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26 京都っぽい貴族令嬢

 翌日、ハルナとナタリアはヤコマイー家のほうに向かった。

 ヤコマイー家は王国の三本の指に入る貴族だ。

 これまで何人も大臣を輩出しているほどで、今の当主も朝廷の実力者だった。


 もちろん王都に構えている屋敷も巨大で、まず敷地にちゃんと入るために二重の水堀を橋で渡らないといけない。ハルナは江戸時代の大名庭園みたいだと思った。


 二人は門番に招かれてきたことを告げるとすぐに奥の建物へと案内された。

 別に名のらなくてもハルナの服の胸元に白金の冒険者であることを知らせるバッジがついていたので、話は早かった。白金の冒険者ともなれば貴族と大差ない立場だ。


 この日はハルナもアニマルプリントの服なんてのは着ずに、剣士なりの正装をしている。そのあたりの服はナタリアがチェックした。見た目はあくまでも美少女の剣士だから、サマになっている。


「なかなか大きいなあ。まあ、大阪城ほどやないけどな」

「余計なこと言わなくていいの」


 今の大阪城の天守はエレベーターがついてるような新しいものだし、建物以外の部分も大幅に江戸幕府に改造されたものなのだが、ハルナ的には豊臣秀吉の城である。


 会見の部屋に入ると、まずヤコマイー家の当主に儀礼的ではあるが丁寧な言葉をかけられた。四十歳ほどのヒゲのたくましい男だ。温和な表情は育ちがいいことを感じさせる。


「ハルナさん、朝廷でもあなたの話題が出ない日はないですよ。経営も行う白金の冒険者は前代未聞です」


「まあ、それほどでもあるかな~」

 ハルナは照れて頭をかいた。

「あなた、そこは謙遜しなさいよ……」

 ナタリアが釘を刺すのでちょうどよいバランスになっている。


「いえいえ、冒険者の方はそれぐらいの豪傑肌のほうがよいです。王家に仕えている王国騎士団でも、神殿に仕える神聖騎士団でもないのですし」

 にこやかに笑いながら、当主は少し間をおいた。


「ああ、そうだ。娘が是非あなたにお会いしたいそうなんです」

 お好み焼きを焼いてほしいと書いてきた相手だ。

「ハルナさんがお越しだ。入ってきなさい」


 奥の部屋から十五歳ほどの少女が顔を出した。

「あ~、来てくれはったんやな。おおきにな~。あ~、お好み焼きなんて何年ぶりやろ。わたし、ずっと食べとうて、食べとうて待ってたんよ。河原町かわらまちの駅前においしい店あったんやけど知ってはるぅ?」


 その少女のしゃべり方と地名にハルナはどきりとした。

「ま、まさか……京都人の転生者なんか……!?」


 ハルナはその少女の顔をまじまじと見つめた。

 美しく長い黒髪をなびかせていて、どことなく昔の日本の姫君めいた風貌をしている。


 そこに髪飾りがたくさんついていて、いかにも貴族の娘といった雰囲気だ。

 しかし、聞いた言葉には「来てくれはったんやな」なんて京都っぽい言葉があった。


「京都? そんな町の名前、知りまへんけど、この世界は広いからなあ。どこかにはあるんとちゃいますかあ?」

「娘は幼い頃からこういうしゃべり方なんですよ。もう家族も慣れました」

 当主が言った。


「まさか……前世が京都人でその記憶があるとでも言うんか……?」

「ちょっと! 何、変なこと言ってるのよ……」

 ナタリアがまた咎める。


「ヤコマイー家当主の娘のカレンと申します。ほな、ハルナはんにお好み焼きを作ってもろて、よろしいかなぁ?」

 カレンと名のった少女ははんなりと笑った。


 見た目だけなら、まさしく貴族の令嬢だ。

「ああ、このハルナに任せとき。じゃあ、厨房貸してもらうで」

「大阪の人やったら、『ええけど、あとで返してや~』とか言わはるんかなあ?」


 間違いない。

 百パーセント、相手も日本の記憶を持っている。


 なお「トイレ貸してください」「あとで返してや~」の流れは定番のやつである。


 ほかにも、三百円のお釣りを店員が渡してくる時に、「はい、お釣り三百万円な」と単位を「万」にしてくるやつや、「お釣り、多めにちょうだい」とか言うやつもよくある。


「と、とにかく、ええお好み焼きを焼くだけや!」

 ハルナとナタリアは厨房に案内されると、お好み焼き作りの用意をする。

 主に焼くのはハルナだが、ナタリアも容器の準備などを手伝ったり、あと、天カス作りなどは行う。


「ねえ、やたらとお嬢様に反応してたけど、何かあったの?」

「うちが一番苦手とする人種の記憶を持ってる危険が極めて高い……。間違いなく嫌味な奴やわ……」


「本人の前では言っちゃダメよ……。相手は大貴族なんだからね……」

「最高のお好み焼きを作る、今やれるんはそれだけや。でも、それでもあかんかったとしても――」

 にやりとハルナは笑った。


「まだ、対策は持ってきてるからな。京都の奴には負けへんで」

「だから、キョウトって何よ!」


 ハルナはいつも以上に気合を入れてお好み焼きを作った。

 日本風ソースもかけて、いい匂いが広がる。


 一緒に焼いた別の一枚をナタリアも試食するが――

「うん! 今日のはとくにおいしいわ! 天カスも作ったばかりでサクサク感がすごいわ! 豚肉もいいもの使ってるし、さらにチーズも溶けてて最高よ!」


「うちもそう思う。でも、相手は京都の人間やからな……」

 二人はお好み焼きを皿に載せて食堂へ向かった。


 そこには椅子に座ったカレンが待っている。

「ほなぁ、早速食べさせてもらいましょかなぁ。どないな料理が出てくんにゃろか?」

 当主たちほかの家族の分もお好み焼きが並べられる。


「いただきますなぁ」

 フォークとナイフで切り分けて、カレンは口に運んでいく。


 当主たちほかの人間もお好み焼きをほぼ一斉に口に入れた。

 ハルナとナタリアは立って、その反応を待つ。


「おお、これは美味い!」

 当主の反応はすこぶるよかった。


「これはパイ生地とはまた違う。実に面白い食べ物だ!」

 当主の妻もソースがとてもおいしいと絶賛してくれた。


 味に対する自信は元からあった。だいたい、味が悪かったらこんなに店舗が増えるわけがない。

 さあ、あとは娘のカレンの反応だ。

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