♯05 連休3日目と新しい仲間!
今日も朝早くのお隣さん家へのお伺いに、瑠璃は恐縮しながら律子さんにお早うございますの挨拶。しかしそれが3日目にもなると、挨拶の合間に不憫がられる始末だったり。
何しろ立花家の両親も、瑠璃の両親とは同じ系列の企業の、ほぼ同じ部署勤めである。お隣同士、休みのパターンも勤め時間もだいたい一緒と来ているのだ。
つまりは立花家が休めない時は、津嶋家も休めないと言う事で。何故か律子さんからも、瑠璃に対して世間並みに休みを取れなくて御免ねとの謝罪の嵐。
昨日は日曜日だったのに、どちらの家庭も出勤だったのだ。
そんな話はさておいて、瑠璃的には充実した休み期間だと思っている。連休と言っても、休みが2日伸びただけである。わざわざ遠出をして、疲れて戻るのもバカらしい。
瑠璃は元々インドア派なのだ。本がたくさん読めれば、それは良い休日。
昨日の夜に読んだ物語の粗筋を頭から追い出しつつ、瑠璃はモニター前で精神統一。自分のキャラを操作しながら、エリア突入前の装備チェックも怠らない。
装備欄がほぼ完全に埋まった自分のキャラを見て、しばし感激にひたる瑠璃。生首NMのドロップのバンダナも高性能だったし、昨日も割と豊作だった。
レベルアップともども、装備とかスキルの充実も嬉しい成長なのだ。
遠隔武器もようやく入手した弾美のキャラ装備も、瑠璃はついでに見せてもらう事に。特に色違いのバンダナの性能を見比べてみて、どうせなら水性能のが欲しかったと内心贅沢な欲求も。
弾美の話だと、光とか闇スキルの+装備は滅多に見ないらしいので、闇装備が出ただけでも凄い当たりだとの事。黒いバンダナでSP量に補正が掛かるので、弾美は結構嬉しそう。もう一つ攻撃スキル技を覚えたら、低レベルでも連続スキル技使用も夢ではないらしい。
確かに、当たりが1つ出ただけでも良い事だ。瑠璃は先程の贅沢心を深く反省。
ハズミンが初めて覚えた魔法の《SPヒール》は、MPを使って徐々にSPを回復させる、前衛のスキル技持ちには有り難いモノ。スキル技の連続使用にも拍車が掛かり、その快感を知る者には必須の魔法かも知れない。こんな序盤に出たのは、かなりラッキーだそうな。
前回のボス戦で使い忘れたのはアレだが……。
入手した遠隔武器の弓と矢は、それぞれの攻撃力を足してダメージが計算される。つまり、熟練度とスキルを上げて行けば、とても強い攻撃手段になる訳だ。
ただし、近接レンジでは使用不能になるので、ソロには不向き。武器の持ち替え――と言うか、弓矢使用後の硬直時間――に他のどの武器より長い時間が取られるので、そういう意味では一長一短かも知れない。
ファンスカ内でも、意外とメインで使用する者は少ない。何より、消耗品の矢が高いというデメリットが大きい。一回狩りに出るだけで結構な出費、場合によっては赤字と言う話もある程だ。
限定イベントでも、矢束の補充が定期的に可能か不安なところ。
名前:ハズミン 属性:闇 レベル:12
取得スキル :片手剣21《攻撃力アップ1》 《二段斬り》 :闇11《SPヒール》
種族スキル :闇12《敵感知》
装備 :武器 シミター 攻撃力+10《耐久8/12》
:遠隔 木の弓 攻撃力+8《耐久11/11》
:筒 木の矢 攻撃力+6
:頭 黒いバンダナ 闇スキル+3、SP+10%、防+3
:首 妖精のネックレス 光スキル+2、風スキル+2、防+2
:耳1 妖精のピアス 光スキル+1、風スキル+1
:耳2 玉のピアス 防+1
:胴 皮の服 防+6
:腕輪 炎の腕輪 火スキル+3、知力+1、防+4
:指輪1 皮の指輪 防+2
:指輪2 皮の指輪 防+2
:背 皮のマント 防+2
:腰 皮のベルト 防+2
:両脚 なめしズボン 攻撃力+1、防+5
:両足 皮のブーツ 防+3
ポケット(最大3) :小ポーション :小ポーション :万能薬
一方のルリルリだが、水の術書が意外にたくさん手に入るお陰で、水スキルも次の区切りに近付いてしまっている。ただ、アスレチックエリアに向けて光系の回復魔法も覚えたい気もする。
細剣スキルも上げ切ってしまいたいし、色々と悩ましいところだ。弾美に相談したら、同化させる気なら早めに魔法を覚えてしまったほうが良いと言われた。確かにそうかも知れない。
光→水の順番で、魔法を覚えてしまおうと瑠璃は決意、なるべく今日中に。
名前:ルリルリ 属性:水 レベル:12
取得スキル :細剣16《二段突き》 :水18《ヒール》
種族スキル :水12《魔法回復量UP+10%》
装備 :武器 ブロンズレイピア 攻撃力+8《耐久10/11》
:頭 赤いバンダナ 火スキル+3、腕力+1、防+3
:首 妖精のネックレス 光スキル+2、風スキル+2、防+2
:耳1 妖精のピアス 光スキル+1、風スキル+1
:耳2 玉のピアス 防+1
:胴 木綿のローブ MP+3、光スキル+1、防+4
:腕輪 炎の腕輪 火スキル+3、知力+1、防+4
:指輪1 水の指輪 水スキル+3、精神力+1、防+1
:指輪2 水の指輪 水スキル+3、精神力+1、防+1
:腰 皮のベルト 防+2
:背 皮のマント 防+2
:両脚 皮のズボン 防+4
:両足 ゴーレムのブーツ MP+3、防+2
ポケット(最大3) :小ポーション :小ポーション :万能薬
妖精チェックもお店チェックも、たいした進展は無し。それでも上手く行けば、今日でステージ4に辿り着ける。ちょっと気合いを入れ、瑠璃はコントローラーを握りなおしてみる。
そうこうしている間に、弾美の方も準備は整った様子。昨日使い損ねた新魔法もチェックを終えて、態勢は万全の様子。隣から突入の号令が掛かって、エリア攻略の開始。
この瞬間だけは、どうしても毎回緊張する。
ところが、ステージ3の2つ目のエリアは、やはりどこかで見た構造。言ってしまえば、下層の2エリア、そして隣のエリアと全く同じ部屋の位置で、敵の配置も変わらぬ有り様。
使い回しも、ここまで来たら立派かも知れない。
「あ~、ここも前回と同じマップだね~? 昨日の怖い生首もいる~」
「いるな、ひょっとしたらNMもまた生首かもなぁ」
「それはちょっと……嫌だなぁ」
そんな文句も交えつつ、各部屋のモンスターを駆逐して行くハズミンとルリルリ。経験値の入りもまずまずで、装備のドロップの確率も先日と変わらぬ程度。
ただ、二人の装備は幸いにも、昨日の時点で揃っている。嬉しさはそれ程無いけれど、余った分は売ってお金にしてしまえば良い。そんな風に軽く考えながら、弾美はエリアを往復。
一時間が経過し、そろそろNMタイム。
「瑠璃、そっち湧いたか?」
「あっ、今湧いたっぽいよ、ハズミちゃん! けど、生首1匹と耳が2匹だ……あれっ、耳の特殊技って何だっけ?」
「何だっけ……? 何か鱗粉攻撃みたいな奴だっけ?」
「あ~っ! ……耳なのに何で鱗粉?」
心底不思議そうに、画面の中を舞っている敵を見ながら瑠璃は首を傾げる。耳は二枚くっ付いて、蝶の動きを真似ている。それを見れば分るだろうと、弾美は内心思うのだが。
からかう様に、口にしたのはこんな言葉。
「んじゃ、あれは鱗粉じゃなくて耳クソ?」
「汚いよ、ハズミちゃん……」
弾美の下品な冗談に、瑠璃は嫌そうに顔をしかめる。それからチラッと弾美を盗み見て、何やら考える素振り。耳掃除って、あんまりサボってると病気になるんじゃなかったっけ?
天然少女は、ぽつっと一言。
「ハズミちゃん、耳掃除してあげようか……?」
「いらんっ……!」
弾美は全力で拒否しつつ、瑠璃の言葉にちょっと照れてみたり。
* *
ハズミンがようやくNMの湧いた場所に辿り着き、作戦を瑠璃に伝達する。ルリルリに遠隔武器の弓矢を渡し、耳を遠くから釣って貰う。瑠璃がマラソンしている間にハズミンが生首を倒す。
遠くから釣る分、昨日よりは安全な筈。
「わかった。いくよ~、ハズミちゃん?」
「おうっ……おっと、新しく覚えた魔法使っておこう」
弾美は前回使い忘れた闇魔法の《SPヒール》を使用、これで《二段斬り》が幾分使い易くなる。ハズミンの魔法使用を確認して、瑠璃は離れた場所から耳モンスターにアタック。
一斉に襲い来る3匹のNMに背を向け、ルリルリは通路を逆方向へと駆け出した。その内の生首モンスターを、ハズミンが殴りかかって引き止めを願う。
昨日と違って引き寄せ技が無いので、マラソンも結構楽だ。反対側の部屋に到着して、壁沿いにくるりと反転。ルリルリが部屋を出た途端に画面からレベルアップの音がした。
どうやらめでたく、レベル13に達した模様。
「倒したぞ、瑠璃。次はどこだ?」
「はいはい~、今持って行く~」
レベルが上がったものの、ポイントを振る間も無いまま、瑠璃のマラソンは続く。程なく弾美と合流、耳が一匹ランデブーから離脱。瑠璃はそれを確認し、さらにキャラを走らせ続ける。
昨日のつまずくような失敗はもうしない、湧いた敵を避けつつ部屋を駆け巡るルリルリ。
「結構強いな、コイツ等。ひょっとして、補正掛かってるのかな?」
「補正って、どんなの?」
「入ったキャラのレベルに合わせて、敵のレベルが決まってるのかなって。経験値も昨日より多いくらいだし、そもそもレベルの上がりがメイン世界より早い気もするかなぁ?」
言われてみればそうかも知れない。瑠璃もレベルアップのテンポが、やたらと早いとは感じてはいたのだが。普段はソロや少人数での狩りをしないので、その按配がよく分かっていなかった。
時間を掛けてレベルを上げていけば、ステージ後半で楽になるかもと期待していたのだが。弾美の話が本当だとすれば、その期待は思いっ切り薄そうだ。
逆に、ボスやNMがやたら強いと感じていたのは、レベル補正が自分達の首を絞めている可能性が高い。このレベル帯は、1つレベル差があるだけでHP量やスキル技のダメージに違いがはっきりと現れてしまうのだ。
ボスになるとさらに補正が掛かるので、そりゃあ強い訳だ。
「キャラのレベルが一定以上だと、敵のレベルも補正で上昇するって事? 逆に一定以下だと、元々の決まった難易度の中で、攻略もそれ程難しくないとか?」
「そんな感じかもなぁ……でもまぁ、今更言ってもレベル下がる訳でもないし……っと、2匹目倒したぞ、瑠璃」
「ほいほい~、連れて行く~」
3匹目は二人がかりで殴り倒し切り、今日のドロップもすこぶる良い感じ。弾美によく言われるが、瑠璃のドロップ運は並みを軽く上回るモノらしい。自分では自覚の無い瑠璃なのだが。
二人でドロップの分配をしながら、瑠璃はレベル上昇のポイント振りも同時進行で行う。今回のスキルポイントのボーナスで、いよいよ新魔法も取得出来そう。
楽しいひと時に、顔もほころびまくり。
「筋力と器用、どっち上げようか? あっ、MPの上がるピアス私貰うね♪ スキルは……光の魔法取っちゃおう!」
「状態回復、意地でも出せよ、瑠璃」
ちなみにNMのドロップは、光のバンダナ、白玉ピアス、青玉ピアスなどの属性防具類一式。さらには、金のメダルが1枚と剣術指南書まで出る始末。
金のメダルは、メイン世界ではNMのトリガーやレア装備、スキル向上の為の道場への入場券などに変換出来る優れもの。お金よりも、更に価値の高いモノである。
剣術指南書は、使えば武器スキルが2Pアップする、前衛なら誰もが欲しがるアイテムである。メイン世界では、出たらラッキーという類いのNMからのドロップ率なのだが。どうやら限定イベントの世界は、サービス過剰なのかも知れない。
相談の結果、弾美が指南書を使用。金のメダルは瑠璃が持っておく事に。
弾美の声援を受けて、ルリルリは光の魔法をスキルの振りこみで習得。念願の異常ステータス回復魔法……かと思いきや、武器に光属性を付与する《光属性付与》の魔法だった。
不満そうなのは、弾美はもちろん瑠璃も一緒である。状態回復魔法を覚えれば、万能薬を買うお金が節約出来ると思っていたのに。それでもまぁ、攻撃力が上がるのは有り難い事だ。
瑠璃は渋々、自分をそう納得させる。
時間に余裕がある時に限って、お邪魔獣人NMは影も形も見当たらず。二人は顔を見合わせつつも、その部屋を無難にスルー。今日は3匹NMの討伐がスムーズだった為、湧くにはまだ時間が掛かるのかも知れない。
ボスの間の構成も、昨日訪れた場所の構成とまるで変化無し。3面に張られた鏡を見遣りながら、二人でキャラ配置の場所確認。回復魔法を持つルリルリのコピーから倒す事を織り込んで、今回もハズミンが湧かせる事に。
回復キャラが2体も湧いたら、ちょっと洒落にならないとの考えだ。
ところが今回左右の鏡から湧き出て来たのは、闇属性のドッペルゲンガーと水属性のドッペルゲンガーが1体ずつ。左の鏡の側に待機していたルリルリは、目の前に出現した自分のコピーにビックリ仰天。
しかもそのドッペルゲンガー、盾こそ装備しているが武器は何も持っていない様子。どうするのかと思っていたら、水属性の攻撃魔法を問答無用でルリルリに撃ち込んで来た。
なるほど、今回の攻撃は魔法オンリーらしい。
「えっえっ、何で!?」
「バカ瑠璃、応戦しろって!」
弾美の言葉に我に返って、光の魔法を付与した細剣で咄嗟に応戦するルリルリ。駆けつけようとしたハズミンも、自身のコピーに魔法攻撃を受けている様子。
動きがやけに遅いと思ったら、グラビティの魔法を受けていたらしい。これを受けると、動きがとても遅くなる。これに掛かった後に遠隔攻撃されると、かなり最悪だったりする。
弾美のコピーは追って来ず、その場からの魔法攻撃を選択した模様。
「おっ、敵は魔法攻撃だけかな。ラッシュで倒すぞ、瑠璃!」
「わっ、わかった!」
殴ってみると、光の追加ダメージも結構良い感じ。最初の魔法攻撃にはびひったが、魔法は詠唱中に攻撃を受けると、発動が高確率で止まってしまうと言う弱点がある。
その分強いのだが接近戦では剣には敵わず、1体目沈没。
中央の鏡がようやく割れて、ハズミンの分身の2体目が出現。こいつも盾を装備していて、攻撃は魔法のみらしい。しかし、今回飛んで来たのは圧力球の超ダメージ魔法だった。
ハズミンのHPは、一気にレッドゾーンに突入。体力メインに育成して来たキャラでなければ、倒されていたかも知れない。手の空いていた瑠璃が、慌てて回復魔法を飛ばす。
紙一重の攻防だったが、最悪のピンチは去ったよう。ハズミンのHPは、取り敢えず安全圏に。飛び上がりそうだった心臓を落ち着かせ、近くに出現したコピーから倒そうとの意思疎通。
数を減らしてしまえば、確実にもっと安全になる。
「やべっ、鈍い魔法の効果、まだ解けてないっ!」
「さ、先に殴ってるねっ!」
鈍い状態のハズミンを取り敢えず放って置いて、中央の闇分身に殴りかかる瑠璃。タゲはどうやっても来ないので、その辺は気が楽なのだが。ハズミンが死んでも瑠璃はきっと同じくらい凹むから、余り関係無いとも。
魔法の詠唱を潰そうと奮起する瑠璃だが、どうやってもフリーなもう一体の攻撃は素通しである。幸い先ほどの超ダメージ魔法は、滅多な事では飛んで来ない様子だが。
ちくちく魔法で削られているハズミンは、目を離すと沈んでしまいそうで怖い。
「うわっ、光属性の追加ダメージ凄いかもっ? かなり効いてるよ、ハズミちゃん!」
「敵は闇だからな、いいタイミングで覚えたかもな」
光の追加ダメージが、闇属性のドッペルゲンガーのHPを見る間に削って行く。ハズミンが追いつく頃には、瑠璃の細剣だけでHP半分まで追い込んでいたほどだ。残りは、とどめとばかりに二人掛かりでのスキル技使用。
3体目に向かう前に、酷い事になっているハズミンのHPを回復。敵の攻撃魔法は頻繁には飛んで来ないが、一度喰らうとごっそり削られるので油断ならない。
それでも数の優位に持ち込んだ二人は、最後は余裕の戦闘に持ち込んで勝利をもぎ取る。
「おおっ、今回は闇の術書2個も出たな」
「水の術書も出たね~、後は……盾が1個と薬品各種かな?」
「おっ、盾は貰うぞ。一応、二人パーティの盾役だからな、俺は」
お馴染みのボス戦後のドタバタ騒ぎの中、思い出したようにクリア条件の装置に向かう弾美。中立エリアに降り立った後、初期装備には違いないが存在感がバリバリ漂う丸型の盾を装備。
防御力が上がるのも嬉しいが、これで操作次第で敵の攻撃をブロック出来る様になった。弾美はメイン世界では両手武器を使っているので、盾の操作には慣れていないけど。
それでもやっぱり、あるのと無いのでは心強さが違う。
「ハズミちゃん、コーヒー淹れて来ようか?」
「うん、飲みたい。お願い」
いつものエリア間休憩を利用して、しばしのリラックスタイムを取る二人。弾美の両親は既に仕事に出掛けており、瑠璃はコーヒーを淹れに階下へ向かう。
昨日までは、ゲーム完全終了時のコーヒーブレイクだったのだけれど。さっきの仕掛けが凶悪過ぎて、まだ心臓がバクバクいってる気がする二人である。コーヒーと談話で気分転換、エネルギーとやる気を再補充に掛かる。
アイテムチェックの後、ステージ3の最後のエリアへ。
色々問題のあるアスレチックエリアだが、造りはステージ2とほぼ一緒。今回は嫌な仕掛けに引っ掛からないぞと気合いを入れる弾美だが、相方がかなり心配でもある。
それでも最初だけは足取りも軽く、階段になっている坂道をジクザクにのぼって行く二人。少し後ろからルリルリが追従、前方に障害物の木樽があるが、弾美は敢えて無視。
次の障害物は、さらに前方の虫型モンスター。
始まってしまった戦闘だが、瑠璃は後ろで見学の運びに。道幅が狭いので、二人掛かりで殴るスペースがないのだ。暇なので、何気なく近くにあった木樽を殴ってみる。
ピロリンと音がして、壊れた木樽からポーションゲット。中に隠されていたらしい。
「ハズミちゃん、ポーション取れたよ♪」
「罠があるから、程々にしとけよ」
のぼって行くに連れ、虫型とトカゲ型の敵の数が徐々に増えて行き、細い通路にすし詰め状態。大量リンク状態のような有り様で、さすがの弾美もちょっと焦っている模様。
焦っているのは瑠璃も同じ。邪魔な木樽を壊しつつ、自分も戦闘に加わろうと奮戦していたのだが。壊した木樽の一つに、弾美の心配していた仕掛けがしてあったらしい。
ダメージ付きの爆風が巻き起こり、木樽の真横にいたハズミンが階段から落下。弾美がいなくなってタゲの切れた敵の大群は、今度はルリルリに襲い掛かって来た。
二人の慌て具合度は、果たしてどちらが大きかったのか。
「バカ瑠璃~っ、気をつけろって言っただろうがっ!」
「きゃ~、こっち来た~っ、助けて、ハズミちゃん!」
慌てて逃げ出したルリルリと崖から落下したハズミンは、のぼり切らねばならない筈の階段を、何故か下った場所で合流。今度は開けたスペースでの戦闘と相成って、何とか敵の殲滅に成功する。
気まずく流れる空気の中、瑠璃はすっかり冷めたコーヒーで喉を潤す。
「……ごめん、ハズミちゃん」
「……回復頼む、何故か落下でダメージ受けてるから」
「…………うん」
その後はなるべく、瑠璃も木樽は敢えて無視してみる作戦に変更。下層で体験したアスレチックエリアよりは、今回は敵の多さが目に付くのだが。幸い、それ程強い敵はいない様子。
丁度真ん中の平らなエリアに辿り着く頃には、ハズミンのレベルは14に上がっていた。敵の多さが程よい経験値となったよう、弾美の機嫌もちょっと回復した様子。
瑠璃も思わずホッとして、貼ってあるポスターをチェックする。
――ゲームセンター・ジョイフルでは、現在『ファンタジー スカイ』の期間限定イベントと連動して、オリジナルキャラクターグッズ満載のゲーム機をご用意!
これまた期間限定の配信となっておりますので、在庫切れにはご容赦を!
「あ~、これってこの前のクレーンゲームの事だね~」
「そうみたいだな、連動してたのか」
CMの終了と共に、二人はそれぞれ銀のメダルを1枚ゲット。銀のメダルは5枚で、金のメダル1枚の価値となる。獣人系の敵がが落としやすく、この限定イベントのダンジョン内でも今までに数枚お目見えしてはいるのだが。
ゲームセンターの宣伝に、メダルが景品とは洒落のつもりだろうか。
「交換所、どこにあるんだろうな?」
「もっと上の方かな~? 4週間って長いから、ステージもかなり大きいんだろうねぇ」
「今までに無い力の入れようだなぁ。ちょっと不気味ではあるかも」
弾美の裏読みの入った感想に、瑠璃も素直に頷いてみたり。まぁ、4週間の長期戦なら自分のキャラを育てながら楽しめるし、それも良いかなとも思う。
最初はボロボロだった装備も、今ではそれなりに揃って来ているし。二人パーティになってからは、瑠璃は緊張も含めて結構ゲームを楽しんでいるのも事実。
……弾美にはかなり、迷惑を掛けているかもとは思うが。
二人は小休憩を終え、残り半分になったのぼり階段を進み始める。今度は蜂やサソリ系の、毒を持つタイプの敵が路上に配置されている。それを受けて、弾美の動きはやや慎重に。
何しろ、万能薬の数には限りがあるのだ。
敵のHPは幸いそれ程多くない。道なりになぎ倒しながら、時折毒や麻痺を受けて右往左往。今更なら、光属性の異常状態回復魔法が欲しかったと悔やむ瑠璃。
万能薬の個数は減って行くが、HPとMPにはまだ余裕があるハズミン。しかし、エリアの高みに近付くにつれ、仕掛けとモンスターの強さは次第に凶悪になって来ている気が。戦闘は慎重になって行き、進行のペースも落ち加減に。
そんな中、ルリルリのレベルが弾美に追いつき14にアップ。
「やった~、でもポイント振る時間ないよね?」
「何に振るか決めてるんなら、さっと振り込んじゃえよ、待っててやるから」
「んっと、器用度と水スキル上げるから……」
「むっ、なんか上に中ボスっぽいのがいる。雑魚掃除してるから、早く振り込め」
弾美の言葉に甘えて、瑠璃はステータスウィンドウを開いての振り込み作業を始める事に。途中一度、腕力にポイントを振った事もあったが、レベル10を超えてのステータスのボーナス値は器用度アップと決めている。
次いでスキルにポイントを振り込んでの、水の新魔法の取得を狙う瑠璃。水は回復や防御系の魔法が多く、魔法剣士のキャラで伸ばしている人も結構多いようだ。
大いに期待しつつ、ポイントを振り込んだ結果――覚えた魔法は《ウォーターシェル》というダメージカットの防御系魔法。序盤にぜひ欲しいと思っていた、使い勝手の良い魔法である。
大当たりの引きに、瑠璃は嬌声を上げる。
「むあっ、どうした瑠璃?」
「防御魔法覚えたよ、ハズミちゃん! 今掛けてあげるねっ」
「おおっ、凄い助かる、ナイス瑠璃っ!」
離れた場所から、得意気にハズミンに魔法を飛ばす瑠璃。ついでに自分にも掛けてしまうと、ルリルリのMPはすっかり枯渇状態。仕方なく、奮戦する弾美の後塵を浴びつつヒーリング。
しかし相手は、こちらを気軽に休ませてくれる気遣いは全くない様子。ルリルリが座った途端、背にしていた壁の仕掛けが作動。ステージ2では転がる石だったが、ここではモンスターの湧き出る通路が開いてしまった模様である。
渦巻き型のつむじ風みたいな敵キャラが、呑気に休むルリルリに迫る。
「ふあっ、ハズミちゃんっ! 壁から敵が出て来ちゃった!」
「バカ瑠璃~っ、ヒーリング場所には気をつけろって!」
「ごっ、ごめん~、ハズミちゃんっ! うあっ、こっち来た~!」
つむじ風の突き飛ばし技で、ゴロゴロと階段を転がり落ちるルリルリ。それを追い掛けるように、半ダースの同じ形の敵が階段を下りて来る。一度に殴られると、高確率でやられてしまう。
完全に弾美と引き離され、瑠璃はパニックに。
「うわっ、中ボスも何故か仕掛けに反応したっ! 瑠璃、そっち行けないから自分で処理しろっ!」
「ええっ、だってMPスッカラカンなんだよっ?」
「自業自得だっ、死んだら罰ゲームだからなっ!」
それは困る、弾美の罰ゲームは体育会系のものがやたらと多いのだ。いつだったか、罰ゲームで毎朝のジョギングが片道2キロになった時があったのだけれど。その後は、さすがに学校に歩いて行く気力も無くなった程のダメージを受けた記憶が蘇る。
あの時も確か、ファンスカでの狩りの最中でのミスが原因だったような。理不尽な言い付けではあるが、弾美も一緒にその罰を受けるので、瑠璃は強く文句も言えない。
そんな叱咤を受けて、必死に戦況を把握する瑠璃。MPは無いとは言え、ルリルリのHPには程々の余裕がある。ポケットにはポーション2個と万能薬しか入っていない。
エーテルを入れておけば良かったと今更後悔しつつ、近付いて来た敵を迎え撃……。
「うあっ、崖から落とされたっ!」
「死ななきゃ許す、落ち着け、瑠璃っ!」
つむじ風の1匹目を殴っていたら、横から乱入した敵の再度の突き飛ばし技がルリルリに炸裂。受けた向きが悪かったのか、今度は階段の端から真っ逆さまの破目に。
落下ダメージを受けたものの、敵の集団は道なりに降り来ていて再接近まで少し掛かりそう。時間に余裕を得た瑠璃は、エーテルをアイテム欄から使用する事に。
更に《光属性付与》の魔法を細剣に掛けて、これで何とか迎え撃つ準備は完了。これ以上落とされては堪らないので、階段の端には近付かない事に。
かなり慎重に、遅れて降りて来たつむじ風を迎え撃つ。
何とか1匹目を倒し終わった時点で、瑠璃は敵が余り強くない事を感じ取っていた。これなら何とかなると、なるべく囲まれない位置取りで応戦し、その甲斐あって2匹目も撃破。
3匹目の相手をしている最中に、弾美の呻り声が聞こえてきた。赤い甲殻を持つサソリ型の中ボスに苦戦しているのかと思いきや、今は別の一団と戦っている。
ひときわ大きなつむじ風と、その部下達と言うセットの敵影だ。どうやら仕掛けの扉はまだ閉じていない模様。それどころか、一目見て大型の中ボスクラスの敵が混じっている。
瑠璃はやっちゃった感漂う声で、弾美に確認を取る。
「……ひょっとして、それも湧いちゃった?」
「おうっ、この大きいのが何か落としたら許す!」
落とさなかったら罰ゲームなのですか? 瑠璃は多少顔色を曇らせながら、なるべく無心に目の前の敵に細剣を振るう。幸い瑠璃の腕前でも、光の付与魔法とスキル技の定期使用で、無理なく敵の数を減らせて行くのに成功している。
水の新魔法の防御力のアップも地味に効いているようで、ようやく余裕が出て来た瑠璃。それでも、全ての敵を倒し終わったのは、弾美の方が早かったのだが。
「おっ、風の術書落としたぞ! 良かったな、瑠璃」
「う、うん……それよりここでヒーリングしても平気かな?」
湧いた敵を全滅させて、結局は階段の真ん中でヒーリングをする事に。このエリアに突入して、既に30分が経過している。意外と手こずっている感じがするが、まぁ仕方が無い。
このまま何も無ければ、つづら坂3往復ほどで頂上のボスエリアだ。
「回復終わった~、もう何も起こらないで~」
「起こしてるのは、大抵瑠璃じゃんか……」
「わざとじゃないもん!」
瑠璃の心底の願いが届いたのかは不明だが、二人の登頂からのボス攻略は、その途中の道のりを考えると呆気なく終了した。むしろ細い階段でのごちゃごちゃした戦闘より、広いボスエリアの方が伸び伸びと戦闘出来たような気さえしたり。
ともあれ、今日の使用時間は2ステージの攻略時間を足して、1時間と45分くらい。5日目にして、ようやくステージ4に到着した二人パーティである。
進たちの情報と照らし合わせると、ようやくの感のあるステージ突破ではあるものの。弾美は早解きには興味が無かったので、特に気にする風も無く。時計を見ながら、今日の限界稼働時間をはじき出す。
瑠璃の方は、前の2つと趣の異なる中立エリアに、早くも興味津々の様子。
「今日はもう、後15分位しか時間が残ってないな。落ちる前に、ここの探索だけでもしておくか?」
「お店のチェックもしなきゃだけど、ここから先は3人パーティ可能なんでしょ? パーティに入ってくれる仲間を、まずは探しておいたほうが良くないかな?」
「ああ~っ、そうだったなぁ、でもなんか面倒くさい……ってか、こんな朝の内じゃ、ほとんど人なんていないだろ……」
確かに、下の層の中立エリアより、更に広いステージ4の中立エリア。見た限りでは、その広いエリアに存在するキャラは、朝の9時ではぽつぽつとほんの僅か。
弾美は一応エリア検索を掛けて、パーティを組んでいないソロ行動のキャラを探し始める。ほとんど、何の期待もしてないのは傍目にも明らかな覇気のなさ。
それでもリーダーの役目は、ちゃんと果たそうとはしている様子。
弾美の画面操作を横目に、瑠璃はと言えば別行動。暇な時間を利用して、一人で新エリアのお店の探索に移っていた。NPCはと言えば、魔女の噂やこのステージの攻略のヒントを話してくれた程度で期待外れ。
お店の数も、NPCの人数も、下の層より格段に増えてはいるようだけれど。お店に並ぶ商品なども、下の層より充実している。瑠璃は一応、簡単にマップを手書きする事に。
後で、こういう手間が役に立つ事もあるのだ。
更に瑠璃は、アイテム屋の薬品の値段をチェックし、安いものは高騰する前にまとめ買い。武器屋と防具屋では自分の装備と見比べ、買う価値のある品をリストアップ。
他のめぼしいお店といえば、武器の耐久度を回復してくれる鍛冶屋と、下の層には無かった合成屋。ようやく敵モンスタードロップの素材が役に立ちそうだが、合成リストの品数は下級の装備に偏っている感じ。
後は消耗品がその大半を占めている模様だ。
武器屋と防具屋に置いてある人気装備や、ちょっと性能の良い装備は、品不足からかかなり割高になっていた。しかし、前のステージで散々NMを倒したせいで、二人の懐には他の人達よりお金が貯め込まれている筈なのは確か。
瑠璃は二人の所有金額と欲しい装備一覧とを頭の中で計算し始めた。まずは、高騰した装備が下がってくれないと話にならないのだが。余った装備や不用な素材を売り払えば、金額も足りるかも知れない。
炎のナイフも、このまま使わないのなら売ってお金にしても良い。消耗品のアイテムや万一の時の武器や防具の予備も、それなら買っておく事も可能である。
弾美の考えを聞こうと、瑠璃は隣の幼馴染みに声を掛ける。
「ハズミちゃん、買い物しておこう。炎のナイフとか、要らない物売ってもいい?」
「ああ、いいけど……なんだコイツ?」
そう弾美が指し示したのは、モニターの中の事。ハズミンの前に、もじもじと近付く人影が一つ。思いっきり貧相な初期装備で、見た目はキツネ人間っぽい容姿をした♀キャラである。
つまりは雷属性の冒険者なのは見て取れるが。
検索の結果を見る限りは自分達より3つもレベルが低く、ソロらしいのだが。何かを話しかけたそうに一定の距離までは近付くのだが、ハズミンが近付くと慌てて逃げてしまう。
ハズミンは歩くスピードを保ちつつ、そのキツネ娘を追いかけ始める。ちょっと笑える光景だが、瑠璃は弾美からコントローラーを取り上げてそれを止めさせる。ハラスメント行為に取られ兼ねれない行動は、ファンスカに限らずオンラインゲームでは厳重に禁止されているのだ。
キャラのポリゴンの上に表示されている名前は、ミイナと読めた。
「パーティにあぶれた子かなぁ?」
「かもな……ってか、装備も金も持ってなさそうだ。きっと、キャラ操作も下手だな」
「ずっと誘われずに、声掛けられるの待ってるのかなぁ……可哀想」
「期間限定イベントは、参加者全員ガチでの真剣勝負だからなぁ。誘っても戦力になりそうもない奴は、皆がパーティ遠慮願うだろうなぁ……」
弾美はキツネ娘のサチコメを確認。仲間募集の告知の言葉の下に、一応、セールスポイントとして、ヒールと状態異常回復魔法――ライトヒールは覚えてますと書き込まれている。
とは言え、わずか3人パーティで完全後衛キャラ、攻撃手段を全く持たないキャラが入る余地があるかと言えば、バランス的に大いに疑問である。
足手まといとまでは言わないが、魔法は所詮MPを消費しないと使えない。今の自分達のキャラレベルだと、精々回復魔法を5~7回唱えたら、座って一定時間ヒーリングしないと魔力は回復しないのだ。
エーテルは高価なので、ポーション程にはホイホイ使えない。
そんな訳で何と言うか、2時間縛りのエリア攻略には、足並みが遅くなり過ぎる。スピード重視なら、ポーションを買い込んでしまえば、回復は充分事足りる訳だから。
レベルを見合わせての取得スキル計算からすると、この雷娘は武器スキルには全くポイントを振り分けていない様子。一応、初期装備の両手棍棒は持っているようだが。
よくここまで上がって来れたと、弾美は逆に感心してしまう。
『おいっ、お前。誘われ待ちか?』
『Jhqiいっ!』
何となく面白くなって、弾美はキツネ娘に話し掛けてみた。その言葉に、どうやら余程慌てて返事を打ち返したようだ。変換ミスの上、キャラの挙動も変。弾美は瑠璃と顔を見合わせ、どうしようか、コイツ誘うのやばくない? 的な会話を目と目で交わす。
『はいっ! 一緒に遊んでくれる仲間を募集してます!』
すぐさま、まともな返事が返って来る。どことなく必死な様子が、文面から見て取れたり。
『期間限定イベントは、遊びじゃねえっ!』
『は、はいっ!』
今度は言葉で追い詰めて遊ぶ弾美に、瑠璃はキーボードも取り上げるべきか一瞬悩んでしまう。それでも、困っていそうな人に話し掛けるのは、それはそれで勇気がいる行動だ。
瑠璃は、そういう事が平気で出来る弾美を、子供の頃から凄いと尊敬していた。瑠璃など、心の中では心配したりと感情が動くものの、行動に移す事がなかなか出来ない。
『それにしてもヘナチョコ装備だな……どうやってここまで攻略出来たんだ?』
『ええと……ステージ2からは、パーティ組んでも良いって人に誘って貰えて。ドロップ品は全部その人が取るという条件で、自分は後ろで回復だけ』
「ひどいっ、回復だって立派な支援じゃない! 自分だけドロップ持って行くって、どう言う事っ?」
「いや、俺に怒られても……ってかコイツ、たかられ属性だなぁ」
たかられ属性と言うのはファンスカの世界での造語で、一般にはドロップのすこぶる良いモンスターを指すのだが。酷い時には、ポップ待ちするプレーヤーがエリアの隅々に待ち受けていて、再ポップと同時に倒されてしまう時もある。悲しい運命を持つ者に付けられたあだ名、それがたかられ属性だ。
現実の世界でも、財布の紐が緩い人物に、たまにこの称号が贈られたり。
恐らくミイナとパーティを組んだ元パートナーは、彼女を踏み台にして、今はもっと上の層を別パーティで攻略しているのだろう。おいていかれた者の事など、微塵も気に掛けず。
そう思うと、弾美も段々と腹が立って来た。
『イン出来る時間が合うなら、仲間に加えてやるぞ。ミイナは学生か?』
『は、はいっ! 付属小学校の5年生ですっ!』
「……小学生か」
「いいじゃない、小学生でも、へたっぴでも! せっかく知り合ったんだから誘ってあげようよ!」
知り合ったと言えるほど、正直話し込んではいないのだが。弾美は隣で騒ぎ立てている瑠璃を落ち着かせ、自分のコントローラーを取り戻すと、アイテム欄を確認する。
売り払うつもりの装備は、掻き集めれば余裕で一人分にはなりそう。
『俺たちは中学生だから、生活サイクルは合いそうだな。こっちのパーティに加わるつもりがあるなら、余ってる装備をやるよ。この先のイベント、一緒に攻略するか?』
『…………神様』
「……は?」
二人は揃って疑問符付きの言葉を口にして、顔を見合わせる。
『あなたは神様ですっ! あのっ、オフで会ってくれませんか? お礼をしたいです!』
二人とも、いつの間にやらミイナの勢いに押されっ放し。今日は夕方までは暇だよ的な発言から、じゃあお昼に駅前のアーケード通りで会いましょうとの約束に持ち込まれ。
本当に、いつの間にやら駅前で会う約束を取り付けられてしまってました。
「最近の小学生は凄いねぇ……」
「……全くだな」
――瑠璃の発言が、やたらとリアルに染みた午前のひと時だった。
* *
駅前の広場は、大井蒼空町の街並みのを象徴するような綺麗で奇抜な造りだった。そんな駅前の待ち合わせのシンボルに、色鮮やかなベンチや野外テーブル、奇抜な彫刻の入った日陰を提供するモニュメント群。
街の住人が『駅前』で待ち合わせと言えば、ここだと決まっている。
弾美と瑠璃はゲームを終えた後、お昼まではほぼ昨日と同じスケジュールを過ごした。微妙に違っていたのは、勉強の内容が瑠璃が購入した、テレビのクイズ番組で出題された問題集に変わっていた事。
四字熟語やことわざ、地理や歴史、英単語や都市名、常識問題や一見無駄に思える豆知識などの詰まった問題集も、二人で出題し合えば結構盛り上がったり。
2時間ちょっとが、まさにあっという間に過ぎたのは言うまでも無く。
更に微妙な相違点を上げれば、台所のテーブルに置いてあったお小遣いが千円に減っていた点だろうか。ただ、折り紙展で買ったお土産のお礼が切々と書かれていたので、本音ではもっとあげたかったとも取れるけれど。
それが許されなかったのは、父親の財布の財政破綻問題に関する云々。
それはともかく、マロンとコロンも目印代わりにと連れて来たので、やたらと悪目立ちする二人だったり。反対に人混みにも動じない二匹は、駅前の喧騒にも全くペースを崩さない。瑠璃がベンチに腰を下ろすと、兄弟犬は大きな体躯をその足元に運んで優雅に寝そべる。
アーケードの入り口は、その場所からでもすぐそこに見える。弾美はベンチには座らず、立ったままアーケードのほぼ直線に延びる通路を注視していた。
相手の目印は、小学生の女子だという以外は特に聞いていない。こちらが中学生の男女で、大型犬を二匹連れているから声を掛けてくるように言い聞かせただけである。
まぁ最悪会えなくても、フレンド登録はしてある。連絡は、オンラインでなら可能である。
「もうすぐ12時半だねぇ。ハズミちゃん、それっぽい子いる?」
「……変なお子様っぽい不審者ならいるが」
アーケードの入り口の街灯の柱の後ろに、隠れるようにしてこちらを伺う少女が一人。本人は見えていないつもりのようだが、腰まである金髪がやたらと目立っている。
大井蒼空町には、意外に外国人居住者が多い。子供もそうで、弾美の学年にも何人か肌や瞳の色が違う子が居たりする。企業に優秀な人材を、幅広く募った結果だとも言われている。
瑠璃が立ち上がり、コロンの手綱を弾美に預けると少女に歩み寄って行った。金髪少女は一瞬逃げ出しそうになったが、近付いて来るのが優しそうなお姉さん一人だと気付くと、おずおずと柱の影から姿を現す。
しばしその場で話し合う少女二人。緊張気味なのがその仕種から見て取れる。やがて落ち着いて来たのか、瑠璃が少女の手を取ってこちらに嬉しそうに歩いて戻って来た。
後ろに従う少女は、何となく恥ずかしげにぽおっとしている。
「美井奈ちゃん、こっちがお隣の立花ハズミちゃん。私の幼馴染だよっ」
「はっ、始めましてっ、橋本ジュリス美井奈ですっ!」
「おうっ、何か外人に見えるけど、日本語上手いな」
「はっ、はいっ……日本語しか喋れないので!」
「何だ、なんちゃって外国人か!」
「よく分かりませんが、済みませんっ!」
緊張気味に言葉を発する美井奈に、瑠璃は手を繋いだまま落ち着くよう話し掛ける。さすがに悪目立ちの人の目が増えたような気がして、その元凶の少女に平静さを取り戻して欲しいがため。
弾美も面白がってはいたが、瑠璃の心情を察したのだろう。さり気なく場所を移そうと提案すると、近くにあるいつもの洋食屋さんの名前を口にする。
大型犬が、歩き出した美井奈に追従して左右を囲んだ時、少女が思わず驚いて瑠璃に抱きついたのは、多分仕方の無い事だろう。瑠璃は大丈夫と安心させる言葉を発するが、少女の緊張はそう簡単には取れそうも無い感じである。
弾美は、本当は心優しい犬達が傷つかないよう、内心で祈っていたり。
* *
場所をいつものオープンテラスに移動して、三人と二匹はランチタイム。なかなか緊張の取れない美井奈は、図体の大きな兄弟犬にも未だにビビリ気味だったり。
注文を終えると、弾美がメインになって話を始める。内容はイン可能な時間だったり、メイン世界のキャラレベルだったり、小学校でどの程度ファンスカが流行っているかなどなど。
答えやすい質問は、段々と美井奈の緊張をほぐして来たよう。
「はいっ、放課後から夕方までの時間はどの曜日も平気ですっ! 夕御飯とお風呂は6時半から8時の間です。夜は10時半には大抵眠くなっちゃいますねぇ」
「私、ゲームを始めたばかりで……メインは全然レベル高くないです。30くらい?」
「男の子がよくゲームの話してますけど、女の子はあんまり居ないですかねぇ? あ、私はゲームセンターの前のポスター見て、楽しそうだなぁって思って親に申し込んでもらったんです!」
「イベント参加は、じつは今回が初めてで……勝手が全然分んなくって」
会話が進むにつれ、ようやく硬さがほぐれて来たのか、美井奈は段々と饒舌になる。元々は人懐っこくて元気な子なのだろう。見た目は完全に、金髪碧眼のお人形さんのような可憐で可愛い女の子なのだが。
そんな少女が丁寧な日本語を話す違和感に、弾美は少し眩暈を覚える。
「あ~っ、私も一緒だ。私もいつもそのくらいに眠っちゃう」
「私はねぇ、ハズミちゃんに誘われて始めたの」
「ハズミちゃんはねぇ、中学生同士でギルド作ってて、そのリーダーやってるの。10人くらいいて、私もその一員だよ」
瑠璃の相槌も、ほんわかとした雰囲気を作り出すのに役に立っているのだろう。女性のプレイヤーが周囲に多くないせいか、美井奈も積極的に瑠璃とコミュニケーションを取っている。
美井奈の服装は、二人とは対照的に細かなパーツであしらえた、お洒落感漂う衣装。それが良く似合っていて、普段の散歩着の二人が逆に浮いて見える。
垢抜けているが、逆に小学生に見えない。アンバランスな華やかさが一際目立つ少女だ。
ようやくテーブルに届いたランチセットとスパゲティセットに、三人は揃って食事を始める。女性陣二人の食事の仕方を何となく見比べ、弾美は吹き出しそうになった。
年恰好は実年齢より大人っぽい美井奈だが、食べ方はまるでお子様。逆に瑠璃はもの凄くきちっとしたお行儀の良さを発揮している。瑠璃の方が、逆に歳不相応でさえある。
不審気にこちらを見る二人に、弾美は慌てて話をそらした。
「それにしても、あんな朝からパーティ待ちしてたのか。美井奈は根性あるな」
「ええ……正直3日も待ちぼうけだったので、結構辛かったです」
「ええっ、3日も待ったの? それは大変だったねぇ……」
「いえ、それはいいんですが……そのぅ……」
その後美井奈は手に持つフォークを止め、ちょっと押し黙っていかにも言い辛そうに二人を上目遣いに見つめた。何事かと身構える弾美と、心配そうに見つめる瑠璃。
美井奈の口に出された台詞は、ゲーマーとしては確かに言い辛い内容だった。
「私……既に2回ゲームオーバーで、ライフポイントが1個しか残ってないんです……」
「ん……? ステージ4到達で、1個増えるって話じゃ無かったか?」
「ええ……到達前に1回死んで減ったポイントは、ステージ到達して増えはしたんですが……。あまりに誘われずに暇だったので、ちょっと扉の中が見たくなって。ソロで入ってみたら、戻れなくなっちゃって奥に進んだら敵に絡まれて死んじゃって……」
やっちゃった告白に、顔を見合わせる弾美と瑠璃。確かにそれは、これからパーティを組むにしても厳しいものがある。何しろ、1回でも全滅なり死亡なりすれば、ミイナはイベント世界から完全にいなくなるのだ。
組んで行動するこちらも、いきなり欠員が出れば大変なリスクを背負う事になる。
「むぅ……それは厳しいな。って言うか、アホだな」
「だ、大丈夫よ……ねぇ、ハズミちゃん!」
厳しいと言ってるだろうにと、弾美は瑠璃をジトッと睨む。けれども瑠璃も必死に眼力で応戦、しゅんとなっている美井奈の為に、励ます言葉を弾美に言わせようと圧力をかけて来る。
幼馴染みだから出来る、目と目での通じ合い。
しばし無言の、眼力での壮絶な空中戦。それに反応したのは、何故か机の下に寝そべっていたコロンだった。急にのそりと起き上がり、談美の太腿の上に顔を乗せて来る。
ケンカをしないで……ここはジブンに免じて許してあげて。コロンのつぶらな瞳がそう言っているようで、弾美は思いっ切り怯んでしまう。マロンはマロンで、どちらの味方をするべきか迷っている様子。視線が忙しなく動いているが、何故か弾美とは目を合わせようとしない。
自分の味方はいないのかと、弾美は天を仰ぎたくなった。
「……分かった、それじゃあパーティに加える条件としてひとつ、新しく付け加えさせてくれ。要約すると全部で3つだな。インの時間は必ず守る、攻略が遅くても文句は言わない、ミイナの育成方針は俺と瑠璃に必ず相談する事、以上だ!」
「…………神様」
美井奈は陶酔した表情で、弾美を仰ぎ見る。年下の少女の尊敬と崇拝、場違いな感情の露呈に、軽い気持ちでの了承を出した弾美は再び眩暈を覚えた。
軽く後悔しつつ、逃げ場は無いかと自然に視線が彷徨うのが自分でも分かる。
「神様って言うなっ! 条件を守れるか、美井奈?」
「は、はいっ! 全然オッケーですっ……ってか、それでお願いします、お兄様っ!」
「お兄様もよせっ!」
瑠璃は思わず吹き出して、慌てて自分の口元を隠す。せっかく弾美が折れてくれたのに、不機嫌になられたら元も子もない。内心で気持ちを落ち着かせ、嬉しそうに顔の前で手を組み合わせて弾美に感謝の声を掛ける。
気持ちの昂りは美井奈も同じで、飛び上がらんばかりに嬉しそう。満面の笑みのまま思わず隣の席の瑠璃に抱きついて、瑠璃に向かってお姉様っと嬌声をあげる。
瑠璃の笑顔も、この辺りで凍りつきそうに。
「ね、ねえっ、休みの日は三人で同じ部屋でインするのはどうかなぁ? 意志の伝達とか指示の速度とか、キーボード使って会話するのとは全然違うから、パーティするのにすぐ馴染むかも」
「あ~、確かにそうだなぁ……美井奈が良ければ、ウチに来ても構わないけど。瑠璃の家に、モニターとかコントローラーの予備はあったっけ?」
瑠璃は予備はあると答え、美井奈は是非遊びに行きたいと答えたので、話はとんとん拍子に合意に至った。何にしろ、散々難航した新パーティの結成に、三人はほっと安堵感をにじませる。
前途は多難かも知れないがと、内心弾美は冷や汗たらたら。
昼食の会計は美井奈が絶対、何が何でも払うと言い張ったので。年上の二人は、少女の顔を立たせて結局は奢ってもらう事に。その代わりにゲームセンターの人形を見たいと、ゲームの時の話に出て来たネタに年下の少女は飛びついた。
やはり小学生で女の子、ゲームセンターの前は通るものの、そういう場所には入った事は無いと言う。そんな訳で、一緒に入ってみようと、三人でアーケード通りへと移動……
の前に、二匹の兄弟犬をマリモに預かってもらいに。
「へ~、お二人はマリモの店長さんとお知り合いなんですか。私ん家も熱帯魚でお世話になってるんですよ!」
「店長さんもゲームするしねぇ。夕方からお店のお手伝いを約束してるの」
アーケード通りは今日も程々の混雑具合。人混みを避けるように端っこを歩いていた三人だったが、瑠璃が店並みの一つにあるものを見つけて弾美に報告した。
ゲーム内広告も、立派に宣伝効果はある様子。
「あっ、ハズミちゃん。佐々木ドラッグにファンスカ協賛のポスターが貼ってある……」
「むっ、それは何かを買わないと駄目だな。お小遣いのお礼に、両親に栄養ドリンクでも……」
「あ~、ゲームの中でのポスターって、こういう意味だったんですか!」
「エリクサー貰ったもんねぇ、ちょっと待っててね、美井奈ちゃん」
美井奈は感心する事しきり、店頭のポスターに書いてある『ゲーム内でエリクサー配信中!』の文字を声に出して読み上げている。自分も貰ったのは確かだが、こういう形式の宣伝になっているとは考えもつかなかった。
現実とゲーム世界のリンク、何だか面白い。
美井奈が呆けている内に、弾美と瑠璃は素早く買い物を済ませてしまっていた。そのままゲームセンターへと歩くこと2分、店内は相変わらずの賑やかさ。
店頭にいても、その喧騒ははっきり分かるほど。
それでも幸いな事に、目的のクレーンゲーム前は、以前に来た時ほど混んではいなかった。是非ぬいぐるみをゲットしたいと言う美井奈のために、列の最後尾に並ぶ三人。
列に並んでいる最中やたらとハイテンションな美井奈に、弾美は気になった質問を口にする。
「美井奈、クレーンゲームやったことあるのか?」
「いいえ、一回もないです!」
「……取れる自信は?」
「お兄さん、取ってください!」
「あ、じゃあ私の分もお願い、ハズミちゃん」
女性陣二人に頼られるのは悪くない気分だが、弾美もそれ程クレーンで遊んだ事は無い。全然自信がないと伝えるも、自分達よりはマシだと返って来る答えは同じ。
先頭の美井奈に早くも順番が廻って来て、少女は呑気に小さく書かれた説明文を読み始める。景品が大きいせいか新物のせいか、1プレイが200円と結構割高である。
説明文を読み終えた美井奈は3プレイ500円を発見、迷わず硬貨を投入。
「お兄さん、早速ですがお願いします!」
「最初から頼るなっ! ってか、何を取るか決めないと話にならないぞっ」
「あっ、そうか。じゃあ……あの雷っ娘の人形お願いします!」
結果として、三人で1000円を投入。6回のチャレンジの3回目に、美井奈の欲しがっていた人形は取れたものの。6回目の最後の1回は弾美の渾身、執念のトライ。
1個の人形に1000円なんて、冗談ではない。
「わっ、わっ、アームが何か掴んでるよハズミちゃん!」
「やりました、お兄さんっ! 2個目ゲットですよっ!」
アームの掴んだ人形は、何とか無事に取り出し口まで到達した模様である。転がるように出て来たのは、今日は偶然取りやすい場所に配置されていた人形。
――ヘソクリにゃんこだった。
* *
その他の場所も三人で結構歩き回ったせいで、時間はあっという間に過ぎて行き。一行の親密度も、それなりに上昇した模様。美井奈の二人の呼び方も、一応の落ち着きをみせつつ。
懐いた美井奈は、何故かペットショップのお手伝いまでついて来る有り様。
「……ひょっとして、美井奈は一人っ子か?」
「はい、お兄さんっ……何で分かったんですか?」
「お前の行動パターンは、実に分かりやすくて面白い」
「よく言われます! 私、お兄さんかお姉さん、欲しかったんですよねぇ……」
遠い目をして言われても、こちらにはいかんともし難く。妹とは年上の兄弟に理不尽にこき使われるものだと言う刷り込みを与えるべく。弾美は店内でのエプロン支給後、美井奈に店内掃除の指令を与える。
瑠璃はどうしたものかと戸惑っていたが、楽しそうにお手伝いをする美井奈を見て口出ししない事に。今日はお客も多い様子で、それでなくても大変だったし。
美井奈はマリモの店長ともすぐに仲良くなれたようで、取り敢えずは一安心。夕食離脱の時間まで頑張ってくれた小さな店員に、店長も感謝していたようだ。
後は、弾美が帰りに言い渡した、今夜の様子見インを頑張るだけである。
* *
掻き集めた装備はNMのドロップ品も含め、それなりの性能を誇っていた。何よりも、ほぼ全部位揃っているのが強み。問題があるとすれば、ミイナが遠隔スキルを伸ばしていない事。
お昼の会合後には、どうやら弾美のミイナ改造計画案は整っていたようだ。まぁ、ライフポイントが1しか残っていないキャラを、前衛に押し出すのは無謀と言う事もあって。後衛の弓矢持ち遠隔キャラ、ここまでは我ながら良い案だと弾美は自画自賛。
ただ、せめてミイナの弓の熟練度を上げないと、敵に与えるダメージが期待出来ない。熟練度を上げるためには、ひたすらその武器を使う事が必須となって来る。
――つまりは時間が必要である。
そんな訳で、お昼の会合の合間に飛び出した、今夜の様子見イン作戦。弾美の大丈夫だから、取り敢えずミイナの経験値を稼ごうと言う言葉を受けて、一応は皆の合意を得るに至り。
夜の8時、それぞれの家からの限定イベントエリアへの接続と相成った訳だ。思いは三人三様、呑気だったり心配だったり、はたまたひたすら感動していたり。
まぁ、緊張でコントローラーも操れないよりは、具合は良いかも知れないが。
名前:ミイナ 属性:雷 レベル:11
取得スキル :水10《ヒール》 :光17《ライトヒール》
種族スキル :雷11《攻撃速度UP+3%》
装備 :武器 粗末な長棒 攻撃力+6《耐久10/11》
:遠隔 木の弓 攻撃力+8《耐久11/11》
:筒 木の矢 攻撃力+6
:頭 白いバンダナ 光スキル+3、武器スキル+1、防+3
:首 妖精のネックレス 光スキル+2、風スキル+2、防+2
:耳1 妖精のピアス 光スキル+1、風スキル+1
:耳2 玉のピアス 防+1
:胴 木綿のローブ MP+3、光スキル+1、防+4
:腕輪 皮のグローブ 防+4
:指輪1 皮の指輪 防+2
:指輪2 皮の指輪 防+2
:腰 皮のベルト 防+2
:背 皮のマント 防+2
:両脚 皮のズボン 防+4
:両足 皮のブーツ 防+3
ポケット(最大3) :小ポーション :小ポーション :万能薬
二人に渡された装備を身にまとい、あっという間に劇的な変身を遂げたミイナ。装備欄が次々と埋まって行くに従って、雷娘は何とか使えるキャラに変貌を遂げる。
二人の情けが身に染みて、少女は思わずモニターの前で泣きそうに。
「神様……見捨てないで下さってありがとう……!」
一方の瑠璃は気が気ではない。何しろステージ4の情報はほとんど無いし、美井奈はともかく自分達は15分しか時間が残されてないし。さらに言うと、美井奈は一度も死ねないし。
弾美にそう言っても、やっぱり返ってくる言葉は大丈夫、平気だからの一点張り。
『心配し過ぎだ、瑠璃。美井奈、装備終わったか?』
『はっ、はい隊長! 矢の予備が1セットしか無いですが平気でしょうか?』
『30分で戻るから平気。って、本当に30分でエリア離脱出来るんだろうな?』
『その前に死んだから分かりませんが、妖精はそう言ってました!』
準備の合間に、瑠璃は朝と同じく防具屋のチェック。朝に見かけた性能の良いベルト装備をミイナに買ってあげようとしたのだが、今は在庫切れなのか置いていない様子。
ショックを受けつつ佇んでいると、弾美から集合の合図が届く。
『順番廻って来たぞ、扉前に集合!』
『了解~!』
さすがに夜のこの時間ともなると、扉前は結構他の冒険者の列で混んでいた。それでも今夜は、以前2日目に体験した超混雑振りとは程遠い感じである。
それもその筈、イベント参加者の半数以上は、既にもっと上のステージに達している。さらにパーティが三人制になった事で、パーティの数自体が凝縮され、待ち時間が短縮されているよう。
10分程度の待ちで、弾美達のパーティに順番が廻って来た。
『ハズミちゃん、合成屋で色々消耗品が作れたよ? 合鍵とか神水とか、待ち時間でちょっとだけ合成して貰ったけど……』
『いらんっ、とにかく突入! ……いや、神水1個くれっ、瑠璃』
神水は一定時間だけHPがちょっとずつ回復して行く、とても便利な回復薬。合鍵はその名の通り、鍵の掛かった宝箱や扉を開く事が出来る消耗アイテム。
どちらも冒険やダンジョン攻略には必須アイテムで、普通なら持てるだけ買い込むものなのだが。今は後回しで良いと弾美は判断。せっかく廻ってきた突入順序は、なるべく譲りたくない。
瑠璃からのトレードで、ハズミンは神水を2個ゲット。突入準備は完了。
『昼にも言ったが、今夜は美井奈の弓の熟練度上げと、経験値稼ぎだからな! エリア攻略は無視して、美井奈がたくさん敵を見掛けたって言うこの扉に入るぞ!』
『はいっ、お手数かけますっ! お願いします!』
『そ、そうだね……わかった。美井奈ちゃん、頑張ろう!』
『はいっ、お姉ちゃま!』
独特の緊張感のエリアインのブラックアウト後、三人が入り込んだのは白い宮殿のような大通路。白い柱が等間隔に立ち並び、壁も天井も白い石板造りとなっている。
肝心の敵影は、至る所にうようよ確認する事がが出来た。取り敢えずそいつらを無視して、念の為に美井奈の情報の確認。弾美は、今は閉まっている入って来た扉をチェックする。
途端に、リュックから勝手に出現する妖精。
――えっ、もうここから出るつもり? アナタってばせっかちなのネ! 残念ながら、扉には仕掛けがしてあるから、30分経過するまでは開かないようになってるみたいネ☆
もう一つ、ここを出る手段は奥の仕掛けを作動させることカナ? クリアタイムによってはご褒美上げるから、頑張ってネ☆
……なるほど、こんな仕掛けがあったとは。弾美は軽くショックを受けつつ、今までの妖精関係の仕掛けを無視していた事を軽く後悔。実際、ただのお笑い担当キャラかと思っていたのだが。
二人が指示を待って話し掛けて来るのに我に返り、弾美はミイナに狩りの指令を下す。とにかく、熟練度は武器を使用しないと上がらない仕様なのだから。
武器による攻撃ダメージを上げるには、実は色々と方法が存在する。スキルを上げたり熟練度を上げたりするのが一般的で、時間があれば割と簡単でもある。
他の方法で言えば、より攻撃力の高い武器を手に入れるか、キャラの腕力を上げたりなど多様だが。こちらはキャラバランスや入手経路などの関係もあって、気軽に取れる手段でも無い。
スキルの上昇は、レベルアップなどで貰えるポイントを振る事で上げるのが通常である。つまりはどんな戦い方で経験値を稼ごうが、スキルさえ振り込めば望む武器のダメージは増えるのだ。もちろん一定ポイントで、スキル技を覚える事も可能である。
つまりは、極端な話をしてしまえば、片手剣で経験値を稼ぎ得たスキルポイントがあったとして。それを細剣に振り込めば、細剣のダメージの上昇が可能なのだ。
変な話だが、スキルポイントとはそう言うものだから仕方がない。
一方、熟練度はそれとは正反対。その武器を振るう事でのみ上昇し、経験値を貰えない敵であっても、武器の熟練度内の適正レベルであったら上昇する。なので、スキルを振り込んでいない武器であっても、ある程度までは高いダメージを出す事も可能。
ただ、スキル技を覚えてないと、戦闘に華が無く寂しいというデメリットが。
熟練度を上げる事で、武器の耐久度の消耗具合を軽減出来たり、スキル技の命中率が上がったりする事も分かっている。そのためベテランの前衛キャラは、この値を疎かにはしない。
そしてそれは、もちろん遠隔武器にも言える事なのだ。
『ミイナ、遠慮せずバンバン撃ちまくれっ! 寄って来た敵は、俺と瑠璃がやっつけるから』
『了解しましたっ! ミイナ、バンバン撃ちまくりますっ!』
言い終わった後に、ミイナはちょこちょこと前に移動。次に1匹だけ離れている敵を見つけると、ちょっと間をおいてピッと矢を射掛ける。それから敵がこちらを向くのも確認せず、脱兎の如く駆け戻って来る。
ハズミンが向かってきた敵に、すかさず殴り掛かってタゲを取る。弾美のオッケーの声の後は、皆で攻撃を仕掛けて止めを刺す。最初の戦闘後にルリルリは、思い出したように皆に防御魔法を掛け、自身に光の付加呪文を。
その後、ミイナが新しい敵を釣ってくるまで、大人しくヒーリング。
初めはたどたどしかった美井奈の釣りも、段々と様になってきた感じ。瑠璃もようやく三人での戦闘に慣れ始め、殴りとサポート回復の按配もきっちり確認してこなし始めているよう。
敵の種類は獣人や蛮族、鳥やサルなどの動物系で占められていた。獣人はギルやコイン、素材系のドロップを、蛮族は良く分からない薬品や武器などのドロップが目立つ。
相談というよりは半ば押し付けで、ドロップ管理は瑠璃の仕事になっている。お陰で瑠璃のカバンは常にパンパンで、何を幾つ持っているのか把握がもの凄く大変だったり。
幸いこのゲーム、カバンの容量は最初から結構大きい。
『あれ、今の武器は……インゴットにして、防具に打ち直して貰えるんだっけ?』
『知らん……ってか、どのキャラにも装備出来ないアイテムだから、そうかもなぁ』
『きゃ~、隊長! また飛び道具持ちの蛮族を釣ってしまいました!』
飛び道具持ちの敵は、弓で釣っても遠隔での反撃があるので、安心し切っているととても痛い目に合う。範囲外に逃げないと追い掛けて来ないし、釣りに慣れていないと怖い敵である。
しかし弾美は思う。ログ打っている間に逃げて来いよ、と。
瑠璃が前に出て、HPを減らして戻ってくるミイナに回復魔法を飛ばす。律儀に礼を言う美井奈に、弾美は疲れたように1本でも多く矢を射るように再度命令。
今夜だけで、既に5回目くらいの遣り取りに、さすがに弾美も眉間にしわが寄り始める。
そんな事を繰り返すうちに、弾美と瑠璃の2時間縛りが発動。妖精の忠告と共に、HPが徐々に減り始める毒状態。弾美は慌てず騒がず、瑠璃が合成屋で作って貰った神水を使用。
これは5分は持つ優れものアイテムだった筈だが、残念ながら二人とも2本ずつしか所持していない。明日のイン時には、忘れずに再度入手しようと弾美は決心する。
まぁ、忘れてても瑠璃が覚えているだろうが。
『あ~、最初の15分の毒状態と神水の回復効果、丁度ダメージ相殺されるくらいかなぁ? これなら15分くらいのオーバーなら、何とか持つかも知れないねぇ』
『だから平気だと言っただろ。狩りを続けるぞ、ミイナ』
『さすが隊長です! 的確な判断、ナイスですっ!』
『ミイナ……いいからお前は釣りに集中しろっ! キーボードに触る時間が惜しいっ!』
『え~っ、それは失礼に当たるじゃないですか! 第一、喋らないと面白くないです!』
弾美はとうとう、モニター前に座っているのに立ち眩みに似た感覚を覚える。美井奈の辞書には、どうやらゲーマー根性という言葉は載っていないようだ。純粋にゲームを楽しもうと意気込むその姿に、弾美はむしろ諦めに似た爽快感さえ感じ始めたり。
人種が違うよ、この子。でもまぁ、一緒にゲームを楽しもうとする気持ちがあるならいいか。
『え~と……ミイナちゃん、残り時間頑張ろう?』
『了解です!』
恐らく、今の弾美の心理状態を的確に察したであろう瑠璃が、上手に美井奈を言葉で誘導。ダンジョン内の狩りは、何も無かったように再開する。そんな筈は無いのだが、ポリゴンで出来たルリルリが、モニター内で必要以上にギグシャクしている感じを受けてしまう。
爆弾はね、爆発したら自分自身も被害を受けちゃうんだよ~、と表現しているようないないような。
『瑠璃……俺はそこまで癇癪持ちじゃないぞ?』
『そ、そう……?』
『むしろ今は、心穏やかだ』
『そ、そう…………?』
『? 何の話ですか?』
二人は揃って、何でもないと同時に返信。それから3匹目の敵を倒した所で、めでたくミイナがレベルアップ。瞬く光にキャラが包まれ、レベル12に上昇したとのログ通達がなされる。
おめでとう、ありがとうを女性陣が言い合う合間に、弾美の指示が飛ぶ。
『ステータスは敏捷度に、スキルは遠隔に全部振り込め~』
『はい、隊長! あっ、スキルポイント2ポイント保留していましたが、それも遠隔でいいですか?』
『もちろんだ! じゃあ、今遠隔は4かぁ』
『バンダナの効果が、遠隔武器にも効いてるみたいですねぇ。スキルは5って表示されてます!』
それでもまだまだ半分、スキル技取得には程遠い感じだ。弾美は自分のキャラも一応チェック、経験値は半分近く貯まっている。やっぱり、メイン世界より断然成長が速い。
短いイベント期間でテンポ良く成長出来るよう、調整がなされているのだろう。
2本目の神水の効果が切れると、そろそろ無理も出来ない。ダメージ状態ではヒーリングも出来ないし、そうなると魔法も安直に飛ばせなくなる。弾美はミイナに釣りのペースを落とすように指示を出し、狩りを慎重に指揮し始める。
残り時間が過ぎると、弾美は扉チェック。妖精の言葉に嘘は無く、三人はエリアを後に出来た。
『良かった、みんな無事だったよ』
『はいっ、レベルも上がったし、ありがとうございました!』
『やるせない程に元気だな、美井奈……』
『そうですか?』
いつもの半分にも満たないイン時間なのに、いつもの倍は疲れた気のする弾美。美井奈の無軌道振りには調子を狂わされたが、まぁやる気が無いとか自己中で我侭だという痛い理由ではないだけ良しとしたい。
ゲームの腕はともかく、礼儀だけは申し分なく、しかも元気は売る程ある。新メンバーを迎えて不安は少々あったが、何とかやって行ける手応えは何故か充分に感じた弾美であった。
何故だろうと一瞬疑問が頭をよぎるのだが……答えはもちろん帰って来ない。瑠璃も美井奈を気に入っているし、それだけでも納得する理由としてはOKだろう。
『今日はもう解散でいいのかな、ハズミちゃん?』
『ああ、明日はウチで朝9時から合同インな。美井奈が俺の家までの道のりが分らないだろうから、途中まで迎えに行ってやれよ、瑠璃』
『うん、分った。よろしくね、美井奈ちゃん』
『お手数かけます、お姉ちゃまっ!』
……まぁ、いい拾い物をしたと思おう。いや、そう思いたい。弾美の思考はぐるぐると同じ場所を巡っては、美井奈の妹属性攻撃に怯んだ音色を軋ませる。
――まぁ、瑠璃もその呼び方を気に入っているなら、それはそれでOK、か?