十二話 仕組まれた罠
「また、治安部隊か?」
私はため息をもらしながら、外の町を見下ろす。
本当は、山城タワーよりも大きくしたかったが、糞親父に止められてしまった。
まぁ、貴族どもを見下ろせる位置なら、どこでも良かったのだがな。
「処分を、なさらないのですか?義輝様」
「簡単に言うではないか。幽斉」
後ろを振り返り、彼女、細川幽斉を見る。
物静かで、清潔そうな顔。
まるで、江戸時代などにいた控えめの妻のような女だ。
これほどに、美しい女なのだから、私の正妻にしたかった。
「幽斉。私の妻にならんか?」
「何度も言いましたが、私は、足利家に使える身です。現将軍のあなたの妻には、なれません」
「民の事など、ほっておけばよい」
「よしましょう。今は、治安部隊の話の方が、重要です」
やれやれ、こいつときたら。
私は、頭をかきながら上座に座る。
「幽斉、隣にこい」
「いえ、ここで結構です」
「頭が固いなー、お前は。こんな広い部屋で、廊下から喋るなど、大声を出さなければならんだろ」
三十畳ある部屋なのに、どうして入ってこんのか。
「確かに、大声を出すのは大変ですね。わかりました」
そう言うと、部屋に入ってきたが、中央らへんで座った。
もはや、ため息も出んな。
「治安部隊は、捨てておけ。どんなに暴れようとも、ガキ共の集まりだ」
「しかし、民達に危険な事をするやも知れません。げんに、人切りまで現れたのですから」
「それなら、解決したであろう」
金平糖を、食べながら、私が言うとーー。
「解決したのは、織田信長とあの少年でしたね」
少年ーー。
上からきた人間のくせに、強制覚醒をできる人物。
しかも、カリスマ性まであるのだから、やっかいだ。
敵に回れば、特別警察を出さなければならないだろう。
まぁ、今のところは平気なようだがーー。
「そいつが来てから、めんどくさいことが起こり始めたな」
「木下武尊でしたね」
「木下ーー。どこかで聞いた事があるようなーー」
どこだったか?
忘れてしまったな。
「で、治安部隊の人数や顔は割れたのか?」
「申し訳ございません。今現在捜索中です」
まったく、面白くない。
木下武尊もそうだが、治安部隊が邪魔だ。
私の庭で、好き放題しおって。
「面白くないですか?」
私の顔色だけで、そこまでわかるのか。
「退屈だ。幽斉」
「将軍の仕事をしてください」
「治安部隊のことは、捜索しとけ。以上!」
私は立ち上がり、幽斉の目の前に座る。
無表情だが、不思議と嫌ではないのだなー、これが。
「近いです」
「お前がこんから、来てやったのだ」
「もう一度言います。近いです」
「言わんでも、知っている」
そう答えると、はぁー、とため息をつく幽斉。
「私の近くにくる暇がおありなら、妻達を、かまってさしあげてください」
「かまっておる」
「嘘はつくものでありません。悲しがっておりましたよ。十二人全員です」
ぐっ!そうだっのかーー。
私的には、全員かまっていたつもりだったがーー。
私が、うなって考えているとーー。
「それでは、私はこれで」
そう言って、立ち上がる幽斉。
私は、その手を掴みおもいっきり引っ張り倒す。
「きゃ!?」
珍しく、幽斉が可愛い声をあげた。
私は、幽斉の手を上から押さえ付けて、覆い被さる。
先程よりも、至近距離で幽斉を見つめる。
「はっ、離してください!」
他の家来に見つかると、解雇されると思っている幽斉は、顔を赤くしながら、静かな声で私にそう言う。
「お前は、本当に美しいな」
「なっ!?冗談がすぎます!本当に怒りますよ!!」
フフッ、慌てておるな。
幽斉が、手を振りほどこうとする。
こいつは、以外と力があるからな。
「なぁ、幽斉」
「なんですか!?」
「私の、十三番目の妻にならんか?」
「な、何度も言っています!私は、あなたの家来なんです!!なるつもりは、ありません!」
やれやれ、本当に頭の固いやつだな。
「はっ、早く離してください!他の人達に見つかったら、私が怒られるんですよ!!」
「なら、振りほどけばよいだろ?」
「あなたに、怪我をおわせても、私が怒られるんです!!」
大変なのだな、家臣も。
私は、生まれた時から将軍になったような物だから、わからんが。
幽斉が、頑張って振りほどこうとしている。
しかし、本当に怪我をさせたらいけないらしく、本来の力を出していないようだ。
「幽斉ーー。お前、旦那はいたか?」
「いきなり、なんですか!?いませんよ!!」
「なら、平気だな」
私が、幽斉の顎を持つとーー。
幽斉が、顔を真っ赤にして焦りだした。
どうやら、私のしようとしていることが、わかったらしい。
「ちょっ!正気ですか!?」
「あぁ、正気だが?」
私が顔を近づけると、空いている右手で、押し返す幽斉。
しかし、力があまり入っていない。
「なんだ幽斉、そんな力では無理だぞ?」
「あなたが主君ではなかったら、首を折っているところですよ!!」
「そうか。では、主君で良かったな」
「ちょっ!?だっ、ダメです」
思いっきり、近づく。
「あっ!?」
弱々しい声を出して、幽斉の手から力が抜ける。
無理だと、諦めたのかもしれん。
まぁ、好都合だがな。
「だっ、ダメですーー」
「目をつぶらんのか?開けててもよいがーー」
そう言うと、目を思いっきり閉じる幽斉。
こういうところは、可愛いな。
顔を近づけて、あと少しで唇が触れると思った瞬間。
「ちっ!?」
「っ!?」
私と幽斉が、同時にある事に気付き、その場から飛び退く。
すると、私達がいたところに、刀が落ちてきた。
「物騒な事を。あと少しだったのだがなーー」
「説教は、後でします。今は、曲者を捕まえます」
天井から、黒服の女が現れた。
顔を隠していて、誰かわからない。
「何者です?将軍の御前であると、心得ての狼藉ですか?」
幽斉が、後ろ腰にある刀を抜刀して言う。
「・・・・・・」
「まぁ、答えないだろうな」
私は、上座に置いてある太刀をとる。
「義輝様、ここは私がーー」
「幽斉、ここまで侵入してきたやつだぞ?二人でいくぞ」
私は、鯉口を切る。
すると、黒服は拳銃を取り出した。
拳銃は、コルトパイソン。
何のつもりだ?
「・・・・・・」
すると黒服は、突然地面に何かを叩きつける。
ボーン!!
「煙幕!?」
「ちっ!!」
私は横に向かって走り、壁を抜刀術で切り崩す。
切り崩した場所から、風が吹き抜けて、煙を消し飛ばしていく。
「すいません。逃げられました」
幽斉が、悔しそうに顔を歪める。
「しかたあるまい。どうも、私を殺しにきたようには見えないがーー」
そこで、あることに気づいた。
私達のいたところに、生徒手帳が落ちていたのだ。
「幽斉。あれをとってきてくれ」
「はい」
幽斉が、取ってきた生徒手帳を見て、少し驚いた。
私を狙うはずがないと、思っていた人物の名前と顔写真があるのだ。
「幽斉、学園にいる糞親父に連絡をしろ。私も動く」
「危険ですよ!?」
「もう、危険な目には合ったさ」
生徒手帳に書かれてあたことはーー。
『戦国学園高等部、織田信長』
ーーー
「信長ちゃん!」
「ほぇ?」
体育の時間が終わり、教室に戻ってくると、信長ちゃんが机で寝ていた。
普段信長ちゃんは、授業をさぼらない性格だったので、具合でも悪いのかと思ったがーー。
「ごめんなさい。寝ていました」
ただ眠かっただけなようだ。
昨日の、光秀ちゃんの事で思い詰めてるのかと思った。
そこで、俺があるものに気づく。
「信長ちゃん。何その黒い服」
信長ちゃんの、鞄の中に黒い服が押し込まれていた。
「なんでしょ?あれ、拳銃がーー」
なぜか、コルトパイソンまで握っている。
えっ!まさかーー。
「早まるな信長ちゃん!君が責任をおうことはないんだから!!」
「ちょっ!?いきなり、どうしたんですか!!」
俺は、急いで拳銃を没収する。
「これは、しばらく俺が預かります」
「なんでですか?返してくださいよ!」
ええい!奪い取ろうとすらな信長ちゃん!!
そんな感じで、信長ちゃんと拳銃の取り合いをしているとーー。
「な・ん・で。いちゃついてるのよ!!」
幸村ちゃんが、思いっきり俺らを引っ張り剥がす。
「いちゃついてねーよ!信長ちゃんが自殺しようと思ってたから、止めただけだわ!」
「なんですって?信長、あんた思い詰めすぎよ」
「ちょっと!勘違いしすぎだよ!!私は寝てただけでーー」
その時、教室の扉が開かれた。
そこに居たのは、冷静さを装っている足利校長だった。
「織田信長。すぐに理事長室にこい」
そして、俺を見るとーー。
「お前も一応ついてきなさい」
そう言って、速足に去っていく。
俺と信長ちゃんは、揃って訳わからん顔をする。
なんか、悪いことしたっけ?
理事長室につくと、塚原先生と、利休先生がいた。
「あれ、先生達は何してるんです?」
俺がそう言うと、二人とも苦笑いをしてーー。
「やってねーときは、きちんと言う事にしとけよ」
「大丈夫。この学園の先生達の大勢は、信じてますから」
なんの話だ?
まるで、俺らが何かをしたみたいな言い方だな。
その事を、同じく思っていたらしい信長ちゃんと、二人で首を傾げる。
「失礼しまーす」
俺らが、理事長室内に入る。
深刻そうな顔の、帝理事長。
電話をしている足利校長。
「来ましたね。そこに、座ってください」
ソファーに、二人して座る。
帝理事長が、俺の目の前のソファーに座る。
「とりあえず、落ち着いてきいてくださいね」
なんだよ。
取り乱すくらいの話なのかよ。
「先程、現在の将軍、足利義輝さんが、何物かに襲われました」
「えっ!?二条城に入り込んだやからが、いたんですか?」
信長ちゃんが、すごく驚いている。
あの城に忍び込んで、将軍襲ったやつがいんのかよ。
「傷は、おわなかったらしいのですがーー」
そう言って、机の上に何かをおく。
それは、信長ちゃんの生徒手帳だった。
「あれ?なんでここにーー」
「織田さん。体育の時間どちらにいましたか?」
理事長が、恐る恐る言う。
今日の体育は、午前中を丸々使っていた。
そして、信長ちゃんはーー。
「教室で、寝ていましたーー」
「証言できる人は?」
「待ってください」
俺は、口を挟んだ。
こんなのは、尋問じゃないか!
「まるで、信長ちゃんが犯人みたいに言ってますけど、確証でもあるんですか?」
「犯人は、コルトパイソンを持っていたようだ」
携帯を閉じた足利校長が、俺の目を見て言う。
「それに、犯人が落とした物が、その生徒手帳だ」
「誰かが、信長ちゃんの生徒手帳と拳銃を盗むだかもしれませんよ」
「犯人は、黒い服をきた女性だったそうです」
信長ちゃんの顔が、真っ青になる。
黒い服ーー。
やられたな。信長ちゃんが人を傷つける訳ねーから、犯人は別の誰かだ。
「ありえない!信長ちゃんが、人を傷つけようとする訳ないでしょ!それに、覚醒者じゃなければ、城に潜り込むなんてこと、出来ないはずです」
「しかし、昨日、織田信長は覚醒できたのだろ?お主がおらずともーー」
くっ!
なんだよこれは。偶然にしては出来すぎだぜ!
その時、俺の手を信長ちゃんが握ってきた。
震えている。それに、いつもは温かかったのに、氷のように冷たい。
信長ちゃんの顔が、真っ青だ。
「理事長達は、信長ちゃんが犯人だと思っているんですか?」
そう言うと、理事長は首を横に振った。
校長も、同じ反応だ。
だったらーー!
「どうして、信長ちゃんを犯人みたいに扱うんですか!!」
「現状は、織田信長が一番犯人に近いのだ」
「でも、信長ちゃんは何もしてないでしょ!」
そう言うと、二人とも黙ってしまう。
犯人に、一番近い。
「もし、真犯人が捕まらなかったら、信長ちゃんは、信長ちゃんは、どうなるんですか?」
「おそらく、良くて牢屋暮らし。悪くてーー」
帝理事長が、一番聞きたくない言葉を言った。
「打ち首・・・・・・、になるでしょう」
「そ、そんなーー」
言葉が、出てこなくなった。
しばらく、沈黙が場を包む。
「おそらく、今日か明日には、風魔衆が身柄を拘束しにくるでしょう。織田さんーー」
帝理事長は、深く頭を下げてーー。
「力になれずに、ごめんなさい」
そう言うのであった。
ーーー
わからない。
私は、何もしていないはずです。
ですけど、体育の時は寝ていたせいか、記憶がありません。
「織田信長だ」
「よく、普通に歩けるわね」
「この世界でも、天下を取ろうとするのかよ」
校門に向かって歩いていると、噂を聞いた生徒達が、口々にそう言います。
おそらく、同学年の人間より、下の人達でしょう。
「うるせーぞ!まだ、確定してねーだろうが!!」
隣を歩いていた武尊君が、大声をだして言います。
そして、私の手を握って、引っ張りながらーー。
「気にしなくていいからね。信長ちゃんは、何も悪いことをしてないんだから」
私に、笑顔で言ってくれました。
本当に、武尊君は優しい人です
涙が出てきてしまいましたが、泣くわけにはいきません。
武尊君に、心配させる訳にはいかないんです。
「武尊先輩!!」
住宅区についた時、市が走ってきました。
「どうしたの?市くん」
「姉ちゃんも一緒か!実は、織田家の人間が、みんな連れてかれちまったんすよ!」
そ、そんなーー。
お父さんや、お母さんもーー。
「ちっ!やっていいこと、悪いことがあんだろうが!!」
「と、とりあえず武尊先輩の家に行きましょう。みんないるんで」
すると、武尊君はーー。
「ごめん市くん。少しだけ時間くれるかな?」
「べ、別にいいですけどーー」
「ありがとう。信長ちゃん行こうか」
私の手を引いて、歩き始める武尊君。
いったい、どこに行くんでしょうか?
しばらく歩いていると、木でできた、小さな橋につきました。
「ここ、いいところでしょ。散歩してる時に見つけたんだ」
橋の手すりに肘を置いて、武尊君が言います。
ちょうど、目の前に夕日が見えます。
この時間だけなのでしょう。
水面にも、夕日が反射していて、とても綺麗です。
「綺麗ですね。本当にーー」
私も、手すりに手をかけて言います。
「綺麗だよね。信長ちゃんの手」
いきなりの発言!!
心臓が、止まりそうです!
「こんな綺麗な手をしている人に、殺しなんて出来る訳ないよ」
まっすぐ、私の目を見て言う武尊君。
あぁ、本当にかっこいいです。
でも、私と合ってしまったから、武尊君は、大変な目に合っているんでしょう。
「武尊君は、信じてくれるんですね」
「当たり前だろ。俺はーー」
夕日を見ながら、武尊君がーー。
「例え、この世界の人達が信長ちゃんを信じなくても、俺は、必ず信じるよ」
ドキッ!
本当に、心臓は跳ねる物なんですね。
すごく、嬉しい。
「あ、ありがとうございます」
そう言うと、武尊君が少し頬を赤くしてーー。
「いや、思ったことを言っただけだから」
「そうですか。なら、私も信じますね」
私がそう言うと、武尊君が笑いながらーー。
「なら、約束だね」
とても、かっこいい顔でそう言いました。
ーーー
「ありえない!幕府は何してんのよ!!」
机に、コップを勢いよくおいて言う幸村ちゃん。
すごい、怒ってる。
「全くだぜ!ふざけやがって!」
市くんが、足を揺すりながら言う。
こちらも、怒っている。
「市、落ちつかないと」
勝家ちゃんが、市くんをなだめる。
家の中は、かなり嫌な空気だ。
「半兵衛ちゃん」
「はい?」
俺は、隣にジャンバーをかけて座っていた半兵衛ちゃんに、耳打ちして、あるたのみ事をする。
すると、半兵衛ちゃんは可愛らしい笑顔を浮かべてーー。
「わかりました。その件は私に任せてください」
そう言ってくれた。
しかし、全然関係ないことだけど、半兵衛ちゃんを見てるとあれだね、妹のいる人の気持ちがわかるね。
それに、半兵衛ちゃんは物静かだから、この空気を和らげてくれそうだな。
半兵衛ちゃんの脇を下から持ち上げて、膝の上に乗せる。
「きゃ!?ど、どうしたんですか?」
顔を赤くして、首だけ振り返る半兵衛ちゃん。
いやー、なんか癒されるなー。
半兵衛ちゃんの頭を撫でていると、幸村ちゃんが鬼の顔でーー。
「この一大事に、何してんのよ!このロリコン!!」
脳天に、拳骨が落ちる。
「いてー!!何すんだよ!!」
「うるさいわよ!!」
なっ、なんなんだよ。
そんな怒らなくてもーー。
「やれやれ、武尊先輩あいかわらずですね」
「市が言わない」
そんなことをしていると、信長ちゃんがーー。
「ごめん。私寝ます」
何かを思い詰めた顔で、寝室に行ってしまった。
「半兵衛ちゃん。よろしくね」
「はい、任せてください」
みんなが寝た頃、俺は制服に着替える。
この格好の方が、防御力あるからな。
腰に、今だ抜けない剣を差す。
「俺の予想が当たるとしたらーー」
廊下で、誰かが話す声が聞こえる。
やはりな。
俺は、裏口から急いで外に出て、彼女達が通るであろう道で、仁王立ちする。
俺は少し、頭きてんだぜ。
「こんな夜中に散歩するのかい?信長ちゃん」
月明かりが、彼女の顔を照らす。
目を見開き、どうして!というように、俺を見ている。
その信長ちゃんの隣には、市くんがにやけ顔でいる。
「た、武尊君。どうしてここにーー」
「信長ちゃんの考えそうな事だよ。俺らに、迷惑をかけられないと思ってのことだろ?」
「さすが、武尊先輩だ」
なんで、嬉しそうなんだ市くん。
しかしーー。
「心外だな。俺は言ったはずだぜ、信長ちゃん」
「・・・・・・」
「俺は、君を信じる。なのに、君は俺を信じてくれないのか?」
「信じているから、巻き込みたくないんです」
なるほど、信長ちゃんらしい答えだ。
でも、俺は信長ちゃんと共に戦いたい。
「一人で背負い込まないでくれよ。俺にも、少しくらい分けてくれ」
「たっ、武尊君ーー」
「覚醒してないけどさ、君の盾くらいには、なれるつもりだぜ?」
そう言うと、信長ちゃんが涙を流した。
つらかったんだね。
でも、一つだけ疑問がある。
どうして、俺は信長ちゃんと共に戦いたいんだ?
それだけが、わからない。
いや、その気持ちに嘘はないんだけどーー。心の奥底から溢れ出てくるんだ。
「さて、武尊先輩がいるなら、俺は退場するかな」
「どうゆうこと?市」
「別れていたほうが、戦力を分担できるだろうし」
そう言うと、市くんは走り出してーー。
「武尊先輩!姉ちゃんを頼みます!」
裏路地に、消えていった。
よくわからん人だな、市君は。
でも、任せられたんだから、頑張りますか。
「信長ちゃん。行こうか」
「行くって、どこにですか?」
それは、秘密にしといた方がいいな。
先から、誰かに見張られてるし。
とりあえず、誘きだしてーー。
「ぐわ!!」
俺が気づいていた方向からと、違う方向から悲鳴が短くあがる。
屋根から落ちてきたのは、忍びのような二人組。
遅れて、銃声が2発した。
「えっ!?風魔衆の人!」
「どうやら、俺以外にも味方がいるみたいだね」
この風魔衆は、頭を撃ち抜かれてる。
しかも、かなりの精密射撃。
そして、発砲方向は戦国大病院。
その人物は、屋根の上を跳んできながら。
「信長様!無事ですか!?」
銃の名手で、元治安部隊の明智光秀ちゃんだ。
信長ちゃんに、怪我がないことを確かめると、俺の方を見てーー。
「まだまだ未熟だな。信長様に何かあったらどうするつもりだ」
「いやー、一人には気づいてたんだけどな」
しかし、心強い仲間がきてくれたな。
光秀ちゃんがきてくれるなら、安心だ。
「光秀、怪我は大丈夫なの?」
信長ちゃんが、心配そうな顔をする。
その顔を見た光秀ちゃんは、頭を下げてーー。
「覚醒者なら、あれくらいの傷たいしたことはありません。心配をおかけしました」
そう言う光秀ちゃん。
なんか、微笑ましい光景だな。
前世のことを考えるなら、憎み合ってても仕方ないはずの二人なのに。
今は、協力しているんだ。
「なんだ武尊。にやついた顔をするな」
ちなみに、信長ちゃん以外には敬語を使わないのよ、このお人。
「で、何か策があるのだろ?」
「お、おう。とりあえず、ここに行けば大丈夫だ」
半兵衛ちゃんが調べてくれた場所が、書かれている紙を見せる。
それを見た光秀ちゃんは、頷いて。
「では、ここに向かうぞ」
走り出してしまう。
まじかよ、信長ちゃんの事忘れてね?
「走るよ、信長ちゃん」
「は、はい!」
さて、ここからは信用できる人間は少ないぞ。
この世界、全てを敵に回すようなもんだからな。
明智光秀プロフィール。
髪の毛 黒髪
性格 とにかく、信長だけ特別扱い(ときたま武尊も)
武器 レミントンM700狙撃ライフル、名刀虎鉄
技 主に拳銃だが、水系統の技をしようする




