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4 大阪のオバチャン、ダンジョンを攻略しまくる

「これ、地下何層まであるんやろ。ハルカスずっと登ってるみたいな感覚やわ」

 天王寺の近くにある、あべのハルカスは、約三百メートルの高さがある商業ビルでは日本一高い建物である。


 そのまま地下三十層まで無傷で突っこんでいった。

 このあたりまで来ると、ほかの冒険者もいないので、ちょっと寂しい。


 なお、オールサックのダンジョンは地下五十層まであるという伝説があるものの、現状最深まで潜った記録は地下三十七層だと言われている。


 ほかのダンジョンと同じく、魔石になる可能性を秘めた石がモンスターに変じているという話だが、とにかくモンスターはダンジョン内で自然発生しているようだ。おかげで冒険者はだいたい地下のほどよい層でモンスター狩りを行って生活していた。


 気合いを入れれば、あっさりこれまでの到達記録を超えて、地下五十層にすら達しそうだったが、ハルナにそういう意識はとくになかった。


「どんだけ歩かせるねん。大阪から西九条ぐらいまで歩いた気分やわ」

 愚痴をこぼしつつ、ハルナはモンスターを狩り続けて、魔石を獲得する。


「なんかお金たまってる感覚あるわ。これ、悪い気持ちやないで」

 その日は三十層で引き返し、地上に戻った。



 ギルドで換金すると、金貨五十枚分にもなり、ルーファにも驚かれた。

「あの……これ、一日ダンジョンに潜っただけで、手に入ったんですか?」


 地下三十層ともなると、敵が落とす魔石もものすごく高品質である。その分、そこにとどまれる冒険者はほとんどいないから出回る量は少ない。


「せやけど、そんな多いん?」

 なお金貨一枚につき、日本円だと五万円ぐらいの価値がある。


「贅沢しなければ、これだけで一年暮らせますよ……」

「よっしゃ! テンション上がったわ!」


 これは儲かるぞとハルナははっきり認識した。



 ハルナはとことんやる気になってダンジョンに潜りまくった。深く潜ることもできたが、歩くのが面倒くさいということで、地下三十階層を根城にすることにした。


 あとはひたすらモンスターを「っていっ! っていっ!」と剣、および時々素手で叩いて倒す。どちらにしろ、叩くのが基本だ。敗れたモンスターが魔石に姿を変えたら、これを回収する。


 結局一週間で獲得した金貨は四百枚にものぼった。


「あ~、うちもセレブなれたわ~。そのうち、淡路島を別荘として購入したろ」

 ひとまず生活に困ることはなくなった。


 一度ひったくりに遭ったが、すぐに走って捕まえた。

「何してるんや! あんた、自分でちゃんと稼ぎ!」

 ハルナのステータスなら相手が自転車に乗っていようと走って追いつくぐらい朝飯前である。


 目撃していた通行人は「あの女冒険者、化け物だ……」「トラが走ってるみたいだったわ……」と驚愕していた。足に自信があるはずのひったくりがあっさり追いつかれたのだ。


 それ以降、ハルナから盗みを働こうとする不届き者は二度と出なかった。



 さて、生活に余裕ができたハルナだったが――

 そのおかげで自分の外側に目を向ける余裕ができてきた。


 自分は楽勝で地下三十層を根城にしているが、多くの冒険者はそうではないのだ。


 地下十五層ともなると青息吐息で、そこでアイテムがなくなり力尽きる者も少なくない。実際、そのあたりの階層で冒険者の死体を見ることも多い。


 大半は、装備品などは不自然になくなっている。死体の持っていた金品などは奪ってもよいというのがダンジョンのルールなのだ。冒険者の世界は徹底した弱肉強食だ。


「あれ、なんとかできへんのかな」

 ハルナは死体を見たりするたびに手を合わせて、こうつぶやく。


「まんまんちゃんあ~ん」

 関西の人間は南無阿弥陀仏をこう言うことがある。


 死体を地上まで運ぶのは極めて重労働なので、パーティーのうち一人が落命したなんてことでなければ、多くは野ざらしになるか、その階層のどん詰まりの部屋を墓地代わりにするのが常だった。


 死体を見て以降、ハルナは生きている冒険者には飴ちゃんをあげることにした。

 同じ仕事なのだから、これも何かの縁なのだ。


 飴は疲労回復に効果があるし、この世界では甘いもの自体が貴重なので、想像以上に喜ばれる。


「あなたがあの有名な飴配りの天使なのですね!」

 こんなふうに呼ばれるようになるのに時間はかからなかった。

「いや~、天使に見えるか~。わかる人にはわかるんやな~。大阪の男より見る目あるわ~。はい、黒飴ももう三つサービスな」


 ハルナは簡易次元操作の魔法が使えるため、カバンから飴ちゃんは無限に出てくるのだ。たまに酢昆布なども出てくる。


「あの、これ、少ないですが、どうか受け取っていただきたい……」

 地下十四層で出会った、その背の高い冒険者は銀貨を差し出してきた。


「いらんよ。こんなんでお金とるのケチくさいわ」

「いや、むしろもらってばかりだと、落ち着かないんだ。それに生きて帰らなければお金も無駄になってしまう。これは受け取ってくれ」


「そういうことなら、もらっとくわ」

「あなたに会えずに死んでいった者もいるはずだ。俺はあなたに会えて本当に運がよかった」


 たしかにハルナに出会えていたら死なずにすんだ者もいただろう。

 ダンジョンはそれなりに広い。冒険者同士で出会えるとは限らない。


「どうせやったら、たくさんの人の命を救いたいけどなあ……」

 その時、ハルナの頭に啓示が降りた。


「そうや! うちが同じ場所にずっとおったら、みんな会えるやん!」

「ん、何かひらめいたのか?」

「ダンジョンの中に店を開いたらええんや!」

明日も二回更新できればと思います、よろしくお願いいたします!

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