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仮想現実の異能奇譚  作者: 蟬時雨 あさぎ
act.1:prelude
4/72

03:謎の青年


 マヨイゴ。聞き慣れない単語に戸惑いながらも、その後に続く言葉に真琴(マコト)は飛び退いた。

 捕まえるだなんて言われてしまっては、得体のしれない相手である以上、ただの物騒な言葉にしか聞こえない。


 臨戦態勢をとり、素早く両の手を打ち鳴らした。


「来い!!」


 先程と同じように、一双の短剣が顕現する。その様相に男は驚き目を見開く。そして、此方へと向ける眼光を鋭く尖らせる。


「……異能者か」

「だったら何?」


 剣の矛先を彼に向けて、睨みつけながら端的に返す。その様子にふぅ、と男が息を吐いた、次の瞬間。


「……こおれ」

「っ!!」


 パチン、と鳴った指の音と共に、宙に浮いていた短剣と、右足が凍りついた。その冷たさが真琴の痛覚に突き刺さる。このままでは、凍傷になってしまうだろう。早く抜け出さなければ。


「どういう(つも)り?」

「大人しくしてもらおうと思って」


 青年の目は、真面目にそう告げているのだと示していた。しかし、これぐらいで大人しくなると見くびられては困る。

 色々と災難な経験をしたことのある真琴の度胸は、そこらの女性とは比べものにならなかった。


「お生憎様!」


 氷漬けにされようが、真琴の〈念力〉に支障は無い。氷ごと操って、彼へと短剣を向かわせる。驚かす程度で良い。当てるつもりは毛頭無いが、脅しの意味も含めて〈念力〉で氷漬けの短剣を操る。

 当の男自身は難なく(かわ)しつつも、無表情だったのが一変、その顔は驚きで満ちていた。


真逆(まさか)、二つ持ってるのか……?」


 そう言って真琴を見ると、パチリ、再び指を鳴らす。


「凍れ!」


 地面に固定するように、地から生える氷柱状に短剣が凍らされてしまった。これではもう〈念力〉を短剣に使うことができない。


(新たに〈複製〉して戦う? いや、それよりも、脚に温かみがなくなってきてる……)


 この状況をどう打破するか。ぐるぐると頭の中で考える。


 とりあえず、足と武器を凍らされたものの、彼方(あちら)にしっかりとした敵対意識は見えない。真琴が現に攻撃らしきことをしているにも関わらず、反撃する様子もなかった。


 ならば、対話も可能なのではないか。


 真琴は意を決し、こちらに向かって歩いてくる青年に向かって声を出す。


「捕まえるって言ったよね。何が目的?」


 睨みつけながら、そう問いただすような声音で言う。その気迫故か、青年は足をピタリと止めて視線を真琴から少しずらした。


「それは……」


 そして、口を開きかけたところだった。



(ガク)! 何やってんだ!?」



 響いたのは、目の前にいる青年よりも少し高い、驚きを含んだテノール。

 乱入してきたのは、同じような燕尾服を纏った青年。こちらも顔が整っており、真琴は二人の青年が似ている気がした。よく見ると、乱入してきた青年の方が若干髪質が癖っ毛である。


「何って、捕まえてた」


 端的に、氷漬けを引き起こしていたガクと呼ばれた青年がぶっきらぼうに答える。その返答を聴きながら癖っ毛の青年がつかつかと歩み寄り、こちらに一瞥をくれると。


「語弊があるだろ、それじゃ! てか、こんな事してたら凍傷になっちまうぞ、早く溶かせ!」


 窘めるように、そう一息に捲し立てた。


「……!」


 その言葉に少し目を見開くと、樂は、ぱちり、と再び指を鳴らす。ふっと真琴の右足を地に縛り付けていた氷が霧散する。


「うわっ」

「おっと!」


 思わずふらりと身体のバランスを崩し、地面に手を着く。と同時に癖っ毛の青年が此方に駆け寄ってきた。もう一人から、驚いたように息を呑む音が聞こえた。

 右足を手で撫でると、穿いていたジーンズごとキンキンに冷えていた。何故か、ジーンズを捲し上げて癖っ毛の彼が両方の手で足へと直接触れる。


「!? ……何を」

「ちょっとごめんな、我慢してくれ。――(あたた)まれ」


 その言葉がトリガーとなったように、真琴の足にじんわりとぬくもりが広がった。彼の手元から、段々と足に温かみが戻っていく。青ざめているように悪かった色合いも血が通ってきたようだ。


「凍らせる異能と、温める異能か」

「まぁ、そんなとこだな……よし、靴も脱いでくれるか? 温めねぇと」

「……ありがとう、助かる」


 幸い、燕尾服の乱入者が手当てしてくれたこともあってか真琴の足は元通り動くようになった。


「ありがとう。えっと……」

「俺は(ゲン)。こっちは樂で、俺たちは双子。ほら」


 癖っ毛の方――絃が腕を引っ張り引き寄せると、離れて立っていた樂が変わらず無表情で此方(こちら)を見ていた。


「似てるだろ?」

「……似てますね」


 真琴の感じた似ているという印象は間違ってなかったらしい。しかし、そんなことよりも樂から発せられる無言の圧力が強く、不躾なほど真っすぐな視線に真琴はたじろいでいた。どうしたものかと苦笑いをしていると。


「……悪かった」


 落ち着いた、少しぶっきらぼうな声が響いた。その内容を理解すると、真琴は焦っていやいやと首を左右に振る。


「い、いや! こちらこそごめんなさい。いきなり(やいば)を向けてしまって……」


 むしろ、どちらかと言えば先に剣を抜いたのは真琴の方である。申し訳なさと向けられる眼光の鋭さに深々と頭を下げた。すると、ポンポン、と軽い衝撃が頭に訪れた。


「こっちにも非はある」


 ぼそりと告げられた言葉に恐る恐る頭を上げると、威圧のなくなった無表情がそこにはあった。どうやら許してくれたらしい、と真琴には思われた。


「んじゃこれで後腐れなしという事で、オーケー?」

「ああ」

「はい、すみませんでした」

「うし、良かった良かった」


 絃の言葉に頷きをお互い返すと、彼は満足そうに笑みを浮かべた。二人が並んで立っている所を見ると、現在の不可思議な風景と彼らが着こなしている燕尾服も相まって、まるで仮想世界(エデン)没入(ダイブ)しているように思えてしまう。


「絃」

「ん、どした」

此奴(こいつ)、二つ異能力を持ってた」

「うぉ、本当かそれ!?」


 そのような考えに耽っていると、いつの間にやら絃から驚きの眼差しを受けていた。そういえば、この二人も異能力らしきものを使っていたことを思い出す。


「お二人も、持ってますよね。異能力……」

「ああ、まあな。その前に一つ聞いていいか?」

「? どうぞ」


 何だろう、と思いながら真琴は先を促した。その身に不釣り合いな四つ瞳から放たれる視線を浴びながらも、そこは何とかポーカーフェイスを保つ。


「そうだ……えっと、名前は?」

「真琴です」

「真琴な。んで、真琴は何をしにここへ?」

「私は……」


(何故そんな事を聞くのだろうか)


 疑問に思いながらも、端的に返した。


「友人を助けに来ました。……これを見てください」


 ウエストポーチにしまっていた、友人――詩織(シオリ)の眼鏡を取り出した。起動してみると、まだシステムは生きていた。

 例の溜まった開封されていないメッセージを、二人へと見せる。どうしたの、何があった、今何処にいる、返事をして、などなど。


「私が送ったメッセージです。彼女からは、この場所へと繋がっていたカフェ辺りの位置情報と助けを求める知らせが送られてきていたので……」

「助けに来た、って訳か。なかなか勇敢だな」


 後を引き継がれて言われた言葉に、頷いた。


 絃がどうだ、と意見を仰ぐように樂を見遣る。樂が軽く首を傾げて戻し、二人が視線を交わすこと数秒。それだけで二人の意思疎通には事足りたようだった。


「もう分かってると思うけど、俺たちは異能者だ。俺たち二人以外にも異能者がいて、ある団体を立ち上げて活動してんだ」

「団体を……? いや、他にも異能者がいるの!?」

「ああ、居る」


 今まで生きてきた中で、自身以外の異能者に会ったことなかった真琴にとっては驚き以外の何者でもなかった。目の前に二人居ることもだが、加えてそれ以外にもいるだなんて。


「とりあえずは、他の仲間の所に行くから付いてきてくれるか? 詳しい話はそれからにしよう」


 絃の言葉に頷くと、燕尾服を翻して彼ら二人が先導する。その後に続いて、謎の空間のさらに奥へと真琴は向かっていくのだった。


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