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17 ダンジョンタコ焼きパーティー

「今日はこの世界初のタコ焼きパーティー、略してタコパや!」


 ハルナはまず鉄板を熱する。油をさささっと敷く。

 そこに溶いていた粉と卵を混ぜたものを入れる。

 ここからが大事だ。


「みんな、この食材、わかる? 無理そうやったら、違うもの入れようと思うんやけど」

 アシスタント役のナタリアが皿を持ってくる。

 タコの小さな切り身が載っている。


 ただ、冒険者たちの反応はYESとかNOとかではなく、切り身の状態では何かわからないというものだった。逆に言えば、やはり食材として認識されてないわけだ。


「ぶっちゃけ、これやねん」

 またナタリアが別の皿を持ってくる。ただ、今度はフタがしてある。

 ナタリアがフタをはずす。


 そこにはうねうね動く生きたままのタコが入っていた。

「「モンスターだ!」」

 そんな声がいくつも上がった。やはり反応は悪い。とはいえ、ここまでは予想どおりではあるので、とくにショックはない。


「あのな、うちの故郷ではこれは割と普通の食べ物やねん。これをゆでて、小さく切ったのがこれな。で、これを――」

 ぽんぽん、くぼみの中に入れていく。

 ついでに紅ショウガやネギも入れる。


「おいおい……モンスターを食べるのか……」

「ハルナちゃんの考え方が変わってるのは知ってるけど、これはいくらなんでも……」

「いや、これはモンスターじゃないぞ。けど、魔王でも食べんだろうがな……」


 聞こえてくる否定的な声をまったく気にせず、ハルナはタコ焼きをひっくり返していく。

 けっこうしっかり焼いたボール状のタイプだ。


 中にはもっとやわらかいとろーりとしたものを好む層もいるが、タコの忌避感が増しそうだったので、しっかり焼くボール状タイプのほうにした。それにハルナはタコ焼きのプロではないので、こちらのほうが作りやすい。


 それに爪楊枝で持ち上げるとぼとっと落ちてしまうような、とろーりとしているタイプはマヨネーズとソースがなければ引き立たないとハルナは考えている。本来はボール状のほうがオリジナルに近いはずだ。


 聴衆から「形はまん丸で面白いな」といった声が飛んだ。たしかにかわいらしい形だ。

「ひとまずできたかな」

 あとは皿に置いていって、

「上からソースをかけてと――」


 かつおぶしもレベルアップにともなって取り出せるようになっていたが、踊ってるように見えるのがまた気味悪がられそうだから、やめておく。

 青のりも食べ慣れてない冒険者がカビを撒いていると言い出しても困るから、今回は中止。


「――タコ焼き完成や! 食べていってや!」


 ハルナは元気よく「どうぞ!」と手を差し出したものの、反応はやはり悪い。

 モンスターと認識しているなら、それもやむをえないか。


 いつもは威勢のいい冒険者たちも互いに目配せをし合って、最初に取りかかる人間を探り合っている。

「あかんか~。おいしいんやけどなあ……」

 ひょいと一つ口に入れるハルナ。


「うん、あつあつでおいしいわ~! ようできてる、できてる!」

 そのおいしそうな顔にウソ偽りがないことは冒険者たちにもすぐにわかった。


「『モンスターを喰らう女』……さすが、ハルナちゃんだ」

「実はモンスターって美味いのか?」

「だからモンスターじゃないんだ! それにモンスターの上級種である魔族だってこんなのは食べない!」


 この世界では魔石を落とす存在のうち、知能が低い者をモンスター、人間に近い知能を持つ者を魔族と大まかに分けて呼んでいた。


 常連客の反応も拒絶というほどではないものの、まだ抵抗はあるようだ。もう一押し足りない。ハルナが破天荒なのは有名なので、ハルナがおいしそうに食べても根拠として弱いのだ。もっと普通の感性をした人間の感想が必要だった。


 そこで、「はぁ……」とナタリアがため息をついた。

「私からいくわ……。店員なんだもの……」


 いくらなんでも毒ではないんだし、自分が食べるのが一番の説得材料になるだろうとナタリアは判断した。「おお!」「勇気がある!」「生贄の儀式を買って出たみたいだ!」と冒険者たちが讃える。


 おそるおそるナタリアがタコ焼きを手にとって口に入れた。

「はふっ……あつっ……」


「ああ、できたてやからな。まあ、それは口で転がしていけば、次第に冷めてくるわ」

 しばらくナタリアはタコ焼きを咀嚼して――ごくりと呑みこんだ。


「どうやった?」

 ハルナ以下全員の目がナタリアに注がれる。

 数秒、無言の時間が地下十三層に流れる。


 ナタリアは無言でもう一個を口に入れた。


 予想外の行動だった。


「むひゃくきゃ、おいひいわ(無茶苦茶おいしいわ)」


 それで風向きが変わった。変な味じゃないということが証明されたのだ。

「冒険者がモンスターを怖がってどうする!」

「そうだ! 口の中で暴れるわけじゃない!」

 それで勢いよく口に入れて、みんな熱がっていた。


 もっとも、口にタコ焼きのあつあつをあえて入れるのも醍醐味ではある。

 そして、しばしのタイムラグのあと――


「中はとろとろなのか!」

「お好み焼きと同じ小麦なのに、また全然違う味だ!」

「タコもプリプリしていて、これは面白い食感だ!」

「紅ショウガのアクセントがまた食欲を刺激する! 魔族でもきっと喜んで食べるだろうな!」


 絶賛の嵐がやってきた!

「よかったわ~。さすがに誰も食べんかったら悲しかったわ」


 反応は上々で、ハルナもほっと胸を撫で下ろした。

 タコは無理だけどタコ焼きはけっこう好きという欧米人はそれなりにいる。小さく刻んでいるから抵抗も減るのかもしれない。


「ああ、ちなみにタコが無理やって人はソーセージやハムを入れたやつも作るから、そっちで試してな。あと、チーズのも作るわ」


 大阪でタコ焼きパーティーをする時は味を変えるために違う具を入れるのが基本だ。ハムやチーズなどはその中でも代表的な具である。前衛的な人間はチョコレートを入れたりもする。


 タコを食べておいしいと言った人間が、チーズやハムで不味いと言うわけもなく――

「チーズもすごくいいぞ!」

「ハムもよく合う!」

 すぐにそんな声が飛び交うことになった。

 こうして、『ハルちゃん』にタコ焼きという新しい定番商品が生まれたのだった。


無事にタコ焼きが無事にできました! 次回に続きます!

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