハルナは冒険者として一流だったから、多くの冒険者がその下で働こうとしてくれた。商人の金儲けではなく、冒険者による冒険者のための利便性向上運動だととらえてくれる者も多かった。


 まさに立場からして恵まれていたハルナにしかできないことだった。

 もちろん町のほうの店舗も増えている。


 まず王都に各種コナモンフードの店ができている。お好み焼き三店舗、ボール焼き三店舗、うどん二店舗、餃子二店舗、豚まん二店舗と合計十二店舗が王都で客を集めている。近隣の町にもどんどん出店しているので、数はさらに増加傾向にある。


 あまりにも増えすぎたので、王都地区用の管理センターまで作った。信用のおける人間をヤコマイー家から紹介してもらって働かせている。


 全国の従業員はアルバイトも含めると、六百人にのぼる。扱いとしてはハルナが社長で、ナタリアが副社長という形になっている。


 当然、ナタリアの下にもたくさんの部下がいるわけだが、ナタリア様とか副社長と呼ばれて、落ち着かないのが目下の悩みだ。

「人生って変わるものね……」


 最近では、ナタリアは給料もとくに気にしていない。お金に困る生活は遠い昔のことになった。もう、冒険者として戦うのは、ダンジョン型店舗の視察などに入る時だけだ。


 そんなナタリアとともに、その日、ハルナは王都の管理センターに来ていた。ドラゴンで移動できるので、王都に行くのは大阪から東京に新幹線で日帰り出張する感覚でできる。


「この世界のどっかに唐辛子ないんかなあ。あったらキムチができるんやけどなあ。でも、発酵食品やからみんな抵抗あるんかな」

「何なのよ、キムチって?」


「あと、ジャガイモもどっかにないんかな。お好み焼きにじゃがいも入れるバージョンも場所によってはあるはずやねん。高砂たかさごのあたりで『にくてん』って名前でやっとった気がするわ」


『にくてん』とはお好み焼きに似た料理の名前で、現在では兵庫県高砂市あたりのものが有名だ。

「タカサゴってどこ?」


 ナタリアがわかるかどうか気にせず言葉を使うハルナだった。そういう気づかいは昔からない。

「うちもあんまり行ったことないけど、たしか、姫路のちょっと東」


「だからヒメジってどこよ!」

 ドアがこんこんノックされる。

 入ってきたのはカレンだった。

「今日もええ天気どすなあ。琵琶湖の水、干上がるんちゃうかって心配になりますわ。はい、これは差し入れですわあ」


 クッキーの入った箱をカレンが置く。

「ああ、ありがたくいただくわ」

 カレンは割とよく訪ねてくるので、そう珍しくはない。


 クッキーは砂糖が大量にまぶしてある。砂糖は貴重品なので高級品のはずだ。ハルナは早速食べる。

「今日はお誘いがあって来たんですわあ」


「それ、本当に行ったらあとで嫌な顔されるパターンか?」

 カレンの言葉はひとまず額面どおりには受け取らないことにしているハルナだった。

「違いますぅ! 自分から誘いに来た場合は問題ないですわ!」


 カレンのほうもわざわざ警戒されていて、けっこう苛立っている。元京都人の宿命だろう。

「一緒に遠足行きましょ」

「遠足?」

「王都の南に旧都ハワーという町があるんですわ。遺跡がたくさんありますんや」

「あんまこっちの地理、詳しく知らんねん。ナタリア教えてや」


 ナタリアが表面上は面倒くさそうな顔をしつつ、ちゃんと教えてくれた。

「旧都ハワーは四百年前まで一つ前の王朝があった町よ。昔は神殿がいくつも建ってたけど、今は一部の神殿を残して、大半が荒れて廃墟みたいになってるわ。でも、その廃墟を見るのが面白いって層もいるの。もちろん残ってる神殿を見に来る人も多いわよ」


「ふうん。それ、モンスターが出てきたりするんとちゃうんか? うちらはええけど、カレンが危ないやろ」

「大丈夫よ。ハワーの町は小さくなってるけど今もあるし、出没するとしても野生のシカぐらい」


「なんや、ただの奈良やん」

「ナラって何よ……」

「行ってもええけど、奈良なんて何もないんとちゃうか?」


 大阪の人間は奈良をやけに下に見ている。


 多分、これにはいくつか理由がある。まずあまり知られていないが、奈良県は明治時代の一時期、大阪の一部に併合されていたことがあるのだ。

 経済的には当然、大阪のほうが立場が上だったし、同じ県の中で、大阪が主、奈良が従という関係にあった時期がある。


 また、奈良県はあまり大きな都市がなく、大企業もそんなにないので、大阪に働きに出ている人間が多い。あと、大阪の市街地と比べれば、奈良県のほうが郊外に感じられる。


 なお、似た理由で大阪は和歌山も下に見ていることが多い。

「たしかに旧都なんて人よりシカのほうが多いようなところですけど、人がおらへんぶん、のんびりできますんや」


 ちなみに京都人も歴史の古さでは負けてるはずなのに奈良を雑に扱う傾向がある。

 だいたい、現代における人口規模でこのあたりのヒエラルキーは決まるらしい。人口が多いことは、イコールで栄えていることになるからだ。


「というわけで、ハルナはん、旧都どうやろ? ほら、息抜きもたまにはしたほうがええですわあ」

「息抜きか、それもそうやな。久しぶりに奈良でも行こか」

「ナラではなくハワーよ……」


「うれしいわあ! 馬車、用意しますわあ!」

 ナタリアはこれ、放っておいたら、自分が含まれてないってことになるなと思った。

「ヤコマイー家のお嬢様、私も参加してよいですか?」


 ナタリアが手を挙げた。

 カレンが露骨に嫌そうな顔になった気がしたが、すぐにまた笑みに戻った。応対自体はスマイルでやるらしい。


「そうやなあ、たしか馬車が二人乗りやった気がしたんやけど、頑張ったら三人乗れるんとちゃうかなあ」

「じゃあ、私も参加します」

 こうして三人で旧都に遠足に行くことになった。


前回、二つ前の活動報告で挿絵を4枚ほどアップしております。かわいい大阪のオバチャン、ハルナをよろしくお願いいたします! 6月15日、アース・スターノベルさんより発売です!

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