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♯08 同化してるっ!

「そりゃもう、学校で持てはやされちゃいましたよ! 意外とプレイしている人、小学生にも多いんですねぇ。兄弟とか、クラスメイトとかと一緒にしてる人多いみたいです」

「へぇっ、でもステージ5程度で、そんな威張れるレベルなのか?」

「いえ、毎回強いボス倒してるって話したら、噂になっちゃって。あと、レア装備?」

「ああ、あれは凄かったな。今のところ、6%の入手率らしいぞ」


 その言葉に、素直に驚きの表情の美井奈。隣で歩いている瑠璃の手を握っての帰宅途中だが、話すのはもっぱら弾美とである。三人揃っての帰宅は、昨日の相談で決まった事。

 HRが終わり次第、小学校に迎えに行くと言っていたのだが、美井奈は聞いちゃいない。中学校の靴脱ぎ場に忍び込み、二人を待ち伏せしていたりして。


 今日は木曜日、大井蒼空付属中学の部活動は全面的にお休みの日である。学校から真っ直ぐ帰れば、夕方まで2時間は一緒に遊べる按配だ。

 美井奈は幸い習いものなどは何もしておらず、この日ももちろんフリー。そんな訳で、三人で弾美の家に向かいながらゲームの談話や学校の話などをしている次第。


 美井奈は学校指定のポロシャツに、薄いカーディガン、黒のスウェットという格好。カバンはリュックタイプの物で、手提げカバンも持っている。どちらかと言うと地味な装いなのだが、美井奈が着るとどこか華やかになるのは、元の派手な容姿のせいか。

 一方の弾美と瑠璃は中学指定の学生服。男子も女子も、似たような紺と藍色のブレザーだが、女子の制服の方はリボンやチェック模様でお洒落感が演出されている。

 

「今日は急に視界から消えるなよ、美井奈」

「昨日は2回も呑み込まれましたもんねぇ、もうこりごりです!」

 

 話は昨日の厳しい戦闘に及び、カエルと大サメに呑み込まれた経験を持つ美井奈は、ぶるっと身体を震わせた。瑠璃と繋いだ手からもそれは伝わり、昨日のゲームでの出来事が蘇る。

 確かに蛮族の神様を怒らせたり、最後のボスの部屋の謎を解いたり、アスレチックエリアでもやっぱり破天荒な行動をしたりと、ミイナは昨日も結構なやんちゃ振り満載だった。

 そしてそれをフォローする弾美は、とっても大変そうだったのは言うまでも無く。


「そう言えば……美井奈ちゃん、いつもお母さんと一緒にゲームしてるの?」

「え、ええと……昨日はちょっと、隣で笑われたり憐れまれたり、手伝って貰ったり……」


 手伝いもして貰っていたらしい。そう言えば、後半やけに弾美の指示にてきぱき動いていた気がしたけれど。弾美も瑠璃も、それを聞いてちょっと生暖かい表情に。

 それに気付かない美井奈は、母親は過保護で困ると、一応子供なりの主張があるらしい。


「今日も夕方に、車で迎えに来るって言うんですよ!」

「あら、いいじゃない、優しいお母さんで。家の場所、ちゃんと分かるかなぁ?」

「ん~、俺のとこの親はペーパードライバーだからなぁ。言えば送ってくれると思うけど……」


 美井奈は自分の母は運転が上手だし、地元の地理にも詳しいので平気だと口にした。美井奈も一度訪れた事はあるので、何となくの場所は既に伝わっているようだ。

 それならばと、一応安心の弾美と瑠璃。


 二人の家に辿り着くと、毎回の事ながらも犬達がハイテンションでお出迎え。今回はお客が一人混じっているので、マロンもコロンも大喜び。フレンドリーに飛びつこうとして、美井奈に悲鳴を上げさせている。

 美井奈の荷物を弾美が預かり、代わりにとマロンのリードを少女に渡す。二人が着替えにそれぞれの家に入ると、美井奈は大型犬を従えて玄関前で硬直しまくり。

 マロンは隣の少女に好奇心から鼻をこすり付け、コロンも外を伺おうと扉に足を乗せる。そのたびに、美井奈はびくっと身体を震わせて過剰反応。

 何しろ、自分より大きい生物なのだ、怖いのが当然。


「おまたせ~、美井奈ちゃん。駄目だよコロン、騒いだら!」


 飼い主の威厳を示しつつ、瑠璃がコロンに手綱を付ける。弾美もすぐに出て来て、夕方前の散歩がスタート。ゲームの前に15分くらい犬の散歩をはさむ事は、帰り道で聞いてはいたのだが。

 大きな体躯の癖に子供のようにはしゃぐ犬達を見て、美井奈も段々楽しくなって来た。


「私の言う事も聞いてくれますかねぇ、この子達?」

「ふむっ、やってみるか?」


 公園に着くと、好奇心で自ら犬達の相手を買って出た美井奈だったが。弾美が手をさっと上げると、二匹ともちゃきっと揃ってお座り。手元をじっと見る二匹の目は、瑠璃がゴムボールを見せると興奮が増すのが伝わって来る。

 掛け声と共に弾美の放った赤いゴムボールに殺到する姿は、かなりの迫力だったが。争奪戦は結局マロンが競り勝って、意気揚々とボールを口に戻って来る。

 美井奈は思わず拍手でお出迎え。


 今度は美井奈がやってみろと、弾美は手順を教えて後ろに下がる。ボールを受け取った美井奈は、緊張した面持ちでボールを犬達に示し、さっと手を上げた。

 素直に美井奈の前でお座りするマロンとコロン。次はその手をぐっと腰まで降ろす。犬達は今度は揃って伏せのポーズ、美井奈が手を再び上げるとお座りに戻る。

 美井奈が投げたボールは、お世辞にも勢いは無かったのだが。犬達はお構い無しに1つの獲物を取り合って遊ぶ。今度はコロンが勝利、弾美が笑いながら追加した黄色いボールを、戻ってくる途中のマロンが空中キャッチ。

 美井奈は、その運動能力にはしゃいで大喜び。ボール返しではスルーされたが、何度かトライする内に、二匹に『今日遊んでくれる人』と認定されたらしい。

 ちゃんとボールを口渡しされた時には、泣き出しそうな程の感動を覚えたり。


     *     *


 犬との散歩も結構良いものだと、美井奈は先程の出来事を思い出しながらモニター前に腰掛ける。普段積極的に散歩や身体を動かす事をしないので、真新しい体験だった。

 それはそうと、ゲーム画面にインして、まず真っ先にするのは妖精チェック。妖精に新しいステージ情報と、もう半分来てるよ、地上は近いよと励まされ。

 貰えたのは情報だけ、まだ半分あるんだと軽くショックを覚える。


 ハズミンからのパーティ勧誘に答えて、それから皆でする事は。手分けして昨日辿り着いた中立エリアの探索と、昨日のドロップの分配らしい。瑠璃が防具屋と合成屋のチェックをして、他の二人がNPCやアイテム屋を廻る。

 消費したアイテムの補充や、まだ売り切れていない武器や防具のチェック。NPCは大した情報を持っていないのは、まぁいつもの事なので仕方が無い。

 期待していた呪いを解除してくれる筈の教会も、この中立エリアには無い模様。バタバタと走り回った甲斐も無く、今回は主だった収穫も得られず残念な結果に。


 それはともかく、今日は波乱の無い攻略を目指すという目標を、弾美が発表したのだが。意に反して、何故か攻略前から騒ぎが何度も起きる破目になったのは、果たして誰のせいか。

 まぁ、最初に騒ぎ出したのは弾美だから、あまり二人に対しても強く言えないのだが。瑠璃が武器屋でも防具屋でも何も買えなかったので、合成での装備力アップを提案し。一人でブツブツと考え始めたのを見た弾美は、これは長くなるぞと危機感を抱き。

 昨日ドロップして分配していないアイテムを、丸々瑠璃から預かったのがまずは始まり。


「うおっ、昨日はスルーしてたけど、宝珠って凄い性能だな……種族スキル取得か、属性スキル+10かどっちか選べるらしい」

「ええっ、って事は術書10枚の価値ですかっ? 目茶苦茶凄いアイテムじゃないですかっ!」

「ああ……種族スキルも、スロット塞がないから便利で捨て難いけど、スキル伸ばしたら魔力も上がるしなぁ……瑠璃、戻って来い! 分配先に済ませるぞっ!」

「ふえっ、何っ?」


 思考の波間から瑠璃を強引に引き戻し、弾美は三人で話し合って分配をさっさと済ませてしまう事に。流氷のスカートと水の術書は瑠璃に、光の宝玉と術書は美井奈に、ついでにカンガルー服と風&光の水晶玉も美井奈に持っていて貰う。

 弾美は属性スキルに興味は無かったが、取り敢えず土の宝珠を貰う事に。


 いい物をたくさん貰ってご満悦の美井奈は、アイテム欄から宝珠と術書を一気に使用。光の属性スキルが一気に+11されて、当然新魔法を取得する運びに。

 覚えたのは《フラッシュ》と言う、短時間だが敵の目を眩ませる魔法。ダメージこそ出ないが、敵の方向感覚を狂わせる事も出来る便利魔法である。防御支援にも敵前逃亡にも、割と使い勝手の良い魔法には違いない。

 ただ、融通して貰った上着装備をミイナが着用出来ないのが残念でならない。何故なら、既に装備している上着に光スキルが付いているため、取り替えがまだ不可能なのだ。装備した状態で光スキルを上げたので、ペナルティの対象になるのだ。

 瑠璃は、上着だけは外した状態で魔法を取得したらしい。さすがだと、美井奈は思う。


 そんな事を考えながら、美井奈が自分のキャラのアイテム欄を見ていると。ふと、見た事の無い装備品が目についた。呪いのネックレスは、死神からドロップして弾美に押し付けられた物だが……もう一つ、呪いの腕輪というアイテムを所有している事になっている。

 一体自分は、いつこんな物を入手したのだろう?


「お兄さん……私、呪いの腕輪なんて持ってましたかねぇ?」

「うん……? 死神の奴じゃないのか?」


 それは別にちゃんとあるというと、弾美は横から美井奈のモニターを覗き込み。しばし一緒になって頭を寄せ合い、昨日入手した筈とのヒントで思い当たるものを羅列して行く。

 呪われた記憶がいっぱいありすぎて、難解だったのがちょっと悲しい。


「ああっ! これって、蛮族の神の貢ぎ物なんじゃ……?」

「あっ、そう言えば……そのアイテムは無くなってますね!」

「美井奈……お前は呪われ属性かっ?」


 そんな属性は嫌だと半泣きになる美井奈。ようやく現実に戻って来た瑠璃が、二人の騒ぎを聞いて美井奈のモニターを覗き込む。次いで自分のアイテム欄と見比べて、ふと違和感を覚え。

 隣にいた弾美の肩をバシバシと叩き始める。


「何だよ瑠璃、痛い痛いっ!」

「ハズミちゃん、同化してるっ! 妖精のアイテムっ!」


 今度は三人で瑠璃のモニターを覗き込み、なる程言う通りのスキル同化に皆が驚きお祝いモードに。2日目に貰った耳装備、妖精のピアスが早くも同化終了。確かに、外すと破壊される事を示す暗い色の装備欄が、元の明るい色に変わっている。

 異例の同化速度に、弾美もちょっと興奮気味である。この作用は妖精シリーズだけが異例なのか、イベント期間中の特例なのか、判断に迷う所である。


「お兄さんに貰った私のピアスは、まだ同化されてませんねぇ」

「私のは、装備して丁度一週間かな? 美井奈ちゃんに会ったのが3日前だから、美井奈ちゃんのは後4日くらい掛かるのかなぁ?」

「ん~、確定情報じゃないけど、期待しててもいいかもな。でも変わりに装備するモノ持ってないと、喜びも半減だな(笑)」


 弾美の言う事はもっともで、ここの中立エリアの防具屋の商品も品揃えが極端に悪い。残っている商品も割高で、手を出すのをためらわれる値段だったり。

 そこで瑠璃が提案した、合成屋を利用しての装備補充なのだが。散々下の層から通い詰めたせいか、ここに来て合成可能なレシピが大幅に増えている。

 ボスドロップのレア物の素材も、お金は掛かるが装備にして貰えるみたいである。ボス級からのドロップ素材、サソリ皮製品や黄銅製品は、結構安価で装備にして貰える。


 瑠璃がノートに取った合成可能なリストを見て、弾美も美井奈も熱心に、これは欲しいの討論会状態。素材に数の限りがあるので、全員分頼めないのが少し悲しい。さらに、レア素材を合成依頼するのに2千ギルも掛かってしまうとの事。

 それでも何とかリストから、合成依頼品を選択。消耗した薬品類や武器の修繕も終え、分配はこんな感じに。


 ――ハズミン 黄銅の鎧、深紅のマント

 ――ルリルリ サソリ皮の盾、黄銅の鎧、黄銅の靴

 ――ミイナ  ゴーレム石の矢束×3、黄銅の籠手、黄銅の靴


「やった~♪ お姉ちゃま、ありがとう~!」


 美井奈は大喜びで、いそいそと自キャラのミイナの装備変更。矢の交換で、攻撃力がちょこっとアップ。弓術スキルも優先して指南書を融通されているので、急激な成長を見せている。

 削り手としての期待も上昇中、光属性も3つ目の魔法取得で作戦にも幅が出そう。



 名前:ミイナ 属性:雷 レベル:16

 取得スキル  :弓術16《みだれ撃ち》 :水10《ヒール》 

           :光31《ライトヒール》 《ホーリー》 《フラッシュ》

 種族スキル  :雷16《攻撃速度UP+3%》


 装備  :武器 粗末な棒 攻撃力+4《耐久11/10》

      :遠隔 蛮族の弓  攻撃力+9《耐久9/9》

      :筒 ゴーレム石の矢束 攻撃力+9

      :頭 白いバンダナ 光スキル+3、武器スキル+1、防+3

      :首 妖精のネックレス 光スキル+2、風スキル+2、防+2

      :耳1 妖精のピアス 光スキル+1、風スキル+1

      :耳2 玉のピアス 防+1

      :胴 木綿のローブ MP+3、光スキル+1、防+4

      :腕輪 黄銅の籠手 HP+4、防+6

      :指輪1 皮の指輪 防+2

      :指輪2 妖精の指輪 光スキル+2、風スキル+2 HP+2 防+2

      :腰 マジックベルト ポケット+3、MP+2、防+2

      :背 皮のマント 防+2

      :両脚 皮のズボン 防+4

      :両足 黄銅の靴 防+6


 ポケット(最大6) :小ポーション :小ポーション :万能薬

            :小エーテル :小エーテル :風の水晶玉



 専属前衛のハズミンは胴装備の交換で、グラフィック的にも頼れる前衛風に様変わり。武器も先程のエリアで落し物を拾ったので、少しはマシになった。

 装備の補正で攻撃力も上がったし、何より宝珠使用による土の種族スキルを取得で、防御力が上がったのが大きい。地味に思えるが、防御力は生き残るのに直結する大切な数値である。

 削りと防御に特化して来たが、欲を言えばスパイス的なスキルか魔法が欲しい所。



 名前:ハズミン 属性:闇 レベル:18

 取得スキル  :片手剣35《攻撃力アップ1》 《二段斬り》 《下段斬り》 

           :闇15《SPヒール》

 種族スキル  :闇18《敵感知》 :土10《防御力アップ+10%》


 装備  :武器 蛮刀 攻撃力+11《耐久8/8》

      :盾 サソリ皮の盾 防+6《耐久9/9》

      :遠隔 木の弓 攻撃力+8《耐久11/11》

      :筒 木の矢束 攻撃力+6

      :頭 黒いバンダナ 闇スキル+3、SP+10%、防+3

      :首 皮の首輪 防+1

      :耳1 玉のピアス 防+1

      :耳2 白玉のピアス HP+5、防+1

      :胴 黄銅の鎧 防+12

      :腕輪 炎の腕輪 火スキル+3、知力+1、防+4

      :指輪1 皮の指輪 防+2

      :指輪2 皮の指輪 防+2

      :背 深紅のマント 攻撃力+4、MP+4、防+4

      :腰 マジックベルト ポケット+3、MP+2、防+2

      :両脚 なめしズボン 攻撃力+1、防+5

      :両足 編み上げブーツ 攻撃力+3、防+6


 ポケット(最大6) :小ポーション :小ポーション :万能薬

            :小ポーション :中ポーション :万能薬



 ルリルリの最大の変更箇所は、何と言ってもレア装備の流氷のスカート。防御力もMPも格段に高くなったし、より前に出やすくなった。ただ、せっかく盾を持ってもそれを使うアクションに不慣れなのがトホホな感じ。実質、盾の防御力のみの恩恵しか無いとも言える。

 せっかく妖精のピアスが同化したのに、代わりの装備が無いのが恨めしい。合成の黄銅シリーズには、指輪や耳装備はリストに入っていなかったのだ。

 他の二人と同じく、攻撃力も少しだけ上昇。ただ、純粋な削りキャラとも違う、微妙な育成方向ではある。



 名前:ルリルリ 属性:水 レベル:18

 取得スキル  :細剣24《二段突き》 《クリティカル1》 :光10《光属性付与》 

           :水26《ヒール》 《ウォーターシェル》  

 種族スキル  :水18《魔法回復量UP+10%》


 装備  :武器 蜂のレイピア 攻撃力+9 器用度+2《耐久10/10》

      :盾 サソリ皮の盾 防+6《耐久9/9》

      :頭 赤いバンダナ 火スキル+3、腕力+1、防+3

      :首 妖精のネックレス 光スキル+2、風スキル+2、防+2

      :耳1 妖精のピアス

      :耳2 青玉のピアス MP+5、防+1

      :胴 黄銅の鎧 防+12

      :腕輪 炎の腕輪 火スキル+3、知力+1、防+4

      :指輪1 水の指輪 水スキル+3、精神力+1、防+1

      :指輪2 水の指輪 水スキル+3、精神力+1、防+1

      :背 なめし皮のマント 攻撃力+1、防+4

      :腰 マジックベルト ポケット+3、MP+2、防+2

      :両脚 流氷のスカート 水スキル+5、氷スキル+5、MP+25、防+10

      :両足 黄銅の靴 防+6


 ポケット(最大6) :小ポーション :小ポーション :中ポーション

            :小エーテル :小エーテル :万能薬



「結構防御力あがったなぁ。俺は装備で攻撃力も上がったけど」

「他にもレア素材あるけど、レシピが出ないね~、残念」

「お姉ちゃまのレア装備のスカート、見た目も可愛くていいですねぇ♪」


 イン前なのに、和気藹々。入る前から強くなった気がするという、ちょっと稀なパターンではあるが。グラフィックの大幅な変化に、色んな角度からキャラを眺めて楽しんでいる瑠璃と美井奈。

 三人パーティでの行動も、初日を含め今日で4日目である。慣れも出て来てお気楽ムードのパーティに、弾美が気合いを入れなおす一言を呈する。

 たった今、進達からの通信内容がその源である。


「おおっ、進達は最終ステージ攻略終わったってさ! 俺達も頑張るぞ~!」

「了解です、隊長! 今日は隣から直接指示を聞けるので、気分が楽ですよっ!」

「そうだね、頑張ろう~! 今日はどこから?」


 ハズミンが歩いて示したのは、大扉の左の扉。選択としては、下の層と同じ順序である。女性陣もそれに従って、リーダー指令のエリア進入中のログが流れる。

 三人が目にしたのは、下の層で一度見たのと同じ感じの景色。灰色の石畳の続く通路は、両端に石柱が等間隔に立ち並んでいる。真っ直ぐなダンジョンは、奥へとひたすら続いている。

 モンスターの種類はさすがに微妙に違って来ているが、獣人や蛮族系が混ざっているため結構釣りに気を使う。その他、無生物の鎧や泥人形、影型のモンスターも多く目立っている感じ。獣人達よりは弱いが、当然ながら経験値もあまり美味しくない。

 さくさくと進みながら、前回と同じ場所まで辿り着く一行。同じ感じに両端に存在する、扉とそれを守護するガーディアンズ。中ボスと言うほどには強くないが、雑魚よりは確実に強い雪豹とゴーレムを始末し終え、素材系と宝箱の鍵のドロップまでは下の層と全く同じ。

 問題はここから。鍵の付いてない扉を開いた小部屋の中には、やっぱり宝箱が2つ。


「美井奈、右と左どっちだ?」

「両方開けると後で酷い目に合うんですよねぇ? ……じゃあ、左!」


 美井奈の言葉を受け、ハズミンが左の宝箱に鍵を差し込む動作。その途端、宝箱がモンスターに大変身、目の前にいたハズミンに襲い掛かって来る。ダンジョンにはお馴染みのミミックだ。

 襲われると思っていなかった一同は、大仰天。


「うわっ、パターン変えてきやがった! ここでミミックかよ!」

「罠だ~、ミミックって結構強かったはずだよ~!」


 問答無用の連続攻撃で、ハズミンのHPはどんどん減って行く。反撃の剣技も敵の固い外皮をなかなか貫けず、焦れた弾美は美井奈に魔法使用を催促。

 光の攻撃魔法は強烈で、ミミックをこんがり焼くには充分な威力。しかし、反撃がミイナに及び始めると、図らずもパーティの弱点を突かれる形になってしまった。

 ミミックの残りの体力を削り切った時には、ミイナもボロボロに。


「ひどい~、タゲがこっちに来たら、私出来る事が何も無いじゃないですかっ!」

「正解を間違えた美井奈が悪い。だが、確かにそうだなぁ……弓は撃てなくなるし魔法は殴られて潰されるし、一人だけレベルが低いからHP少ないし、怖いよな」

「そうだね~、ハズミちゃんがタゲを固定する技持ってないから、乱戦になると怖いねぇ」


 会話しながらヒーリング中の女性陣から離れ、弾美が残りの宝箱を開錠。ミミックが丁寧にも、これを使ってくれと言わんばかりに鍵を落としたのだ。それから、結構な量の経験値とギルも。

 反対の宝箱からは氷の術書が出て来た。瑠璃が保管して、反対側の扉前へ。


「よしっ、美井奈。今度こそばっちり当てろよっ!」

「ええっ、また私ですかっ……お姉しゃまっ!」

「わ、私……? じゃあ、左かなぁ?」


 瑠璃の選択に従って、ハズミンが左に移動する。それと共に、一同は緊張の面持ちで戦闘準備。しかし、簡単に開いた宝箱からは肩透かしの土の術書ゲットの知らせのみ。一発での命中に、美井奈は瑠璃を尊敬の眼差しで仰ぎ見る。

 実際はまぁ、2分の1の確率でしかないのだが。


 残った宝箱は罠だろうと言う意見で一致を見た一同は、それを放置したまま移動を開始する。雑魚を倒しつつ、一度経験したマップという慣れもあり、道中は結構お気楽だ。

 変化が現れたのは、エリア攻略開始から約15分。マップを分断するように川が設置されており、対岸に渡る橋の中央に宙に浮かぶタコ型のガーディアンと2個の宝箱の姿が。

 回数の多い攻撃手段とがんじがらめに苦戦しつつ、何とか倒して鍵を入手。


「……今、幾つ開けたっけ、宝箱?」

「まだ3つだね~、でも奥にも2×2あるとしたら、全部で10個?」

「中ボス10匹相手なんて、嫌ですよ隊長!」


 自分だってそんな事態は嫌に決まっている。弾美は気合いを入れて、右の宝箱に鍵を差し込んで運試し。パカッと開いた箱からは、剣術指南書がポロッと出て来た。

 思わずガッツポーズの弾美に、拍手喝采の美井奈。指南書の使用も、ミイナへ決定。


「私ばっかり済みません~、ご恩には必ず報いて見せますっ!」

「これでスキル18? 美井奈ちゃん、レベルアップはもうすぐ?」

「はい~、今日も順調ですよ~♪」


 順調でないのは、実はここからだったり。弾美と瑠璃は、既に1つずつ当たりの宝箱を当てたからと、美井奈が半分の確率のくじ引きを言い渡され。ガーディアン戦の後の賭けに、何と2連敗の美井奈。

 何となく見慣れ始めた美井奈の半泣き状態に、掛ける言葉をオロオロと捜す瑠璃であった。


「おっ、今回は首の数が増えて行くらしいな……見事、8本首のヒドラになった」

「つ、強そうですね……私のせい?」

「へ、平気だよきっと! 美井奈ちゃんもレベルアップで新スキル覚えたし!」


 一方の宝箱からは土の水晶玉と、経験値入手の仕掛け。その前のミミック戦でミイナがレベルアップ、仕掛けの経験値でハズミンがレベルアップの運びとなり。

 弓術スキルが区切りの20に達した美井奈が覚えたのは、強烈な削りを発揮する《貫通撃》というスキル技。武器の耐久度を1つ減らし、その代わりに大ダメージを敵に与えるスキルである。

 SPの使用量が半端でなく掛かるし、弓の耐久度も減るので連続使用は出来ないけれども。ここぞの削りが欲しい時には、確実に頼れる攻撃スキル技ではある。

 強烈過ぎてタゲまで取らないか、心配はそこなのだが。


「3つの選択全部外れってのも、ある意味伝説だな……やっぱ呪われてる?」

「ひ~んっ、ごめんなさい神様~!」

「だ、大丈夫……多分……」


 もはや勇気付ける言葉さえ思いつかない瑠璃である。前回も上手く行ったから今回の中ボス戦も大丈夫と、確信に思いっ切り欠ける言葉を少女に掛けるのみ。

 そんなしょっぱい雰囲気の中、弾美の掛け声と共に切って落とされる戦闘の火蓋。その思いっ切り初っ端に、パーティの空元気を吹き飛ばすヒドラのブレス炸裂。

 範囲技の炎攻撃に、先行したハズミンのHPは8割削られ、一気に大ピンチ。


 ポーションで半回復、とにかくタゲを取らないといけない弾美は、初っ端からボロボロのキャラを駆使して連続スキル技使用。まずは普通の武器での様子見のせいか、敵のHPは1割も減らない。苦戦必死の戦闘状況に、思わず舌打ちする弾美。

 混乱する仲間に回復を貰いつつ、とにかく最善と思われる指示を飛ばす。


「瑠璃っ、ブレスは前方範囲らしいから横に廻って殴ってくれ。削らないと話にならない! 美井奈は斜め後ろに移動、俺と瑠璃の中間くらい!」

「了解ですっ、新スキル技使いましょうか?」

「タゲが行く可能性があるからまだ駄目っ! 普通の削りと回復メインで頼むっ!」


 殴りも強烈なヒドラ相手に、回復魔法を持つ女性陣は、ハズミンのHPをほぼ全快にキープし続けている。何しろ最初のブレスの印象が、強烈に頭に焼き付いているのだ。

 攻撃もままならず、エーテルの消耗ばかり激しくなる。


 再びのハズミンのスキル技連続削りで、少しだけペースを取り戻し始める一行。幸運の女神が舞い降りたのは、ルリルリのクリティカルの乗った《二段突き》からだった。

 正面で戦っていた弾美は、ヒドラの首が1本消滅するのを確認する。それを仲間に知らせると同時、湧き上がる歓喜に合わせるように再びヒドラのブレスが炸裂。

 歓喜は悲鳴に早変わり。瑠璃のヒールがヒドラの不興を買い、尻尾攻撃でこちらも惨事。


「むっ、首が減ったからか、ブレスの威力が減った! 瑠璃、もっとクリティカル頼む!」

「狙って出せたら苦労しないよっ! 尻尾の攻撃で、私もそんなに余裕無い~!」

「かっ、回復……隊長、エーテル本数もMPもそろそろきついですっ!」


 弾美は思い切って、美井奈にポケットの補充後に、新スキルの《貫通撃》と《ホーリー》の魔法の連続使用を指示。タゲを取ったら逃げ回れと告げると、美井奈は悲壮な覚悟の表情で頷いた。

 ウィンドウからもエーテルを使用して、MPを8割がた回復し終えた美井奈。生贄の羊となるべく光の魔法をまず飛ばし、次いで弓術新スキル技の《貫通撃》を放つ。

 ヒドラのHPは1割近く一気に消耗、再度の魔法攻撃にと《ホーリー》をぶち込む。完全に激怒したヒドラは、地響きを立ててミイナに殺到。美井奈は悲鳴を上げて逃げだす前に、弾美に言われた通り《フラッシュ》を使用する。

 これで敵は盲目状態、追いかけられながら殴られる目も減るかも。


「おおっ、何が効いたか知らないけど、ヒドラの首がもう1本消えてるぞっ!」

「こっ、怖いです~、隊長っ!」

「ちょっと待ってくれ、こっちもポケット入れ替える……瑠璃はヒーリングしといてくれ」

「うん、エーテル使い切ると辛いもんね……了解っ」


 目潰しの光魔法が効いたのか、意外と殴られる気配もなく部屋を走り回るミイナ。立ち止まっての再度のブレスにはびびったが、幸い誰も範囲には入っていなかった。

 数分後には、元気になったハズミンが再び連続スキル技の使用でタゲを取り戻す。どうやら敵はブレスの再使用には、結構時間が掛かる様子。幾分か攻撃パターンも解明出来て、勢い付いて反撃に転じる一行。

 美井奈の《貫通撃》と、念願の瑠璃の再度のクリティカルで、ヒドラの首も一気に4本まで減らせる事に成功して。敵のHPも、気付けば残り3割まで追い込んでいた。

 最後に飛んで来たブレスは、ハズミンのHPに4割程度のダメージ。美井奈のマラソン後の猛攻にと、虎の子のレイブレードを装着して炎の神酒を使っていたハズミンはある意味必死。肉を切らせて骨を絶つ勢いである。

 そんな意気込みの甲斐もあって、残りを程なく削り切る事に成功。


「やった~、勝った~っ! 私、ちゃんと役に立ちましたよね!?」

「凄かったよ、美井奈ちゃん! 私より敵を削ってたかも!」

「そうだな、途中のタゲ交代からの装備チェンジは結構使えそうだなぁ。でかした、美井奈!」


 二人に褒められて至福の表情を浮かべる美井奈。恒例の抱きつきから瑠璃に甘え、しばらくは収集が付かなくなる。まぁ、ヒーリング中だから許される事だが。

 ドロップは炎の術書と、炎のフレイルという棍棒武器。後はレア素材に薬品が少々。スキルは無いのは全員一緒だが、MPが増える武器だったために、炎のフレイルは美井奈が所有する事に。


「わっ、お姉ちゃま……たくさん術書持ってるんですねぇ。勿体無い、使わないんですか?」

「うん、土とか風とかは半端な数しかないから」

「知り合いと合流出来たら、水や光と交換してもいいしな。よしっ、酔いから醒めた、行こうっ」


 あれだけ強い敵と激闘を繰り広げても、所詮は中ボスという残念な設定。奥に繋がる通路を進めば、しっかりとエリアボスが待ち受けている。瑠璃のレベルもめでたく上がっており、取り敢えずは後顧の憂い無し。

 強制イベント動画を見終わって、対峙するのは大きな樹木モンスター。木の洞が目と口になっており、ちょっと気持ち悪い。ハズミンが先行して近付くと、樹木の身震い。

 虫がボロボロと落ちて来て、女性陣から悲鳴が上がる。


「ひいっ、何これっ、気持ち悪い……!」

「いいから削れ、こいつ結構強いぞ……!」


 落ちて来た雑魚は瑠璃と美井奈に任せて、弾美はボスと一騎打ちの構え。敵が強いのは本当で、それでもさっきのヒドラに較べると案外そうでもないという。

 削りの順調さに勢い付く弾美。そしてスキル技を放って気付く、衝撃の事実。


「やべっ、武器交換するの忘れた……レイブレードのままだ!」

「……壊さない内にやっつけてね、ハズミちゃん」


 たった2しか無い耐久度。先日の使用で1に減っており、無茶な使用は命取りなのだが。それでも削り速度が超速いのは快感で、あっという間に敵の生命力は半減。

 再度の特殊技で落ちてきたのは、巨大な木の実。点滅したかと思ったら、皆を巻き込む大爆発。再び起こる悲鳴には、今度は弾美の怒声も交じっていた。

 怒りの連続スキル技使用に、敵も応戦。再び落ちてくる虫の群れ。


 そんな激しい攻防の末、敵は既に瀕死状態までに追い込まれているにも関わらず。弾美が舌打ちして、いきなりボスから撤退して逃げ出したのを見て。

 追い掛ける敵とのマラソンに、美井奈が恐る恐るお伺いを立てる。


「あの、隊長……? とどめ刺してもいいですか?」

「頼むっ、これ以上殴ったらレイブレードが壊れるっ!」


 それならと放つ最大奥義の《貫通撃》に、エリアボスは音を立てて崩れ落ちた。歓喜の声を上げてのハイタッチに付き合わされた瑠璃は、まだ始末し切れていなかった雑魚にたかられ、てんやわんや。

 エリア脱出用の魔方陣と鍵のアイテムも出現したと言うのに、まだ戦闘が続く珍しい現象。


 ドロップは各種ステータス系の上昇する果実が3つ、胡桃のペンダント、薬品やレア素材など。ペンダントは取り敢えずは弾美が所持、中立エリアに戻って改めて果実の分配に。


「体力の果実が体力度、力の果実が腕力、器用の果実が器用度を上げる感じだな。何が欲しい?」

「私は器用度が欲しいかな~?」

「私は何でもいいですよ」


 話し合った結果、弾美が体力、瑠璃が器用度、美井奈が腕力の果実をそれぞれ頂戴する事に。ちょっとだけ強くなって、次のエリア攻略に備える一行。

 ほぼ使い切った薬品類を、瑠璃がショップで補充。幸い、下の層のような高騰振りは見られないのが有り難い。何しろ敵も強くなって来ている為、買い渋ってはいられないのだ。

 全員の用意が整ったのを確認すると、弾美は突入の指示を出す。


「おっと、さっきのエリア、時間どの位掛かったっけ?」

「んと……45分くらいかな? 前半が単調だから、後半苦労しても意外と早いんだよね~」

「そうですね~、次は癖のあるエリアだから、2つ合わせて丁度いいかもです」


 果たして美井奈の言う通り、癖のあるエリアに一同が入ってみると。やっぱり下の層と同じような造りで、最初は地下牢獄のような雰囲気の迷路。進むにつれて牢屋から地下死体置き場の雰囲気も混ざって来て、出て来る敵もゾンビやミイラ男などのアンデット系ばかり。

 演出の不気味さの格段の向上に、瑠璃や美井奈の口からは恐怖に似た呟きが漏れる。


 迷路の突き当たりの小部屋に入るたび、ミイラが棺桶から蘇り、細い針金のような体躯の狼男が飛び掛かって来る。ここら辺りは下の層でも体験した敵も多く、戸惑う事なく処理して行く一行。

 経験値稼ぎと割り切って、怖い場所での戦闘を我慢している女性陣。それが思わず微妙な顔になったのは、入って15分過ぎに辿り着いたやや大きな薄暗い部屋だった。とは言っても、モンスターの姿は無し。

 その代わり、石壁の部屋の一番奥に設置されている、大きく立派な洋風の棺桶。


「むっ、敵影無いけど何か湧きそうだな……ヴァンパイアとか」

「うん~、いきなり洋風になると、ちょっと笑えるねぇ……」

「でも、さっきから狼男とか出てますから、和洋折衷のごった煮?」


 世界観に今更文句を言っても仕方が無いが、出てくる敵の強さくらいは見極めないと。弾美がゆっくり近付くが、しかし黒い棺桶に変化は無し。30秒待っても何のアクションも無く、息を詰めていた後衛陣も拍子抜け。

 1分が過ぎてしまうと、ここは恐らく時限式なのではとの推測に辿り着く一行。つまりは、エリアインして一定時間経たないと湧かない敵と言う事で、取り敢えずは放っておくしかない。

 部屋を後に進んで行くと、やがて迷路は終わって湿地帯エリアに。


 今回のエリアは、どうやら亜熱帯の雰囲気が盛り込まれているよう。出て来るモンスターが恐竜系なので、どちらかと言うとジュラ紀とかの資料が元なのかも知れない。

 出て来る恐竜系の敵は強力で、固体それぞれHPや攻撃力が高くて厄介である。その分経験値も多いのだが、油断すると噛み付きと尻尾の二段攻撃であっという間に瀕死のダメージを負う破目に。

 大きなシダを掻き分けて、ダメージ沼に気をつけて、大きさのまちまちな恐竜を狩りながらの前進。草食系の恐竜はノンアクティブなのだが、倒すと木の実を落とすので積極的に狩る事に。


「わっ、これはさっきのステータスの上がるアイテムですか?」

「いや、さっきのは果実でこっちは木の実。こっちは食べれば15分だけステータスとか上がる」

「生命の木の実はHPが+30上がるんだっけ? ボス戦前とか、すごい重宝するよっ」


 ちなみに、ポケットにも入れておけると瑠璃は締めくくった。この辺は、メイン世界でも積極的に取り引きされているアイテムである。調理スキルがあれば、もっと時間の延長や2つのステータスを同時に伸ばしたりなど、付加価値を付けたり出来るのだが。

 美井奈は感心しつつ、こんなの食べてるから恐竜は大きくなるのだろうと思考が変な方向に。


 ドロップ率は程々で、辛うじて人数分出たくらい。そうこうしている内に、パーティは開けた場所に出る。例のこんもりした丘の上には、鳥の巣のような藁敷きの上に卵が1個。

 人が両手で抱え切れるかどうかの大きさ。かなり大きい。


「卵だ……」

「あれも進化するのかなぁ?」

「とりあえず、最初はサクっとやっつけるか」


 一行が近付くと卵にピキッとひびが入り、中から小さな恐竜が。襲い掛かられても大した恐怖もダメージも受ける事なく、呆気なく第1ラウンドは終了。

 丘の反対側には、やっぱり見える3つの洞窟の入り口。全員一致で迷わず進む事となり、湧き出た魔方陣と鍵は無視の方向で。


 雑魚を蹴散らしながら進むと、やっぱりありましたよの妖精の泉。仕掛けが分っていれば、考え込む時間のロスも無く。近くのスライムを蹴散らし終えて、まずは妖精のトレード。

 妖精の感謝の言葉を聞き流し、はたと困ったのは弾美以外の女性陣。弾美はさっさと耐久度0になったレイブレードをトレード、ちゃっかり修理して貰っている。

 瑠璃と美井奈は、どうしようかと互いを見つめ合って迷う事暫し。

 

 散々迷った挙句、ようやく決定してトレードしたのは瑠璃が先だった。単なる思い付きで、同化が終了して使い道の無くなった妖精のピアスを泉に投げ込む。

 途端に妖精がピヨッと出て来て饒舌に喋り始め、瑠璃はびっくり。


 ――あなたが泉に落としたのは、この使い過ぎて擦り切れたピアス? それとも、この銀で出来たピアス? もしかして、この金のピアスかしら? さっさとどれか選びなさいナ☆


「わっ、お姉ちゃまっ……何したんですか?」

「えっ、んと……使い道の無くなった妖精のピアスをトレードしたんだけど」

「おおっ、王道の三択だなっ! 瑠璃っ、金のピアスをゲットしろっ!」


 瑠璃はほとんど迷わず選択肢の決定を。欲しいのは確かに金のピアスだが、落としたのは妖精のピアス。そう答えると、正直者には全部あげちゃうとの嬉しい返事が。

 隣では美井奈が、歓喜の叫びをあげて大喜び。もうすっかり慣れた抱きつき攻撃に、瑠璃もにっこり笑って抱擁を返す。思わぬプレゼントに、ますます妖精が好きになった瞬間だったり。


「さすが瑠璃だなぁ……美井奈、お前も負けていられないぞ!」

「あ~、何か持ってないかな、美井奈ちゃん?」


 弾美にプレッシャーを掛けられ、途端に我を取り戻す美井奈。瑠璃と一緒にアイテム欄をガン視しながら、瑠璃と一緒に必死に考えを張り巡らせる。

 傍目に目を引くのはやっぱりこれだと、瑠璃と美井奈の意見は一致、駄目元でトレードしてみる事に。それに反応して、再度妖精がピヨッと出て来た時には、美井奈の心臓はドキドキバクバク。

 顔には完全に朱が差して、妖精の次なる言葉をじっと待つ。


 ――ナニッ、呪われた装備を浄化したいの? そんなの教会に頼めば良いじゃない……と言いたい所だけど、今回は特別よっ♪ 清浄な泉パワーで、清めちゃうゾ☆


「うおっ、まじかっ! 暗塊シリーズってこれだったのかっ!」

「わ~っ、これも多分数万ギルお得コースだよっ! やったね、美井奈ちゃん!」


 泉から浄化されて戻って来たのは、呪いが解けて名前の変わった、暗塊の腕輪という高性能の腕装備。弾美にバンバンと背中を叩かれ、呆けていた表情は喜びの余り、一転泣き出しそうに。

 美井奈の気持ちが落ち着くまで、一同は装備交換の時間を取る事に。腕輪はハズミンが、銀のピアスはルリルリが、金のピアスはミイナが所有する運びに。

 ――銀のピアス 器用度+2、HP+4、防+2

 ――金のピアス 敏捷度+2、MP+4、防+2

 ――暗塊の腕輪 闇スキル+5、土スキル+5、HP+25、防+10


 腕輪の闇スキル+5のせいで、うっかりハズミンが覚えた新魔法。《シャドータッチ》という名前で、敵の視界を遮りつつHPを吸い取る魔法なのだが、射程が短いのが難点。

 もちろんアンデット系や無生物系には効かないが、ハズミン初の条件付き回復魔法とも言える。


 ようやく落ち着きを取り戻した美井奈を引き連れ、戻った先には恐竜の卵。再度卵から孵った敵はちょっぴり身体も大きかったが、大して取り立てる特殊能力も無く。

 ドロップしたのも、中ポーションや牙素材くらい。戦闘時間も1分も掛からない有り様である。一行は今度は真ん中の通路を選択し、雑魚を蹴散らし進むこと3分ちょっと。

 やっぱり下の層の構造と同じく、扉の前に守護者が2体。


「リザードマンだ~、水属性だね~」

「短槍と長槍かぁ、スキル技使われると厄介だなぁ」


 気をつけるように言い渡して、例のフォーメーションで戦闘開始。弾美と瑠璃で1匹ずつ押さえ付け、美井奈が後方支援のパターンだ。美井奈は最近は、回復だけでなく削りも手伝えるようになっていて、頼もしい限りではあるのだが。

 ハズミンの相手の長槍使いが、大車輪の範囲技を使用。ルリルリがそれに、うっかり巻き込まれた辺りから状況は一転ピンチの連続に。次いで短槍使いが、支援に奮闘するミイナに遠隔技の槍投げを使用。防御の薄いミイナは、一気にHPが半分に。

 慌ててタゲを取り戻そうとする瑠璃だが、なかなか上手く行かない。弾美が美井奈にフラッシュを使えと指示を飛ばし、ようやく短槍使いはピヨピヨ状態。ハズミンが長槍使いに殴られながらも目潰しを喰らった短槍使いのタゲを強引に取り返す。

 気付いたら混戦状態、誰が誰を殴っているのやら。


「二人とも、HPの低い敵に集中しろっ! まずは数減らし、そしたら楽になるからっ!」

「わっ、わっ、また範囲攻撃が来たっ!」

「かっ、回復? それとも殴ってる敵を削り切りましょうかっ?」


 攻撃と支援の按配を計りきれていない美井奈は、軽いパニック状態。弾美は瑠璃に回復をまかせ、美井奈に攻撃の支援を頼む事に。最大攻撃力を誇る、美井奈の《貫通撃》がやっとこさ1体を屠ると、ようやく流れがパーティ側に来たようだ。

 2匹目を倒し切った時には、歓喜と言うよりも安堵感が漂っていたり。ドロップは性能のちょっと良い短槍と長槍、それから水の術書、さらには恒例の宝箱の鍵が2つ。それを使って開けた宝箱からは、知恵の果実と水の水晶玉を回収。

 両方美井奈に渡して、一行は来た道を戻る。

 

 3度目の卵は、明らかに前より大きく淡い色に光って不気味だった。敵が1匹の時と2匹の時のフォーメーションをお互いに良く確認して、いざ敵のテリトリーに侵入すると。

 卵が割れて、雄叫びを上げつつ登場する肉食恐竜。体躯の大きな恐竜は、いきなりの尻尾殴りの範囲技を使用。しかし喰らったのは弾美一人で、ブロックもしっかり間に合っている。

 瑠璃が横に張り付いて、美井奈は二人の丁度後ろから矢を射掛け始める。時たま来る範囲技に苦戦しつつも、何とか3度目の撃破には成功したものの。

 3度目にして結構な強敵、この事実を敢えて無視する事に決めた弾美であった。何にしろ、今の経験値でミイナのレベルが上がって、スキルポイントの振り込み先に逡巡する少女。

 先ほどドロップの雷の術書を使用して、雷スキルが+2上昇していたのだ。


「隊長、雷スキルが8まで上がりましたっ! ポイント振り込んだら魔法覚えますけどっ?」

「あ~、美井奈ちゃん雷属性だもんね~」

「覚えるのはいいけど、お前ちゃんと使いこなせるのか? たくさん魔法覚えても、使いこなせないんじゃ仕方ないぞ」

「隊長が指示して下さいっ!」


 あっけらかんと元気良く言い放つ美井奈に、弾美は呆れ顔。合同インはともかく、各家庭でのインの時にはキーボードでいちいち指示を出さないと駄目なのだろうか。

 とは言え、覚えたのは《俊敏付加》と言う支援魔法で、動作を加速させると言う効果のもの。かなり便利なのだが効果時間がやや短く、他人にも掛けられるようになるにはスキル30以上無いと駄目らしい。

 大事な戦闘前には必ず自分に使用するよう言い含め、この件は終了。


「次は小部屋の敵全滅させたら、宝箱が湧く仕掛けだっけ?」

「確かそうだったね~、頑張ろうっ!」


 ヒーリングとポケットの補充が終わり、最後の通路を慎重に進む一行。出会う敵を全てなぎ倒し、小部屋に生息する蛮族にも同じ運命を。宝箱からはやたらと聖水や神水が出て来て、ここで瑠璃は脳内で嫌な妄想。

 そう言えば呪いを使ってくるような敵、このエリアにいただろうか?


 最奥の部屋では、気味の悪い肌の色をしたお肉のゴーレムと、そいつを従えた呪術者のような

蛮族。やけに小柄でフードをかぶり、いかにも魔法を使って来そうだ。

 お肉のゴーレムは動きは鈍そうだが、腕力はありそうな感じ。嫌な組み合わせに、戦闘前のミーティングも慎重になる一行。結果、ハズミンがゴーレムのタゲを取ったら、三人で速攻で呪術者を倒す方向に。


「よしっ、魔法連発される前に速攻で倒すぞ! 美井奈、加速魔法忘れるなっ!」

「あ、防御魔法も掛け直すから待って~」

「魔法掛けますね~、MPもうちょっとミイナに欲しいですね~」


 一行が部屋に入ると、案の定お肉ゴーレムが突進して壁役になり、その後ろから魔法詠唱の気配が。範囲魔法を警戒して先行したハズミンが麻痺魔法を受け、さらにゴーレムに重い一撃を貰う。

 ミイナの状態回復魔法とルリルリの突入で、ペース奪取を計るパーティ。弾美はようやくお肉に連続スキルを見舞って、敵のタゲを奪う事に成功する。

 呪術者に駆け寄ったルリルリは、毒の魔法を受けつつも何とか接敵に成功。スキル技を交えての接近戦で魔法潰しに掛かるも、敵も分身の術で有効打を貰ってくれない。

 範囲火炎魔法を喰らって、ハズミンともども一転ピンチに。


「美井奈、魔法で削れっ! 魔法は分身関係なく本体焼くから! 瑠璃は接近戦のまま、回復頼む!」

「了解ですっ!」


 美井奈の《ホーリー》と瑠璃の回復魔法、分身が解けた隙を狙っての弾美のスキル技攻撃に、呪術者のヘイトはもはや誰が取っているのか分からない状態。飛んで来る魔法は半分は止めているものの、こちらのダメージの累積もバカにならない。

 特にお肉ゴーレムの相手もしているハズミンは、気を抜くとHPを一気に削られる目に合う。適当にゴーレムを引きずり回し、SPが貯まったら呪術者にスキル技をぶち込む弾美。

 そんな何度目かの交差が効いて、ようやく厄介な呪術者を倒し終えた一行。その途端に、室内に皆で気合いの入ったよしっとの声が響く。残ったお肉ゴーレムは、皆が集まってフルボッコ。

 厄介な特殊技も持たない敵は、反撃の手段もなく呪術者の後を追う結果に。


 経験値の入手と共に、ハズミンがめでたくレベルアップ。それより何より、ドロップ品を確認した一行は戸惑いを隠し切れず、どうした物かと額を寄せ合い話し合う。

 ドロップは魔力の果実に生命の果実、金のメダルと――問題なのは、白木の杭というアイテム。

 どうやら、短剣扱いの武器のようなのだが。


「あ~っ! そう言えば、入り口近くの部屋に棺桶あったね~」

「あったな、今から倒しに行けと……? ちょっと待て、時間とか蘇る仕掛けとか大丈夫なのか?」

「さすがにそんなに意地悪な仕掛け、無いと思いますけど……」


 ぼそぼそと話し合う一行だが、時間を見ればまだエリア攻略を始めて45分くらい。弾美が取り敢えず、卵を倒し終わってから考えようと促すと、パーティはようやく元来た道を戻り始めた。

 4度目の邂逅は、堂々のエリアボス仕様の強制挿入動画入りの運びに。ズームアップされる紋様入り卵にひびが入って、生まれたての筈の恐竜は何故か元の卵よりも超デケェ。

 電撃に覆われた皮膚は、恐竜と言うよりもはや怪獣のよう。


「強そうだね~、これがもう一段進化したら怖いよね~!」

「さ、さすがにそこまで意地悪しませんって!」

「そうであることを祈ろうっ、さっきの陣形で削るぞ!」


 エリアボスの大恐竜はHPも豊富で、何より直接殴ると雷ダメージを受けてしまう魔法が掛かっている。範囲攻撃の尻尾殴りも健在、更には前方範囲の雷ブレスは、怪獣と呼ぶしかない威力。

 戦闘は一進一退、何しろ普通に殴るだけでダメージが来るのだ。神水や魔法で強化して、ダメージも構わずに殴り続ける前衛陣。後衛のミイナの削り能力が地味に頼りになった。

 ポケットの薬品の数が気になりだした頃、気が付けば怪獣のHPも残り僅か。ハズミンの《二段斬り》で長かった戦闘は終了し、湧き出る退出用の魔方陣と鍵アイテム。

 ――何故か喜び合う事も無く、黙り込む一同。

 

     *     *


「……二人とも、薬品の残りどれ位ある?」

「ん~、ポーションは結構残ってるけど、エーテルはもうほとんど無いね~」

「私もです。お兄さんにポーション渡しましょうか?」


 ポーションを美井奈に融通してもらい、時間も薬品もギリギリ持つかもとの話し合いで、パーティは来た道を戻る事に。実際はちょっと苦しいんじゃないかと言う瑠璃の言葉に、美井奈は怯えた表情。弾美が一人、障害があるなら壊して乗り越えるべきとの意見を押し通した結果である。

 再ポップした雑魚の恐竜に絡まれつつ、木の実を落とす恐竜も少々狩り進める。時間の経過によってあの部屋の棺桶は本当に開くのかと言う議論も熱く、気付けばインして1時間が経過。

 本当にポップするかも分らないまま例の部屋に辿り着き、取り敢えずは強化魔法を掛けての突入。薬品は様子を見てとの話し合いだったが、果たして部屋に入った途端の動画挿入。


 洋風の豪華な装飾の棺桶が不気味に少しずつ開いて行き、冷気と共に現れる人影。青白い肌、怜悧な眼光、黒いマントの吸血鬼が出現し、パーティに襲い掛かって来る。

 敵はどうやら1体のみのようだ。勢いに乗って殴りかかるハズミンの斬撃は、しかしまさかのダメージ0のログ。連続スキル技まで使ってしまった弾美は、唖然として敵を見遣る。

 反撃は、ハズミンも覚えたての魔法シャドータッチによるHPの吸収。モニターがいきなり暗くなり、慌てる弾美。全く見えないわけではないが、敵が見えにくい。


 後から殴りかかったルリルリの細剣は、何とかダメージを与えているようだった。光属性の付与魔法が掛かっているせいだと気付いた弾美は、自身に聖水を使用。

 飲む方ではなく、身体にかける事で付与魔法と同じ効果があるのだ。


「隊長っ、弓の攻撃が全く効きません!」

「聖水持ってるか? 赤表示で自分に使ってみろっ!」

「ハズミちゃん~~、私がタゲ取ってるっ! 早く取り返してっ!」


 混乱するパーティだが、画面が暗く不鮮明な弾美も同じく混乱中。隣の瑠璃のモニターを使いながら、何とか戦線に復帰すると言う離れ業を使ってみたり。

 今度の魔法の餌食はルリルリだった。SPをごっそり取られ、逆に特殊技の風の牙でダメージ付きで吹き飛ばされる。弾美はその隙を突いて、再び連続スキル技でタゲを取り戻す。

 ミイナは最初こそ、聖水効果の弓での攻撃に従事していたものの。光魔法の方がダメージを与えられると知って、MPの続く限りの連続使用に踏み切る事に。

 苦手属性の魔法の連打に、吸血鬼のHPはみるみる減って行く。


 ようやくモニターの明るさが戻って来た弾美だが、今度はグラビティの魔法で足止め。ひらひらと動き回る敵相手に、なかなか接近戦に持ち込めない。

 美井奈が一番、今回は頑張ったと言えるだろう。エーテルを最後の1本まで使い切り、挙げ句には光の水晶玉まで使って、ひたすら敵のHPを削って行く。最後は瑠璃のスキル技で吸血鬼のHPは0に、しかし油断した瑠璃に反撃の《シャドータッチ》が。

 吸血鬼の動きは、まだまだ止まらない。


「ええっ、何でっ! 今、敵のHP0にならなかった?」

「むむっ、吸血鬼だけに、お決まりの不死身パターンか……?」

「そんなっ、コイツ倒せないんですかっ!?」


 戦闘中にも関わらず、思わず顔を見合せる一同。吸血鬼の無軌道振りに、こちらも危うい状況なのだが。誰ともなしに、十字架だのニンニクだの、吸血鬼の苦手なアイテムを皆で羅列する。

 そして一斉に思い出す、先程手に入れたアイテム。


「「「白木の杭だ~!!!」」」


 代表して持っていた瑠璃が、慌てて装備の変更。スキルは短剣に全く振っていないが、それは皆同じ事である。敵に近付きエイヤッと突き刺した白木の杭は、ルリルリから奪われたHPをあっという間に再び0へと滅して行く。

 気が付いたら敵影は黒い霧と消え、経験値とドロップ品が入ったとのログが表示され。奥に設置されていた棺桶まで消失、残された空間に宝箱が2つ出現していた。

 それはともかく、歓喜でコントローラーを離しハイタッチする一同。


「ちょ~やばかったな……よくやった、よく勝てた!」

「美井奈ちゃんがお手柄だよ~、半分以上一人で削ってたもん!」

「いえっ、そんな……えへへ」


 ドロップ品は、風の術書とカメレオンジェルという初お目見えの薬品に、良品のマント……と思ったら、ユニークアイテムで吸血鬼のコスプレにしか使えない装備性能だったり。

 宝箱からは闇の宝珠と、極めつけの呪いのブーツが出現。どうやら呪い装備や宝珠を得るためには、死にそうな戦闘や謎解きをくぐり抜ける必要があるらしい。

 3つ目の呪い装備に上機嫌の弾美に、瑠璃が思い出したように言葉を掛けた。


「ハズミちゃん……時間は平気?」


 気付けばインして1時間10分、計算すると2時間縛りのリミットまで後5分しかない。平気な訳は無いと正気を取り戻し、二人をせかして一目散に出口の丘へ。

 雑魚を必死に避けながらも、辿り着いて目にしたのは――白く大きなひび一つ無い卵。


「私、もうエーテル1本も無いんですけど……」

「うん、残りの薬品全部使い切っても、みんなで生きて戻ろうね……」

「おうっ、レイブレードも使うし、時間切れもうすぐだから、みんな神水飲んどけよ~」

「私もっ、武器が壊れるまでスキル技使いますよっ!」


 果たして、何に対して怒って良いのやらのパーティの面々。怒りを向ける矛先だけは、取り敢えず決まっている。少なくなった薬品をポケットに詰め込んで、4度目の蘇りの怪獣に挑む一行。

 卵から孵った怪獣は、目茶苦茶な暴れ放題。ガツンガツンと殴る弾美たちに、怪獣もガツンガツンと殴り返して来る。挙げ句の果てには、恐竜の特殊技での尻尾の切り離し。ビチビチと勝手に跳ね回るそれに、パーティは跳ね飛ばされ被害甚大。

 2時間のリミットもいい感じに切れて、弾美は《シャドータッチ》でエリアボスからHPの拝借。


 美井奈が遠隔で、無軌道に暴れまわる尻尾を撃退した頃から、ようやくこちらのペースに持ち込む事が出来たようだ。MPは早々に尽きた一団も、ポーションと残り少ないエーテルを使い切り、何とか最後の修羅場を乗り切る事に成功した。

 ラスボスを倒し終わった時には、全員ほぼポケットはすっからかん状態、逃げ込むように退場用の魔方陣に飛び込み、一息ついてから安堵のハイタッチ。

 諦めかけていたエリア攻略に、感極まって弾美と瑠璃に向かってダイブを敢行した美井奈。揉みくちゃにされながらも、喜びの波はしばらく引きそうにも無い模様。

 どうでもいいが、少女の愛情表現は段々派手になってきている感も。


「きつかったなぁ……昨日の蛮族の神様と裏エリアボスの2連戦もきついと思ったけど、今日も同じくらいだったなぁ」

「そうだねぇ……今度から、もうちょっと多めに薬品買っておこう!」

「成長しても、やっぱりボス戦はきついですねぇ。二人とも種族スキル2つ目取ってるのに」

「ん~っ、直接戦闘に関係ないスキル来ちゃったからなぁ」


 今日のエリア攻略も全て消化と終わり、ドキドキだったダンジョンの感想戦へと移行する三人。落ち着いたところで、落ちる前にようやくのラスボスのドロップチェック。

 さすがに、5度もエリアボスを倒した事の評価だろうか。装備だけでも鉤爪付きの上衣や鉤爪付きの腰布、古代の指輪と3つも良装備が出ている。

 他にも剣術指南書や金のメダル、さらには薬品も少々。鉤爪付きの装備2つは、雷スキルが付いている事もあり、美井奈が貰う事に。弾美は恐竜から指輪を貰い、さらにヴァンパイアが落とした闇の宝珠も貰う事に。

 あと2ポイントで細剣スキルが上がる瑠璃が指南書を使用、見事新スキルを取得した。


 バタバタしていたので用途不明だった、同じく吸血鬼ドロップのカメレオンジェルというアイテムの効能を調べてみると。どうやら装備に付いている属性スキルの同化を、ある程度の数字まで一瞬で終了させてくれるらしい。

 せっかく胴装備を分配して貰っても、装備出来なかった美井奈が試しに使ってみると。説明文に違わぬ効果の結果に、一同驚きの声を上げてみたり。

 目茶苦茶レアなアイテムである、たかだか+1の同化に使った事が悔やまれる。


 それはそうと、今日の主なドロップの性能。

 ――鉤爪付きの腰布 雷スキル+2、器用度+1、防御+7

 ――古代の指輪 体力+1、防御+5

 ――鉤爪付きの上衣 雷スキル+3、器用度+2、防御+8





「美井奈、親に電話しろよ。2階の電話、そこにあるから」

「はいっ、お借りします、お兄さんっ!」


 素直に受話器を拝借して、家の番号をダイアルし始める美井奈。既にキャラはゲームから落ちており、弾美だけ通信用に中立エリアに佇んでいる状態である。

 さっきまで三人でのんびり会話しながら、週末の計画などを立てていたのだが。時間も6時半を過ぎたので、母親にお迎え催促の電話を掛ける事にした美井奈。

 話し合いは簡潔で良好、すぐに迎えが来るとの事で、場は一転解散ムードに。


「今日も楽しかったです、またお家に誘って下さい!」

「おうっ、今度は土曜か日曜だな。また一緒に合同インしよう」

「土曜日、美井奈ちゃんお休みなら、お昼から一緒に何かしようか? ハズミちゃんは、部活があるから駄目だけど」

「はいっ、ぜひお願いしますっ!」


 帰り支度をしながら、優しい言葉を掛けて貰っている美井奈は上機嫌。階下では仕事から帰宅した弾美の母親の律子さんに捕まって、その容姿に驚かれてひと悶着あったりして。

 主に可愛いとか、お人形さんみたいとかの嬌声だったのだが、美井奈はそう言われるのに慣れている感じなのが凄い。瑠璃の紹介も耳に入っているのか怪しく、律子さんはハイテンション。

 基本的に大人との対応も申し分ない美井奈は、車が到着するまでの間、律子さんと普通に会話をこなしていた。玄関で外の様子を窺っていた瑠璃が顔を出すまで、かなり親睦を深めていた程である。

 

 弾美も美井奈の母親には興味をそそられたので、車が来たよとの瑠璃の言葉に表に出てみると。どう見ても二十代にしか見えない美人ママが、にこやかに玄関先でマロンを撫でていた。

 美井奈によく似た、明らかに欧米人の血を引く容姿なのだが、どこと無く大和撫子の雰囲気が染み出している感じを受ける。話してみても、実際にそんな感じ。

 優しそうな性格のママさんは、やっぱり日本語しか喋れないと自己紹介の後にそう言った。


「娘がお世話になりまして、あなたが隊長のハズミンさん?」

「ええ、そうです、あっちが幼馴染のルリルリ。いつも夜遅くまで美井奈をゲームに付き合わせて……済みません」


 どことなく緊張しつつ、一応言っておいた方が良いような気がした弾美は、相手の様子を窺いながらそう口にした。美井奈の母親は、ニッコリ笑って弾美の心配を吹き飛ばす。自分もネットやゲームは好きだし、子供からそれを取り上げるつもりも無いと口にして。

 玄関の踊り場で、瑠璃が心配そうにこちらに視線を送っている。その隣で美井奈が、律子さんと何やら話し込んでいるのが外からも見えた。


「子供の頃から、学校以外で交流の場を作るのって、とっても素敵じゃない? 私はそういうの賛成だから、厳しく言うつもりもありません。これからも良ければ遊んであげてね」


 そう言って、美井奈の母親は女性陣の集まっている玄関へと、弾美に案内を促す。母親同士の挨拶と会話は、夕食前という事もあって短いものだったが。

 お近付きになれて嬉しいとか、今度ゆっくり食事でもという言葉と共に、美井奈親子は車で帰路についたのだが。親子揃って車内から手を振る姿は、なんとも微笑ましかったり。





 ――何かに打ち込むのに、周囲の環境って大切なんだなぁ。美井奈親子を見て、そんな事を思う弾美だった。


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