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18.新たな一歩

本日2話目の投稿です。ご注意ください。



 髪を切った。今までずっと伸ばしていた長くて黒い髪を。

 自分で適当に切った髪は、すぐに美容院で整えて貰った。今まで染めた事もなかった髪に、初めて色をつける。派手になりすぎない落ち着きのある茶色。肩上で揃えてもらった髪は、元々の癖毛を生かしたガ―リーなボブに。ふんわりとした印象の自分を見て、美容師さんから太鼓判を貰う。


 彼等が言うように、以前と比べ随分と印象が変わった。強くなくっちゃ! と常に気を張っていた状態から、柔らかさがプラスされたように見える。そのまま自宅に帰る事はせず、私は服を何着か新調した。


 新しい自分に生まれ変わる。一番手っ取り早くスイッチを切り替えるには、やはり見た目を変える事。髪を変え、メイクも変えて、服のテイストも変える。なりたい自分に近づくには、外側のイメージを近づけるのが近道だろう。

 少しだけフェミニンに見えるワンピースを購入し、その日は帰宅した。


 そして翌日の朝。早起きをした私は、東京駅に向かう。

 秘書の私は専務のスケジュールを一番よく把握している。出張先から新幹線で戻って来るのは、朝の10時前。この後午後から専務と一緒に海に行く約束をしていた。でも、私は彼を迎えに行くなんて一言も告げていない。

 

 「驚く、かな……。いや、その前に、私だって気づいてくれるかしら」


 つい数日前と今の私は、遠目から見たら別人に見えるだろう。

 休日の私服姿を見せた事はそう多くはない。どちらかと言えばパンツ姿が多かった私は、膝上までのシンプルなワンピースを身に着けている。薄手のカーディガンを羽織り、専務と鉢合わせるであろう場所で待機している。

 予定通りの時間に新幹線が到着し、人の波が押し寄せた。大勢の中にいても一目でわかる、強い存在感を放つ人物。スーツのジャケットを片手で持ち、小型のキャリーバッグとビジネスバッグを持った彼は、素直に素敵でかっこいいと思った。

 すれ違う女性達が囁く声が、ここまで届くかのよう。それが面白くないと思うのは、彼に惹かれている証拠だ。

 無表情に近い顔に、驚きの色が浮かんでいく。徐々に目を瞠っていく彼に、私は静かに微笑んだ。


 「……っ! なっ、蘭、!?」

 「お疲れさまです、迅さん」


 目の前まで近づいた専務に声をかける。突然の変化に驚きを露わにした彼に、私は自ら歩み寄った。


 「蘭子、何でここに……いや、髪、切ったのか?」

 「はい。似合いますか? 迅さん」


 じっくりと見つめる彼に柔らかく微笑みかければ、専務は目尻を下げて頷いた。

 その表情一つに、胸がドクンとさざめく。

 奥から奥から溢れる暖かなこの想いを伝えたい。顔が見れただけで急速に安堵感が広がっていく。傍にいられるだけで安らぎ得られる。自分を見つめる慈しみに溢れた瞳を見ながら、私は決意した心を告げた。


 「私、あなたと恋を始めたいです」


 数秒の硬直後。どさりとビジネスバッグを落とした専務の動揺した顔と、その後私をきつく抱きしめて「ああ、待ってた」と耳元で囁いた声を、多分私は一生忘れないだろう。







 






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