九話 軍師の実力
竹中半兵衛ーー。
戦国時代で、天才軍師と呼ばれた男である。
その智力は、16人で城を落としたほどである。
しかし、半兵衛の真の実力は守りにある。
あの織田信長の進軍を、二回も止めてみせたほどだ。
しかし、その力ゆえに若くして命を落としてしまう。
そんな天才軍師が、今隣にいる女の子だなんてーー。
「申し遅れました。竹中半兵衛と言います」
「木下武尊だ。よろしく」
いや、人は見かけによらないな。
そうだよ。信長ちゃんだって覚醒するとあの性格だもん。
「さぁ、教室に入ってください。みなさんが集まったら彼女を紹介しますから」
利休先生にうながされて、教室に入る。
「おー、お前の妹か?」
女子なのに、片足を机の上にあげて言う信玄。
お前、スカートなの忘れてるだろ?
「ちげーよ。どう見ても似てねーだろ」
「それもそうか」
まったく、こっちの身にもなれよな。
視線をはずしながら話すのつらいんだぞ。
そんなことを思いながら、自分の席に座るとーー。
突然、教室の扉が乱暴に開けられた。
「武尊ーー!!」
扉を開けた人物は、幸村ちゃんだった。
ヤバイ、俺の頭が危険を感知してる。
「おぉー、幸村じゃん。久しぶりだなー」
信玄が、のんびりとした声を出す。
気楽でいいな!
「武尊!」
信玄の言葉を完璧にスルーした幸村ちゃんが、俺の前まできてーー。
ズドン!
「ぐぉー!」
予告なしの、ボディーブロー。
これで終わらないのが、幸村ちゃん。
倒れそうだった俺の顔を、平手打ちしてきた。
なっ、なんなんですか!?
「あんた。私の料理を利用して逃げるなんて、いい度胸じゃない!」
「ちょっ、誰も利用してないだろ!」
利用していないが、使わせてはもらった。
その事を、俺の顔で判断した幸村ちゃんはーー。
情けなしの蹴りをしてきた。
お、俺死ぬかも。
「真田さん!!」
そんなことを考えていると、信長ちゃんが教室に飛び込んできた。
あぁ、救世主様!
「やりすぎだよ!」
「うるさい!甘やかしたら、こいつは同じ事するわよ!!」
「朝から、やかましいなー」
ちなみに、最後のは信玄である。
しかし、二人にはそんな言葉は聞こえていない。
「大丈夫?武尊君」
信長ちゃんが、肩を貸してくれた。
本当、優しい人だよ。
たまに怖い時があるけどーー。
「くっ、くついてんじゃないわよー!」
何故か、顔を真っ赤にして怒りながら、信長ちゃんと俺を引き剥がす幸村ちゃん。
しかも、俺ことだけおもいっきり突き飛ばす。
立つのもやっとだった俺なんだから、突き飛ばされたら、壁に激突する。
「何するんですか!武尊君が可哀想でしょ!」
「うっ、うるさい!この変態女!」
「なっ!?なんでそうなるんですか!!」
「しっ、しらばっくれても無駄よ!私が村正を拾ってる間に誘惑してたじゃない!」
その一言を聞いて、信長ちゃんが顔を真っ赤にする。
「あっ、あっ、あれは、私が言ったんではないです!!」
「じゃ、誰が言ったのよ!」
「そっ、それはそのーー」
信長ちゃんが、言葉に詰まる。
あれは、自分であって自分ではない人なのだ。
どうしたって、言い訳のようになってしまう。
「大丈夫ですか?」
その時、俺の前に、濡れたハンカチを出しながら、半兵衛ちゃんが言う。
「ありがとう」
半兵衛ちゃんのハンカチを借りて、右頬に当てる。
うわー、冷たくてきくわー。
そんなことを思うのは、数秒だけだった。
二つの殺気が、俺に向けられる。
一つは、燃えるような殺気。
もう一つは、雷のような殺気である。
顔を見なくてもわかる。
「たーけーるー!!」
「武尊君、覚悟してください」
なっ、なんで?
俺、悪いことしてなくね?
「そこまでにしておけ」
凛とした声が、教室に響く。
声の主は、謙信さんだ。
「まったく、子供ではないだろう。おとなしくしていろ」
「上杉さん」
「ふん。今さら登校してくるなんて、余裕ね」
「悪いが、一時間前から学校には来ている。生徒会の仕事があるのでな」
幸村ちゃんの言葉を、柔らかく否定しながら席に座る謙信さん。
「ガキ共座れー」
タイミング良く、塚原先生が入ってきた。
あいかわらず、教師とは思えない格好だ。
「えーと、竹中。前にこい」
その言葉を聞いて、半兵衛ちゃんが前に出る。
「中等部から、飛び級できた竹中半兵衛だ。みんな仲良くしてやれ。以上、戻っていいぞ」
早すぎる自己紹介を終えると、塚原先生はーー。
「えーと、なんか連絡があったんだよなー。あぁ、あれだ。上杉」
「はい」
上杉さんが前に出てきてーー。
「知ってる人もいるだろうが、知らない人もいるので説明する」
その言葉で、俺以外の人達が何かに気づいた。
「ありゃ、こんな時期だったけ?カマトト」
「黙っていろ」
殺意むき出しで、謙信さんが言う。
「二週間後、タッグバトルがある。クラスの中で最強のタッグを決めると共に、連携訓練にもなる」
「私達のクラスは、丁度分けられますね」
「うむ。それでタッグを決める」
「あっ、悪いがタッグなら俺が決めた」
いきなり、塚原先生が言う。
一同、何が起きたのかわからないように、石化した。
「えー。まず、織田と上杉。それと、武田と真田。
最後が、竹中と木下だ」
「理由を聞かせてください」
幸村ちゃんが、いきなり言う。
納得が、行かなかったのか。
「簡単なことだ、一番はパワーバランス。織田は覚醒してないし、武田もしてねー」
「私と真田さんは、半覚醒者だからですか?」
そうだ。と塚原先生が言う。
でも、俺と半兵衛ちゃんはーー。
「でも、武尊君と竹中さんは、二人とも覚醒してませんよ」
「それに、竹中は病弱だぞ」
信玄と信長ちゃんが言う。
すると、塚原先生はーー。
「だが、木下には強制覚醒がある。それに竹中には智力がある。どうだ、最高の割り振りだろ?」
ニヤリと笑いながら、塚原先生が言う。
「まぁ、今日から授業は自主になるから、親睦を深めるのもよし。戦うのもよし。好きに二週間過ごせや」
それで、今日のホームルームは終わった。
ーーー
武尊君と戦うことになるなんてーー。
今から気が思いです。
「どうした?具合でも悪いのか織田」
模擬戦闘をしていた上杉さんが、私に声をかけてくれました。
「大丈夫です、ごめんなさい」
そう言うと、上杉さんは何かを考えながら、刀を鞘に戻しました。
「あの」
「少し、休憩しよう」
気を使わせてしまいました。
武田さんと、真田さんは怒鳴り合いながら、戦っています。
あれで、連携できるんでしょうか?
「木下と、戦うのが嫌か?」
「はぇっ!?」
ばっ、ばれてる。
顔に出ていたのでしょうか?
「わからなくはない。お前らは仲がいいからな」
「はー、仲がいいだけですか?」
「うん?良くないのか?」
本当は、お似合いだとか言って欲しかったんですけどーー。
「しかし、変わったな」
「何がですか?」
「前世のお前は、味方でも敵になれば容赦しない性格だったのに」
うぅ、昔の話ですか。
困ります。知らない話をされても。
「まぁ、知ってる奴とやり合いたくないのはわかる」
上杉さんが、遠い目で言う。
恐らく、前世のことでも思いだしているんでしょう。
「私も、越後を統一する時に、かなりの知ってる顔の人々を斬った」
お前もそうだろ?というような顔をする上杉さん。
ごめんなさい、思い出してないんです。
「ごめんなさい、私まだ思い出せなくて」
「そうだったな。すまなかった」
上杉さんが、頭を下げる。
「はわわ!!顔を上げてください!」
「本当、おかしな奴だな」
上杉さんが、微笑みながら言う。
おかしいでしょうか?
「織田」
「はい?」
「今回のタッグ戦で、木下を驚かしてみないか?」
どうゆうことでしょう?
「織田が強くなっていたら、木下の奴驚くはずだ」
「なるほど!いい考えですね!」
そう言うと、上杉さんと笑いあった。
ーーー
どうすればいいんだ?
中庭で、半兵衛ちゃんとベンチに座りながら考える。
今まで、誰かと協力したことなんてなかった。
いや、あったにはあったが、初めから作戦などを練るのは初めてだ。
「うーん」
「・・・・・・」
わからん。さっぱりわからん。
信長ちゃん達みたいに、戦えばいいのか?
それとも、他の生徒みたいに話し合ったほうがいいのかな?
そんなことを考えていると、半兵衛ちゃんがーー。
「あのー。武尊さんは、どういった能力なんですか?」
「能力?」
困ったな。
俺に能力なんてないぞ。
「すいません、質問の仕方を変えますね。強制覚醒というのは、どのようにすればできるのでしょ?」
「あぁ、そのことか!」
バカだな俺。
俺の能力なんだから、それ以外ないだろ。
「えーとね。確か、信頼しあえばできるみたいだよ」
「なるほど、そうですかーー」
半兵衛ちゃんは、前を見ながらそう言う。
どうしたんだろう?と思っていたが、どうやら考え事をしているらしい。
しばらくすると、俺の方を見ながらーー。
「一度、武尊さんの力を見せてください」
優しい笑顔を浮かべながら、そう言ってきた。
場所は変わり、森林訓練所。
戦国学園では、あらゆる戦いを想定した場所がある。
森林訓練所は、周りが草や木におおわれている。
携帯で、時間を調べる。
午後1時ぴったり。
反対側では、半兵衛ちゃんも動き出しただろう。
「さて、行くとしますか!」
腰に差している剣を抜く。
まっすぐ、道なりに進んでいく。
今、この森林訓練所には俺らしかいない。
だから、人の気配を感じたらーー。
そこまで思考がいった時、背中に嫌な感覚がした。
回転受け身をして、後ろを見る。
すると、木に傷がついていた。
しかも、爪の跡である。
「なんでーー」
あり得ないことだ。この森林には、動物などいないはずだ。
いたとしても、人に危害を加えるものじゃない。
となると、考えられることはーー。
「半兵衛ちゃんかーー」
辺りを見てみるが、人の気配がしない。
それならーー。
「瞬神流奥義、反響乱」
剣を、近くの木に打ち付ける。
その音は、その木を中心に広がる。
この技は、音を広がせることにより、自分以外の生物を見つける技だ。
俺は未熟だから、半径5メートルまでしかわからない。
確か、俺の師範である親父は半径5キロまでわかるとか言っていた。
目を閉じて、神経を集中させる。
「おいおい。まじかよ」
見つけたのはいいが、人ではなかった。
むしろ、人の方が動きを見切りやすかった。
俺が、右の方向に目を凝らすーー。
すると、一匹の鷹が飛んできた。
「やってらんねーよ」
しゃがみこんで、鷹をよける。
まさか、飛んでいる奴が相手かよ。
とりあえず、走るしかない。
ここは、木が多すぎて剣をまともに振れないからな。
走りながら、鷹の攻撃を避けているとーー。
1つの小屋を見つけた。
おそらく、休憩所だろう。
「助かった。あそこにとりあえず避難するか」
小屋の中に入る。
扉をしめて、鷹が入らないようにした。
「ふー」
息を整えるために、座ろうとするとーー。
目の前に、半兵衛ちゃんがいた。
「あれれ?」
「ばれてしまいましたね」
苦笑いをしながら、半兵衛ちゃんが言う。
そうか、身体が弱いからここにいたのか。
しかし、偶然なんてことあるんだな。
「あの鷹は、君の仕業だね?」
「はい。鷹さんは私の友達です」
何だろう?
頭では、チャンスだと思っているんだがーー。
俺の感覚が、違和感を感じてるーー。
「そんな余裕こいてて、いいのかい?」
「余裕では、ありませんよ。まさか、ここまでくるとは思っていなかったんで」
その割りには、笑顔だな。
まぁ、参ったと言わせれば俺の勝ちだ。
「瞬神流抜刀奥義、逆手切り!」
逆手で、剣を抜刀する。
軌道は、半兵衛ちゃんの首だ。
しかし、半兵衛ちゃんは避けようとせずに、俺の顔を見ている。
首に触れる寸前で、剣を止める。
「このままだと、当たるよ?」
「当たりますね」
「降参してくれると、嬉しいんだけどな」
俺がそう言うと、クスクスと笑いだす半兵衛ちゃん。
やはり、何か変だーー。
「貴様ごとき小わっぱが、我が主に勝てる訳がなかろう」
半兵衛ちゃんの顔に、邪悪な笑みが浮かぶーー。
いや、こいつは半兵衛ちゃんじゃない。
そこまで思考がくれば、容赦はしない。
剣を、力任せに振る。
狙いは首だーー。
しかし、避けられてしまった。
あの状態で避けるなら、人間ではない。
「小僧!私を追い詰めたご褒美をくれてやる!!」
くぐもった声を出して、そいつは姿を変えた。
半兵衛ちゃんの身体から煙が出ると、そこから美形の男が現れた。
袴をはいていて、髪の毛は長く、1本にまとめている。
目は鋭く、瞳は黄色だ。
そんな男は、俺を見据えたまま両手を広げる。
まるで、何かを受け止めるようにーー。
「たいしたものだ。覚醒者でもないのに、これほどの腕前とわ」
「そいつは、どーも。ところで、お前誰だよ?半兵衛ちゃんはどこだ」
クックックと、男は笑いながらーー。
「その質問の答えは、お前が次に目覚めた時にわかるーー」
男の両手に、何かが集まっていた。
目映いくらいの、光である。
「誇って良いぞ。この状態の私に、この技を使わせたことをな!!」
その言葉を言い終えると、男は両手を身体の中心で打ち付ける。
「合掌!!」
次の瞬間、俺の視界は光に包まれた。
ーーー
私の目の前で、爆発がおきました。
チュー助さんには、合掌を使わないように言ったんですけどーー。
「あーあ、あの糞ネズミ。やりやがった」
そんな言葉を吐きながら、鷹さんが降りてきました。
「私のお願いを、聞いてなかったんでしょうか?」
「いや、あいつに限ってそれはないでしょう。おそらく、久しぶりに出てきたから、興奮したんでしょう」
やれやれと、言いたげな鷹さん。
私は、肩に乗ってる鷹さんの頭を撫でて、爆発した所を見てみました。
もしかしたら、意識を飛ばしているかも知れませんし。
しかし、武尊さんが傷をおっているところは、見たくありません。
おかしいことです。ろくに外に出たことがない私が、人の心配をしているのですから。
私が見たことがあるのは、家の天井と本だけですからーー。
「おっ。煙が晴れるぜ、姫」
「そのようですね。チュー助さんには、後で理由を聞いて見ましょう」
煙が晴れると、中心付近に、武尊さんが倒れていました。
ちなみに、武尊さんが倒れているところは、木がないひらけた場所です。
ですから、何も無いところです。
もちろん、小屋はおろか休憩所もありません。
ーーー
何がおきたんだ?
誰かの声がするーー。
そうだ。偽物の半兵衛ちゃんと戦って、それでーー。
「あっ、目が覚めました?」
目の前に、半兵衛ちゃんがいる。
あれ、なんで半兵衛ちゃんの顔が、逆さまに見えるんだ?
それに後頭部が、なんか柔らかーー。
そこまで気づいた所で、急いで起き上がる。
はっ、恥ずかしい!
年下の子に、膝枕されてるなんてーー。
切腹しよ!
しかし、剣は刃を見せてくれない。
「あらあら。姫様の膝枕で恥ずかしがっているのかしら?」
その言葉で、始めて気づいた。
知らない女の人が、含み笑いをしているのだ。
たれ目で、おっとりとした雰囲気の女性。
しかし、頭には耳のような物がある。
「まず、謝らなければなりませんね。チュー助さん」
半兵衛ちゃんが、ネズミの絵が書いてある紙を、地面に置く。
すると、煙が巻き上がるように紙から出てくる。
その煙が消えると、あの男が現れた。
「おや、傷を治させていたのですか?主」
「チュー助さん。どうして合掌を使ったんですか?」
「それは、そこの小僧が、以外とやり手だったからですよ主」
悪い顔で言う男。
半兵衛ちゃんが、何かを言おうとした時、空から鷹が飛んできた。
「糞ネズミ!あいかわらず、バカだな!!」
鷹は、男に攻撃し始める。
「ええい!やかましいぞ鷹!!酉の分際で!!」
「うるせー!テメーみたいに、ずるしてねーだけましだね!!」
「黙れ!我は、頭を使っただけだ!!」
ガミガミ言い合う鷹と男。
「まあまあ、二人ともやめなさいな。姫様の前ですよ」
「けっ!未に免じて許してやるよ!!」
「主に免じて許してやろう!」
訳わからん。何がどうなってんだ?
「小僧、私が一から全て教えてやろう」
男が、偉そうに言うには、半兵衛ちゃんの能力は、干支十二支を操れるらしい。
その中の鷹が、俺を追い回し、その間に、申が見えない所から俺に幻覚をかけて、ひらけている場所に小屋があるように見せて、鼠が半兵衛ちゃんに化けて、俺を取り押さえる予定だったらしい。
ところが、興奮していた鼠は、鼠の最強の技である合掌を使い、爆発をおこしてしまったらしい。
「これが、全てだ」
何を偉そうに。
お前のせいで、意識を失うことになったんだぞ!
「ちなみに、姫様は覚醒者なんですよ。ただ、ある2つの条件がないと、覚醒者としての本来の力を扱えないのです」
そうなの?
いや、それよりもおそろしいのは、半兵衛ちゃんの頭だ。
なんて策略だよ。
「えーと、武尊さん」
「何、半兵衛ちゃん」
「どこか、落ち着いて話せる場所なんかありませんか?」
笑顔で、天才軍師はそう言った。




