悪役令嬢に転生したけど、何故かヒロインに壁ドンされてます
乙女ゲーム転生の小説を読んで、自分でも書いてみたくて書いてみました。
夕暮れ時の教室。
教室には、私と彼女の二人しかいない。
「ねえ、詩音ちゃん……」
笑みを浮かべて近付いて来る彼女から、逃げるように私は後退る。しかし、すぐに壁にぶつかってしまう。
逃がさないと言わんばかりに、彼女の手が私の顔の両側に置かれる。
彼女のエメラルドのような淡い緑色の瞳が私を映す。
彼女は私の耳元に顔を近付けると、吐息と共に囁いた。
「……詩音。俺のものになって」
八重山詩音、16歳。
私には前世の記憶があった。
どうやら私、乙女ゲームの世界に悪役令嬢として転生したようです。
悪役令嬢として、日々ヒロインいじめの使命を全うしていたはずなのに――
何故私は今、ヒロインに壁ドンされているんでしょうか!?
じ、状況を整理しよう。
今日も今日とて、放課後にヒロインを呼び出した私は、ヒロインに対して散々嫌味を言っていた。
しかし、ヒロインの様子が可笑しい。
私がいくら嫌味を言っても、終始満面の笑みを浮かべている。
え、なんか怖い。
恐怖を感じた私は嫌味を言うのを早々に打ち切り、「ご機嫌よう」と捨て台詞を吐いて帰ろうとして。
そして、冒頭に戻ると。
――アカン。
状況を整理しても、ヒロインに壁ドンされる意味が全く分からん。
というか、この状況何?
女子が女子に壁ドンされるとか。
いくら壁ドンに憧れてたって、同性にされてもときめかない。
あれ? 同性?
さっき、ヒロインの一人称『俺』だったような……。
もしかして、ヒロイン、男?
乙女ゲームのヒロインが男って、あり?
なんか言葉が矛盾してるけど、そんなの今は気にしている場合じゃない。
「俺のものになって、俺だけを見て」
「ふぁっ」
耳元で囁かれて、思わず変な声が出てしまった。
仕方ないだろ! 私は耳が弱いんだ!!
恥ずかしくて顔が紅くなるのがわかる。
そんな私を見たヒロインは、口端をあげてニヤリと笑った。
――よく考えたら、この状況ヤバくないか?
ヒロインがヒロインでも、ヒーローかもしれなくても、私は貞操の危機なんじゃ……。
ど、どうすればいいんだ!?
とりあえず、攻略対象の誰でもいいから、コイツをどっかに連れて行ってくれ!!
◆ ◆ ◆
自分の腕の間にいる少女をまじまじと見詰める。
いつも浮かべている傲慢そうな表情はなく、頬を紅く染めて恥じらう彼女はとても可愛い。
そんな彼女を抱きしめたい衝動にかられる。
そして、俺は衝動の赴くままに彼女を抱きしめた。
「なっ! ななな、何しているのっ!」
最初は驚いて硬直していた彼女だったが、すぐに俺の腕から逃れようと抵抗する。
「何って……抱擁?」
「いや、そうではなくて! 何故っ――」
彼女の口を自分の口で塞ぐことで、彼女の言葉を遮る。
唇と唇が一瞬触れ合うような、そんな可愛らしいキスじゃない。
俺という存在を刻み込むように、深く口付ける。
しばらく彼女の唇の感触を堪能した俺は、ようやく唇を離す。
その時に彼女の唇から垂れた、どちらのものか分からない唾液を舐めとる。
上手く呼吸が出来なかったのか、彼女の息遣いが荒い。
そんな彼女の耳元に口を近付けて囁く。
「……これからよろしくね。詩音ちゃん」
・八重山詩音
ゲーム:攻略対象者に近付くヒロインを排除しようと、ヒロインをいじめる悪役令嬢。
現実:悪役令嬢に転生したのでその役目を全うしようとするも、前世の記憶があるためなかなか非道になれない。ヒロインに対するいじめはもっぱら嫌味を言うだけ。
・ヒロイン
ゲーム:見目麗しい攻略対象者達といじめなどの困難を乗り越え、結ばれる。
現実:何故か男。家の都合で女装して学校に通っている。攻略対象者達は、よき友人。何かと絡んでくる詩音に好意を抱く。