表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦国転生物語  作者: 高野康木
戦国武将編
8/27

七話 お前のために

村正ーー。

どうしてなのよ、どうして私をーー。

私の右手にある村正を見る。

辛い時も楽しい時も共に育った仲ーー。

次の瞬間、村正は私の右手から消えた。

それなのに、村正は遠くに行ってしまった。


「嫌だーー。行かないでよ村正!!」


手を伸ばして、遠くに現れた村正を掴もうとするが、届かない。

まるで、あざ笑うかのように、距離がひらいていく。


「私の、何が嫌だったのよーー」


次の瞬間、あの辻斬り犯が現れた。


「幸村ーー、殺すーー」

「あんたがー!」


血が出るのではないかとくらいに、右手を握り締めて、辻斬り犯を殴ろうとしたーー。

完璧な殺意だったがーー。

ふいに、誰かの手に右手を包み込まれた。

暖かくて、殺意を消してくれるようだった。


「大丈夫ーー」


優しい声が聞こえてくる。


「幸村ちゃんは、一人じゃないよ。俺もついてるから」


やっと、わかったわーー、このお人好しそうなバカな声の奴なんて、一人しかいないわねーー。

 

ゆっくりと、目を開けていくとーー。


「おっ?目が覚めたか幸村ちゃん」


お人好しバカの顔が、目と鼻の先にあった。

てか、近いわよ!!


「キャァァ!」


照れ隠しで、つい左手で顔面を殴ってしまったわ!


「アベシッ!?」


武尊は、変な声をあげて倒れた。

しかも、私の上に!!


「イヤーーー!!」


大声をあげて、武尊を蹴り飛ばした。


「ホブッ!!」


また変な声をあげて、壁に激突したわ。

何なのよ、この男は!



ーーー



俺が家に幸村ちゃんを運んだら、信長ちゃんが驚いた顔で出迎えた。


「ど、どうして真田さんが!?」

「説明は、後で市くんに聞いておいて!急いでるから」


信長ちゃんは、だいたいわかってくれたらしく、布団を用意してくれた。

傷がないかどうか、勝家ちゃんと見るとかなんとか言って、追い出されてしまった。

落ち着けなくて、ソワソワしてる俺にーー。


「落ち着いてくださいよ武尊先輩。死ぬ訳じゃないんすから」


市くんが、お茶を持ってきてくれた。


「あぁ、そうだね」


最も俺が心配なのは、心の方なんだがーー。

幸村ちゃんみたいな人は、案外傷つきやすいからな。


「それより、武尊先輩も怪我治さないと」

「俺は、大丈夫だよ」

「そうっすか?足と腹痛そうすけど」

「そこは、幸村ちゃんにやられたところだ」

「えっ?まじっすか」


可哀想な目を向けてくる市くん。

なんか、喜びも入っているような気がする。


「なんで、喜んでんの?」

「そりゃ、武尊先輩も女子に攻撃されるんだなーと思って」

「君の理由とは違うからね」

「へぇ、知ってますよ」


市くんは、そう言いながら俺の横に座った。


「足と腹だったすね。こう見えて俺、回復術使えるんすよ」


怪我している足と腹に、市くんが手をおいてーー。

何か呪文のようなことを、ブツブツ言っていると、俺の怪我が治っていく。


「おぉ!すごいよ市くん!」

「えっへん!これくらい朝飯前すよ!」


そんな事を話しているとーー。


「真田さんの看病、お願いしていいですか?」


信長ちゃんが、俺にそう言ってきたのでーー。


「うん、いいよ」


襖を開けて中を見てみる。

勝家ちゃんと目が合い、お辞儀をして出て行ってしまった。

幸村ちゃんは、ぐっすり眠っているようだ。

ツンデレのツンを出さなければ、可愛いのにーー。

そんな事を思いながら、幸村ちゃんの近くに座る。

すると、幸村ちゃんがーー。


「村正ーー」


悲しそうな顔で、そう言った。

目には、涙が浮かんでいた

つらかったのだろう、刀は武士の魂とも言うしな。

そんな奴に、殺されそうになったんだから。

額にかかっていた髪の毛を、治してあげているとーー。


「っ!?」


幸村ちゃんが、右手を強く握り締めていた。

いつの間にか、怒りに顔を赤くしている。

悪夢を見ているのは、一目でわかった。

だから、俺のとる行動はこうだろう。

俺は幸村ちゃんの右手を、手で包み込んだ。

幸村ちゃんを、殺人者にさせる訳には行かない。


「大丈夫ーー」


自分でも無意識に、言葉を発していた。


「幸村ちゃんは、一人じゃないよ。俺もついてるから」


これまた知らないうちに、かなり幸村ちゃんに顔を近づけていた。

すると、幸村ちゃんがゆっくりと目を覚ました。

いやー、良かったよ。


「おっ?目が覚めたか幸村ちゃん」


しかし、数秒後俺の顔面に拳が飛んできた。


「キャァァ!」


しかも、悲鳴を上げられた。


「アベシッ!?」


殴られた衝撃で、意識が一瞬とぶ。

どうやら幸村ちゃんの上に、倒れたらしい。


「イヤーー!」


今度は、蹴り飛ばされた。


「ホブッ!!」


思いっきり、壁にぶつかる。

なんなの、本当にこの子はよくわからない。


「あ、あんた何なのよ!」

「俺のセリフだわ!」


ここで、あることに気づいてしまった。

彼女が、起き上がったせいで、布団がめくれている。

問題は彼女の格好だ。

まさか、下着姿だなんてーー。

慌てて目をそらしたが、目に焼き付いてる!

白色の下着だった!!

ヤバい、ヤバいぞ!

彼女が、自分の姿に気づいたらーー。

そして、その瞬間が訪れた。

俺の顔が赤くなっているのと、突然顔をそむけたのを不思議に思って、自分の格好を見た。


「っ!?」


シュバッ!と布団を抱き寄せて、顔を赤くする。


「見たな!!」

「す、すまない!見るつもりはなかったんだ!」


涙目で、近くにあった名刀正宗を取る。

しまった、没収しとくべきだった。


「わ、悪かったわね!」

「はい?」

「幼児体型で、悪かったわね!!」


白色の雷が現れる。


「ちょっと待てー!」

「白雷!!」


この日、家の部屋が一つ黒こげになったのは言うまでもない。




「しかし、武尊先輩。ずいぶん傷つけるの好きなんすね」


市くんが、回復術をかけてくれながら、そんな事を言う。


「好きな訳ないじゃん」

「まぁ、俺もよく傷つけますけどね」

「君の場合は、自業自得だろ?」

「へへぇ」


にやける所かい。

そんな事を話していると、信長ちゃんが帰ってきた。


「あれ?なんか焦げ臭くない?」

「武尊先輩のラッキースケベのせいだよ」

「どうゆうことよ市」


信長ちゃんが、可愛らしく首を傾げて言う。

しかし、ラッキースケベとはーー。

失礼だぞ市くん。


「わからねーなら、真田先輩にきいてみな」

「真田さん、目が覚めたの?」


嬉しそうに、信長ちゃんが事故現場に歩いて行く。


「姉ちゃん怒るかな?」


何故、嬉しそうに言う。


「市くんって、案外人の不幸を楽しむよね」


心外だとばかりに、市くんがしかめっ面する。


「俺は、ただ武尊先輩が好きなだけですよ」

「本当かい?」

「まぁ、姉ちゃん程じゃないっすけど」


悪そうな顔で、市くんが言う。

そうか、信長ちゃんは俺と友達だからな。

いやー、嬉しいね。

本当だったらだけど。

その後は、幸村ちゃんもきちんと服を着てきて、一緒に夕御飯を食べることになった。

幸村ちゃんの目が、ゴミを見るようだったけどねーー。


「なるほど、妖刀が盗まれたんすね」


ご飯を食べ終わると、幸村ちゃんがこれまでのことを市くん達に話してくれた。

どうやら、二人じゃ無理だと思ったんだろう。


「大変だったね、真田さん」


信長ちゃんが、幸村ちゃんの頭を撫でながら言う。


「わ、私を子供扱いするんじゃないわよ!」


涙目で言っても、説得力ない。

信長ちゃんは、他人を安心させてくれる力があるのだろう。

今思えば、俺の過去を話したのも、信長ちゃんだけだしね。


「しかし、妖刀の奴はかなり危険すよ。早めに何とかしないと」


市くんが、焦った顔で言う。


特殊警察とくしゅけいさつが出てくるかも」


勝家ちゃんの言葉を聞いた瞬間、俺以外のみんなの顔が、凍りついた。

やめてくれよ、この世界の常識を普通に話すのーー。


「えーと、どんな人達なの?」


自分で聞かないと、教えてくれない雰囲気だったので聞いてみる。

教えてくれたのは、やはり信長ちゃんだった。


「特殊警察て言うのは、殺しを許された集団だよ」

「えっ?この世界じゃ、殺しくらいいいんじゃないの?」

「ううん。見つかったら牢屋行きになるよ」


なるほど、この世界でも殺しはしてはいけないのか。

まぁ、バレなければいいということなんだろう。


「とにかく、あいつらはマジでやばいっすよ。並みの覚醒者じゃ、話にならないっすから」


とにかく、ヤバいということはわかった。


「で、犯人の目星はちついてるの?」

「つ、ついてないわよ」


勝家ちゃんが、冷たい視線をする。

幸村ちゃんが、少し後ずさった。


「俺が思うに、真犯人は女性ではないかと」


俺が、考えていたことを話す時がきたみたいだからな。


「な、なんで女ってわかるのよ!この変態男!」

「おい!あれはお前のせいでもあるだろうが!」


見間違いかな?

今一瞬信長ちゃんが、殺気を放ったのは。


「とにかく、妖刀が奪われた場所を思い出してみろ」

「えーと、銭湯だっけ?」

「そうか!銭湯なら女しか入れないっすよね」


おぉー、とみんなが驚いた声を出す。

えっへん!と言いたいが、誰でもきづくことなので、やめておく。


「そん時、なんか変わった奴はいなかったか?幸村ちゃん」

「うーん」


しばらく考えこんでーー。


「あっ、そういえば治安部隊の人間がいたわ」

「明智か!?」

「光秀のこと!?」


俺と信長ちゃんが、同時に反応する。

しかし、幸村ちゃんは首を横に振った。


「明智光秀ではないわ。髪が長くては目が鋭かったもの」


うむ、どうやら違うらしい。


「てことは、他のメンバーすね」

「私も、そうだと思ってた」


勝家ちゃんと市くんが言う。

他のメンバーかーー。

気になるが、今は考えなくていいな。


「となると、治安部隊が絡んでるのは、確定したね」

「あいつら、覚えておきなさいよ」


うわー、幸村ちゃんがメチャクチャこえー。


「そいつを探してとっつかえましょう!」

「市、この人数で探すのはつらい」


確かにそのとうりだ。

意外と広いしなーー、この世界。


「やっぱり、妖刀をどうにかしないとダメ見たいですね」


信長ちゃんの言葉で、全員ため息をつく。

結局そうなるのか。


「っ!?この気配!」


いきなり、幸村ちゃんが庭に出る。


「真田さん!?」

「追いかけよう!」


俺の言葉で、全員庭に出る。

庭には、妖刀を持ったあの男が立っていた。


「幸村ーー」

「やっぱり、どうりで正宗が騒ぐ訳だわ」


幸村ちゃんは、そう言うと刀を抜く。

まったく、こいつはーー。


「幸村ちゃん、やめておけ!」

「何でよ!」

「まだ、万全じゃないだろうが!」

「っ!!」


悔しそうに、唇を噛む幸村ちゃん。

市くんが、扇子を取り出して前にでる。


「さーて、もう一踏ん張りしますか!」

「私も、手伝う」


勝家ちゃんも、前に出て槍を構える。

しかし、幸村ちゃんがーー。


「あいつは、私が相手をするのよ!邪魔しないで!」

「えぇー、真田先輩むちゃくちゃ言いますね」

「今の先輩じゃ、無理よ」


二人の否定をきくと、幸村ちゃんが噴火した。


「うるさいうるさい!私がやるったらやるのよ!」


そして、妖刀に切りかかってしまう。


「嘘だろ!たく、これだから」

「援護しないと」


市くんと勝家ちゃんが、幸村ちゃんの後に続く。


「ど、どうしょか?」

「そうだねーー。俺らは邪魔にならないようにするか」


俺と信長ちゃんは、非戦闘員だからな。


「うおーー!」


幸村ちゃんが、妖刀の胴を狙って切りつける。

キーンという金属音と共に、幸村ちゃんの刀が止められる。

ぐぅーという声を出して、幸村ちゃんが押し込もうとするが、ピクリとも動かない。

妖刀は、幸村ちゃんの刀を片手で止めていた。

圧倒的な、力の差だった。


「黒雷ーー」


前見た時よりも、倍はある雷が村正を包み込む。


「やべーよ!」


シフトチェンジといって、市くんが鉄扇を投げる。

巨大な手裏剣のようになり、妖刀にせまる。

しかし、妖刀は興味なさげに、幸村ちゃんを吹き飛ばした後、村正を振る!

ズギャーーと耳をつんざく音が、周囲に広がる。


「市!」

「どおわ!」


勝家ちゃんと市くんが、黒雷に押し流される。

市と勝家ちゃんは、武器を盾にしたが、それでも押し流されたのだーー。

幸村ちゃんは、大丈夫なようだがこのままじゃーー。


「武尊くん!どうにかならないの?」


信長ちゃんが、焦りだした顔をする。

わかってるよ、俺も焦ってるさ。


「あるにはあるよ」

「本当!?どうすればいいの?」


どうすればいいんだろう?

とりあえず、あの時のように手を握ってみるか。

俺のたてた作戦は、信長様に頼むことだ。

あの人なら、あいつに勝てるからな。

しかし、引き出しかたがわからない。

だから、手をつないでみよう。


「えっ!た、武尊くん!?」


信長ちゃんが、顔を真っ赤にする。


「これで、信長ちゃんを覚醒させられればなんとか」

「そ、そうか。私が覚醒出来れば」


頼む、あの時みたいになってくれ!

すると、瞳が輝き始めた。


「やぁ、強制覚醒させるかい」


あの男の声が、頭の中で響く。

してほしいけど、どうやればいいんだよ。

前の時は、扉があっただろ?


「あれは、初めてだったからだよ。一度開けば君はいつでも開ける」


なるほど、ならいくぜ!


「了解ー。鍵は君の中にーー」


次の瞬間、信長ちゃんの殺気が増した。

俺に向かってーー。


「おい、サル」


ギリギリと、手を握りつぶされそうになる。


「いでぇーー!!信長ちゃんタンマ!」


手を離してくれたかと思ったら、その手がネクタイにきた。


「お前は、余が好きなのか?勝手に手を握りおって」

「そ、そうしないといけないんーー」

「言い訳か?サルのくせに生意気だな」


ネクタイから、首にきた。

やべーよ!おい!


「さて、余の遊び道具になるか、ここで果てるか、どちらか選ばせてやろう」


信長ちゃんでは、考えられない邪悪な目を向けてきた。

こ、怖い。


「の、信長様実は今大変なことになってまして!」

「大変なこと?」


そこで、信長様妖刀に気づいてくれた。

嫌な顔をして、信長様がーー。


「なんだあいつは。禍々しい負のオーラじゃないか」

「あれを、どうなかしてほしいんですけどーー」


なるほどと言うと、乱暴に手を離してくれた。

し、死ぬかと思った。


「サル、あれは誰の刀だ?」

「幸村ちゃんのです」

「幸村?真田幸村のことか?」


遠くにいる、幸村ちゃんを見つけた信長様は、めんどくさそうに頭をかいた。


「あの女子か。あれはめんどくさいな」


そう言うと、俺のネクタイをいきなり掴んだ。

な、なんでしょう?


「飛ぶぞ、落ちるなよ」


はい?

次の瞬間、信長様が大ジャンプして、幸村ちゃんのところに向かう。


「うぎゃーーー!」


声を出さずには、いられない速さと高さだった。


「黒雷ーー」


妖刀が、黒雷を放ってきた。


「なんだ、遊んで欲しいのか」


信長様は、無表情で黒雷を明後日の方向にはじく。

ち、力が弱かったからとはいえ、あんな簡単にはじける物なのかよ。

そして、乱暴に着地。


「いだっ!」


なぜか、投げ捨てられた。

幸村ちゃんが、信長ちゃんの変わりようにポカーンとしているが、そんなの関係ないとばかりに信長様はーー。


「あれは、お前がどうにかするんだな」

「い、言われなくてもするわよ」

「しかし、今のお前では力不足だ」


ズバッと、きつい現実を言う信長様。

幸村ちゃんも、悔しそうな顔をする。


「だから、余のサルを貸してやる」


・・・・・・はい?

俺ですか?


「サルと協力して、強制覚醒しろ」

「む、むちゃですよ!俺やり方わからないんですから!」


ギロッ、と信長様に睨みつけられた。

はい、黙ります。


「方法は、簡単だ。お前らが信頼しあえばできる」

「わ、私はやるなんて一言も言ってないわよ!」

「やかましい。それができなければ、私があやつを殺す」


むちゃくちゃ言うな。


「では、時間は稼いでやる。ちなみに、そのサルは余の所有物だ。取ろうとしたら、貴様も殺すぞ真田」


そういい残すと、妖刀に切りかかっていた。

信長様も、優しいところあんるだな。

さて、ここから先は俺しだいかな。


「幸村ちゃん」

「何よ」

「とりあえず、俺を信じてくれ」


俺ができることは、これくらいなのだがーー。


「私の獲物は、私が狩るわ」


妖刀に向かって行こうとする。


「ちょっと、だめだってば!」


幸村ちゃんの肩を掴んで、強引に連れも戻す。

みてるだけでも、恐ろしいくらいの戦いなのだから、幸村ちゃんが入ったら死んでしまう。


「じゃ、どうすればいいのよ」


涙声がした。

あの幸村ちゃんが泣いているのだ。


「あいつをーー、村正を救えるのは私だけなのよ!」


目を涙で、濡らしながら言う幸村ちゃん。


「村正を止めるためには、私も命をかけて挑まなければダメなのよ!」


わかってるよ。

お前が、どれほど刀を思っているかなんてーー。

どんなに人を切った刀でも、夢の中まで出てくるほどなんだろ?

だったらーー。

バシッ!

無意識に、幸村ちゃんの頬を叩いていた。


「だったら、お前が生きなければダメだろうが!」


口から、次々言葉が出てくる。


「お前が死んだら、あいつはずっと一人になるんだよ!一人で死ぬことになるんだ!」


目を見開いたまま、幸村ちゃんが俺のことを見ている。


「一人にさせたくねーなら、必死に生きて奪い返せよ!それにーー」


俺は、幸村ちゃんの肩をしっかり掴んで言う。

これが、一番大切なことだからだ。


「俺はな、妖刀のためにお前に協力してんじゃねぇーんだ。俺は、お前のために協力してんだよ」


幸村ちゃんが、俺の胸の中に入ってきた。

涙を見せたくないとばかりに、俺の胸に顔を押しつけてきた。


「あっ、えっと~~」


ど、どうすればいいんだ?

ヒートアップしてたから、どう対応すればいいのかわからねー。


「ありがとう」


うん、なんか言ったみたいだけど、聞こえなかった。


「なんて?」


俺がもう一度言ってくれとばかりに、幸村ちゃんの頭をみる。

すると、幸村ちゃんが顔を上げてーー。


「ありがとうって言ったのよ」


満面の笑みで、そう答えた瞬間。

勾玉が、輝き出した。

そして、俺の瞳が輝く。



ーーー



俺の目の前に、扉が現れた。

ここにこれたかーー。

しかし、信長ちゃんとは違うところが一つだけある。

鎖が少ないのだ。


「それはね、真田幸村は半覚醒者だからだよ」


あの男の声が聞こえた。

お前いったい誰なんだ?


「それは、まだ教えられないな」


含み笑いをした感じで言う。

ふざけてんのかよ?


「いやいや、バカにしてはいないよ。むしろ尊敬しているくらいさ」


尊敬?


「一人だけでもすごいのに、二人目だからね」


なんか、バカにされてる気がする。


「フフッ、そんな君に僕の記憶の一つを見せてあげるよ」


記憶?

次の瞬間、俺の頭の中に何かが流れこんできた。

それは、燃える寺。

その寺を見ていると、身体の中にどす黒い何かが溢れてくる。

そう。この感じは、家族がバラバラになった時姉に抱いたーー。

怒りと悲しみだ。

そのことに気づくと同時に、元の景色に戻った。


「ここまでだね」

「今のはなんだ?」


くすくすと笑いながら、秘密と言う。

余計気になってきた。


「それより、扉を開けなくていいのかい?」


わかってるよ。

俺の右手には、真田家の家紋である、六文銭の鍵がある。


「いっけー!!」


扉は開いたーー。




ーーー




信長様みたいになってたらどうしょう。

冷や汗を流しながら、幸村ちゃんを見るとーー。

赤いマントをしていた。

しかも、背中には真田家の家紋。


「これが 、私の力なの?」


おや、普通だ。


「あれ、大丈夫なの?」

「何が?」

「いや、なんでもない」


信長ちゃんだけなのかな?

性格も変化するのわ。


「これなら、私も戦えるわ!」


嬉しそうに、俺の手をつかむ。

うん、よかったな。


「行くわよ。離すんじゃないわよ」


ーーあれ?

おかしいと思った瞬間、幸村ちゃんが飛ぶ。


「ギャアーーーー!!」


信長様と変わらないくらいの、速さじゃねーか!


「んっ?」


信長様が、俺らの事に気づいてくれた。


「行くわよ」


なぜか、俺を投げるモーションをとる幸村ちゃん。


「ちょっと!」


俺は、信長様の方向に投げ飛ばされた。

信長様が、手を出してくれた。

受け止めてくれるんすね!

しかし、その手は俺の後ろ襟を掴んだ。


「うんげぇ!」

「まったく、世話の焼ける家臣だな」


もうちょっと、優しくしてくれてもーー。

幸村ちゃんが、信長様の隣に降りた。


「バトンタッチね。あんたは休んでなさい」

「断る。余は誰の指図もうけんからな」

「はぁ!?何様よあんた!」

「信長様だ」


悪そうな笑顔で、信長様が言うとーー。

幸村ちゃんは、舌打ちをしてーー。


「好きにしな!」


名刀正宗を構える。

妖刀も構えた。

幸村ちゃんには、白色の雷が。

妖刀には、黒色の雷が現れた。


「白雷!」

「黒雷ーー」


ほとんど同時に放った。

この前は、力が及ばなかった幸村ちゃんだがーー。

なんと、押しきったのだ。

しかし、流石は妖刀だ。

ギリギリでよけた。


「ふむーー。やはり、力を貸してやるしかないようだな」

「い、いらないわよ!」


うん、貸してあげるか。

俺の考えた作戦ならーー。


「信長様」

「なんだサル」


俺は、信長様に思いついた作戦を耳打ちした。


「ほぉ、なかなか面白いてまはないか。やってみる価値はあるな」


信長様が、笑みを浮かべて言う。


「どういう作戦よ」


なぜか、幸村ちゃんが怒っている。


「なんで、怒ってんの?」

「うるさい!」

「おぼぉ!」


腹に膝蹴りされた。

俺ーー、悪いことしてなくね?


「やれやれ真田。そやつは、余の所有物だぞ」

「はぁ?勝手に決めてんじゃないわよ」

「ずいぶん生意気な口をきくじゃないか」

「あんたこそ妄想が激しいわよ」

「余は事実を言ったまでよ」

「二人とも、それくらいにしましょうよ」


ふんっと、二人共そっぽを向いてしまった。

なんなんだよ。


「とりあえず、私に合わせろ真田」

「ムカつくけど、合わせてあげるわ」


妖刀が、黒雷の構えをとる。

信長様が、拳銃を取り出した。


「なんども、同じ技を使わせると思ったか!」


幸村ちゃんが、刀を下段に構えて走り出す。

俺も、自分にできることをしないとーー。


獄炎弾ごくえんだん!」


技名と共に、信長様が発砲する。

弾丸が、たちまち大きな炎の塊になった。

十分に力が溜まってなかったらしく、妖刀が刀で獄炎弾を防ぐ。

炎が妖刀の周りを燃やす。

だが、それが狙いだったのだ。

妖刀の死角から幸村ちゃんが切りかかる。


白雷刀はくらいとう!」


白色の雷をまとった刀で、妖刀の首を狙う。

勝った!

しかし、妖刀は片手で幸村ちゃんの刀を留めようとする。


「っ!?」


幸村ちゃんが、悔しそうな顔をする。

大丈夫、そのために俺がいる。


「幸村ちゃん、止まらず切りかかれ!」


俺は、幸村ちゃんとは逆の方から切りかかる。

確かに、覚醒者と普通の人間では、勝てないだろう。

でも、軌道をずらすことはできる。


瞬神流抜刀奥義しゅんじんりゅうばっとうおうぎ、竜神登り(りゅうじんのぼり)!」


抜刀から、妖刀の片手を切り上げる。


「もらったー!!」


わずかな隙を、幸村ちゃんがつく。

妖刀の首が、飛んだ。

すると、不思議なことに村正だけが、地面に残った。


「村正!」


幸村ちゃんが、村正を抱きしめる。

よかったね、幸村ちゃん。


「よくやったぞサル」


俺の頭を、信長様が撫でまくる。

どうも、俺の作戦がうまくいったようだ。


「サル。なかなかの策だったぞ!褒美をやろう」


えっ、褒美?

うーん、何もないだけど。


「そうだな、余を抱いてみるか?」


思考回路が、シュートした。


「だ、だ、ダメですよ!そんな、こと!」


俺が慌てていると、信長様が邪悪な笑みを浮かべる。


「なかなか初ではないか」


俺の唇に、指をくっつけてきた。

それだけで、俺の心臓が爆発しそうになる。


「余が教えてやらんこともないぞ?」

「何してんのよ!」


幸村ちゃんが、信長様に切りかかる。

流石の信長様は、幸村ちゃんを見ないで刀を止める。


「何のようだ?余はサルと遊んでいたところなのだがな」

「殺すわよ!武尊を誘惑してんじゃないわよ!」


その言葉で、信長様の顔が怒りに染まる。


「まるで、余の家臣がお前の物のような言いぐさだな」

「やる気?かかってきなさいよ」


二人の殺気が、高くなる。

に、逃げていいよね?


「武尊先輩、やりますね」

「まるで、市みたい」

「やめてくれ、冗談でもやめてくれ勝家ちゃん」


この先のことは、言うまでもなく戦闘になった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ