表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/46

10 バイトが減ってしまった

『お好み焼き ハルちゃん』はダンジョンの一号店も町の二号店も順調に繁盛していた。

 お金も貯まってきたので、ハルナも最近は騎士みたいな格好をしたり、貴族の娘みたいな格好をしたり、いろいろと楽しんでいた。


 現在は従業員数が合計十七人。町ではある意味、最大規模の企業だ。

 そのため、そろそろちゃんとした事務所も必要になってきた。


「マーサのおばちゃん、この宿も引き払うことにするわ」

 ある日、ハルナは宿の一階で働いていたマーサにあいさつに行った。


 ずっと宿を借りて生活していたが、徐々に店の備品などが増えて手狭になってきていた。

「市場の近くに二階建ての物件が空いてん。そこの一階を事務所、二階を住居にしよかなと思うねん」


「そうだねえ。そろそろハルナちゃんをうちのボロ宿に泊めるのも申し訳なくなってきたしねえ」

「ボロくなんてないで~。きれいに掃除もしてるやん。これからも頑張ってな」

「ハルナちゃんもよろしくやるんだよ!」

「あと百年やるわ!」

 ハルナとマーサはおおげさに再会を約束して抱擁した。



 ハルナは自宅兼事務所に移ると、その日のシフトが入っていない従業員たちを事務所に集めた。一種のねぎらいだ。


 この町では滅多に出回らない高価な酒もテーブルに並んでいる。

 普通は貴族たちしか食べていないような貴重なチーズなどもある。

 もはやハルナは一流経営者なので、貴族や商人に分けてほしいとお願いすると申し訳ないほどにたくさんもらえた。


「みんな、ずっと頑張ってくれてありがとうな! 今日はとことん騒いでやー! 無礼講やー! あ、うちの店はもともと無礼講やったわ~!」


 ハルナはいつものノリ以上に場を盛り上げようとした。今日はお祭りなのだ。

 だが、どうもその日は少し空気が違う。


 数名のバイトの顔が暗い。その中に一人目のバイトとして長らく尽くしてくれたココンの顔もある。今では金庫のカギだって任す時があるぐらいだ。


「なあ、ココン。しけた顔してるけど、なんかあったんか?」

「あの、店長……。私……」

 しぼり出すようにココンはこう言った。


「このお仕事、これで終わりにしてください。退職します……」

 ほかの三人も同じようにうなずく。


 いきなり四人の辞意を知らされた形だ。


「ええー! なんでなん……。そんな厳しかった……? お好み焼き作ること以外はやさしかった思うねんけど……。それとも馴れ馴れしすぎた……? ココンが言ってた道具揃えるのに必要な目標額にもまだ届かへんのとちゃうかな?」


 ハルナ本人も自分が馴れ馴れしい自覚はあった。

「違うんです……。私たち、この四人でパーティーを組もうと思ったんです……」

 その言葉でハルナもすとんと胸に落ちた。


「お金を貯めるのなら冒険者として、ダンジョンに入るべきだなって……。冒険者の人たち相手の商売をしてて、毎日冒険者の人たちとやりとりして、それで自分もそっち側に行かなきゃって……」


 ココンの寂しそうな顔からも心残りがあるのはわかった。


 それでも、どこかで冒険者は決断をしないといけないのだ。


「私、店長もお店も大好きです……。でも、だからこそこのままじゃ冒険者じゃなくなっちゃいそうで……。これからはお客さんとして『ハルちゃん』に通います!」


 そっと、ココンに近づくと、ハルナはその肩を抱いた。

「なんや、ええ話やんか……」


 ココンの声にハルナはもらい泣きした。

「わかった! みんな、自分の生きたいように生きんともったいない! 頑張り! いつでもお好み焼き食べに来てな!」


 こればっかりはしょうがない。ハルナも送り出してやろうと思った。

 みんな、本職は冒険者なのだから。


「すいません、じゃあ、俺も……」「僕も冒険者に戻ります!」


「え、そんな、辞めるん!」


 一気に六人が辞めることになってしまった。




 これにはハルナも頭を抱えた。経営の危機だ。

 すぐに補充しようにもダンジョンの店はそれなりの冒険者でないとつとまらない。


 だが、そんな冒険者が無限にいるわけではない。

「とにかくギルドに求人出すしかないな……。もはや、一号店を止めるわけにはいかへん……。近隣のギルドにも求人や」


『ハルちゃん』ができてから、冒険者たちのダンジョン攻略のあり方が質的に変わってしまっていたのだ。


 それなりの実力の冒険者になればほとんど手ぶらで『ハルちゃん』まで行き、そこから本格的にダンジョン攻略に挑むなんて者すら存在している。


『ハルちゃん』のおかげで地下十五層から地下二十層付近、俗に「中堅以上のエリア」と言われている場所での探索がかなり容易になり、ギルドの冒険者全体の質の向上にまでつながっていた。


 いわば、『ハルちゃん』はダンジョンの奥へ向かうベースキャンプと化しており、公共事業に近かった。臨時休業の日を設けることもはばかられる状態だ。


 なので、とにかく人が必要なのだ。

 そして、善は急げとギルドに入ったのだが――

「なんだと! やんのかよ!」

 いきなり怒鳴り声がハルナの耳に入った。


 どうやらケンカらしい。


「なんや、なんや? なんか、あったんか?」


今回、続き物なので、早く次の話も更新します!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ