3.飲み会
なかなか定時で終わらせるのは難しい秘書の仕事だけど、飲み会の当日は何とか時間通りで切り上げる事が出来た。予定が入っていた専務の会食も先方の都合で流れたし、彼も久しぶりに自宅でゆっくりできるだろう。
あくまで冷静にデスク周りを片づけながら、内心ではどす黒い笑みを浮かべる。
さあ、今夜は私の目標達成までの大切な第一歩よ! 小さな一歩かもしれないけれど、この一歩が私の運命を分けるルートに繋がるんだから。
まずは近くの席に座らないといけないわね……。さりげなさを装って、雑談できる環境に行かなければ。参加者は一体何人いるのかわからないけど、女子社員達に行動を邪魔されかねないわ。ただでさえ部外者なのに、言いたくないが一応イケメンの奴に近づけば、きっと反感を買うでしょうし。人気な優良物件に近づく邪魔な女は排除される対象よね……。けっ、アイドル気取りかっての!
やっぱりここは最初、面識のある小林さんの傍に一度座り、奴がトイレにでも立ち上がったタイミングを見計らって……
「……住君、久住君」
「っ! は、い。何でしょう? 専務」
ヤバい、完全に自分の世界に入っていた。専務が呼びかける声に気付かなかったとは! 咄嗟に動揺を抑えたけど、気づかれたかしら? いや、その前に邪悪な妄想をしていた為、顔も邪悪度が増していたかもしれない……。ニヤリとか笑っていなかったかしら!?
冷静になれ、蘭子! と呪文のように呟き、私はいつも通り専務に向き合う。
「すまない、邪魔したか?」
「いえ、既に本日の業務は終わりましたから。すぐに気が付かなくて申し訳ありません。何か御用ですか?」
相変わらず凛々しいお顔デスね、専務は。短髪な髪と立っているだけで感じる威圧感は只者じゃないわよ。ファンタジーな世界なら確実に騎士団とか入っていそうよね。しかも騎士団長とか。
なんて1秒ほどの見つめあいでそんな感想を抱いてしまったが。訝しがる事なく、専務は要件を述べた。
「今夜の会食はキャンセルになった」
「はい、存じております」
先方の秘書からキャンセルの電話を受けたのは私だしな。
腕を組んだまま何やら渋面になった専務は、予想外の誘いを言い出した。
「君は今夜何か予定でも入っているか?」
「今夜は、はい、そうですね。他部署の方から飲み会に参加しないかとお誘いを受けたので、これからそちらに顔を出す予定ですが」
正直に告げれば、専務の眉間に皺が寄る。子供なら若干ビビるであろうその表情にも、私はとっくに慣れた。この人は別に鬼畜でも性格が極悪でもない、ちょっとだけ不器用で生真面目な男性だと知っているから。(仕事は鬼だが。)
「他部署とは、どこの部署なんだ」
「確か営業と、海外事業部の合同飲み会だと伺いましたが」
正確には何人参加するのかわからない。もしかしたら他の部署の人間も参加するかもしれない。でも、私が知る限りではその2つだ。
「営業か……」
ポツリと何やら意味深に専務は呟いた。
あら? 何か気になる人物でもいます? もしそれが諫早だったら、一緒に闇討ちしますか!? 専務がバックについていれば、心強いじゃない。支配的な圧力を、その場に立ってるだけで与えられる人だもの。
って、んな冗談は置いておいて。
いきなりこんな質問どうしたのかしら? と思いきや。専務はすっと切れ長の目を細めて、私を見つめる。不覚にも、ドキッとしてしまった。
「場所は? どこなんだ」
「え? えっと、確か最近出来たトラットリア、だと聞いております。隣駅の西口を降りて、……」
何故私、場所を説明しているのしら。
何やら頷いている専務は、私の説明を聞き終わった後。一言「終わる頃、迎えに行く」と言った。
頷きそうになったのを、寸前で止める。って、は!?
「あの、専務?」
「あの辺は歓楽街だからな。君はお酒は飲めるのか?」
「え、っと、まあ、そこそこいける口かと」
「そうか。それならその後私に付き合え」
「はい?」
え、何このお誘い。意味がわからない。
これまでの1年間、まったく仕事以外でご飯や飲みに付き合う事なかったんだけど!? それともあれか、仕事の話がしたいのか。
「仕事の話でしたら今伺いますよ?」
「いや、違う。完全なプライベートだ。たまには君と飲んでみたいと思っただけだが、迷惑だろうか」
「い、え……迷惑だなんて事は……」
あるはずないけど、若干ありますが! (←どっちだよ)
付き合っていないと言い切れるのは、完全に仕事でしか一緒にいなかったから。これがプライベートにまで専務を関わらせると、話がややっこしくなる。
断り文句を考えていたが、専務は有無を言わさなかった。
「他の奴らに大事な秘書を送らせるわけにはいかないからな。遅くなるようだったら連絡しなさい」
「え、え! あの、それはやっぱり迎えに来るという事、ですか?」
「心配しなくても飲酒運転はしない」
って、そういう問題じゃねぇ! (いや、大事だが。)
帰りの車は誰か別の者に運転させるから平気だとか言って、専務は私に約束させた。
あの人、たま~に過保護になるのは何故なの。私、これでもちゃんとした大人なんだけども?
あれか、一人っ子だったから、妹・弟が欲しかったのか。妹扱いされている感が否めない。何だか妙にくすぐったいが、あまり深く考えない方がいいらしい。
とりあえず、今夜は戦争よ!
私は気合いを入れて、秘書課の同僚に帰りの挨拶をした。
◆ ◆ ◆
「久住さん、こっちこっちー!
「すみません、遅くなりました」
「いいよ、お疲れ様」
手を大きく振ってそう話しかけてくれたのは、先日知り合ったばかりの小林さんだ。スーツのジャケットを脱いだシャツ姿ですっかり寛いでいる。
長方形の大きなテーブルに約20名ほど席を埋めていた。その中にはもちろん、宿敵の男の姿もある。両隣は当然のように可愛い女子社員が埋めていて、心の奥で「けっ!」と呟いていた。
「久住さん、ここ空いているから座って」と空席に案内してくれた小林さんにお礼を告げて、隣に座る見知らぬ男性社員に会釈する。それだけで、その人は若干目を泳がせて「どうも」と言った。
2席斜め前が奴の席か……近すぎず、遠すぎず。いや、かなり近い方ではないか。両端ではないが。
「まさか専務の秘書の久住さんが参加してくれるとは~」と、照れ気味に呟く男性社員の視線を集めて、私は遠慮がちに微笑み返す。
「突然参加してすみません。でも、お誘い頂けて嬉しかったです。私、あまり秘書課以外の方と交流する機会がないので……」
これは事実。ほぼ専務と行動を共にしているから、あまり若い社員と知り合える場がない。同期の子達との飲み会にもなかなか誘われないから、結構寂しいOL生活だ。まあ、仕事に慣れるのが精一杯で、行く余裕もなかったが。
「今夜はお誘い、ありがとうございます」と再び笑顔で告げれば、近くにいた男性社員の顔がほんの僅かに赤く染まった。
照れながら、目の前に座る男性が「久住さんって見た目との印象が結構違いますね」と言った。
「俺、もっとクールで笑わない人かと」
「俺も」
そう口々に言う彼らに、控えめな微笑付きでに「そうですか?」と尋ねれば、「いや、いい意味で! なあ!?」と勢いよく答えられ、内心戸惑う。
奴の両隣を占領している女子社員からの眼差しが、ちょっと冷たくて怖い。まて、私まだ何もしてないわよ。ただ微笑んで喋ってただけじゃないの。
「とりあえず乾杯するぞー!」と声をかけてくれた小林さんに感謝だ。一気に微妙だった空気が霧散し、金曜の夜を祝う飲み会への空気に馴染み始めた。
定番のビールから始まり、女子はそのうちカクテルへ移行した。男性はワインも開けている。お手頃価格の大皿メニューがどんどんテーブルを埋め尽くし、そして私のお皿には何故か甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる男性達が、出てくるオーダーを取り分けてのせてくれる。
「久住さん、カプレーゼサラダはどう?」
「ウニリゾット来たぞ」
「あ、イカ墨パスタも来たな。久住さんはイカ墨は食べられる?」
いや、正直遠慮したい。だって唇が真っ黒になるじゃないか。
その光景を思い浮かべたのか、近くにいた女子社員がくすりと笑った(気がした。)正直に、「すみません、少し苦手で」と答えれば、「カルボナーラはいける?」と尋ねられ、これには頷いておいた。
……何だか周りの女性陣から、女王様気取りとか思われてないか、自分。
これは少し多めに参加費を出しておいた方がいいかも。いや、逆にそんな事したらもっとやっかみが生まれるか。つくづく面倒くさいわねぇ。
「あの、安藤さん? こちら、いかがですか?」
「え? あ、うん。ありがとう」
若干面白くないと思っていたであろうその人に、積極的に話しかけてみた。私は無害よ~有害になるのはそこの外面だけはいい男にのみよ~という念を送りながら、来たばかりのシーフードピザを彼女に回す。
ああもう、何だか無駄に気を遣うんだけど……。
まだ一言も奴と喋れていないのに、ここでへこたれるわけにはいかない。敵を作るのは最小限にとどめておきながら、私はにこやかに一人ずつ対応し、控えめな愛想を振りまきつづけた。
少しずつ私の存在になれてきた女性陣が、聞きたくてしょうがないというワクワク顔で噂の真意を尋ねた。お酒の勢いも入っているのだろう。先ほどまでの微妙な空気は霧散しているからまあ、いい傾向だけど。大勢の前で「専務との関係はどうなの!?」と訊くとは……。ある意味勇気ある行動というか、もはや無礼講って事ね、ここは。
「ただの上司と部下、専務と秘書ですよ?」
「またまた~。色っぽい話の一つや二つ、あるんじゃないのー?」
と、質問を尋ねた女子社員とは別の社員が言った。可愛い系の見た目を裏切ったオヤジ口調の彼女には、ちょっとばかりびっくりだ。豪快にビールのジョッキを飲みほす姿は、そこいらの男よりも男らしい。家ではスルメでも食べてそうね。私は煮干しをよく食べるけど。
「ないですね、まったく。あるとすれば、兄と妹のような関係でしょうか。多少過保護な所がありますので」
「兄妹って、どんな所が?」
「帰宅時間が遅くなったら必ず家に着いた時メールを送るよう言われていたり、朝ごはんはしっかり食べなさいとよく注意されたり。後は好き嫌いはするなとか、」
「それってお母さん……いや、お父さんっぽいね」
うん、だから言ったじゃん。色っぽい話なんてないよって。
今夜飲みに誘われている話が脳裏によぎったが、この場で言うような真似はもちろんしなかった。
◆ ◆ ◆
ふと時間を見れば、そろそろ夜の9時を回ろうとしていた。
3時間近くもこの店にいたことに驚きだ。もうすぐお開きになるだろう。お手洗いに立ち上がった私は、軽く化粧直しをしてから今後の対策を練る。
まずいわね、予定通りに全く進めていないわ。そもそも、奴とまだ会話を一言も交わしていない!
「どっかで声をかけるか……。いやでも、私からかけるのは違う。あからさまにこっちに気があると思われるのは避けたい」
一応好感は抱いているけど、別に私は普通よ? というスタンスでいたいのだ。恋しているとか思われるのは冗談じゃない。あくまでも奴から私に気があると思わせるのが重要。あれよ、俗に言う、先に恋した方が負けってやつよ。
「何かちょっとしたアクシデントでも起こらないかしら……」
タイミングよくそんな物が起こるかってーの!
そう自分自身に言い聞かせながら席に戻る為、通路の角を曲がった時。反対側から歩いてきた人物に思いっきりぶつかり、足元がふらつく。「あっ、」と思った時には、ぶつかったであろう人物に抱き留められていた。
「すみません、大丈夫ですか?」
「ええ、はい……」
と言いかけて、頭上から落ちてきた声に頭が真っ白になる。
見上げれば、異国の血が混ざっている端整な美貌の男が。私の腰に手を回し、がっしりと抱きしめていた。
「っ…………!?」
咄嗟の事で反応が狂った。顔が火照りそうになるのを、必死に抑える。
落ち着け、落ち着けー蘭子ー!! 動揺を見せたら負けだぞ!! ここでの自分的正しい反応は、顔を赤く染める事ではなく青白くさせる事だ。当然、それを目の前の男に悟らせるのはアウトだけどね!!
「あの、すみません。もう大丈夫ですから」
そう言って腕の拘束を解いてもらう。
あ”あー心臓に悪いわ! 大っ嫌いな奴に抱きしめられてしまい、鳥肌が半端ないし! 長袖着てて良かったと密かに安堵した。
内心の叫びは微塵も外に出さないテクを身につけた自分は、女優になれるんじゃないかとたまに思う。
「いえ、今度は僕がぶつかってしまったから。結構飲んでいたみたいですけど、本当に大丈夫ですか? 久住さん」
「っ……、ええ。私、こう見えてお酒は強い方なので。大丈夫ですよ? こちらこそ、申し訳ない事を……。シャツにお化粧が……」
一瞬名前を呼ばれた事に驚いてしまいそうになったが、それも何とか耐えた。
そうよ、これぞアクシデントよ。
ベタだな! とか自分が傍観者だったら真っ先に言ってしまうだろうが、今回のは本当に偶然だ。避けられない事故だ。奴の襟元に、私の口紅がついてしまったのは。
化粧直しでグロスを塗った直後だしね……。べっとりついているわぁ~。
コントか! とツッコミたくなる位、綺麗に唇の形がついているものね。クリーニング代は私が出さないとダメか。まあ、ある意味奴との繋がりが持てるので、これはいい意味に捉えなくては。
「すみません、クリーニング代出させてください」
「いえ、結構ですよ。替えのシャツはいくらでもありますし、今のは僕の不注意でもありますから。こちらこそ、怪我を負わせてしまうとこだった。小林の事言えないな」
苦笑いを零して、クリーニング代は受け取れないと拒否る奴に、私は渋々引き下がる。あまりしつこいのも鬱陶しいだろう。
「いろいろとあいつらテンションが高くて、すみません。お疲れじゃないですか?」と意外な気遣いを見せた諫早に、私は笑顔で「大丈夫です。楽しいひと時を過ごせて、良かったですわ。でもそろそろお暇しないといけないのですが……」と、最後は残念そうに答えた。
私を心配する言動をしているけど、どうせ興味がないくせに。大変ね、(他称)フェミニストは。(※自称ではない。)
「外まで送ります」と言った諫早に、一度は断る。だが、「気にしないでください」と言い切った奴に甘えるフリをした。
まだ会計は済んでいないので、気持ち多めに自分の分を出させてもらい、小林さんに渡しておいた。外に出たのは私だけで、奴は店の前で待機していた。
まさか駅までの道を一緒に行くつもり?
なんて思ったのも束の間。すっかり忘れていた専務との約束を思い出し、さっと視線を走らせる。
ああ、そういえば終わる頃に連絡しろって言われてたっけ……。9時頃じゃないかとは一応言ったけど、まさか本当に来るわけが……
「駅まで送りますよ」
そう諫早が私をさりげなくエスコートしようとする。奴が私に惚れているようには、まだ見えない。遊び感覚で手を出すなら、他社の子であり、社内の人間には出さないだろう。役員付の秘書なんて遊びでも厄介だもの。そこまでこいつは愚かじゃないはず。
駅までは歩いて5分もかからない。「行きましょう」と催促され、頷くかどうか思案していたら――
「その必要はない」
聞きなれたバリトンが背後から響き、一瞬息を止めた。
「お疲れ様です、神薙専務。奇遇ですね。何故あなたまでここへ?」
動揺すら見せない諫早に、ある意味恐れを抱きそうになる。こいつのこの王子顔は、一体いつになったら崩れるの。さりげなく一歩奴から離れれば、スーツ姿のまま近寄ってくる専務が私の腕を取った。
「え?」
「彼女は私が送っていく。君は中に戻りなさい。まだ他のメンバーは残っているのだろう?」
そう言われれば、頷かないわけにはいかない。
諫早は丁寧な口調で肯定し、別れの挨拶を告げて店に戻った。
掴まれている腕に視線を向けて、若干不機嫌な専務を見上げる。
「あの、いつからここに?」
「10分ほど前からだ。9時頃に終わると言っただろう?」
9時からいたのか、まさか。
変な所で真面目というか、なんというか……
「行くぞ」と言った彼の車に乗せられ、すぐにとある隠れ家的なバーで降ろされた。行きつけのバーらしく、マスターとも顔見知りで、少し驚く。新たなプライベートの一面を見せられた気分になり、とたんに落ち着かない。
おかしいわね、さっきは結構飲んだはずなのに。まったく酔っていないじゃないの。もう少しお酒を入れないと、専務の言動についていけないかもしれない。何故だか今日の彼は、仕事で見せる顔よりも、プライべ―トで見せる顔の方が多い気がした。
おススメのカクテルを作ってもらい、1杯を時間をかけて飲み干す。30~40分ほどで店を後にした。
「あの、車は……」
「マスターが預かっててくれるから問題ない。明日取りに行く」
タクシーを拾い、私の自宅のアパートまで送り届けられる。オートロックなんてない普通のアパートは、築年数は浅くてそこそこ綺麗だ。日当たりもよくて立地条件もいいのに、専務は難しい顔で「セキュリティが甘い」とぼやいた。いや、マンションじゃないんだからさ……
「ありがとうございました」
タクシーを降りてお礼を告げれば、何故だか彼まで車から降りた。そのままタクシーを待たせておいて、少し離れた場所で、彼は私の手を握る。
疑問符を浮かべたまま私より頭一個分ほど背の高い専務を見上げれば、真剣な眼差しで彼は私を見下ろしていた。
「君は、今交際中の男性はいるのか」
「……はい?」
どうなんだ、と言われ、あまり頭が回っていないので正直に「いません」と答える。
「ならば好きな男はいるのか」
「憎い男しかいません」
一気に渋い顔になった専務が、「それは私の事か?」と呟いたので、すかさず「違います」と即答した。さっきまで傍にいたあの男の事ですよ、専務。
わずかに安堵した様子の彼に、私は怪訝な視線を送る。一体専務はどうしたというのだ。
が、その疑問はすぐに消える事になった。
「そうか、わかった。それなら俺にもチャンスがあるという事か」
「……チャンス?」
ってか、今「俺」って言った? いつもは「私」呼びなのに。
少し意外だけど、似合うわね……なんて思っていたら。いきなり強い力で専務に抱きしめられて、思考が一瞬ストップした。耳元で低いバリトンボイスが響く。
「君が好きだ。初めて会った時から」
「……え?」
ゆっくりと腕の拘束が解かれ、顔を至近距離で覗かれる。ぞくりとするほど真剣な眼差しに、背筋が何故か震えた。そしてドクン、と心臓が大きく高鳴った。
「返事は今すぐでなくていい。だが、俺との未来を考えてくれないか」
「そ、それは……結婚を前提とした、お付き合いって事、ですか?」
力強く頷かれ、私は絶句する。
……あら? あら、ら?
予想外すぎる展開に、脳内の活動が一時停止した。
誤字脱字訂正しました。




