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40 豚まん作成

「ぶたまん?」

 当然、ナタリアは聞き覚えがない。


「そうや。肉まんではなく、あえて豚まんって名前でいかせてもらうで」

「いや、名前のこだわりはどうでもいいんだけど……」


 関西では肉まんのことを豚まんと呼ぶ。

 一説によると関西では昔から「肉」というと主に牛肉を指していたから、牛が入っていると思われないように、豚まんとあえて呼んだからなどと言われている。


「豚まんは関西が本場やと言ってええからなあ。大阪に有名なチェーン店があるし、あと、神戸にもいくつも老舗があるわ。発祥とされてる店もある」


「コウベ? その地名、ちょくちょくあなたの口から出てる気がするわ」

 神戸は貿易港だったので、とくに福建省あたりからの華僑も多く住んでいた。今でも観光地として南京町という中華街がある。


 そのため豚まんの有名店もいくつもあるわけだ。手のひらに収まるようなミニサイズの店から、コンビニのものよりひとまわり大きいメロンパンみたいなサイズのものまでいろいろだ。


「それも小麦粉で作れるの?」

「皮はそうやな。ふっくらさせやすい粉のほうがええんやけど、王都にはそういう粉もちゃんと売ってたわ。分厚い皮の中に豚肉とタマネギを混ぜた具を入れてる」


「なんか、餃子に似てるわね」

「でも、味は全然違うからおもろいねん。餃子はおやつにならへんけど、豚まんはおやつ代わりにもなるからなあ。なにせ、あんこ入れたらあんまんになるぐらいやし。まあ、あんこはないから作れんけど」


 豚まんは味のバリエーションも広いので、味付けが濃くていかにも食事というものから、ちょっと甘めのおやつでもいけそうなタイプのものまである。


「そうやな、どうせやったら甘い系のやつを作ろか」

 そう言うと、早速制作に乗り出すハルナ。

 基本的に即断即決である。


 ただ、ハルナも本格的に豚まんを作ったことはないので、見よう見まねというところはある。

 とくにあの皮を作るのが難しそうだ。もっちりしていて、食べごたえがある皮。


 あれを再現できるかどうかで豚まんのクオリティが決まる。

「まあ、失敗しても命とられるわけやないし、気楽にやろ」


 まずは皮作りである。

 水を入れてこねるが、粉の中に水飴なども入れて全体的に甘くしておく。


「ベーキングパウダーがほしいけど、売ってへんしな」

 それなりに混ぜて、分厚い皮を用意したら、これをしばらく放置する。


 多分だが、パン生地みたいになかば発酵してくれたほうがいいはずだ。

 肉は豚ミンチ。ここにタマネギ、アクセントでこりこりした食感のキノコも刻んで入れて、よく混ぜる。あと、こちらにも水飴を入れて甘さを出す。


「ふうん。やっぱり、餃子によく似てる気がする」

 ナタリアも作業の手を止めて、観察している。

「完成品はかなり違うから待っとき」


 相当分厚い皮に具を入れて、丸めていく。

 それを木製の蒸し器に入れていく。日本で使われているものとはかなり雰囲気も形状も違うが。


「こんなの、あったんだ……?」

「別に市場でも売ってるもんやで。飲食店やってるんやから調理器具はけっこうストックしとる」

「なるほどね。これで蒸していくということか」


 しかし、ここで問題が生じた。

「さて、できたかな~。あかん、ひっついとる! あつっ! あつっ!」


「どうしたの? なんか、やけに豚まんで格闘してるみたいだけど?」

「ナタリア、一個もらって! 味は多分大丈夫や!」

 ぽんとハルナが湯気のあがっている蒸し器からナタリアのほうに、豚まんを一つ投げる。


 キャッチしたナタリアの手にすぐに熱がまわる。

「あつっ! あつっっっ! なんで、こんなに熱々なのよ!」


 ナタリアはその豚まんを両手でお手玉する。とても持っていられない。

 豚まんが回転しているところでナタリアは原因に気づいた。

「これ、底が抜けてるじゃない! 具がはみ出そうになってるわよ!」


「そうなんや……。蒸し器の下のにべったりへばりつくんやわ……。店で買うたら薄い皮がついとったんはそのせいなんやな……」

 一方、ナタリアは肉汁がぼたぼた垂れている豚まんにかじりついている。


「うん、味は申し分ないわ! むしろ、あなたの料理の中で一番好きかも!」

 すぐにその顔は笑みに変わる。

「おやつみたいなようで、ごはんのようで、しかも食べごたえもあるわ!」


「豚まんは食べ歩きもできるフードやからな。旅行の気分を盛り上げてくれたりもするんや。とはいえ、まだ商品化はできへんけどな……

 何か手はないか。ハルナは思案に入る。


「破れてるんじゃ、どうしょうもない。肉汁も漏れてまうし……」

 下に何か敷けばいいわけだ。コンビニのだと、紙みたいなのが敷いていたが、この世界では紙も値段がかさむ。そんなことでコストを割高にしたくはない。


「草でも地上から抜いてくるかな……。それなら、タダやし」

「いくら加熱するとはいえ、わけわかんない草で蒸してほしくないわ。だいたい、草を抜くのが面倒よ」


 たしかに人件費をそんなところでかけたら、やっぱり値上げになってしまう。

 考えながら、底についた豚まんの皮をはがして食べる。

「うん、やっぱりここに味がしみておいしいわ」


「なんか、意地汚いわね……」

 冒険者といはいっても、行儀のいいナタリアが顔をしかめた。

「でも、売り物の豚まんもこうやってはがして食べるんが醍醐味なんやで。むしろ、底に価値があるとすら――――あっ!」


 ぱん! とハルナは両手を力強く合わせた。

「ナタリア、ありがとうな! 損せえへん方法思いついたわ!」


「私、何も言ってないと思うけど……」

「はがして食べられるもんやったらええねん! 早速、もう一品、試作したいからちょっと市場行ってくる!」



「豚まんあるよ~! あつあつ蒸したての豚まんや!」

 後日、豚まんが『ハルちゃん』の商品ラインナップに並んだ。


「それと醤油味の蒸し野菜もあるでー!」

 ちなみに、蒸し野菜と同時にだ。

 ハルナの解決策は下に食べられる葉物野菜を敷くというものだった。そう、蒸した野菜も商品として売ってしまえば、商品数が増えて一石二鳥である。


 底にまで価値を見出した節約志向の考え方だった。とはいえ――

「ねえ、豚まんに比べて野菜の出が悪いんだけど……」

 冒険者たちは当然のように豚まんのほうをよく購入するので、蒸し野菜が余ってくるのだ。


「そこは、ちょっと敷く量も考えるわ……。ひとまず、今日はナタリアも食べてや。カロリー低いからいくらでも入るやろ」

「げっ……」


 ナタリアは葉物野菜みたいな顔色になった。

 温泉の湯気と蒸し器の湯気が『ハルちゃん』にあがるなか、従業員たちは蒸し野菜をむしゃむしゃ食べる。


「健康にはいいかもしれないけど、なんか味気ないわね……」

 ナタリアは自分がウサギになったみたいだと思った。


最近、神戸では毎年豚まんサミットなるものをやっていて、神戸の有名店や各地の横浜とか長崎とかの中華街の豚まんなども食べられますので、よかったらサミット開催時に行ってみてください。

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