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19.エピローグ

*本日3話連続投稿しております*

(誤字脱字修正しました。&後書き追記しました)

 雲一つない青空に、澄み渡るような天気。まさに小春日和と呼ばれるこの日、私は2年交際した迅さんとの結婚式を迎える。

 真っ白なウエディングドレスに身を包んだ私は、準備が整った状態で控室の椅子に座っていた。身内だけで挙げたいと思っていた結婚式は、思いがけず大きな物へとなってしまったけれど。それでも出席者を絞った方だと彼が申し訳なさそうに呟いたので、良しとする。

 新郎となる私の恋人、迅さんが来るのを待っていたら。来たのは愛しの旦那様ではなくて、半年前に一足早くゴールインした私の幼馴染兼親友だった。


 「蘭、準備どう?」

 「ゆかり」


 立ち上がろうとする私を手で制し、座ったままでいいと言う。シンプルなパーティードレスに身を包んだ彼女は、少し迷った素振りを見せた後、私に一言尋ねた。


 「いるかいらないか、私には判断できないから直接訊くわね。これ、さっき預かったんだけど」

 

 封筒に入ったカードらしき物を見て、「誰?」と尋ねれば。彼女は「諫早君」と半ば予想通りの答えを返した。

 差し出されたカードを受け取る。複雑そうな顔で見守る親友に、私は「ありがとう」とお礼を言った。


 彼に卒業宣言をしたあの日から数日後。諌早君は会社を辞めた。

 様々な憶測が飛び交ったが、彼が辞めたのには理由がある。同族経営している会社の会長――諫早君のおじい様が、亡くなられた。元々入退院を繰り返していたのだそうだけど、急に病態が悪化し、あっという間に息を引き取ったそうだ。

 元々数年間の約束で外で働く事を許されていた諫早君は、お父様とお兄様に帰って来るよう強く説得されたらしい。表向きの理由はあまり公にはなっていないが、迅さん経由でそう知らされた。彼の家も大きな会社を経営していた事は知っていた為、その事情は納得出来た。

 ただ、心残りだったのは、あの日が彼と顔を合わせた最後になってしまった事。

 私から別れを切り出した手前、会いに行く事は出来ないだろう。彼もきっと私に会いに来ない。お互い別々の道を歩み始めたのだ。接点がなくなった時点で、再び繋がりを求める事は難しい。

 あの日から、昔の怒りや復讐が自分でも驚くほど綺麗に消えた。自分を好きだと言ってくれる迅さんの存在も大きいと思う。リハビリの甲斐あって、少しずつ恋や愛という物も知り、気づけば諫早君の存在は過去の人となっていた。時折思い出しては、元気でいるかなと想いを馳せる程度に。

 本当に、ごくたまに、1年に1、2回ほどゆかりに彼の様子を訊けば、「元気よ」というあっさりした近況報告が返って来た。彼女も半年に1度位の頻度でメールをやり取りしているらしい。「思い出した時だけだけど」と前に言っていたっけ。元クラスメイトのよしみで、親しいほどではないそうだが。


 「知ってたの、今日が結婚式だって」


 白い封筒をゆっくりと開ける。頷くゆかりが「私が言った」と正直に答えた。

 

 「そう。顔は……見せには来ないか」

 「そこまでは本人も無理だって言ってたわよ。それにあんたの方が会いたくないだろうから、って」

 「別に喧嘩売ったりなんてしないけどね」


 ぴらりと開いたウェディングカードには、端麗な字でたった一行「お幸せに」と書かれていた。

 字は人の内面をよく表すと言う。迅さんの字は内面の几帳面さが滲み出ているしっかりした字だし、ゆかりの字はこう見えて結構丸文字で女の子らしい。そして諫早君が書く字は、綺麗なのにどこかクセがあって、彼の一筋縄ではいかない性格を物語っていた。


 きっと何を書くか迷いに迷って、結局一行だけになってしまったパターンだな、と知らず笑みが零れる。

 言いたい事もたくさんあっただろうに、いざ文字にしようとしたら言葉が出てこない。何を書いたらいいか、でも何も書かないという選択肢はない。だから、一言。本心のみを書いてくれたのだろう。

 その不器用な優しさがカードの文字から読み取れた。


 「ゆかり、伝言お願いしてもいい?」

 「いいわよ」


 私の様子を黙って見届けた親友に、私は無敵な笑顔を見せた。


 「”あんたに言われなくっても、私は幸せになるわよ! 悔しかったら、あんたも私に負けない位、幸せになりなさい!”って」 

 

 そしてまたいつか、どこかで会えればいい。お互いの家族を紹介して、どんだけ幸せか幸せ自慢をするのも悪くない。

 そんな未来の予想図を想像しては、くすりと笑みが零れた。


 「了解」と言ってくれたゆかりにお礼を述べると、未来の旦那様が顔を見せる。


 「蘭子、時間だ、……」

 「ふふ、綺麗でしょ。言葉が出ない位に?」


 立ち上がり、花嫁衣裳を纏った私を見て、同じく新郎姿で出迎えた彼は、会社にいる時には考えられないほど優しく笑う。慈しみに溢れる笑顔を見て、私もそっと微笑みを返した。


 14年前のあの日。一人の男と出会い、心が揺さぶられるような大災害(カタストロフィー)に満ちた久住蘭子は今日、神薙蘭子となり、新たな人生の幕を開けた。

 













これにて、「恋愛カタストロフィー」の本編は完結とさせて頂きます。

ここまでお付き合いくださった皆様、本当にありがとうございました。


当初の予定では5話完結だったのですが、あそこで終わるのはあまりにも…という事で、ここまで伸びてしまいましたが、いかがでしたでしょうか。自分で納得のいく終わり方を追求した形がこれです。思わぬ所に流れ着いてしまい、若干びっくりしております。



復讐というテーマの作品なのに、ほぼコメディ。難しいテーマでどこまで自分らしく書けるか、試せる機会を与えてくださった主催者の永久めぐる様、ありがとうございました。


最終的に復讐という意味では、なかなかきつい終わり方だったのではないかと思います。嫌いだ、許さないと憎悪を向けられるより、全てを受け入れて自分から離れてしまった方が、精神的にはきついなあ、と。前回は謝罪で復讐達成と言いましたが、最終的な復讐はこのように成就されました。(されたのか?)

詳しい後書きは後日活動報告にて。


(追記)この作品での”カタストロフィー”は大災害という意味で使用しております。恋や愛に振り回される久住蘭子の人生は、結婚という区切りを持って終了です。諌早との関わりがなくなった時点で終わっている気もしますが、きっとその後は専務に振り回されていた事でしょう。専務とのあれこれは、ご想像にお任せします。テーマは復讐なので、本編はこれにて終了という事でお願いいたします。


それでは、お読みいただきましてありがとうございました!


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