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12 新しいバイトが入りました

 オールサックの町には高級な酒場などないから、案内は自動的に安酒場になった。ハルナもなじみの店だ。この世界はアルコールは二十歳からなんて法律もない。


 昼なのに、もうすっかりできあがっている客がすでにいる。もっとも昼から酔っ払ってるおっちゃんなんて大阪で無数に見てきたので、とくに驚かない。


「なんで話をしなきゃなんないのか、よくわかんないけど、話すって言っちゃったしね……」

 猫耳の魔法使いはぼそぼそと語りだした。

「獣人はね、たいてい貧しい暮らしをしてるの。昔あった国が滅ぼされて、百年前まではそのせいで奴隷として売られてる者も多かったみたいだわ。それが今も尾を引いてるの」


「そうか、そうか。うちも若い頃は苦労したわ~」

「それで……私の兄が三年前に窃盗をやらかして投獄されたの」


「あ~、えらいこっちゃ~」

 いまいち、合いの手のせいで悲愴感が出ない。


「盗んだ金額が大きかったせいで、金貨千枚を用意しないと一生牢屋に入れられたままなの……」


 この時代、その土地を治める領主によって、法律も異なっていた。日本でも中世は寺の荘園と、貴族の荘園ではそれぞれ訴える場が変わったりしたが、この世界もそれと似ている。

 中には関係者が身代金のようなお金を納めないと解放してもらえないところもある。


 なお、金貨千枚というのは日本円だと五千万ぐらいの額だ。

 彼女は事実だけを話そうとしていたみたいだったが、そこにどうしても個人的な気持ちが混ざる。


「魔法使いになろうとした私にかなりお金も出してくれた兄なの。でも、そのせいで貯金も全部使っちゃったみたいで……。そのせいで兄の生活が苦しくなって、貧しさに耐えかねて……。私が兄を牢屋送りにしてしまったようなものなの」


 魔法使いは気持ちを落ち着けるために、少し酒を飲んだ。

「だから、私はパーティーも組まずに一人で冒険者をしてるの。兄を助けるのは私の問題だから……。今日みたいに誘われたってずっと断ってきたのよ」


「ふうん。なるほどなあ」

 うなずきながら、ハルナも聞いていた。


「やっぱり、ええかっこしいやな」

「だから、『ええかっこしい』って何よ! 嫌な言い方しないでよ!」

 しかしハルナは手を伸ばして、魔法使いの肩に手を置く。


「だって、あんた、困ってるやん。困ってるんやったら、素直に助けてって言わなあかんねんて。あんただってお兄さんの力なかったら魔法使いなれてないやんか。だから、今度はお兄さん助けてほしいって言っていくべきやねん」


 魔法使いは言葉に詰まる。

 ハルナの言葉がそれなりに心に刺さった。

「じゃあ、あなたは……私にお金でもくれるって言うの……? どうせみんな口だけでしょ」


「金貨千枚か。うちが出したるわ」


「ほら、そんな金出せるわけが――――ええっ!?」

 魔法使いが絶句する。


「金貨千枚よ! そうそう手に入る額じゃないわよ!」

「だって、電車賃なくなって帰れんようなってるオッチャンに金あげたことあるもん。それみたいなもんやろ」


「何のことかよくわからないわ……」

 ハルナは「今里いまざとまで帰る電車賃ないねん、金貸してや」と言われたことがあった。「じゃあ、今度返してや」と二百円ちょっと渡した。もちろん返ってきてはいない。そういうのはボランティアみたいなものだ。


「ちなみにあんたの貯金はいくらなんや。多少は貯めてるんやろ」

「どうにか金貨三百枚ほど……」


「けっこう貯めとるな。残り七百枚か。前にダンジョン潜ったら一日で五十枚ぐらい稼いだから二週間程度でいけるな」


 もちろん、その程度の額、『ハルちゃん』の収入が金庫に入ってるが、プライベートで持ち出しをするつもりはない。これはハルナ個人の金ではなく、会社の金だ。


「ウソでしょ! 一日で金貨五十枚も稼げるわけないじゃない! そんな地下深いところでモンスターと戦ったら死ぬわよ!」

「地下三十層ぐらいやったわ」


 ハルナの言葉が衝撃的すぎて魔法使いは圧倒されていた。

 そんなハイレベルの冒険者は普通、王都ぐらいにしかいない。いや、王都でも貴重だ。


「ど、どんだけすごい冒険者なのよ……。伝説の勇者の次元かもしれない……」

「まあ、でも、タダであげたら、そっちが気つかうかもしれんしな。条件出そか」


 魔法使いの顔が険しくなる。

「何よ。勝負して勝ったら融通してやるとでも言う気……?」


「お好み焼き、二週間焼いてや」

「おこのみやき?」

 魔法使いはまったく聞いたことのない単語だ。


「ただし、一人で焼けるようになるまでは働いたとは見なさへんからな。あんたが一人で焼けるようになったら、うちがその間にダンジョン潜って稼いできたるわ」


「よくわからないけど、お願いするわ……」

 半信半疑ながら、魔法使いはこの冒険者に乗ることに決めた。自分の攻撃魔法を防いだことは事実だ。


「ああ、そうや、自己紹介まだやったな。うちはハルナや」

「私はナタリアよ……」


「うん、よろしく頼むわ~」

 手を伸ばしてハルナは勝手にナタリアの手を握った。


「ていうか、よく獣人の冒険者なんかに手を貸す気になったわね」

 全員ではないが冒険者の中にも見た目の違いから、獣人を蔑視する者は多い。


「だって、そのヒョウっぽい見た目、むっちゃかっこええやん!」

「はっ……?」


 ハルナはヒョウ柄やトラなどを敬愛しているので獣人にも愛を注ぐのだ。

「全身ヒョウ柄のオバチャンもおったけど、耳までつけてる人はそうそうおらんかったもんなあ、もし、大阪戻ったらみんなに耳つけさせんとあかんわ」


「そのオオサカって何なの? そこではヒョウの柄が普通なわけ?」

「普通ってほどやないけど、よう見はするなあ。ああ、でも、大阪言うても市内やで。あんまり阪急でそんな人見んしな」


 またわからない単語が出てきたので、ナタリアは面倒だから聞かないことにしようと思った。

 なお、大阪の人間にとって私鉄の阪急の地位はかなり高い。東京で言う東急のポジションに近い。「実家は岡本です」は「実家は自由が丘です」みたいな意味がある。


先日、八王子でアニマルプリント(トラやゾウなどいろんな動物が一枚の服の中で集まっているやつ)の服を着てるおばあちゃんを見ました。東京にもあのファッション、進出しているのでしょうか……。(笑)

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