♯27.9 最後の選択
整然と仲良く4つ並んだ各自のモニターの中では、最後の動画とエンドロールが進行中だった。流れているメロディは、とても静かなオルゴール曲のような感じ。崩壊していく大樹の瓦礫する姿を、静かに演出している。
いい加減すき焼きの歌も歌い終わって、静かに画面を眺めている一行。もの悲しい雰囲気は、もちろん大樹の終焉を思っての事。そしてその後の、自分のキャラとの別れを思っての事。
物語の終わりは、何となくしんみりしてしまう。
脱出のシーン動画は、ある意味圧巻だった。倒壊する大樹の幹枝をかいくぐり、冒険者達は必死に安全なルートを模索する。舞い散る葉っぱのように翻弄される、小さく儚い存在のモノ。
いよいよルートが閉ざされたと、一行が諦めそうになった瞬間、最後の奇跡は起こった。モーゼの十戒のシーンのように、綺麗に真っ直ぐ割れて出来る一本の道。
そこを全速力で駆け抜けるパーティ。
恐らく天使の手助けなのだろうが、その姿は見える範囲には存在せず。ようやく安全な距離を置いて、小高い丘の上から大樹の最期を見守る一行。
その巨体の終焉は、夜更けまで続いたようだ。
一夜が明けて、眠りから覚めた一行は周囲の変化に驚く事に。一夜を過ごした不毛の岩だらけの丘が、緑の丘へと変わっていたのだ。周囲には小鳥が飛び回り、朝の光に気持ち良さそうに宙に円を描いている。
皮肉にも、大樹の望まぬ呪いが解けたお蔭で、周囲は穏やかな風景を取り戻したようだ。まるっきり別の場所かと見紛うが、大樹の痕跡は視界にちゃんと存在している。
そして、その残骸の中央に輝く一筋の光の線が。
導かれるように、光に招待されるように近付く一行。それは、奇跡的に倒壊に埋もれずに済んだルーン石碑だった。朝日を反射しているのかと思いきや、それもまた違うよう。
それは自ら発光しており、その前方に転移用の魔方陣を作り出していた。
そして、その隣には天使のマリアベルが。妖精を従えて、パーティに優しく微笑みかけている。どうやら一行の為に、元の世界に戻れる通路を用意してくれたらしい。
いよいよ終わりが来たと知って、画面の前では何故か美井奈が泣き出す始末。ここまで動画ムービーだったので、全く寛いで観賞していた一行だが。
最後の最後に突然の選択肢、慌てるメンバー達。
――この長い旅路を、よくここまで辿り着きましたね。本当にご苦労様でした、新たな生命の輪廻のサイクルはあなた達のお蔭です。毎日起きている当然の事ですが、世界の存続には欠かせない大事な事象なのです。
この地であなた達が関わった人々も、きっと感謝をしている事でしょう。代わりといっては何ですが、最後にあなた達に報酬を差し上げたいと思います。
望むのは①レベルアップ果実
②この世界の記憶とスキルを
③お金やアイテム
④持っているレア装備
⑤大樹の新芽の使用
「あれっ、選択肢が出てるけど何でかなっ? ああっ、最後に何か持って行けるっぽい?」
「本当だ、クリア報酬に色々と選べるみたいだけど……ひょっとして二番目の選択肢は使用キャラ貰えるって事なのかな?」
「むうっ、そうとも取れるかな……他はお金とかレベルアップ果実とか、実用的なものが多いな」
「わわっ、ここで育てたキャラ貰えちゃうんですかっ? あれっ、でも一番下に大樹の新芽を使うって、変な選択肢もありますねぇ?」
驚く一同は、再び画面の前でワイワイと相談会。どれが欲しいかとか、個人別に違うの貰えないのかとか、最後のはどうやら追加選択肢っぽいとか。
いい加減お腹の空いてきた弾美は、もういいから適当に決めておいてと投げやりな言葉。綺麗に終わりを迎えたいと願う瑠璃は、どうやら最後の選択肢が気になる様子。
使用と言うのは、恐らく新たな生命の輪廻に、大樹の分身も加えてあげられるという事なのだろう。ここまで物語を楽しませて貰った感謝の念をこめて、この選択もアリかもとの主張。
そんな会話の中、絞られるのは二つの選択肢に。
弾美の理論だと、レア装備は確かにレベル30のキャラには勿体無いが、メイン世界のキャラには微妙な性能である。レベルアップ果実やお金は、幾ら貰えるか提示されてないので不安。
それならば、美井奈の欲しがっていたキャラで自分も構わないし、瑠璃の理論に従っても良い。薫もそれで構わないよと、気軽に同意してくれて。
絞られた二つの選択肢、初の姉妹対決になるかと思いきや。
あっさりと折れる美井奈は、お姉ちゃまに従いますと従順な言葉。瑠璃と付き合っているうちに、少女も物語と言うものに一種の畏敬の念を持ち始めたらしい。
キャラが消えるのは悲しいけれど、自分の中にはしっかりと理想像として残ってくれた。メイン世界ではそれを励みに頑張って、少しでも自分の理想に近付くつもりだと。
もちろん隊長にはいっぱい手伝って貰うと、以前の約束を持ち出す少女。
「もちろんだ、一人前の弓矢使いに育ててやるからなっ! まぁ、瑠璃はあれでも頑固だから、美井奈が折れてくれて助かったよ」
「そ、そんな事ないもんっ! ごめんね美井奈ちゃん……やっぱりキャラ貰おうか?」
「いえっ、楽しませてもらった物語に、感謝しないと駄目ですもんねっ! 私もその選択肢の結末、見てみたいですし。全然オッケーですよっ!」
そんな訳で、割とあっさり報酬の決定は為される事に。それと時を同じくして、階下から食事の支度が出来たわよとの、子供達を呼ぶ母親の声が。
はーいと元気に返事をして、さてこの画面はどうしようかと立ち上がりながら暫し相談。結局は、選択した後に終わるまで放置しておくしかない訳で。
夕暮れの部屋の中に、取り残される4つのモニター。
そこからは、エンド画面まで正直時間は掛からなかったのだけれども。それを確認するプレーヤー達は、階下で楽しく食事中のご様子で。
ようやく終わった動画、制止画面に映っているのは。
――たくましく根を張っている、まだ若く初々しい大樹の新芽だった。