人間の君と過ごした時間は不死身人間の僕の生きがいとなりました。
【プロローグ】
僕は“何万年”生きたのだろう。
そして“何万回”死んだのだろう。
人生はつまらないもので『容姿・親・環境』どれが変わっても僕の心が満たされることはなく、
ただただ生きて死んでの繰り返しの日々を送っていた。
この世には昔、数多くの不死身が生息していたが、
地球環境の変化と人間の進化の発達により絶滅したのだった。
だが、“僕達”は不死身の中でも3000万人に1人という確率で生まれた
身体だけが再生して心は変わらない
僕は不死身人間である。
「莉亜!!いつまで寝てんの!早くおきなさーい!」
耳の中にスピーカーが付いているのではないかと思うくらい大きな声で飛び起きる。
眠たいながらも目をこすりリビングへと向かう。
「おはよう。」
「早くしないと遅刻するわよー。」
時計を見ると時間がぎりぎりなことに気づき急いで用意するが、
今日はもう一限目は出ないでおこうかなとそんなことを呑気に考えてた。
「行ってくる。」
「ご飯はいらないの?」
本当に都合のいい奴だ。父と上手くいってるときだけ限定で僕の心配をする。
上手くいってない時は家にも帰らずに男遊びに明け暮れて僕のことも無視だ。
この人を見ると、本当に人間はわかりやすい生き物だとつくづく思う。「あぁ。いらない。」
「そう。行ってらっしゃい。」
この体になって17年。
この体は運動も勉強も出来るようで特に不自由もなく暮らせている。
僕自身、運動能力も学力も完璧といっていいほどあったが、身体が変われば変わるものなのだ。
僕自身に運動能力や学力があったとしても、身体の運動神経や脳が劣っていれば関係が無くなるのだ。
これは本当に厄介なもので前の体は両方が駄目ですごく苦い思いをした。
だが、どの体になっても社交性は身につくことはなく、学校では一人で生活している。
一人が一番気楽なのだ。
「んー。二限までどうしようか。」
結局行くところもなく保健室にいることにした。
「あ!高坂さんいらっしゃい特等席空いてるわよー」
アラフォー・独身・彼氏いない歴7年の保健の先生が笑顔で言う。
スキップしながら保健室を後にする彼女を見る限り昨日の合コンが上手くいったのだろうかとぼんやり考えていた。
「ありがとうございます。」
サボりがちな僕はいつしか窓際の角のベッドが、僕の特等席になっている。
ベッドに寝転がり天井を見ていると
「りーあっおっはよう♪」
聞きなじみのある甲高い声が聞こえる。声のするほうに目を向けると、
そこにはカーテンの隙間から顔を覗かせる優哉がいた。
こいつも僕と同じ不死身人間であり、腐れ縁である。
日本には10人の仲間がいるが、そもそも年に一度会うか会わないかであるため、
こいつが一番家族のような存在である。
そのまま視線を元の天井の方へ移した。
「もぉ~!また無視して!莉亜って本当に冷たいよね~。もう俺泣いちゃうよ?」
優哉は僕と真逆な性格で明るくムードメーカーのような奴だ。
「君は少しぐらい黙れないのか。本当に落ち着きのない奴だ。」
「莉亜怖いよぉ~。莉亜も女の子なんだからスマイルスマイルっ♪怒んないでほら、ね?」
そう言って差し出したのは綺麗な色の飴玉だった。
「ぼ、僕がそんなものに釣られるなんて思ったら大間違いだぞ?」
「そんなに欲しそうな顔してなに言ってんの?いらないんだね?」
「し、仕方がないからもらってやろうじゃないか。」
「人にものをもらうときはなんていうのかな?」
「それちょ、ちょうだい?」
「ど、どーぞ!」
なぜか顔を赤らめながら優哉はそれを差し出した。
飴玉が僕は大好きなのだ飴玉を目の前にすると我を忘れてしまう。これでいつも優哉に釣られてるのだ。
飴玉は綺麗だ。光にかざすときらきらと光り、実に美しい。
食べるとすごく甘い味が口に広がる。これを食べているときは幸せを感じる。
「本当うまそうに食べるなお前。」
「だってすごく美味しいんだもん...」
「お前ずっとそんなだったら可愛いのに。」
飴玉に夢中になっていた僕は優哉の話をきいていなかった。
何て言ったのかもう一度問いただすと、なんでもないよと笑った。
しばらくして、予鈴がなったので僕は保健室を出た。
優哉はサボりがちで授業にあまり出ていないらしい。
出席日数が足りているのか心配だが、優哉は何とかなるだろうと言う。
教室に戻ると授業がまだ始まっていなかった。
熱気と声で入り混じったこの場所はやはり苦手だと改めて感じさせられる。
することも特にないので仕方なく読書をすることにした。
「授業始めるぞー」
時間が経つのはあっというまで、数学の教師が教室に入ってきたので本を閉じた。
そして何度聞いたのだろうと思うような退屈な授業を受ける。
嫌でも覚えてしまうのだ。
六限目の授業も終盤に差し掛かり、また退屈な一日だったなと振り返る。
キーンコーンとチャイムがなったころには、教室中がまたがやがやし始める。
それから家に帰りベットに寝転がるとなんとなく携帯電話をいじってみた。
昔と今じゃ気持ちが悪いくらいに環境が変わったものだ。
昭和時代ぐらいが一番住み心地がよかったなと今になって思った。
今の時代は発達しすぎて目がまわりそうだ。
携帯電話は、前の体の時にも持たされたが本当に苦手だ。
しかもこの前に母が買ってきた物はタッチパネル式というもので、
余計僕の頭をぐちゃぐちゃにしている。
でも使いこなせないと何かと不便だと思い触ってみるものの、さっぱりなので優哉に聞くことに。
「えーっと。」
受話器のマークのはいったボタンを押すと、繋がったらしくプルプルとなっている。
「はいもしもしー?」
「僕だ。」
「莉亜じゃんよくかけれたね!って僕だーってオレオレ詐欺じゃないんだからさー。」
「それは失敬。本題だが、新しく携帯電話を変えたんだがどうもうまくいかなくてな。もしよかったら僕に教えてくれないか?」
「あーそーいうことね!全然へーきだよっ!じゃあ今から行くね!」
「ああ。ありがとう。」
電話を切り、待っていると窓の外から、ものすごいスピードで駆けてくる優哉の姿が見えた。
ガチャっとドアを開ける音がしたかと思うと、おじゃましまーすという声と共にドタバタと階段を上る音が聞こえる。
「ごめんごめん待たせちゃって。」
はぁはぁと息を切らしてやってきた。
「そんなことよりもなぜ君は不法侵入ばかりする?チャイムを鳴らせとどれだけ言ったらわかるんだ?」
「ごめんってばー。」
「まぁいい。さっさと教えろ。」
おもに、電話やメールの仕方を教えてもらった。
この機能は使えないと不便だからと言う。
「でーこうやって...わかった?IO?」
僕の実の名前であるNo.1 IO。優哉はNo.2 RO。初期の身体の際につけていただいた名前である。
「あぁ。ありがとう。わかったよ。」
「じゃあ、アプリでも入れてみる?」
「あぷり?なんだそれは?」
「ゲームのソフトみたいな感じかな?それでね、IOに使ってほしいのは、SNSのチャットアプリなんだけどー、SNSっていうのは知らない人と繋がれるものなんだけどね、結構友達とか作れるらしくて、これなら顔も合わせずに済むし、IOも友達作れるかなーって!」
「余計なお世話だ。」
そう。僕は一人でいいのだ。これからも今も。
「いいじゃん嫌だったらやめられるんだしさ、やってみるだけやってみよう?」
「...すぐやめるぞ?」
こういう時ROはすごく強引だ。それを分かった上での的確な判断である。
僕がそう言うとROはパッと笑ってやったー!と上機嫌ではにかんだ。まったく、単純な奴だ。
ROが帰った後に試しにやってみることにした。
「本当に世の中にはいろんな奴がいるのだな。」
驚いたことに嫌々始めたものの、見ているだけでも楽しめてきたのだ。
すると、一人の女性が目に入った。
≪人と関わることが苦手で、克服するために始めました。もしよければ、誰か話してくれる人はいませんか?≫
「僕と同じだ...」
人と関わることが苦手か...この人なら僕も話せるかもしれない。
ポチッ。
これが僕と君との出会いだった。何気なく始めたこの場所で君と出会った。
(こんにちは。追加させてもらいました。もしよければお話しませんか?)
悩みに悩んだ末、いちばんシンプルなものを送った。
鳴り止まない心臓と共に返信を待った。
それから何分かした後に通知音が鳴った。
(ぜひ!)
その後彼女とはいろいろな話をした。彼女の名前は真矢という。歳は偶然にも同い年で、明るくやさしい子。僕は自然と真矢との会話が日常になっていた。今までに僕が興味を持たなかった物も真矢の話を聞いていると興味もわいた。
こんな僕でも受け入れてくれる人がいるのだと自信を持てた。こんな僕と会話などしていて楽しいのか、邪魔になっていないか不安になることもあるが真矢は莉亜と話すのすごく楽しいからと言う。
それからは僕のつまらない日々に花が咲くように毎日楽しいと思えた。
つまらない授業も、これが終われば真矢と話せると思うと気が楽になった。
この頃はよく会いたいという話をしている。いや、僕が一方的に話しているだけかもしれない。
なぜか、この話になると真矢は口ごもるのだ。多分何か理由があるのだろう。
そう自分に言い聞かせるが、やっぱり一度は会ってみたいと思う。
僕と真矢が出会って一年半が経とうとしていた。
扇風機とクーラーの音が混じり合うそんな夏休みを送っていた。
そんな中、やはり僕は真矢からの返事を待っていた。
この頃前よりも返信が遅いと感じることが多くある。
用事もあるだろうから、当たり前なのだが。
すると真矢からメッセージが届いた。
(会う?)
正直びっくりした。だが、それ以上に嬉しい気持ちが大きかった。
僕はその後すぐに返事を返した。
(ああ。会おう!)と。
だが僕はまだこの時は何も知らなかった。
真矢が僕に会うと言った理由を。
その次の日、僕は真矢にもらった住所を見ながら、携帯電話の地図を頼りに真矢の居場所に向かった。
「...ここか。ーーー え?」
見上げた先には白い大きな建物と車いすに乗った一人の少女が立っていたのだ。
「莉亜だよね..?改めてはじめまして。近藤真矢です。」
正直僕は困惑していた。行った場所が病院ということだけでも頭が回ってない上に、真矢が車いす座っているというこの状況がいまいち把握できていなかった。
騒然と立っていると真矢が僕のことをベンチに誘導した。
しばらくお互い黙り込んでいたが、突然真矢が話し始めた。
私は中学生の時、何不自由なく暮らしていた。信用している友達もいて、学校も楽しかった。
そんな中、中学三年の夏に体に違和感を覚え病院に行ったところ診断された病名は癌だった。
それからは入院生活を送り始めていくものの、悪化していくばかりで良くはならなかった。
それまで仲良しだった友達は一人もお見舞いには来ることもなく、抜け落ちる髪と病室の天井を眺めている毎日。そんなときに暇つぶしに始めたSNSで莉亜と出会った。
話していくうちに人柄が見えてきて、ちょっと変わってるところ、人見知りなところとかすごく優しいところ莉亜のことを知るたびに笑ってる自分がいて、いつの間にかかけがえのない存在になっていた。
仲良くなるにつれて驚かせたくない思いから病気のことを話せなくなっていった。
僕は黙って真矢の頭を撫で、微笑みかけた。
真矢の服には一滴、二滴と小さなシミができていた。
その日からは毎日真矢に会いに行った。
他愛もない話をしているだけなのに真矢と過ごす時間は幸せだ。
だが、日に日にやつれていく彼女の姿を見ることは辛いことである。
顔色は悪く、身体は痩せ細っている。死が目前かというように。
夏も終わり、秋が過ぎた初冬。
真矢の病室へと向かった。
病室の引き戸を開けると、いつもより元気そうに笑う真矢の姿がいた。
ベットの横のいつも座るかたかた揺れる不安定な椅子に座った。
「今日は元気そうでなによー。」
「私。」
僕の話を遮るかのように真矢が話し始めた。
「私ね。莉亜と出会えて幸せだよ。改めて言うのも恥ずかしいけど好きだよ大好き。」照れくさいながらも僕も真矢に続けて言う。「ああ。僕も君と出会えてよかった。」
「私と出会ってくれてありがとう。IO。」
ツー。っと音が鳴った後、ピーピーと心電図が鳴った。
真っ白な白衣をなびかせ、駆け付けた医者は何も言わずに頭を下げた。
視界がくもる僕の瞳に映るのは、
目を閉じ、幸せそうに微笑む君の姿であった。
それから10年の歳月が経ち僕は結婚し子供もできた。
旦那と娘と三人笑いながら囲む食卓は、僕は世界で一番の幸せ者なのではないかと思わせる。
「今日の夜ご飯は何にしよっか?」
「ハンバーグ!!」
「ハンバーグは一昨日もしたよ?」
「ハンバーグが良いの!」
「わかったわかった!今日は真矢の大好きなハンバーグにしようね。」
end.
人間の君と過ごした時間は不死身人間の僕の生きがいとなりました。を読んでいただきありがとうございました。
初めての小説ということもあり、慣れない手つきで仕上げていると時間がかかってしまいましたが、無事完成することができました。
この作品は友情をテーマに書かせていただきました。
辛いとき、泣きたいとき、自分の大切な誰かのために生きよう。という思いを込めました。
主人公の莉亜は死ぬことはありません。長い人生、真矢のためにも幸せに生きたいと思ったのではないかと思います。
人間には寿命がありますが、大切な誰かを悲しませないためにも幸せに生きるということをこの作品を通して伝えられたらと思います。
まだまだ至らぬところばかりですが、応援よろしくお願いします。