十三話 俺の中で決めたこと
結構走った。
夜中なだけあり、人とのすれ違いなどはなかった。
半兵衛ちゃんが見つけてくれたところは、山の頂上らへんにある小屋だ。
この山ーー比叡山なら平気だろう。
ちなみに、比叡山は比叡山でも、俺のいた世界の比叡山とは違う。
回りを見渡せば、木しかない。
それも、きちんと整理された道がないのだ。
だから、草をさけたり、ふんだりして進まないといけない。
「結構登ったなーー」
「口を開く暇があるなら、足を動かせ武尊」
時刻は、2時になった。
携帯で確認したからわかるが、2時間は歩きっぱなしだ。
光秀ちゃんは、先頭にいるからわからないがーー。
信長ちゃんが、つらそうにしている。
俺と信長ちゃんは、覚醒者じゃないのだ。
普通の人間には、つらい道のりだ。
「光秀ちゃん。ここら辺で、休憩しないか?」
「何?お前は鍛え方がたらなーー」
振り向いた光秀ちゃんは、やっと信長ちゃんの疲れに気づいた。
そして、反省した顔でーー。
「そうだな。ちょうど川が見えたところだ、休憩しよう」
そこらへんにある枝を集めて、火をおこして、囲むように座る。
「ごめんない。私が足を引っ張ってるみたいでーー」
「いえ。私の方こそ気づかずに申し訳ございません」
二人で、謝り始めた。
ただでさえ、夜で暗いというのに、雰囲気まで暗くしないでほしい。
「お互いに謝ったんだから、これでよしとしようぜ。それより、一応仮眠とるか?」
「そうだな、信長様仮眠をおとりください。お前は、私と見張りだ」
そうですよね。わかってましたよ。
ええ、光秀ちゃんならそうでるだろうと思ったわ!
「それじゃ、寝させてもらいますね。交代で寝ましょう」
信長ちゃんが、ありがたいことを言ってくれる。
しかし、座っては眠れないらしい。
確かに、寝たほうが眠れるだろう。
けれど、地面は小石だらけだ。
「信長ちゃん。俺の膝を枕にする?」
ガチャ。
普通に聞いただけなの俺の、眉間にM700が突きつけられる。
「武尊と言えも、信長様にセクハラを働くのならば、その眉間撃ち抜くぞ」
善意で言ったはずなのに、なんで引き金に手をかけてるの?
その光景を見た信長ちゃんがーー。
「光秀!武尊君は、善意で言ってくれたんだから、拳銃を引っ込めてください!」
「わかりました。それでは、私の膝をお使いください!」
「いや、そうゆうことじゃないんです!」
信長ちゃんが、少し赤くなりながら、俺をチラチラ見てくる。
何かを訴えているのか?
あっ!
そういうことか!
「光秀ちゃん、それは不公平だろ男女差別だ!俺がしないんだから、光秀ちゃんもしてはいけないんだよ!」
自信満々に、俺が信長ちゃんの方をみる。
これで、いいんだよな!信長ちゃん!!
しかし、信長ちゃんの目は冷めていた。
あれ!?
ミスった感じか!?
「お前は、女心というのがわかってないな」
なんのいじめだ?
なんで、光秀ちゃんまでそんな目を向ける。
「仕方ない。信長様に膝を貸してやれーー。ただし妙な事をしたら、即殺す」
「ご、ごめんない。武尊君」
「いや、かまわないさ」
信長ちゃんが、恐る恐る頭を、膝の上に乗せてくる。
そして、目をつぶるとーー。
すー、すー、と寝てしまった。
焚き火の音だけが、俺らの空間でなる。
「そう言えば、まだお礼を言っていなかったな」
突然、光秀ちゃんがそう言う。
「お礼?」
「お前のおかげで、私はもう一度、信長様の隣にいられる。ありがとう武尊」
少し、頬を赤くして言う光秀ちゃん。
なんか、クールな光秀ちゃんのこうゆう姿は、レアだな。
そうだ、光秀ちゃんに聞きたいことがあったんだーー。
「光秀ちゃん。聞きたいことがあるんだけど」
「なんだ?」
「前世で、光秀ちゃんは誰に操られたんだ?」
「あぁーー。その事かーーーー」
光秀ちゃんは、複雑そうな顔をする。
どうしても、そこだけは知りたかった。
何故か自分でもわからないが、俺の心が知りたいと願っているみたいだった。
「あっ、嫌なら言うのやめていいからね」
「いや、教えるさ。武尊だからこそ、知っておいてほしい」
「俺だから?」
顔を赤くして、頷く光秀ちゃん。
「私は、家臣であったのにも関わらず、信長様の正妻どのに、恋心に近いものを感じていた。それを、利用されたのだ」
「利用?」
「そうだーー。事実では、私を討ち取り天下に輝いたーー」
光秀ちゃんは、肩に担いでいるM700を震わせながら。
「豊臣秀吉。そいつに利用されたのだ」
と、豊臣秀吉だと!?
その時、俺の頭に、半兵衛ちゃんの言葉がよぎった。
『私が、あの人に仕えなければ、あの人はあれほどの欲を持たなかったはずです』
そうか、なんで気がつかなかったんだ。
前世で、竹中半兵衛が仕えた人物は、二人しかいない。
その内の一人は、斎藤家の人物だが、すぐに仕官をやめた。
そうなると、残る人間はーー。
「と、豊臣秀吉になるーー」
「私は、お前が秀吉だと思っていた」
「なっ!?どうしてそうなる!!」
「なぜなら、豊臣秀吉の旧姓は、木下藤吉郎だからだ」
「木下!?」
そうか!
だから、みんな俺の事を藤吉郎てーー。
「しかし、お前は恐らく秀吉の生まれ変わりではないだろう」
「えっ!なんでわかるのさ?」
「秀吉は、でしゃばりで、腹黒いからな。そのーー」
急にもじもじする光秀ちゃん。
そして、少し上目遣いでーー。
「た、武尊は、優しくて素直だからな。秀吉とは正反対なんだ」
なっ、なんかあれだな。
美少女に誉められると、恥ずかしいなー。
「と、隣に行ってもいいか?」
「えっ?」
「あっ、あれだぞ!少し、肌寒くなってきたからな。それに、近くにいた方が敵に攻撃された時、反撃しやすいだろ!」
なるほど。
確かに、夜中だから寒いしな。
「いいよ。俺の隣で良ければ」
「すまないな!」
なんか、喜んでる?
あぁ、信長ちゃんの近くに来れるからか。
光秀ちゃんは、移動してきて、俺の隣に座ったと思ったら、俺の顔をまじまじ見てくる。
な、なんですか?
「お前は、少し似ているな」
「誰に?」
「信長様の、正妻だったお人だ」
「えぇ!?女の人に似ているの?」
「顔ではない、雰囲気だよーー。人に優しく出来るところと、人の長所を探すところとかな」
俺優しいか?
ただ、思ったことをしてるだけなんだけど。
「その人の名前、なんて言うの?」
「私の従姉で、斎藤帰蝶と言う」
そう言って、俺の肩に頭を傾けて乗せる光秀ちゃん。
少しテンパってしまったが、動くと信長ちゃんを起こしてしまうので、じっとする。
「すごく、美しい人でな。その笑顔を見るだけで、私は救われたことが何度もある」
「へぇー。そんな人がいたんだ」
「本能寺の変の時は、逃げられたのだろうか?それは、私にもわからないことだ」
本能寺ーー。
「っ!?」
目の前に、燃える寺が現れた。
あの時と、同じだーー。
しかし、今度は回りの人も見えた。
俺は、女の人達の中にいる。
『そう、あいつだったのね。豊臣秀吉!!』
頭の中に、突然女の人の声が流れた。
「武尊。どうかしたのか?」
はっ、とすると、光秀ちゃんが、心配そうに俺の顔を見ていた。
「いや、なんでもない」
平静を装いつつ、俺は戸惑っていたーー。
まさか、どうしてなんだ。
なんで、俺にはーー。
戦国時代の記憶もあるんだよ!!
ーーー
武尊君の膝は、とても寝心地がいいです。
そんな事を思いながら、私は眠りに落ちました。
そして、懐かしいな。
余は、早足に廊下を歩いている。
あいつに、今一番に伝えたかった。
「お濃!お濃、どこにいる!!」
大声を出して、歩き続ける。
すると、数メートル前の障子が開きーー。
「なんですか?そんなに大声をおあげになって」
余が探していた、斎藤帰蝶が顔を出す。
本当に、いくつになっても美しい女だ。
「お濃!おるなら、さっさと出てこんか!」
「書物を書いていたのです。そんな、急かさなくてもーー」
「ええい!夫が帰って来たのだから、そんなもの後にせんか!」
そう言うと、少しため息を出すお濃。
こいつを見ていると、なぜか嫌な感情がわく。
本当に、自分に合っている女なのかとーー。
「それで、なんですか?」
余は、考えを頭から払いのけてーー。
「聞けお濃!余は、浅井と朝倉を降したぞ!!」
自信満々に、そう言った。
お濃だったら、喜んでくれるだろうと思ったからだ。
しかし、お濃はーー。
「そうですかーー」
どうでもいいと言った顔で、そう言ってきた。
いつもは、気にしなかったのだが、今日はつい出てしまった。
「余が天下に近づいたのに、お前は嬉しくないのか?」
そう言うと、はっ、とした顔をしたお濃はーー。
「ごめんない。そうゆう訳ではないのです」
「では、何故そのような顔をする」
黙ってしまったお濃。
そういえば、最近こやつの笑顔を見ていない。
あの、なんでも洗い流してくれるような笑顔をーー。
「お濃。お前はーー、余のことが嫌いになったのか?」
「そんなこと!!」
驚いた顔で、お濃が余を見る。
そして、何かを決心したように、言葉をはいた。
「あなた、私を捨ててくださればよいのです。このような、子を産めぬ女など捨てて、若い娘でも正妻にすればよいではないですかーー」
今なら、お濃の気持ちもわかる。
女の身である今なら、どれほど子を産めぬ自分が恥ずかしいかも。
しかし、この頃の余はそんな事など、どうでもいいと思っていた。
お濃さえ、側に居てくれれば。
「そんなことで、暗い顔をしておったのか。余は、お前さえおればよい。子など、関係ないわ!」
乱暴に、お濃の隣に座る。
お濃は、諦めたような顔で、苦笑いしていた。
「お濃。1つ訪ねてもよいか?」
「なんです?」
「お前は、余と一緒になって、幸せだったか?」
自分でも、よくわかっていた。
天下を取る戦いをしていると、どうしても、妻を構ってやる時間が取れない。
すると、呆れた顔をしたお濃がーー。
「天下布武。あなたが、それを言った時から、覚悟の上です。それにーー」
一瞬、本当に一瞬だけ、余にしかわからない威圧を放ち。
「あなたに飽きているなら、とっくの昔に寝首を取っています」
時々忘れかけるが、こやつはあの、蝮こと、斎藤道三の娘なのだ。
「全く、道三殿に似ておるなー。お前は」
「親子ですからね。似たくなくても、似てしまうものです」
お濃は、笑っていた。
今だけでも、この笑顔をもう少し見ていたい。
「信長様。光秀殿と、秀吉殿が戻られました」
空気の読めん家臣が、そう言ってきた。
「貴様!手打ちにされたいのか!?」
「お止めなさい。天下人の器が知れますわよ」
お濃に、叱られてしまったか。
「今行く」
去り際に、お濃を見るとーー。
何か、思い詰めた顔をしていたーー。
私は、ゆっくり目を覚ましました。
長い夢でした。
あれは、過去の記憶でしょう。
「おっ、目が覚めた?」
「信長様。ご気分はどうですか?」
水を手渡ししながら、光秀が聞いてきました。
私の勘違いでしょうか?
光秀が、武尊君の肩に頭を乗っけていたようなーー。
素早く光秀が動いたので、わかりませんが。
「信長ちゃん。顔色悪いけどーー」
武尊君が、私の顔を心配そうに見ます。
嫌なーー。できれば、思い出したくない事です。
「大丈夫ですよ。少し、嫌な夢を見ただけです」
そう言うと、私はあることに気づきました。
光秀や、武尊君はとっくに気づいてたみたいです。
そう、囲まれています。
しかしーー。
「おかしいぜ。早すぎねーかバレるの」
「あぁ、だが話してる暇はないぞ。どんどん囲みを狭くしてきてる」
どうしましょう。
このままでは、かなり苦戦します。
すると、武尊君がーー。
「ここで、全員足止めをくらうのは避けたいな。と言うことで、俺が足止め役になるぜ!」
大声をあげて、抜刀の構えをとる武尊君。
この人数を、一人で止める気ですか!?
「だ、駄目です!武尊君を置いていくなんて、出来ません!!」
「ダメだぜ信長ちゃん。この戦いの大将は、信長ちゃんだ」
その言葉で、光秀ちゃんが何かに気づいた。
その額には、冷や汗が浮かんでいた。
「武尊ーー。まさか、金ヶ崎の退き口を再現するつもりか?」
「なっ!?」
開いた口が、閉まりません。
金ヶ崎の退き口を再現するなんて!!
あの戦いは、私が前世で一番過酷だった撤退戦です。
そして、その撤退の時、敵の足止めをしてくれたのが、光秀と秀吉でした。
あの時は、生きて帰って来てくれましたが、今回は武尊君一人です。
それにくわえて、敵は多い。
確実に、無傷ではすまない。
「そ、そんなこと危険すぎます!」
「信長ちゃん」
そう言うと、武尊君は剣を持ったまま。
勾玉を首から外して、私の手に乗せました。
「それは、俺の大切な物だ。必ず、貰いに行く」
ニコッと、笑顔でーー。
「俺はさ、この世界に来たとき本当は、少し寂しかったんだ。家族がバラバラになった後で、結果的にばあちゃんも居なかったから、信長ちゃん達に会わなかったら、俺はずっと一人だった。だから、信長ちゃんと会ったのは、幸運な偶然だったんだ」
私に背を向けて、抜刀の構えをとり直す武尊君。
「俺が通り道を作る。頼んだぜーー、光秀ちゃん」
「任せろ!」
へっ、と武尊君が笑い。
「さて、信長ちゃん達の道を開けやがれ!!」
トップスピードで、武尊君が走る。
今気づきましたが、武尊君は半覚醒しています。
武尊君は、誰の転生者なのでしょう?
なんとなくは、わかるがな。
「行くぞ光秀!ついてまえれ!!」
「はっ!」
どうやら、感情が高ぶると変われるようになったんだな。
目の前を走るサルの前に、忍びが二人現れた。
「瞬神流抜刀奥義、幻影飛天!」
素早い抜刀で、右の敵を切り上げる寸前で、右足で蹴り飛ばし、切り上げの勢いを乗せたまま、左の敵の脳天に、剣を降り下ろした。
サルとすれ違う。
余が見ている事を知っていたのか、それとも偶然なのか、余と目があった。
心配させないようにか、にこやかな顔で、口を動かした。
声がなかったが、なんと言ったかわかった。
『また後でーー』
バカな奴だーー。
ぐすっ、と音がなってしまった。
もしかしたら、サルに聞こえたかも知れないな。
「あぁ、後で合おう!」
サルに聞こえない距離だが、そう言っておこう。




