表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/22

15.予想外の集まり

 指定された約束の場所は、会社からそう遠くはないオシャレなイタリアンレストランだった。店内の内装はイタリアらしい華やかさで、高級感漂うというよりは、庶民的なトラットリアで値段もお手頃、でも料理はうまい、というカジュアルな店だ。


 既に友人たちが中にいることはメールで確認してある。約束の時間より15分の遅刻に、どうやら怒ってはいないらしい。店員の案内を断り店内を見渡せば、一目でわかる後ろ姿が四人。逸る気持ちを押さえ、若干小走りで近寄った私は次の瞬間、笑顔を固定させたまま硬直した。


 「ああ、思ったより早かったわね~。蘭子、こっち」


 振り返って私に目を留めた友人は、相変わらず丁寧に巻かれた巻き髪を片手で整えながら、もう片手で軽く手を振った。手を振られた側としては、振り返したい。が、目の前に映る光景に嫌な予感がよぎる。

 頭は混乱したまま笑顔で彼女達に近寄り、空いている席に腰掛けた。目の前から興味津々な様子で私の一挙一動を窺ってくる彼等(・・)に軽く会釈をして。


 そう、彼等――スーツ姿のサラリーマン風の男共(当然初対面)――が、私達の真向かいに座っている。恐らく年齢は20代半ばから後半頃。人数は四人と、空席が一つある。

 何の疑問も抱かず飲み物のメニューを広げながら、「何にしましょうか?」と相談している隣の友人に、視線のみで事情を窺えば。彼女は一言口パクで、「(合 コ ン)」と言った。


 「(は!?)」


 目を見開く私に、斜向かいに座る男性が笑顔を振りまいてくる。他の友人3名も見たところ戸惑っている様子はない。ということは、今夜の会合の意味を知らなかったのは、私だけということか!

 「聞いてなかった、帰る!」と言ってやりたいのをグッと堪え、私は低く耳打ちするように問いただした。

 

 「ごめん、皆で集まりたかったのは本当なんだけど、丁度全員彼氏と別れたばっかで新しい恋したいね~なんて言ってたら、タイミング良く合コンの話が舞い込んできて、どうせなら一度に集まっちゃおうって話になって」

 「それなら何で初めからそう言わないのよ?」


 じろりと睨む私に、巻き髪美女の香織は言う。


 「だって『合コンに来ない?』なんて言ったら、蘭子絶対来ないじゃない。参加する時はリサーチの為とか、あの何とか君に対抗する為ってだけで。まだ昔の事引きずっているみたいだし、いい加減新しい恋でもして忘れなさいよ。元カレと別れた後、今まだフリーでしょ? 数合わせにお願いって訳じゃないけど、蘭子にもいい男紹介したいと思ってるのよ」


 昔の男に囚われすぎ、と大雑把な事情のみ知っている友人は、私の今の状況を当然知らない。その天敵と専務からアプローチされているなんて事を知っているのは、ゆかりだけだ。

 私の事を心配して、多少強引に強制参加させた事は、悪意があったわけじゃないから、何と言うか怒るに怒れない……!


 「あんた達、気になる相手がいたら遠慮なく攫っていっていいわよ。私は合コンする気なかったし、今回はパスするから」と、早くもそんな宣言をすれば。呆れたため息をつかれ、香織は渋々了承した。


 と、前を向けば最後の一人が席についた所だった。隣に座る仲のいい男性から、遅いと小言を言われているのは……


 「って、遊馬!?」

 「うわっ! 蘭ちゃん!?」


 スーツ姿の遊馬こと、親友の長年の彼氏は、驚きに目を見開いた。って、驚いたのはこっちも同じよ!


 「な、何でいるの。ゆかりはまさか内緒とか……」

 「蘭ちゃんこそ、って。いや、俺はその、ここに来る予定だった会社の先輩が急に残業入って行けなくなって、お前代わりに行ってこいって追い出されちゃって……」


 人がいい彼は、断り切れなかったそうだ。

 弱りきっている遊馬を見れば、恐らく彼女がいると言っても断れなかったのだろう。完全なる数合わせ。人員調整せずに、初めから四対四でやればよかったのではないかと、思わずにはいられない。


 「ゆかりに黙っててほしいなら、私は何も言わないわよ」

 

 そう告げれば、遊馬は一瞬安堵したように表情を緩め……すぐに引き締めた。そして緩く頭を振って、視線を若干俯ける。


 「いや、正直に言うよ。別にやましい事なんてないんだから。言わない方がおかしい」

 「そう、それなら安心だわ」


 この二人が長年お互いを想いあって付き合えるのは、隠し事をせずにいるからだろう。何かあっても話し合う。ゆかりは淡々と怒るから、遊馬も本気で怒らせたくないようだし……(わかるわ、それ。)


 一通り定番の自己紹介をした所で、料理が運ばれて来た。おいしそうな匂いに食欲が刺激される。生ハムとレタスのサラダをプレートによそって、シーフードのリゾットを口に運んだ。うん、ここはなかなかおいしいわ。

 合コン不参加組として遊馬とばかり話していた私に、隣の香織と喋っていた男性が私に声をかけてきた。


 「蘭子ちゃん、だっけ? 職場はこの辺なの?」

 

 手入れがされている茶髪に、人懐っこい笑顔。特別かっこいいとまではいかなくても、まあまあ普通にいい感じという微妙な評価を下してしまう男性は、遊馬の知り合いらしい。こっそりと「取引先の知人」と教えてくれた。 なるほど、だから親しげだったのか。


 「ええ、〇〇駅なので、ここからなら電車で15分ほどかと」

 「えーマジで? 〇〇駅使ってるなら俺らどっかですれ違ってたかもね。仕事は何してるの? あ、待って! 俺ちょっと当ててみたい」


 どうぞ、ととりあえず外面笑顔を浮かべて言ってみる。何だかノリが軽い大学時代の同級生を思い出させるこの男性は、スーツを着てなければ社会人に見えないかもしれない。(それは言いすぎか)

 心底どっちでもいいわ……と思いつつも、この場の空気を壊す真似はしないわよ。ちらりと横を見れば、香織以外の他三名は、ノリのいい男性達と楽しげに話しているし。

 面白そうに私を観察している香織は黙って彼の返答を聞いている。うーん、と私を眺めてきた斜向かいの男は、「美人だから、秘書課にいたりして」と言った。


 「ええーすごい~! この子本当に秘書課勤務なんですよ」

 

 ノリ良くほめる香織に、その男は「マジで? 当たっちゃった? やっぱりねー! ってか、秘書にピッタリって感じで、俺蘭子ちゃんの会社羨ましいわー!」と答えた。


 「はは、そうですか……」


 どっちでもいいわ。

 なんて正直な感想は、完璧な外面笑顔の下に隠す。遊馬が苦笑している所を見ると、どうやら私の感想はダダ漏れらしいが。

 フレンドリーなトークで盛り上げてくれるこの男と香織だけで話したらいい。友人の顔を見れただけでもう帰りたいと思い始めている私に、衝撃的な言葉が届く。


 「え~紺野(こんの)さん34歳なの? わかーい! てっきり2、3歳年上かと思ってたー!」

 「そう? 嬉しいなー。でも君達の10歳上なんだよね」


 にこにこ顔で笑いながらビールを飲んだ男を、私は思わず凝視してしまった。

 ちょっと待って、この人34歳なの? このノリと軽さで専務と同い年なの!?


 すっと視線を外して、引きつりそうな顔をなんとか整える。

 目の前の遊馬に尋ねれば、どうやら今回この場に来ている男性陣で、遊馬が一番若いらしい。マジか。

 

 「俺と紺野さん以外の3人は、28と30、31だったよ」と教えてくれる。

 30代と呼ばれた彼等を見て、私は小さく頭を振った。


 ないわ、ちょっとないわ。

 てっきり同年代だとばかり思っていた彼等は、予想外に若かった。もう驚くほど、見た目も若いが振る舞いも若い。というか、ちゃらくて軽い。専務と同い年と言われる紺野さんをはじめ、30代の男性ってもっと落ち着きがあって大人なんだとばかり思ってたのだけど。当然ながら、皆がそういうわけではないらしい。


 若く見えるというのはプラスだけど、何故か私には軽薄に見えてしまう。専務と比べる方がおかしいというか、可哀そうだけども。だって身近にいる30代の男性代表って、どうしても専務になるんだもの。


 包容力も大人の魅力も、大人としての余裕も。年上の男性全員に備わっている物じゃないんだと、改めて思い知った。


 「――で、遊馬は彼女持ちだからわかるけど。蘭ちゃん喋ってみたい奴らっている? そろそろ席替えもいいんじゃないか?」


 そんな事を言い出され、私はちょっと狼狽えた。

 いえ、結構なんですが。ここの端っこの席で、遊馬とちびちび飲みながら食べる方が気が楽だし! 


 「いえ、私は大丈夫、……」と言いかけた所で、ふと背後から誰かの影が私の手元を暗くした。覚えのある匂いが鼻腔をくすぐり、思わず背筋に緊張が走る。


 「その必要はないですよ。ねえ、蘭ちゃん?」

 「……っ!」


 ぞわ、ぞわぞわ……っ!

 そんな震えが背筋を駆け巡り、咄嗟に囁かれた方の耳を手で覆う。がばりと振り返った先には、神出鬼没の敵の姿……って、ギャー!?


 「あ、な、ここ、(あんた何でここにいる)」

 「反対側の席でたまたま知人と飲んでいたらね、君の姿が見えたから。ダメじゃないか、僕という存在がいながら、合コンに参加するなんて。……盛り上がっている所悪いけど、彼女はダメですよ?」


 はっきり言わなくっても、しっかり意味が伝わったらしい。

 にっこりと牽制するように、諫早が背後から私の肩を抱いて周りを見回す。ぽかんと口を開けた男性陣と、うっとりとした眼差しで背後の男を見つめる友人達。私の顔からは、血の気が引いた。


 「そろそろお開きなら帰ろうか」


 参加費用より多めの5000円札をテーブルに置いて、諫早は私の手を引いて立ち上がらせる。「ちょっと!?」と強引な奴の行動に抵抗するのは無駄だった。優雅に去って行く諫早と、半ば引きずられるように連れ去られる私を見て、遊馬がぽつりと呟きを落とす。


 「あれって諫早、君? え、何これ。蘭ちゃんどういうこと?」

 「ちょっとー!? 蘭子いつのまに彼氏出来てたのよ!?」


 彼氏じゃねぇ!

 もしこの場に留まっていたら、きっとそんな風に反論しただろう。だが、既にお店を後にしていた私には、他のメンバーが戸惑う声など聞こえる由もなかったのだった。





 



 




蘭子の友人は皆3文字で最後が”り”繋がり。

ゆかり、香織。名前は出てきていない他三名は、沙織、エミリ、汐里の予定(でした。)キャラが多すぎるので出しませんでしたが!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ