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30 ドラゴンを倒しに行く

 その日、ハルナとナタリアはヤコマイー家に泊まった。

 善は急げということで、明日、ドラゴン退治に向かう。さすがにもう少しゆっくりしていってはと当主も言ったが、ハルナは聞かなかった。


 ハルナは基本的にせっかちなのだ。

 大きな風呂――炎の魔法を使えば湯を沸かすのは割合簡単だ――に入って、今はハルナもナタリアも夜着に着替えている。夜着といっても貴族仕様の相当豪華なものだ。


 ナタリアは冒険者の性分で、これ売ったら金貨四枚分ぐらいにはなるぞなんてことを考えたりした。

 ナタリアはドラゴンの出る地域の地図を見ながら、やたらとため息をついている。


「まさか、ドラゴンを倒しに出かける日が来るなんて……」

 普通の冒険者はドラゴン退治など一生しない。


 ごく平均的な実力の柔道経験者がオリンピックで戦わないようなものである。

 ナタリア的にはまだドラゴンを倒すという展開が信じられないらしい。


「何なん、やたらと名古屋の地図見てるけど」

「ナゴヤってどこよ? ドラゴンが出てるのはバゼ高山よ!」


「いや、ドラゴンっていうと名古屋やで。ドラゴンズファンばっかりや」

「ドラゴンのファン? ドラゴンを神としてあがめてる人がたくさん住んでる都市なの? たしかに神に近い動物だからおかしくはないのかも」


 話はちっとも噛み合っていなかった。

「ところでこの世界のドラゴンってそんなに凶暴なんか? そんなんが暴れてたら、もっと怖いニュースが流れてきそうやけど」


 これまでこの世界で暮らしてきた感じだと、割と平和だというのがハルナの価値観だった。ダンジョンに入る冒険者はいるが、魔族と人間の軍隊の争いなんてものはほぼ聞かない。


「そうよね。ドラゴンはとても知能の高い動物で、モンスターでもないのよ。わざわざ無益な争いはしないはずなの。ということはドラゴンを怒らせるようなことがあったってことだろうけど、何なんだろ」


 まあ、それがわかれば苦労はしないのだが。

「行ってみて、聞いたらわかるやろ」


「はぁ……いや、あなたは無事かもしれないけど、私にとったら命懸けなのよ!? やっぱ、討伐軍と一緒に行くべきじゃないの!?」

「だって、白金の冒険者ってレアなんやろ? うちが代表して指揮とれとか言われたとして、うちがそんな指揮とれるように見えるか?」


 ナタリアは、あっ、無理だと思った。どうせ「そこを、ダーッと行って、その隙にズーンと叩いて、バシーンと斬れ」とか擬音語ばかりの指示を出して兵士を混乱させるだろう。

「心配いらへんって。うちが守ったるわ」


 何のてらいもなく、ハルナは言って、胸を張って笑った。

「あなた、本当に男以上に男前よね……」

 言われたナタリアのほうが恥ずかしくなってきた。



 翌日、ハルナとナタリアの二人はヤコマイー家の所有する一流の馬に乗って、西に進路をとった。

 バゼ高山は高山というだけあって、周囲にさほど人間は住んでいない。とはいえ、ドラゴンが暴れているとなればやはり大問題である。ずっと放置するわけにもいかない。


 しかし、並みの人間ではとても調停もできず、山に近づくことすら諦めてふもとに移り住んでいる有様だった。


「この人口規模やと、店を出すのはちょっと厳しいなあ」

「出店計画考えてる場合じゃないでしょ」


 ハルナはふもとで情報収集をはじめた。田舎の人間はよそ者に対する警戒心が強いものだが――

「オッチャン、ちょっと教えてほしいことがあるんやけど、ええかな~。タダとは言わへんで。飴ちゃん付きや~。今やったら塩昆布もつけるで~」


 ハルナのキャラからしたら、ちょっとやそっとの警戒心では何の意味もなかった。

 避難民も圧倒されて、いろいろと話をはじめた。その情報をまとめると――



・ドラゴンにはこれまで食糧を貢物として贈っていた。巨大なドラゴンにとって山の食糧だけでは足りないからだ。


・その代わりにドラゴンは山での遭難者を助けるとか、冬の雪崩の箇所を教えるとかいった方法で、人間を守っていた。


・ほかにも、知らない人間が薬草を採るとか狩りをするとかいったことがないようにドラゴンが見張っていた。いわば入山権の管理もドラゴンが行ってくれていた。


・ということで、ドラゴンと地元民の関係は割と良好だった。


・だが、ある時期から貢物の食糧にドラゴンが不満を漏らすようになってきた。


・そして、望みのものを出せと要求し、それが出せないと暴れるようになった。



「それで、何を出せって言ってるわけなの?」

 ナタリアが尋ねる。


 具体的に内容を聞き出すこと自体は淡々としているナタリアのほうが得意だ。

 避難民いわく、聞いたことのない食べ物だということだった。


 当然、出せるわけもなく、ドラゴンが怒ったという次第だ。

「無理難題を言って困らせてるのかしら?」


「やっぱ、わからんことはドラゴンに聞くしかないな」

「結局、そうなるのね……」

 ナタリアとしては当然恐怖心もあるが、ハルナが止まるわけもないので、参加するしかなくなった。


 山道を登っていくと、門番のようにドラゴンが道の両側に控えていた。背の高さは人間の大人二人分ほどか。三メートル半か四メートルといったところだ。青緑色のウロコに光がてらてら反射していた。


「これより許可なく立ち入ると」「討ち滅ぼすことになる」


 二体のドラゴンが交互にしゃべる。ドラゴンの表情はわかりづらいが、歓迎しているということはないだろう。


「上等やないか。やれるもんやったら、やってみいや! この程度やったら死のロードにはならへんで!」

書籍化作業の仕事が僕のほうは、ほぼ終わりました。大阪のオバチャン、ハルナのイラストも本当にかわいいです(オバチャンではなくてちゃんと美少女です)。6月に発売します! よろしくお願いします!

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[良い点] 擬音語ばかりの指示、で爆笑
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