2 ステータスがいろいろおかしい
三十分ほど歩くと、町に入ることができた。
オールサックという城壁に覆われた、この地方ではそこそこ大きな町だ。人口は二千人と少しほど。街道沿いにあり、旅行者や商人が寄ることも多い。
町の外側は城壁になっていて、入口は見張りがいるのだが――
「うわっ! 獅子の毛皮をそのまま服にしている!」
ハルナは噛みつきそうなライオンの顔がアップになった服を着ていたのだ。
見張り番たちはこんなファッションの人間を見たことがないので、武人だと判断した。
「きっと歴戦の勇士に違いない……」「とてつもない自信の現れだ……」
「おおげさやな~。自転車乗ったひったくりに一回あった時に追いかけて、しばきまわしたぐらいやで。自転車に追いついたぐらいで半泣きなってるんやもん。泣き虫か。そりゃ、盗まれたら走るわ。追いつけんかったら意味あらへんのやから追いつくまで走るしかないやん。自分らも財布盗まれたら走るやろ?」
見張り番たちは話の内容がよくわからなかったが、とにかく武勇譚らしきことを話してると認識した。
「どうぞ、お入りください……いや、むしろ冒険者ギルドまでご案内します!」
「なんや、エスコートしてくれるん。ありがたいわ~。美少女って、役得やな~」
ギルド内にはコワモテの男たちが集まっていたが、彼らの間でも激震が走った。
「なぜ、獅子の顔を服に……」「女戦士なのか……」「しかし武器すら持ってないぞ!」「ヒョウを狩った男はそのヒョウの毛皮をまとうというが、そういうことなのだろう……」
ライオンの服は彼らの文化の中ではかなりまがまがしかった。
普通、若い女が冒険者ギルドに来ると、卑猥なことを言う奴もいるのだが、そういうのは一切ない。
「ここ、けっこう蒸すなあ……一枚脱ごか……」
ハルナはライオンの服の下にもヒョウを描いた服を着ていた。アニマル柄の中でもヒョウは定番である。原因は不明だが、埼玉県でもよくヒョウ柄のものは売れるらしい。
「マジかよ!」「あの女は本当にヤバいぜ!」「狩った獣をまとう女だ!」
「なんや、ごつい人ばっかりやな。ひとまず話聞こか」
ハルナは受付の若い女性のところに行く。ずいぶん、小柄で小顔なボブカット。ハルナの豪快なキャラとはきれいにひっくり返したぐらい好対照だ。
「なあ、お嬢ちゃん、話聞きたいんやけど」
「ギルド受付のルーファと申します。ど、どういったご用件でしょうか……?」
「このへんに駅あらへん?」
「駅? 街道の馬を扱っているところですか?」
「ちゃうちゃう。阪神とか南海とかそういうやつ。一番近い駅教えてや」
関西で大阪にターミナルがある私鉄には、近鉄・阪急・阪神・南海・京阪の五つがある。
「ええと……お客さんの服から察すると、おそらく転生されたのでは……」
「テンセイって聞いたことない私鉄やな。ああ、京成って東京にそういう電車あったな。成田空港行くやつ。じゃあ、ここ、日暮里とかなん?」
「ニッポリ?」
「それとも上野なん? 動物園にパンダおるん? まあ、和歌山のほうがようさんおるけどね。あげるほどおるわ。山入ったらパンダ歩いてるらしいで」
「あっ、あの……いろいろご存じないようですので、私が教えます!」
まったく無知の人間が来たと判断したルーファはじっくり説明することに決めた。このままギルドの外には放り出せない……。
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別室でルーファはこの世界の内容について簡単に説明した。
「つまり、たこ焼きはなくてタイガースもなくてフグ売ってる店もないんや」
「ないです……。あの、ハルナさんは身寄りもないようですし、冒険者として生きるのがいいかなと思います。オークを素手で倒したんだったら素質もあるでしょうし」
「冒険者って、つまり、ここに登録したらええってことなんやろ? なんや勧誘やんか」
「でも、身寄りのない人を雇ってくれるところも少ないでしょうし」
「でも、西成行ったら、身分証明なくても部屋借りれるで。いや、でも、あそこが特殊なんか……。それで、いくらかかるん?」
「銀貨二枚です。まあ、そこそこの額ですから、お金がある程度入ってからでいいですけどね」
「宝石やったらあるわ。ブーちゃんがくれたんや」
カバンに入れていた宝石を並べだすハルナ。ルーファもその量に目を見開いた。
「かなり、ありますね! これ、金貨五、六十枚分は確実にあると思います。ギルドでは換金も行っていますので、是非ご利用ください」
「じゃあ、あとで払うわ~。ちなみに銀貨二枚やんな」
「はい、そうですが」
「銀貨一枚にまけてもらえへんかな?」
ハルナはとりあえず値切ってみた。
「はわわわっ!? そんなの困ります!」
「ええやんか。似た者同士やん。ほら、おんなじ女同士やん」
「わかりました……銀貨一枚で……」
ルーファは値切られることになど慣れていなかったので、あっさり承諾してしまった。
「あと、ステータスオープンと叫ぶと、今のステータスがわかります。原則自分にしか見えませんが、相手に見せようと念じれば、私も確認できますので」
「じゃあ、見たってや。ステータスオープン!」
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ハルナ
レベル84
職 業:剣士
体 力:638
魔 力:457
攻撃力:525
防御力:487
素早さ:516
知 力:235
謙虚さ: 3
ボ ケ:739
ツッコミ:262
魔 法:炎魔法・風魔法(六甲おろし)・治癒魔法・紅ショウガの天ぷら魔法・梅田ダンジョン作成魔法・簡易次元操作(カバンからお菓子等が出てくる)
その他:ビリケンさんの加護により、毒無効化・麻痺無効化。アンチ巨人なので、巨人に対して常にクリティカルが出る。
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ルーファはそのステータスを見て、硬直した。
恐ろしく強い。強すぎる。悪い夢でも見ているように強い。というか、この人間が怒ったら町が滅ぶのではないか。ギルドで働いてきてこのかた聞いたこともないような数字が並んでいる。冒険者は強くてもせいぜいレベル30ぐらいのはずなのに……。
けれど、それ以上に目立つものがあって、数字すら霞んでしまう。
「紅ショウガの天ぷら魔法って何ですか!」
「うちも知らんわ。魔法の欄にそうあるんやもん」
紅ショウガの天ぷらは最近、東京の立ち食いそば店などでも提供してる店が増えてきた。
「いや、それより、そのあとのダンジョン作成魔法のほうがおかしいですよ! 魔王とかにしかいらないスキルでしょ! ていうか魔法なんですか、それ?」
「梅田の地下はたしかにダンジョンみたいやって言う人はおったけどなあ」
「あと、ボケとかツッコミとか何のステータスなんですか? そんなの普通ないですよ!」
「いや、でも、ルーファちゃん、ちゃんとツッコミできてるで。漫才いけるで」
「と、とにかく、超強いです! 天下とれるぐらいに強いです!」
「天下って、やっぱり漫才で? M-1グランプリ目指すん?」
それからもしばらく話がかみ合わなかったが、ハルナもだんだんと状況を理解してきた。
「ところで、今日泊まるところってどこかいいとこあるんかな?」
「それも教えます。でも、その前に宝石を換金しましょうか」
換金したところ、金貨六十五枚にもなった。
どうやら、しばらく生活はできそうである。
次回は明日更新予定です! よろしくお願いします!