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デートのお誘い

 今日は、土曜日の休日だった。

 特にすることもないので市内の図書館に向かうことにする。

煉瓦で外装が飾られたこの図書館は、規模は大きくは無いが、蔵書の数はなかなかなもので、メジャーなものからマニアックなものまでそろっていたりする。

 最近は少しファンタジー系のものにはまっているのでそのコーナーに向かってみた。

 本棚にぎっしり並べられた分厚い本の背表紙を一冊一冊吟味し、興味のあるものは手に取っていく。

 “宇宙対戦”・・・宇宙には別に興味ないしなぁ。ああじゃこれはどうだろう。“君の猫”・・・表紙で、男の子と女の子が手をつないでいる。駄目だ。恋愛要素が強そう。他の―――

“吸血鬼は何を見た”

 そんなタイトルが、目に止まった。

吸血鬼。なんだろう。なんでろう。

なんで、緋翠を思い出したんだろう。

 「・・・?」

 何故か漠然としない思いに支配され、取り敢えずその本を手に持っておくことにした。

 それから推理ものの小説と、レパートリーを増やすための料理本を手にし、誰も座っていないテーブルにつく。

ここの位置は入り口から遠く、奥のほうにあるが、ガラス張りの壁から中庭が一望できる位置にあった。花や蔦が中庭の花壇一面を飾っており、とても綺麗である。

 推理小説のほうを手に取ってから、一度、吸血鬼の本に目線を移した。

 “吸血鬼は何を見た”黒い外装に、金色の文字でそう綴られている。

何となく持ってきてしまったが、特に興味は無いので読む気はしない。

 しかし吸血鬼、か。

確か日光やニンニク、十字架を嫌い、人間の血を吸うんだっけ?

 そんなものが本当にいるとは思わないけど、もしいたら、いたとしたら、

どちらが悪者になるのだろう。

吸血鬼は生きるために人間の血を吸い尽くして殺すけど、人間にとってはたまったものじゃない。そうなるときっと、何らかの戦いが起きるはずだ。人間対吸血鬼の。

 だけど、だけど、吸血鬼が人間の血を吸うことは仕方ないと思えてくる僕はおかしいんだろうか。

だって吸血鬼が血を吸うのは生きるためだ。人間が家畜を殺すのと一緒じゃないか。

 そう。一緒。結局この世は、弱肉強食ということで―――

 「・・・何考えてるんだろ、僕」

吸血鬼の本片手にこんなに真剣に考えるとか、馬鹿みたいだ。

 というか、恥ずかしい。

 「何考えていたの?」

と、吸血鬼の本をテーブルに置く瞬間、そう声をかけられた。

 顔を上げると、そこには女の子がいた。

 白いブラウスに赤いリボン。赤のふんわりとしたスカートを揺らし、後ろで手を組んでいる。

 スカートと同じ赤いフレームのメガネと、ボブの黒髪には学校で見覚えがあった。

 「・・・茶天さん?」

「奇遇だね、瑞木君」

 隣のクラスの女の子、茶天椎奈が、僕の前に座った。

 本を持っていないところを見ると、本を選んでいる途中で僕を見つけたらしい。ここの図書館には、DVDなどの娯楽は置いていないから。

 本当に本しかないのである。

 「瑞木君、いつもここに来るの?」

「あ、うん」

 はて。僕は茶天さんとこんなに仲が良かっただろうか。

文化委員会が一緒だが、事務的なことを二、三回話しただけだった気がする。

 お互い名前は知っているが、こうやってわざわざ声をかけ、座り込んで話をする仲ではなかったと思うのだけど・・・。

 「どうかした?」

「・・・いや」

 多分、彼女の性格だ。誰とでも仲良くなれる、社交的な性格なのかもしれない。

だったら僕も、それに乗るべきだろう。

 「本当奇遇だね。一人?」

「うん。一人でのんびりするのが好きなの」

「へぇ。僕と一緒だ」

 ふと、茶天さんの目線がテーブルに並べられた本に落ちた。とっさに、さっきの独り言を追及されるないよう願う。わざわざ恥をさらしたくはない。

 「・・・吸血鬼、」

 びくり、と僕の心臓が跳ねた。

 「そういう話、好きなの?」

 しかし彼女の口から紡がれたのは、予想していたものと全く違うもので、安心した。僕はううん、と首を振る。

 「何となく持ってきただけだよ」

「・・・そう。あ、料理本もある。こっちは興味があって持ってきたもの?」

「・・・うん、まぁ、」

 なんだろう。話が料理本に移る前、茶天さんがなにか言いたそうにしていたのは気のせいだろうか。

 「瑞木くんは料理が上手いって誰かが言ってたのよね。今度私にも何か作ってきてよ」

「え・・・」

 “明日、私にお弁当を作ってきてください”

 茶天さんの台詞と、僕に告白をした次の日の緋翠の台詞が被った。

 もし、僕が茶天さんに料理を作ったとして、緋翠はどういう顔をするのだろう。気にしないだろうか。それとも―――――。

 「瑞木くーん?おーい」

「え、」

 パタパタと、僕の目の前で茶天さんが手を振っていた。どうやらいつの間にかぼーっとしていたらしい。

 「そんなに深く考えるほど嫌?」

「え、いや、そういうわけじゃ・・・」

「九十九さんにはお弁当作ってあげてたのにーーー」

「!?なんでそれを・・・」

「貴方たち二人、有名よ?ほら、九十九さん美人だし、瑞木君も綺麗な顔してるし」

「き・・!?してないしてない!」

「知らないの?上級生のお姉さんとかから結構人気よ?瑞木くん」

「ありえないから・・・」

 先輩たちからはからかわれて終わりの僕である。人気なんてあるわけない。

 「ねぇ、瑞木くんは九十九さん、かわいいと思う?」

「何急に・・・」

「いいから」

「思うよ。かわいいと思う」

「ふぅん」

 質問の意図がわからず、僕は首をかしげる。何を言いたいんだろう。 

 「じゃあ、好き?」

「・・・へ」

「瑞木くんと九十九さんが一緒にいるようになってから、もう一週間以上たつよね。毎日一緒にご飯食べて、沢山話して・・・好きになった?」

「・・・・・・」

「・・・・・ごめん、変なこと言ったね」

「ん、と」

「無理に答えなくていいよ。大した意味はないから。だからそんなに難しい顔しないで」

 指摘されて気づいた。いつの間にか眉間にしわが寄っていたらしい。

 「じゃあ、ばいばい。ゆっくり本読んでね」

 僕の眉間を指さしてから、茶天さんは席を立ち、手を振って去って行った。

 急にあらわれて、急に消えて行った子である。

 「・・・・・」

 ふぅむ。

 緋翠が好き、ね。

緋翠とお弁当を食べた日、七月十日の日から一週間と四日の、今日、二十一日まで、毎日一緒に昼食をとり、何回か帰路を共にした。メアドも交換してメールだって沢山した。

沢山話して、沢山笑って―――。

 「・・・うん」

 携帯を出す。ポチポチとボタンを押して、メールを作成した。

 『明日、暇だったら映画でも行かない?』

宛先は勿論、九十九緋翠である。

 







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