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27 新しいコナモン料理

 味に対する自信は元からあった。だいたい、味が悪かったらこんなに店舗が増えるわけがない。

 さあ、あとは娘のカレンの反応だ。


「あぁ、わたしが思ってた以上においしいわぁ」

 おっ、褒められたのかと思った。


「――でもなかなか強い味付けやから、十年に一回ぐらいでよろしいかなぁ。これは忘れられへん味やわぁ」

 こいつ、やっぱり、京都人やな……とハルナは思った。


「よかったわね、ハルナ。いい評価よ!」

 ナタリアは言葉を額面どおりに受け取っていた。


「違うで。これは皮肉や」

 ハルナの表情が固くなる。


「うちのお好み焼きは味付けが濃すぎるって言うんか……」

 京都人の言葉と解釈すればそういう意味になる。


「そないには言うてまへんけど、都の食べ物の味はもっと薄味ですさかいなぁ。昔から田舎に行けば行くほど味がうなるって言いますけど、あれはほんまなんやろかぁ。あんまり王都から出たことないんで、ようわからへんのですけど」


 バカにしたような顔でカレンが言った。

 案の定、皮肉だったらしい。


「これは素材の味やなくてソースの味なんとちゃいますの? このソースを作ったんがすごいなあというんはわかりまっけど、それやったらソース職人に転職したほうがええんとちゃいますかぁ」


「えっ……いくらなんでもそんな言い方はないんじゃ……」

 この言葉にはさすがにナタリアも気づいた。


「こないなパンケーキ作ったぐらいで大儲けできましたら、それは楽でよろしいですなぁ。もっと勉強せんにゃらん世界はたくさんありますもん」


「カレン、作ってくれた方に失礼だぞ」

 当主も娘を叱った。

「すいませんでしたなぁ。では、お返しにこの屋敷の都の料理を食べていってもらいましょうか」


 事前に用意してあったのか、次々に皿に豪華に盛り付けられた料理が出てくる。

 どれも量は少ないが、その分、品数が多い。

 肉も、魚も、テリーヌのようなものも、ジュレになっているようなものも、ムース状のものも。


「すごい……これが貴族の食事……」

 ナタリアは生まれて初めて見る光景に目を奪われた。おそらく貴族の中でもほんの一握りの者しか用意できないレベルだろう。


「ご馳走してもらえるんやったら、ありがたくもらうわ。タダのものをもらわんのはうちの主義に反するからなあ」

 ハルナはもちろん内心イラっとしていたが、料理自体はおいしそうなので、そこは正直うれしかった。


 それに敵を知らないと勝てるものも勝てない。

 料理でカレンという貴族の少女を見返すつもりだ。ムカついたままで終わる気はない。


 結局、ハルナとナタリアも加えて、あらためてその食堂での昼食となった。

 当主としては、もはや伝説となりつつあるハルナの話を聞きたかったらしい。


 地下三十五層となるとどんなモンスターが出るのかとか、ダンジョンにある店とはどんなものかとか、かなり具体的に尋ねてきた。王都でもそれだけの冒険者は数少ないし、話を聞ける機会となると、さらに減るだろう。


「そこでスケルトンがドーンと来たから、こっちがバーンってやり返して、敵がバシャーンってなったんやわ」

 ハルナの説明は擬音が多くていまいちわかりづらい。


 ただ、十三層にある『ハルちゃん』の話は、当主も目を輝かせた。貴族だからこそ、ダンジョンの話に胸が熱くなるものなのだ。


「ダンジョンに店舗を作って冒険者の命を守ろうというハルナさんの発想は本当に素晴らしい! ぜひヤコマイー家としても援助させていただきたいです」

 当主は全面的にハルナをもてなしてくれるつもりのようだ。ハルナに全幅の信頼を置いているのがわかる。娘とはまったく違う反応だ。


 ハルナは話をしながら、慎重に料理の味を確かめていた。

 もちろん和食ではないが、全体的に薄味だ。

 なるほど、素材の味を見せるという意識は京都の人間の発想に近い。


 だとしたら勝ち目はある。

 京都人が何を美味いと感じてきたか、ハルナにもある程度はわかるのだ。


 デザートとして砂糖をふんだんにまぶしたクッキーが出てきた時――

「お嬢さん、もうちょっと、うちに料理作らしてもらえへんかな?」


 ハルナはそう申し出た。

「もう、お好み焼きなら遠慮しときますわ。小麦粉の料理は、おなかいっぱいで入りまへんからなあ」


「すべてお好み焼き以外の料理やったらどないや?」

「別にかまいまへんけど、わたしもいろいろ都で食べてきたから、そうそう田舎の料理で驚かへんと思いますわ」


「じゃあ、許可はもらえたってことやな」

 嫌味は耐える。


 あとで敵が恥ずかしくなるだけのことだ。

「絶対に満足させたるからな!」



 ハルナとナタリアはまた厨房に戻った。

「ねえ、本当にどうにかできるの?」


 ナタリアは勝算が見えないようで、まだ不安らしい。

「あのお嬢様の性格からして、とてもおいしいとは言わない気がするんだけど……」


「ナタリアもわかってきたな。京都の人間はああいうことを言うねん」

 少なくとも同じ日本からの転生者ということで仲良くするという気はないらしい。


 むしろ、お好み焼き程度でデカい顔するなという態度だった。

「でも、あいつが京都人の舌を持ってるなら、勝ち目はあるんや」


 ハルナは事前に用意していた荷物を取り出した。

 その中から鶏肉、さらに鶏ガラにあたるものも引っ張り出す。


「いや、これ、食べられない部分もかなり交じってない?」

「ああ、それは直接は食べへんから大丈夫や」


 続いてキャベツ、ニンニク、タマネギ、ハーブなど。

 購入日にナタリアの魔法で氷を出して冷やしたり、食材自体を冷凍保存していたものだ。


「あなた、最初から何品も作って戦う気だったのね」

「お好み焼きで満足させられたら、それでよかったんやけどな。そうならへんかった時のためにいろいろ研究してたんや」


 大きな鍋に火をかけて、鶏肉と鶏ガラ、それから太いネギ科の植物も煮ていく。

「あんまりじっくり加熱してると、あの京都人に忘れられてまうから、あとで炎の魔法で一気に強火にして、ええ味を取り出す。それにもう一品の準備もせんとな。ひとまず、麺だけ出しとくか」


「これでスープを作るの?」

「せやな。豚骨も入れるか迷ったけど、これで行くわ。麺も出しとこかな。入れるんはもっと先やけど」


 やけに黄色い麺をハルナは取り出した。

「これはオールサックの町で試作してたやつな」


「うどんともソバとも違う麺ね」

「うん、製法がちょっとちゃうねん。けっこう苦労したで」


 その間に小麦粉に水を入れてよく混ぜてからボール状にして、延ばして薄い皮を作る。

 具も用意する。横で豚肉をミンチにしたものをよくこねる。

 ミンチにキャベツをぶっこむ。ニンニクの刻んだものも入れる。


 あとはハーブ、タマネギなども少量加え、全部をほどよく混ぜる。

 そして円状にした皮の中にその具を入れて包んでいく。

「また違う小麦粉料理を考えてたのね」


 ナタリアにはよくわからない料理ができていく。

「ラーメンと餃子を作る」

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