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動揺

 「葵くん葵くん!」

「うん?」

「飲み物買ってきます!」

「行ってらしゃい」

 茶天と図書館であった次の日、僕は緋翠と街に来ていた。

僕がメールで誘ったところ、緋翠が快く承諾してくれたのだ。

 映画館館内の、ジャンクフード店の受付で飲み物を買う彼女を、椅子に座って僕は待つ。

 今日の彼女の服装は、白いパーカーに桃色のフリルがついたミニスカート。ニーソックスと、今は被っていないが赤いベレー帽という、ラフながらも可愛らしい格好だった。

僕が、街を歩くかもと言ったうえでの選択だろう。

 ---だけど彼女、少しやつれていないか?

前々から何となくは思っていたが、土曜日会わなかったことにより鮮明にわかった。

もともと白い肌は青白くなっており、楽しそうなのはわかるがいまいち表情に覇気がない。

体調が悪いのかと聞いても否定されるし・・・どうしたんだろう。

 緋翠を眺めながらそう考えていると、彼女がジュースを両手に持ってこちらに歩いてきた。にっこり、満面の笑みだ。だけどやっぱり―――何かが足りない。

 「・・・お帰り。何にしたの?」

「リンゴジュースです。葵くんは要らないんですか?」

「うん。僕はいいかな。それよりもう時間だし、中に入ろう」

 チケットに書いてある番号がかいてある部屋に、僕と緋翠は入る。

 すでにお客さんが大勢入っており、満席とは言わなくとも結構な人数だった。

 指定の席を見つけてそこに座る。緋翠のリンゴジュース以外、余計なものは買わなかった。

 今日見る映画は恋愛ものだ。本当は冒険ものを予定していたのだけど、緋翠が、血の出ないものがいいというのでこれにした。

 血は映像でも駄目らしい。

恋愛ものは正直苦手だが、緋翠がこれ以上体調を崩してしまってはまずい。僕は、大音量で始まった映画に目を向けた。





――――――――


 「・・・ふう」

 映画が終わり、椅子に腰をかけ息を吐いた。緋翠は映画のグッズを見てくると言って、少し離れている。

 こてこての恋愛映画は、疲れるとまでは言わなくとも少なからずの脱力感が残るものだった。

 恋愛を否定しているわけではないが、わざわざ作られたものを見ようとは思わない。テレビでも、小説でも漫画でも、同じことだ。

 緋翠は感情移入をしていたが、僕は天地がひっくり帰ってもできそうになかった。

 とまぁ、当たり障りのないことを考えていると、

 「奇遇だね」

 昨日と同じ声と言葉が、僕にかけられた。

茶天椎奈。肩の空いたロゴ入りのシャツに、黒のスカート。昨日とはまた違う雰囲気の服を着て、彼女は僕の隣に立った。

 「どうしたの?一人で映画?」

「そんなわけないじゃん。友達と来たんだよ」

 昨日の今日だ。下手に緋翠の名前を出すのは気が引けて、ぼかした。

余計な詮索をされないように、僕はすぐに冗談交じりで切り返す。

 「茶天さんこそ一人?」

「私も友達友達と来てるわ。今はグッズを見に言ってるけど」

「へぇ」

 僕の友達も、と言いかけてやめる。そんなことを言えば、帰ってきた茶天さんの友達からばれてしまう。

 「冒険ものよ。面白かったわ」

「あ、見たんだ。面白かった?」

「ちょっとグロかった」

 青い顔で、茶天さんは片手をパタパタと振る。その感想を聞いて、緋翠と見なくて本当に良かったと思った。

 「グロいと言えば」

「うん?」

「首切り死体の話、知ってる?」 

「ああ・・・近くみたいだね」

 同じ町内・・・というか、僕の家の近くであった事件だ。今日の朝、ニュースで流れていたものを見た。なんでも、斧のようなもので首を切り落とされた男の惨殺死体が、昨夜町の住民に発見されたらしい。

 今のところ詳しいことは分かったいないが、今のところは通り魔の仕業と言われているようだ。

 しかし斧持った通り魔なんて、いるのだろうか。

目立つことこの上無いだろうに。

 「あの話、私はね」

「うん」

「九十九さんの仕業だと思うの」

「・・・・・・」

 思考が一瞬、止まった。

 ついていけない。

 「うん、と、それはつまり・・・緋翠も関わってるってこと?」

「ううん。彼女がやったの」

「・・・なにを言ってるの?」

「そのままの意味よ。私は彼女が首を落として殺したと思ってる。血を飲んだ跡を隠すために」

 周りの雑音が聞こえなくなった。

 おかしな話である。なんだ、血を飲むって。そんなおとぎ話みたいな。

 だいたい僕はそんな話信じないんだ。心霊モノとかも、見るけど信じない。

 だけど

茶天さんの話を聞いて、何かピースが当てはまったのも、事実だった。

 「彼女、八重歯ない?」

「・・・さあ・・・」

「それに屋外での体育はいつも日陰で見学。外に出るときは絶対帽子をかぶってる。一度は思ったでしょう?まるで彼女、吸血鬼みたいだって」

「そんなわけ、そんなわけない。あるわけない」

「じゃあ聞くけど」

 一旦、言葉を切って、

 「九十九さんが血に興奮してるとこ、みたことない?」

「・・・・・・」

 体育。転んだ夕菜の膝から流れる血。

―――――――――――あのぎらついた、目。

 いや、でも、そんなまさか、

 「九十九さんは人間の血を吸って生きているわ。多分あなた、狙われてるのよ」

「茶天さ、」

「信じられないなら、彼女の歯を見てみなさい。きっと、立派な八重歯が生えてるわ」

 人間の皮膚を食い破るための、歯。

・・・あり得ない、けど、

否定できない。

 「ああ、九十九さんが来たわ」

 茶天さんの声に、はっとする。前方から緋翠が小走りで来ていた。

 「じゃ、私はこれで」

 潔く茶天さんは離れる。もう、何か言う気にはなれなかった。

 「あれ、あの人」

「・・・隣のクラスの茶天さんだよ。友達と、来てたんだって」

「・・・そうですか」 

 緋翠の目が光った・・・ように、見えた。




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