十一話 心の傷
あの光景ーー。
実の姉が、俺のことを呼んでいる。美しくて、綺麗で、俺の誇れる姉。
なのに、あの日から、恐しい姉に変わった。
血の匂いがする刀。
嬉しそうに笑う姉。
俺の中で、何かが壊れた。
そして、目を背けた。
見たくなかった。
俺の理想を壊したくなかった。
「そうやって、君はまた目を背けるんだ」
あいつの声が響く。
俺を攻めるようにーー。
「真実を受け止めるんだ。逃げるな。背けるな」
やめろ、やめてくれ!!
俺は、俺はーー。
「武尊。あなたも、その内気づくわーー」
姉が、出ていく時に言っていたセリフーー。
「だって、武尊。私と同じ目をしてるもの」
そこで、目が覚めた。
息が切れていて、汗が滝のように流れている。
「大丈夫ですか?武尊君ーー」
俺の頭の上から、信長ちゃんが顔を見せながら言う。
彼女の姿は、綺麗な紫の着物である。
この姿は、彼女の寝るときの格好だ。
どうやら、起こしてしまったらしい。
「ごめんーー。悪い夢を見ててーー」
「そうですかーー。尋常じゃないうなされかただったので、起こそうか迷っていたところです」
そう言いながら、信長ちゃんが微笑む。
彼女の笑顔を見ていると、不思議と嫌な気分が薄れていくようだ。
「武尊君。少しお話しませんか?私、目が覚めてしまって」
そうだな。
俺も、もう少し気持ちを落ちつかせたい。
「そうだね。俺も目が覚めちゃた」
縁側に、二人で並んで座る。
時間的には、まだ日の出の前だろう。
少し肌寒いが、いい風だと思う。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
会話がない。
どうしたものかーー。
夢について話たいが、あれは俺がなんとかしないといけないことだからな。
なんでも、信長ちゃんに甘える訳にはいかない。
しばらく、風だけがふいていたがーー。
ふいに。信長ちゃんが口を開いた。
「私、自分の家が好きではないんです。ですから、流派も嫌いでした」
「そういや、始めて見たよ。信長ちゃんの剣術」
そう言うと、信長ちゃんは苦笑いをしてーー。
「武尊君に、私の本当の強さを見てもらいたいって思ったら。やっぱり、自分家の流派を使ってしまいました」
「そうなんだ・・・・・・。あのさ、信長ちゃんーー」
「はい?」
自然と口から悩みがこぼれていた。
「もし、自分が自分じゃなかったら、信長ちゃんはどうする?」
難しい、質問だろうな。
俺だったら、困る質問だ。
しかし信長ちゃんは、うーん、と可愛く首を傾げながら、一緒懸命考えてくれている。
本当、優しい人だ。
「その答えは、簡単ですかね!要するに、自分を見失わなければいいんですよ!」
笑顔で、そう答える信長ちゃん。
自分を見失わなければ、か。
「今の武尊君の気持ち。少しですけどわかります」
「えっ?」
いつの間にか、信長ちゃんが悲しい顔をしていた。
「私も、覚醒をしている時に見るんです。前世の私は、弟を殺してから、自分がわからなくなってしまいました」
信長ちゃんーー。
つらい、質問をしてしまったか。
「ごめん。変なこときいて」
俺がそう言うと、元の笑顔を浮かべた信長ちゃんがーー。
「いえ、大丈夫ですよ。ただ、私的にはーー」
ふいに、信長ちゃんが俺の手を握りしめてーー
。
「武尊君が、悩み事を溜めて、苦しい顔をしているのを見る方が、辛いです」
少し、目を潤ませながら言う信長ちゃん。
しかも、案外顔が近い。
あっ!
心臓が、早鐘をうってる。
まずい。
動揺を隠しながら、手を引っ込める。
このままだと、なんか危険な気がする。
たぶん、俺の顔が赤いのをわかったのか、信長ちゃんも黙ってしまった。
お互い、違う方向を見ている。
な、なんかさっきより気まずい!!
「お二方。イチャイチャしてるところ悪いすっけど、朝になりましたよ」
含み笑いをした市くんが、そう言うのだった。
朝食の時間になった。
半兵衛ちゃんも、最近家に住み着いている。
彼女が言うには、家族一同から社会見学のつもりでしてこいと追い出されたようだ。
まぁ、人になれろと言うことだろう。
しかし、今日は体調がよくないらしく、咳をしている。
「なんか、むかつく」
「どうした。幸村ちゃん」
朝から、なぜかイライラしている幸村ちゃん。
こういう時の彼女には、触れないほうがよい。
「あんたよ!あ、ん、た!」
箸で、俺の顔を刺してくる。
ちょっと!危ないでしょ!!
「な、なんだよ!俺が何したんだよ!!」
「あんたの、その腐った顔がむかつくのよ!!」
しっ、失敬な!!
腐ってはおらんだろ!!
「あんたはね!その、あれよ、ほら。お気楽に笑っている方が、似合ってんのよ!なのに、そんな腐った顔して!!」
あぁー。
どうも、周りに気を使わせてたみたいだな。
「ごめん。心配かけさせちゃて」
そう言うと、顔を真っ赤にした幸村ちゃんわーー。
「べ、別に心配なんてしてないわよ!わ、私はあれよ。ご飯がまずくなるから、言っただけよ」
怒っている口調だが、顔がにやけている。
わけわからん。
「竹中。お前全然食ってねーじゃん」
「ご、ごめんなさい。食欲がーー。けほけほ」
「今日は、学校を休んだら?半兵衛ちゃん」
顔色も、悪いしな。
「そうですね。大事をとって、休ませてもらいます」
咳をしながら、立ち上がる半兵衛ちゃん。
一応、肩を貸してあげて、寝室まで連れててあげる。
「ありがとうございました。武尊さん」
「いや、無理しないでね」
そう言うと、首を縦にふった。
喋るのも、辛いのか。
熱も少しあるかもな。
手を額に当てるが、どうにもわからない。
体温計ーー。
そんなものは、この家にはない。
ある意味、不便である。
仕方なしに、半兵衛ちゃんの額に、額をくっつける。
「ひゃう!?」
なんか、変な声をあげる半兵衛ちゃん。
おや?
なんか、どんどん熱くなってるな。
「半兵衛ちゃん。熱もあるね」
「は、はい・・・・・・」
「うん?大丈夫かい。顔が真っ赤になってるけど」
そう言うと、布団を口までかぶって、武尊さんのせいです。と言われてしまった。
ありゃ。無理に動かしすぎたのかな。
近くにあった、タオルを濡らして、額にのっけてあげた。
すると、いくらかましな顔になった。
大変だな、半兵衛ちゃん。
そんな事をしていると、学校に行く時間になった。
勉強をしている時でも、やはり考えてしまう。
俺は、誰の転生者なのか。
俺は誰なのか?
帰り道を、一人で歩きながら考えてしまう。
いつもは、誰かしらと同じなのだがーー。
やばい、一人だと余計考えちまう。
そんなことを思いながら、上を見上げる。
雲一つない青空だった。
「動くな」
突然、真後ろから声がした。
聞いたことのある声ーー。
この声は、明智光秀ーー。
「おいおい。物騒だなー」
「黙って、人のいないところまで歩け」
背中に、刀の気配がする。
仕方なく、言われたとうりに歩く。
しかし、さすがは明智光秀。
周りから刀を見えないようにしている。
しかも、不審に思われないように、中等部の制服をきている。
これでは、仲の良い兄弟に見えるだろうな。
ちなみに、店屋の鏡で見た感想です。
歩きながら、人のいない裏路地の橋の下にきた。
「きたぞ」
「織田信長の居場所を言え」
いきなり、信長ちゃんのことかーー。
「どうして、信長ちゃんにそこまでこだわる?」
「質問にだけ答えろ。死にたくはないだろ?」
カチャ、と音をだして、刀を持ってることをわからせるようにする。
そうだな、死にたくはないな。
「じゃ、俺も答えるからお前も答えてよ」
「お前は、状況が理解できてないのか?」
理解できてるさ。
ただ、質問の答え次第じゃ、俺もきれるぜ明智光秀。
「お前は、信長ちゃんを見つけてどうすんだ?」
「ふっ」
失笑するような声をもらしたあとーー。
「愚問だな。殺すに決まっている」
・・・・・・そうか。
救えないな。お前は・・・・・・。
俺は、左手で刀を思いっきり掴む。
「なっ!?」
明智光秀が、驚いた声をだす。
刀を引こうとするので、俺は手に力をいれる。
「きっ、貴様正気か!?下手をしたら指が落ちるぞ!!」
「正気さ」
信長ちゃんを殺す?
ふざけんなよ。
俺の目の前に、今朝の信長ちゃんの笑顔が浮かぶ。
あの人は、俺が守る。
信長ちゃんだけじゃねー。
幸村ちゃんも、半兵衛ちゃんも、みんな傷をつけさせねー。
ポタポタと、血が流れる。
「お前は、脅す相手を間違えたな」
右手に力をこめる。
「知ってても、お前なんかに教えーよ!!」
振り向く力を加えて、明智光秀に、ボディーブローをした。
「うっ!?」
少しよろけたが、すぐに持ち直して、俺を押さえつける。
「確かに、私は脅す相手を間違えたようだな」
地面に倒されているので、俺の首の横に刀をつきつける。
殺意のある眼差し。
「お前の性格は、なかなか読めない」
「そいつは、どういたしまして」
しばらく、見つめ会う。
あれーー。
俺は、あることに気づいた。
明智光秀の目は、普通に見れば氷のような瞳だろう。
しかしその奥ーー。
そこには、まるで何かに迷っているようで、助けを求めているような瞳。
どこかで、見たことがあるーー。
それは、今日の朝までの俺の瞳だ。
「さて、言い残すことはあるか?」
明智光秀は、殺気をまして言う。
「お前は、何に迷ってんだ?」
「!?」
明智光秀の目が、驚きで見開かれる。
「な、なんの話だ」
「もしかして、治安部隊の存在に迷っているのか?」
「なっ!?」
どうやら、俺の予想は当たったな。
「やっぱりそうか。おかしいとは、思ってたんだよ。あんたは、初めてあった時、俺をすぐには殺そうとしなかった」
「黙れーー」
「なのに、幸村ちゃんの妖刀事件の時は、あんたじゃない奴が起こした事件だがーー、いや、だからこそだな。人々を殺してもいいと考えての行動だ」
「黙れと言っているーー」
「そう考えると、あんたが信長ちゃんを狙う理由もわかる。あんたは、信長ちゃんに助けて欲しかったんだろ?」
「黙れ!!」
刀が、俺の首の寸前で止まる。
血が少し流れる。
「黙れ黙れ黙れ!!お前に、私の何がわかる!?」
「確かにわからないけど、お前の迷いの気持ちはわかるつもりだ」
顔を、怒りで真っ赤にしながら、俺を睨む明智光秀。
「お前は、前世に縛られすぎなんだよ」
「何?」
「信長ちゃんは、お前のことなんか恨んでねーよ」
力を入れすぎて、震えていた刀が止まる。
「半兵衛ちゃんが言ってたぜ。誰かわからないけど、お前は利用されたんだろ?」
「・・・・・・」
「だから、普通で良かったんだよ」
「だ、だがーー」
明智光秀の目に、涙が溜まる。
「私は彼をーー、信長様を裏切ってしまったんだぞ?許されることではない」
「許されることだよ。いつまで前世を引きずるつもりだよ。あんたはーー」
できるだけ、笑顔を作りながらーー。
「明智光秀だ。前世の明智光秀じゃない、今世の明智光秀だろ?」
どうやら、我慢の限界がきたようだ。
涙を流しながら、刀を手離す。
「うっ、うわーーーーん!!」
いつもの冷静な顔を崩して、俺の胸に顔を押し付けて泣く。
それこそ、年相応な声を出してーー。
空は、夕焼け色に染まっている。
「いっててて!!」
「我慢しろ。日本武士であろう」
左手を、光秀ちゃんが治療してくれる。
消毒って、痛いのね。
「これでよし」
包帯を巻き終えて、光秀ちゃんが手を離す。
どうやら、彼女も同じクラスの人らしい。
覚醒者なのに?と思ったが、どうも治安部隊に入っていたからだそうだ。
「本当にすまなかった。怖い思いをさせてしまったな」
「気にすんな。女子の攻撃ならなれてる」
主に、幸村ちゃんに鍛えられてます。
すると、光秀ちゃんが微笑んでーー。
「なるほど。信長様が気にいる訳だ」
「んっ?どうゆうことだ」
「独り言だ。気にするな」
川を見つめながら、光秀ちゃんが言う。
二人で、砂利の上に腰を下ろす。
「なんか、川と合ってるな光秀ちゃん」
「なっ!?」
いきなり、顔を赤くする光秀ちゃん。
いや、夕焼けのせいか?
「いっ、いきなりなんだ!?」
「いや、改めて見てみると、光秀ちゃん可愛いなーと。そして、川に合ってるなーと」
「かっ、可愛い!?」
「うん」
なんだ?
いきなり、テンパり始めたな。
「わっ、私が可愛い訳あるか!こっ、こんな魅力もない奴などーー」
「いや、十分魅力に溢れてるけど?」
綺麗な黒髪に、スタイルもいいし。
信長ちゃんが、火だとすると、水が、光秀ちゃんだよな。
「おっ、お前は危険だな」
「光秀ちゃんより弱いのに?」
「力じゃない。性格の方が危険だ・・・・・・主に女性にとってはな」
訳わからん。
性格なら、幸村ちゃんの方が危険だな。
「あれ、武尊君?」
信長ちゃんが、後ろに買い物袋を下げていた。
斜面になっているので、スカートの中が危ない。
その事に気づいたのか、隣から殺気がほとばしる。
ご、ごめんなさい。見てないので、許してください。
「あぁ!光秀ーー!!」
信長ちゃんが、走ってくる。
そして、光秀ちゃんに抱きつく。
「の、信長様!?」
「ごめんね。私が気づいてあげられなかったから」
信長ちゃん。
光秀ちゃんのことを、ずっと考えていたんだな。
「ごめんなさい。私は、信長様のことをーー」
「大丈夫。全然気にしてませんから」
嬉し涙を、目に溜めたま満面の笑顔で、言う信長ちゃん。
その姿を見た光秀ちゃんの目にも、涙が現れる。
「の、信長様!!」
そして、二人で抱き合いながら泣き出してしまった。
良かったね、信長ちゃん。
そんな事を思っていると、信長ちゃんと目が合った。
「やっぱり、武尊君は凄いね。私じゃ、できない事を普通にしちゃうんだから」
「いや!そんなこと!」
「そうだな。君のお陰で私もやっと、自分の進む道がわかった」
こ、困ったなー。
美女二人に、そんなこと言われるとわーー。
俺は、普通のことをしただけなんだけどな。
三人で、笑い合っているとーー。
一瞬、背中に嫌な感覚がよぎる。
「危ない!信長さま!!」
「えっ?」
パン!!
一発の銃声が聞こえた。
信長ちゃんを、押した光秀ちゃんの右肩を、何かが通り抜ける。
まさに、一瞬の出来事だった。
いきなり、光秀が私の事を押しました。
そして、私の顔に光秀の血がつきました。
目の前に、崩れ落ちる光秀。
武尊君が、驚きの顔のまま、固まっています。
「みっ、光秀!!」
倒れる光秀を、なんとか抱き止めました。
「狙撃!?」
武尊君が、狙撃主を探しています。
でも、私には打った相手が誰かわ知っています。
だから、余はそいつを許さん。
信長ちゃんが、覚醒している。
どうゆうことだ?
勝手に覚醒できるわけないのにーー。
「そこにいるのだろ!姿を現さぬか!!浅井長政!!」
信長様が、橋に向かって獄炎弾を放つ。
爆発と共に、橋が崩れ落ちる。
「さすがは、織田信長。私を殺しただけあるわ」
煙の中から、黒髪の女子生徒が現れた。
あの特徴、幸村ちゃんの証言と合ってる。
「治安部隊の人間だな。光秀を殺そうとするとはーー、ずいぶん、物騒な事だ」
「裏切り物には死をーー。あなたの得意分野でしょ?」
美しい顔をした彼女は、微笑みながら、信長様を見る。
手には、ルガーP08拳銃が握られている。
あの拳銃で、打ったのかよ。
「の、信長さま。私の事はよいので、逃げてください」
「何を言っている。余が貴様を捨てる訳がないだろ」
「違います。あいつの攻撃はーー」
そう言うと、光秀ちゃんが苦しそうな顔をした。
そしてーー。
「ゲホ、ゲホ!!」
血を吐き出した。
肩だけしか、攻撃されてないのに、まるで、内臓をやられたような吐きかただ。
「光秀!どうしたのだ!!」
信長様が、焦った顔をしている。
おかしい。
俺が、長政という人を見る。
何かしたとしたら、あいつだ。
すると、長政の左手に、人形がいつの間にか握られていた。
その人形には、針が刺さっていた。
しかも、腹らへんにだ。
光秀ちゃんを見てみると、腹を抑えるように見える。
まさかーー。
「信長様!長政の手にある人形が怪しいです!!」
「人形だと!?」
信長様が、長政を睨み付けるとーー。
「あら?ばれちゃた?」
にこやかに笑いながら、人形を俺らに見えるように見せてくる。
どこか、光秀ちゃんに似ている。
「私の能力は呪いよ。攻撃を与えた相手に、呪いを与えることができるの」
「なんだと!?」
「だから、こんな事もーー」
人形の右腕を、折り曲げられない方に曲げる。
するとーー。
「うわーー!!」
光秀ちゃんの、右腕が折れ曲がる。
なっ!?そんな事が可能なのかよ!!
「フフっ。アハハハハハ!!ほら、こうやってねじればーー」
「うわーー!!!」
光秀ちゃんが、右腕を抑えながら大声で苦しむ。
信長さまが、光秀ちゃんを抱えて、走り出そうとするがーー。
「だめよ!信長!!」
信長様の肩を、弾丸が通り抜ける。
俺ら戦国学園の制服は、防弾素材でできている。
それを無効にするんだから、おそらくーー。
「防弾貫通か!」
「そのとうりよ。さて、信長は心臓を刺して終わらせようかしら」
うっとりとした顔で、信長様の人形を見つめる長政。
その光景を見た瞬間、頭の中で、女性の声が響く。
『させない!二度とあの悲劇は起こさせない!!』
その声にはじかれるように、俺は走り出していた。
「いい加減にしろ!!」
「よせ!サル!!」
信長様の声がしたが、無視して走る。
あいつだけは、許させー。
「無駄な事は、しない方が良いのよ」
笑いながら、俺を見る長政。
無駄かどうかわーー。
「私も貴様と同じ意見だがーー、気持ち的には小僧よりだな」
長政の後ろに、突然チュー助が現れる。
「何者よーー。あなた」
長政が、少し怒りがちに言う。
チュー助は、悪い笑みを浮かべてーー。
「竜よ。出番だ」
その言葉を合図に、長政の回りに炎が現れ、包み込む。
炎の球体になった場所から、チュー助が飛び出てくる。
そして、俺の横にきてーー。
「小僧、主のもとまで走れ。そうすれば、呪いの効果の範囲から出られる距離だ。仮に出られなくても、主なら呪いを消せる」
「お前は、どうするつもりだ?」
そう言うと、鼻で笑いながらーー。
「私は死なんからな。お前ら人間とは違うのよ」
炎が、晴れ始める。
「行け!あまり、時間稼ぎはできんぞ!!」
「信長様!逃げますよ」
俺が、信長様のことを逃げるように促すとーー。
「逃がすと思っているのかしら?」
長政が、言葉を発すると共に、発砲する。
しかし、チュー助が先読みをして、弾丸の直線上に、石を蹴りあげる。
弾は、石に拒まれた。
「逃がせられんと、思っておるのか?小娘」
「妖怪風情が、人間の邪魔をするつもりかしら」
そう言って、ぶつかり合ったーー。




