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15 従業員が戻ってきた

 それからしばらくして、ハルナが地下深くから戻ってきた。


「いや~、今日はものすごいでかいゲジゲジに会ってびっくりしたわ~。剣で叩いたらむっちゃ体液出てくるやん。あれはあかんわ。炎とかぶつけられるよりよっぽど怖いわ~」

「あなた、本当にいつもマイペースね」


「それやったら、ナタリアもマイペースやん。自分の壁、ちゃんと作ってるタイプやもん」

「そういうこと、本人に向かって言う!?」

 お好み焼きを食べている客から笑いが起こる。


 殺伐としたダンジョンの中とは思えない、妙に明るい空気だ。

「ああ、そうや、もうすでに貯まってるから渡しとくな」


 店の奥に入ると、ハルナは金庫の鍵を開ける。そこから大きな布の袋を取り出す。

「う~、さすがに重い! けど、これが金の重み! 労働の重みや!」

 どさっとナタリアの前に置く。


「はい、金貨七百枚な。これでお兄さん、救いや」

 もちろん、袋の上から枚数などわからない。それでもナタリアにはその袋が実際以上に重たいものに見えた。


 思わずナタリアはその場で跪いて、泣き出した。

 何年もかかると、十年以上かかることも覚悟していたのに。

 それが本当にこの町に来て二週間で手に入ってしまったのだ。


「これ、夢じゃないのよね……」

「ほっぺたつねってみいや。痛いはずやで」

「ありがとう、ありがとう……」


 周囲に人の目もあるのに、何度もナタリアは礼を言った。今更、クールな態度をとる意味もない。誠意を見せるぐらいしか返せるものがないのだ。金貨七百枚というのはそういう額だ。


「今日はもうあがりやな。夜の当番はほかの子がするし、地上行ってゆっくりしよか。ああ、こうしてる間も兄やんは捕らわれてるわけやし、明日、もう出発するか?」

「あの、今日は酒場でおごらせて……」



 地上に戻ると、ナタリアはとにかく高い酒をハルナにおごろうとした。

 ハルナの経済力からすれば、どうということはないのはわかっていたが、そうでもしないと気が休まらないのだ。


「そういえば、兄さんの捕まってる町ってどこなん?」

「この北の伯爵領よ。かつては私たち獣人の国があったところなの」


「なるほどなあ。まあ、また何かあったら、うちのとこに来たらええわ。ヒョウにはずいぶんお世話になってるしなあ」

「私は別にヒョウじゃないわよ!」



 そして翌日、ナタリアは旅立っていった。

「あ~、また働いてくれる子、探さんとあかんな……」


 ギルドに求人を出してはいるが、町ですぐに候補が見つかるものでもないので、なかなか悩ましい。

 仕方がないので、ある程度はハルナ自身が店に入って対応することにした。


 接客自体は楽しいし、何の不満もないが、今後店舗数などを増やすことを考えると事務作業にも時間を使いたい。


「近いうちに対策を考えんとあかんなあ。十三層でも平気な冒険者となると、もっと大きい町で求人出すべきやろか」



 しかし、その対策は向こうのほうから来た。


 一週間後、ナタリアが戻ってきたのだ。


「こんにちは」

「いらっしゃ~い! 何にする? お好み焼き、焼きたて作るで~、あれ、ナタリアやん!」


 ナタリアは最初にハルナが会った時と同じ魔法使いのローブ姿だった。

「あなた、本当にそんな変な服着てるのね……」


 ヒョウの顔が正面についている服にナタリアはちょっとびくっとした。ものすごい野蛮人に見える。

「たまに着ると心が盛り上がるんや」


 ヒョウの服にとくに守備力などはないが、ハルナのステータスなら鎧も必要ないのだ。地下十三層でも存分にファッションをしてよい。


「兄さんは無事に解放されたわ」

「よかったな~。うちも地下潜ったかいがあったわ」

「それでなんだけど……」

 そこで少し照れくさそうにナタリアは顔をそらした。


「あなたの店でもう一度働かせて……」

「えっ、ほんまに? ウソちゃうんやな? ほんまやな!?」

 ハルナは無茶苦茶喜んだ。


 従業員不足が知った顔が戻ってくることで解消されるのだから!

「正直、私の働きは金貨七百枚分には全然足りてないわ。せいぜい三枚分ってとこね」


 この世界の金貨一枚は日本円の五万円ぐらいだからけっこういい線をいっていた。

「だから、あなたの店でもう少し働きたいの」

「そうか! わかった! ぜひ働いてな!」

 ハルナはすぐにナタリアに抱きつく。


「ちょっと……恥ずかしいわよ……」

 ナタリアもちょっとたじろいだ。肉体的にはハルナのほうがはるかに豊満なのだ。どう考えてもがさつなのに、くびれるところはくびれて、出るところは出ている。女の自分でも、ちょっと恥ずかしくなってくる。


「これもタイガースを長らく応援してきたおかげやな! 神様仏様ナタリア様や!」

「わけわからないこと言わないでよ!」


 その様子を見ていた常連客もナタリアの復活を祝して、口笛を吹いたりした。

「おお、ナタリアちゃん、戻ってくるのか! 目の保養が増えるぜ!」「女の子同士で抱き合っているというのを見るのもいいものだな」「俺もあそこに混ざりたいな」


 そのあと、ハルナが「ナタリア復帰祝いで全品半額や!」と言い出したので、その日の売り上げはちょっと落ちた。

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