♯26 最終ステージ~創生の章・前編
待望の放課後まで、ようやくあと1時限の授業を残すのみ。休日開けのクラス内は、早く放課後よ来い的な喧騒に包まれていた。10分の休憩時間に教室移動も無く、いつものメンバーは窓際に集まって、今日の放課後の予定を話し合っている。
その話の中心は、やっぱり弾美と進のブンブン丸コンビ。
「最後の戦闘はかなりきつかったけど、落伍者も無く済んだな。今日はいつものように、メンバー揃って合同インで最終ステージ攻略する」
「なんかさー、敵を倒す順番とかステージのクリア順とかも、後々の攻略に関係して来るんだよなぁ。たまに出て来る選択肢だけ気をつければいいと思ってたら、大間違い」
「あぁ、それは確かに思ったな。マルチエンディングの結果も、イベントの順位に関係あるって噂も聞いたような……」
兄弟で攻略中の同級生の相槌に、進が難しい顔で言葉を返す。問われるままに今日の予定を口にした弾美は、それを聞いてちょっと驚いた表情を見せた。
何しろ、彼等のパーティはラスボスまで変わってしまったのだ。まぁそれはそれでメンバーは納得しているが、順位にケチを付けられるのは納得がいかない。
ストーリの選択に文句は無いが、今更それは無いだろう?
「俺に文句言っても知らないってば、弾美。別にメインルートから反れたからって、評価低くなるとは限らないだろ? 勉の方は、どんなルート?」
「まだ今日が樹上2日目だから、何とも言えないんだけど。四天王は最後のボスで普通に出て来たよ。アイツのハイパー化が酷くってさ、かなり危なかったよ!」
「何かしらのお助けアイテム、残しておかないときついと思うぞ。昨日のボスなんて、次から次へと雑魚を召喚して来るしな。ウチは遠隔使いがいて助かったけど」
ふむふむと、まだそこに未到達の同級生達は聞き入る素振り。別ルートに迷い込んで、最後の戦闘で時間が足りなかった顛末は、先ほどの昼休憩に散々聞いたのだが。
肝心の弾美の説明も大雑把で、それは自分達で体験する時の楽しみを取らないためか、はたまた性格のせいか。それでも重要な情報は聞き漏らすまいと、不明な点は質問責め。
そんな昼食終わりの雑談グループに、近付いてきた人影が。
B組の担任の花井先生が、にこやかに話題に加わって来たのだ。まだ若い筈なのだが、腕も胸元もあごもヒゲもじゃで、付いたあだ名が『クマ先生』という大柄な先生だ。
見た目の通りの豪快な性格だが、明るくて笑い上戸でもある。生徒の受けも良くて、勉強以外でも色々と博学らしい。つまりは多趣味で、果たしてゲームにも知識は及んでるよう。
挨拶抜きで、花井先生はこう言ったのだった。
「おうっ、立花達は確か、限定イベントの生き残り組だなっ。先生も応援してるから、頑張れよっ! 何しろ、成績じゃA組には敵わないからな。せめてネットゲームでは、注目の的になってやろうじゃないか! ファンスカやってる先生も、実は中学にも結構いてな……お前達が揃って入賞すれば、先生も鼻が高いぞっ」
その場では、何となくな愛想笑いしか返せなかった弾美達だったけれど。今思い返してみれば、ゲームに参加している他のプレーヤーからも、自分達は注目を浴びているという事でもあり。
気の引き締まる思いなのだが、同時にクラス別の対抗意識もメラメラと燃え上がるものが。小中高一貫の教育方針なのか、学園生活の行事では割とクラス対抗での競い合いが多いのだ。
球技大会などの催し物はもちろん、学校のテストも成績順位は張り出される。
まだ1学期の、中間試験すら迎えていないとは言え。クラス編成時に、既に大きなテストが2度もあったのは生徒達の記憶にも新しい。テストに丸一日掛かった事からして、小学校とは学業の重みが違っていたし。
余談だが、その内の全国模試の方で、瑠璃は一躍有名人になったのだった。さらに余談だが、弾美の所属するB組は、瑠璃のA組に大きく水を開けられる結果に。
間違っても、1ヵ月半で逆転出来るようなレベル差で無い事は、この際どうでも良い。
どうでも良いのだが、負けっ放しでは面白くないのは確かである。担任のクマ先生の面子の為にも、ここは一つ頑張ろうぜと盛り上がる男性陣。
隣の席では、学級委員長の星野亜紀が、勉強で頑張れば良いのにと呆れ顔。敢えて口には出さなかったが、そもそもA組の津嶋瑠璃も、限定イベント生き残り組ではなかったか。
それを指摘するのも可哀想かなと、委員長はため息一つ。
彼らの性格の単純さを羨ましく思いつつ、なおも盛り上がりを見せる同級生を横目に見つつ。ふと視線を窓の外に向ければ、晴れやかな五月の空が広がっていた。
――それは何かを期待させるような、爽快さを街の上に広げていた。
* *
「瑠璃ちゃん人気は、今日は特に凄かったよ~っ。男子はゲームの進行具合を聞きに来るし、女子は中間試験のヤマを聞きに来るしでさ」
「女子は特に、またクラス表彰されるんだって張り切る子が多いよね~? 何だか瑠璃ちゃんが、その先鋒みたいに思われてるよね」
「困るなぁ、私はテストの得点になんてこだわってないし、ゲームはみんなに付いて行ってるだけだし。テストのヤマだって、外れる事考えると気軽に教えられないよ」
A組の仲良し3人組の女子は、下校中の集団の中でそんな話し合い。他に一緒に帰路についているのは、やっぱりいつものメンバー『蒼空ブンブン丸』のギルド員だ。
帰る方向が一緒だという事もあるし、今日が部活の無い日だと言う事もある。いつもの調子の騒がしい一団は、今日あった事を話し合いながらゆっくりと通学路を歩いていた。
今の話題は、A組の事情を静香と茜が報告していた所。
「もうすぐ中間始まっちゃうんだな、限定イベントもあと2日だし。……俺達も、津嶋のまとめノート期待してるからなっ!」
「そうだな……A組に対抗とかより、まず酷い成績を取らないようにしないとな。でないと、ゲーム禁止命令が降臨して来るからなぁ」
中間の話題は、ゲームの継続と表裏一体でもある訳で。そこら辺は、学業が第一と言う建前の学生の身。無情な親の言い付けにも、従わない訳には行かない。
のんびり屋の静香や茜は、そろそろ試験の準備を始めないとと口にする。自分の性格が分かっているだけに、彼女達は前もってが基本なのだ。
そんな少女達をからかう、弾美の一言。
「昔はmlとmgの区別も付かなかった二人が、いっぱしの事を言うようになったなぁ。お菓子つくりで大失敗してたの、アレは小学2年だったか3年だったか……」
「4年生ですっ! って、古い話を持ち出さないでよ、弾美ちゃん!」
顔を真っ赤にしながら、ちょっと恥ずかしい訂正をする静香。茜など拳でグーを作って、仕草で抗議の構え。そんなイベントを加えながら、分岐の度に人数は減って行く。
弾美と瑠璃が自宅前に辿り着いた時には、もちろんこの2人だけになっていたのだが。自宅前でお出迎えしたのは、兄弟犬を従えていた美井奈だった。
前の日に適当に合流と言い渡された少女は、犬と戯れて待つ事にしたらしい。
美井奈の策略は、なかなかに考えられたものだった。比較的大人しくて従順なマロンにリードを付け、津嶋家の庭先にお邪魔するというもの。兄弟犬は何か食べ物を与えられており、完全に美井奈の術中にはまっている感じ。
ようやく帰宅して来た家の主に、少女は元気良く挨拶をして来る。それからはドタバタしながら、犬の散歩の準備に追われる一行。着替えや何やらを終えて、目的地の公園へレッツゴー。
ハイな美井奈の先導で、いつもよりハイペースな道のり。
公園では、薫が既に待ってくれていた。いつものメンバーの勢揃いに、何となくホッとした空気が流れる。しかし、そんな合同インも今日で最後になる予定で。
内心複雑な心境なのは、みんな一緒なのだろう。
「今日は学校の先生まで、限定イベント頑張れって応援してくれましたよっ! パーティにお兄さんとお姉ちゃまがいるって言ったら、ちゃんと覚えてるって言ってらっしゃいました。二人とも目立つ生徒さんだったらしいですねぇ!」
「えっ、美井奈ちゃんの担任、五月先生なの? うわぁ、懐かしいなぁ……私達は結構お世話になったよね、ハズミちゃん?」
「そうだな……五月先生も、ひょっとしてファンスカやってるのかなぁ? そんな感じには、全然見えないけど。ウチの中学の担任のクマ先生とは、ゲーム内で何度もすれ違った事あるけどな」
それは凄いと言うか、気まずい体験だねぇと薫が感想を述べる。美井奈もオンラインで、知らずに先生と会ってたらどうするべきかと、真剣に悩んでいるよう。
何しろ自キャラは、本名で登録してしまっている美井奈である。限定イベントで有名になってしまったら、クラス中から注目されてしまう恐れが充分にあったりする。
そう口にすると、弾美は笑いながらアドバイス。
「別に学校サボってゲームしたり、マナーに反する行為をしてるんじゃなかったら、堂々と接すればいいんだよ。向こうだって、大の大人がゲームとかしてって負い目が、少なからずあるんだし」
「そっ、そうですかねぇ……まぁ、そんな事一々気にしてたら楽しめないし、それでいいのかも」
「そうそう、普通が一番!」
気楽な相談会は、これでお終い。後は学校の先生の噂とか、変な方向に話が流れて行く。この街出身でない薫にも、名物先生のエピソードはなかなかに面白い。
中にはちょっとした些細な出来事が、少年少女の記憶に鮮明に残っていたりして。先生の行動って、意外と子供達は注意して見ている事に、薫は少なからず怯むものが。
自分も歳上として、以後行動は気をつけなければ。
のんびりした散歩が終わって、立花家の玄関を揃ってくぐる一行。今日は先に、お茶会にしようかと瑠璃が提案する。幼馴染みの弾美はいつも腹を空かせているし、美井奈から差し入れも届いているし。
普段はインの時間が2時間掛かるので、あまりのんびりしていると夕食時間に掛かってしまうのだ。ただ、今日は美井奈の計らいで、母親同士が食事会の申し合わせをしているらしい。
今日はすき焼きだと、弾美のテンションは高い。
まぁ、そんな訳で今日は少しくらい、攻略に入るのが遅くなっても平気だとの瑠璃の説明。その話を知らなかった薫も、豪華なタダ飯の話にちょっと嬉しそう。
その辺は抜かりの無い、年少組の策士振りである。最後の限定イベントの攻略のすぐ後に、攻略終了のお祝いを済ませてしまおうと言う訳だ。
しかし、美井奈の差し入れから、話は変な方向に。
今日の差し入れは、お母ちゃまが通販で買ったフルーツケーキだとの事なのだが。瑠璃が箱を開けると、長方形タイプのスポンジの端っこが、指で千切ったように消失している。
これはスルーすべきなのかと瑠璃が悩んでいると、コーヒーとお盆の用意をしていた弾美が素早く異変を察知。美井奈に向かってつまみ食いしたのかと問い詰めると、どうやら犬達におすそ分けしてたらしい。
なるほど、そうやって二匹と戯れていたのは良いとして。この歪なケーキの部分はどうしようかと、再度長考に入る瑠璃。まさか他の人に回す訳にも行かないし、捨てるのは勿体無いし。
考え込んでいると、薫が自分に回してくれて良いと大人の気遣い。
「そんなの美井奈に食わせておけばいいんだよ、甘やかすと癖になるぞ」
「何言ってるんですかっ、お兄さんの犬が食べたんだから、お兄さんに回せばいいんですよっ!」
「あ~っ、そういう理屈もあるのかなぁ?」
ある訳無いだろうと、弾美の呆れたような怒声。実は何度もねだって来たのは、津嶋家のコロンの方だったのは内緒である。瑠璃は解決策として、パッと思いついた代案を提示。
弾美のケーキをみんなより大きく切る、その代わり歪な切り口の部分が割り当てられる。質より量を提示され、口喧嘩モードの弾美も不承不承の納得模様。
これでこの件は解決、皆でのティータイムに。
口をつけてしまえば、その美味しさはかなりのモノ。変に千切られたケーキも、胃袋に収まれば同じ事。食べる場所に、弾美はリビングを提示したのだが。
皆が安心出来るのは、いつもの2階のプレイルームらしい。
そんな訳で、いつもの場所でリラックスしながらのお茶の時間を過ごした一行。それからイベント攻略準備にと、それぞれインして自分のキャラへのお伺い。
昨日は変な場所を中立地帯に指定され、落ちる他には選択肢は無かったのだけれど。改めてインしてみても、出来る事は自キャラの操作しかない模様。
つまりは薬品を購入するお店も、武器の修理をしてくれる鍛冶屋も無いのだ。中立地帯は、時間がカウントされないので、買い物に幾ら時間を掛けようと問題無かったのだけれども。
最終エリアにお店が用意されていたとしても、時間だけは注意しないと。
そんな話し合いをしながら、各々自分のキャラの現状報告。薬品の残り数とか、武器の耐久度とか。前衛の《貫通撃》持ちの二人は、泣きそうな声での報告となったが。
手持ちのカードで勝負するしかない、これが最後のエリアなのだ。
さすがに1日2時間の限定プレイでは、レベルが上がるほど経験値を取得出来なくなって来た。そんな訳で、ハズミンは34レベルで、終焉のボスへのトライとなりそう。
最終ステージの樹上エリアは、色々と不便があるのも確か。例えばエリア間での薬品の補給や武器の修繕が出来ない事。属性の術書や指南書もめっきり入手出来なくなり、スキルの伸びも今回はナシと言う結果に。
それでも呪い解除装備の指輪と、暗塊の鎧のパワーアップによって、HPや防御力の上昇はまずまず。これ以上スキル技を覚えても、セット上限の関係ではみ出てしまうので。
良い方向の成長だと、本人的には納得している様子。
名前:ハズミン 属性:闇 レベル:34
取得スキル :片手剣76《攻撃力アップ1》 《三段斬り》 《複・トルネードスピン》
《下段斬り》 《種族特性吸収》 《攻撃力アップ2》
《上段斬り》 《複・ドラゴニックフロウ》
《複・グランバスター》 《追撃》 《複・闇喰い斬》
:盾10《ブロッキング》
:闇80《SPヒール》 《シャドータッチ》 《闇の断罪》 《グラビティ》
《闇の腐食》 《闇の刺針》 《ダーククロス》 《闇系コスト減》
:竜10《竜人化》
:風20《風鈴》 《風の鞭》
:土30《クラック》 《石つぶて》 《レイジングアース》
種族スキル :闇34《敵感知》 《影走り》 《SPアップ+10%》
:土10《防御力アップ+10%》
装備 :武器 破邪の剣 攻撃力+21、HP+20、耐呪い効果《耐久10/15》
:盾 神木の盾 HP+30、MP+15、防+23《耐久4/10》
:筒 絹の腰袋 ポケット+4、HP+10、SP+10%
:頭 暗塊の兜 闇スキル+5、土スキル+5、HP+25、防+20
:首 番人の首輪 攻撃力+3、腕力+2、体力+3、防+8
:耳1 黒蛍のピアス 闇スキル+3、SP+10%、防+4
:耳2 白豹のピアス改 器用度+4、HP+15、落下ダメージ減、防+8
:胴 暗塊の鎧 闇スキル+6、土スキル+6、HP+40、防+35
:腕輪 暗塊の腕輪 闇スキル+5、土スキル+5、HP+25、防+20
:指輪1 真紅の指輪 HP+8、腕力+3、SP+10%、防+6
:指輪2 闇の特級リング 闇スキル+4、SP+10%、SP上昇率UP、防+4
:背 白翼のマント 器用度+4、HP+10、攻撃速度UP、防+11
:腰 闇のベルト ポケット+4、闇スキル+3、SP+10%、防+10
:両脚 魔人の下衣改 攻撃力+5、体力+3、腕力+3、防+15
:両足 暗塊のブーツ 闇スキル+5、土スキル+5、HP+25、防+15
ルリルリも前回の成長は無し、今回中のレベルアップも数字的に無理な感じである。本人に基本能力への不満は無いので、その辺は問題はないとも言えるけれど。
パーティのアイテム管理係の立場的には、実は多いに問題があったりして。今回の中立地点に売店が無いため、薬品の補充が叶わないのだ。次のエリアに用意してあればよいのだが。
キャラの装備交換は、やっぱり呪い解除装備のネックレスと、打ち直しの精霊封入の盾。地味にHPとMPが上昇して、嬉しいパワーアップではある。
お金はあっても買う場所が無いというジレンマに、初っ端から苦しむ瑠璃であった。
名前:ルリルリ 属性:水 レベル:34
取得スキル :細剣69《三段突き》 《クリティカル1》 《複・アイススラッシュ》
《麻痺撃》 《幻惑の舞い》 《Z斬り》 《クリティカル2》
《複・ハニーフラッシュ》
:水74《ヒール》 《ウォーターシェル》 《ウォータースピア》
《ウォーターミラー》 《波紋ヒール》 《アシッドブレス》
《水の分身》
:魔10《マジックブラスト》
:光30《光属性付与》 《エンジェルリング》 《ライトヒール》
:氷50《魔女の囁き》 《魔女の足止め》 《魔女の接吻》
《氷の防御》 《ブリザード》
種族スキル :水34《魔法回復量UP+10%》 《水上移動》 《MP量+10%》
装備 :武器 光のレイピア 攻撃力+17、器用度+4、MP+25《耐久11/14》
:盾 精霊封入の盾 HP+45、MP+45、防+12《耐久7/8》
:筒 絹の腰袋 ポケット+4、HP+10、SP+10%
:頭 流氷の髪飾り 水スキル+5、氷スキル+5、MP+25、防+8
:首 真紅のネックレス MP+10、腕力+3、SP+10%、防+5
:耳1 天使のピアス 光スキル+3、知力+2、MP+8、防+3
:耳2 流氷のイヤリング 水スキル+5、氷スキル+5、MP+25、防+5
:胴 流氷の鎧 水スキル+5、氷スキル+5、MP+25、防+18
:腕輪 炎のグローブ 攻撃力+4、HP+14、時々炎獄効果、防+14
:指輪1 光の特級リング 光スキル+4、HP+15、攻撃距離+4%、防+4
:指輪2 プラチナの指輪改 腕力+4、HP+20、攻撃速度UP、防+8
:背 精霊封入の人形 HP+50、MP+50、SP+10%、防+1
:腰 複合素材のベルト改 ポケット+4、器用度+5、MP+13、防+11
:両脚 流氷のスカート 水スキル+5、氷スキル+5、MP+25、防+10
:両足 炎獄のブーツ改 炎スキル+3、腕力+3、HP+15、防+17
前回は最終ボス戦で、思わぬ活躍を見せたミイナだったけれど。ログアウト後に皆に揃って褒められて、少々舞い上がっての帰宅だったのは仕方が無い事なのだろう。
そんな美井奈の目下の悩みは、言うまでも無く自分の壊れそうな武器に他ならない。何も無い中立地帯では、当然の如く武器の補修も出来ず仕舞いだったのだ。
装備交換は、皆と同じく2箇所。呪い解除の腕輪と、耐久度は上がったが壊れかけている弓である。ただし、打ち直しの弓は攻撃力も上がっているので、削り手としては嬉しい所。
密かな望みは、限定イベントの終焉までにレベルを一つ上げる事♪
名前:ミイナ 属性:雷 レベル:33
取得スキル :弓術64《みだれ撃ち》 《近距離ショット1》 《攻撃速度UP1》
《貫通撃》 《複・スクリューアロー》 《影縫い》 《速射》
:光51《ライトヒール》 《ホーリー》 《フラッシュ》
《フェアリーウィッシュ》 《フェアリーヴェール》
:風24《風の陣》 《風の癒し》
:水10《ヒール》
:雷35《俊敏付加》 《俊足付加》 《スパーク》
種族スキル :雷33《攻撃速度UP+3%》 《雷精招来》 《落下ダメージ減》
装備 :武器 神樹の長杖 攻撃力+25、知力+5、MP+28《耐久14/14》
:遠隔 妖精の弓矢 攻撃力+25、ポケット+2、敏捷度+5《耐久3/16》
:筒 朱塗りの矢束 攻撃力+20 追加炎ダメージ
:頭 妖精のクラウン 光スキル+4、風スキル+4、SP+10%、防御+12
:首 サファイアのネックレス 腕力+3、SP+10%、防+5
:耳1 白蛍のピアス 光スキル+3、HP+25、防+9
:耳2 陰陽ピアス 精神力+5、知力+5、MP+15、防+6
:胴 妖精のドレス 光スキル+4、風スキル+4、MP+20、防御+20
:腕輪 真紅の腕輪 腕力+5、SP+10%、攻撃力+10、防+12
:指輪1 雷の特級リング 雷スキル+4、器用度+4、攻撃速度UP、防+4
:指輪2 サファイアの指輪 腕力+3、SP+10%、防+5
:腰 複合素材のベルト改 ポケット+4、器用度+5、MP+13、防+11
:背 攻防のマント 腕力+5、体力+3、攻撃力+5、防+14
:両脚 妖精のスカート ポケット+2、光スキル+3、風スキル+3、防御+12
:両足 サファイアの長靴 腕力+5、SP+10%、攻撃力+5、防+12
前回レベルが1つ上がって、弾美と瑠璃に追い付いたカオル。こだわりの武器も鍛冶屋に打ち直して貰って、性能がさらに良くなって言う事無しである。
レベルは上がっても、新しいスキルを取得した訳でもなく、キャラ性能に変化は無し。呪い解除の装備はピアスを貰い、MPが少しだけ上昇した。
実はパーティメンバーの中で、武器スキルが一番高いのはこのカオルである。一番最後の参入で、一番レベルが低かった薫にしてみれば、この事実は誇れるものが。
その武力で、最後までパーティの力になると誓う薫であった。
名前:カオル 属性:風 レベル:34
取得スキル :長槍82《三段突き》 《攻撃力アップ1》 《脚払い》 《石突き撃》
《クリティカル1》 《貫通撃》 《複・竜巻チャージ》
《大車輪》 《複・幻影神槍破》 《種族特性吸収》
:炎45《炎属性付与》 《炎のブレス》 《レイジング》 《炎獄》
:雷20《俊敏付加》 《パラライズ》
:風20《風鈴》 《風の陣》
種族スキル :風34《回避速度UP+3%》 《魔法詠唱速度+6%》 《移動速度UP》
装備 :武器 神木の槍 HP+30、精神力+3、攻撃力+42《耐久12/12》
:筒 絹の腰袋 ポケット+4、HP+10、SP+10%
:頭 迅速の兜 炎スキル+4、雷スキル+4、器用度+2、防+7
:首 進みがちな懐中時計改 SP+15%、攻撃速度UP、防+8
:耳1 真紅のピアス MP+8、腕力+2、SP+10%、防+4
:耳2 白蛙のピアス 器用度+2、MP+15、防+6
:胴 迅速の鎧 炎スキル+5、雷スキル+5、腕力+5、防+20
:腕輪 迅速の腕輪 炎スキル+4、雷スキル+4、腕力+2、防+7
:指輪1 迅速の指輪 炎スキル+3、雷スキル+3、防+4
:指輪2 炎の特級リング 炎スキル+4、腕力+4、攻撃力+20%、防+4
:腰 獅子王のベルト改 ポケット+2、攻撃力+6、HP+20、防+13
:背 迅速のマント 炎スキル+4、雷スキル+4、防+7
:両脚 朱色の袴 ポケット+2、精神力+5、MP+20、防御+12
:両足 サファイアの長靴 腕力+5、SP+10%、攻撃力+5、防+12
「ハズミちゃん、昨日の裏庭の戦闘で片手剣が手に入ったけど、これ使う?」
「ん~っ、攻撃力は上がるけどHP減っちゃうし、ステータスがマイナスになる仕様も嫌だな。まぁ一応、予備の武器として持っておこうかな。他のドロップは使えそうなものあったか?」
最後のラスボスのドロップは、実は結構微妙だったよう。以前はあんなに落としていた、術書やメダル系がぱったりと途絶えてしまって。樹上エリアは、ドロップ的にはかなり寂しい感じ。
経験値は割と入ったのだが、弾美と瑠璃がレベルアップするには物足りず。その代わり、薬品系は結構入手出来たのが唯一の救いだろうか。
武器や防具の類いも、パーティには微妙なものが多かった感じ。
「う~ん、隻腕の剣はハズミちゃんの予備に渡して……魔術師の落とした風魔の杖とか風のマントは誰かいる? あと、大きな魔人が果実を幾つか落としたみたい」
「果実って、どのステータス上昇? う~んっ、敏捷とか知力は微妙……」
「本当だな、シケてると言うか何と言うか……せめて人数分出てくれれば良かったのに」
敵のドロップに文句を並べつつも、瑠璃から昨日のドロップ品のポーションを受け取る一行。ポケットに入れてしまうと、予備の個数がもの凄く寂しく感じてしまう。
それ以上に、武器の耐久度が心許ない前衛陣は、エリアに出るのも不安そう。
それでも、探索は始めないといけない。恒例の妖精のお伺いで頑張ってと励まされた一行は、ようやく中立エリアを後にする。途端に、こちらも恒例の強制動画のスタート。
身構える一行に、面前のエリア風景のスクロール。
――遥か昔、ここは半地下の避難街だった。繁栄を誇っていた文明の種族が、大樹の洞を利用して作った一種のシェルターだ。大樹はその頃から、天を突くほど大きかった。
それが信仰として、あるいは人々の拠り所として祭られていたのは想像に難くない。大樹の存在は、そこに在るだけで生命と神聖の証たり得たのだった。
だが、その繁栄を誇った種族にも滅びの影が忍び寄る。
繁栄と衰退を繰り返し、歴史はつむがれて行く。それを考えれば、この文明もその内の一つと言うだけの存在。だが、グランドイーターの大樹にとって、その種族との繋がりはかけがえの無いものだったに違いなく。
この場所は……大樹の思い出の聖地、そして物語の出発点でもあるのだ。ここは人類との交わりの地、そして初めて大樹の意識が滅びの意味を知った土地。
大樹ほどの大きな御霊も同じ事……繁栄があれば、必ず衰退もやって来る。
その事実に①自分達は繁栄を誇っている、ボスまで一直線だ!
②衰退している大樹に、最後のお伺いを
③こちらの状況も不味い、どこかで補給を
「さっそく選択肢が出たね~? えっと、強気に行くか弱気に行くか……大樹を気遣うかかな」
「ふむふむ、武器が壊れかけの身としては弱気コースなんだけど、大樹も気になるねぇ?」
「ボスまで一直線だと、本当にボス直行コースなんですかね? それは情緒が無いですよっ」
確かに美井奈の言うとおり、ゲームも終盤とは言え、ある程度の流れは必要。色んな場所を廻って気分を盛り上げてから、強敵のボスと対峙するのが理想ではある。
弱気な薫の意見も、確かにそうなのだけれど。結局は多数決によって、大樹を気に掛ける選択肢に決定。その途端に強制動画は終わりを告げ、避難街の遺跡で自由になる一行。
道は真っ直ぐ、西から東へと続いているようだ。
避難街の遺跡は、白塗りの土壁の簡素な家屋が一般的らしい。家屋の中には、避難して来た人間が一定期間過ごせるように、ある程度の家具が設置されているよう。
特にタゲれるものも無く、家並みの大半は入り口が塞がれていたり半壊していたり。半地下の設置場所の恩恵で、雨風に晒される事態は防げていた避難街なのだけれど。
過ぎ去った膨大な時間の流れは、崩壊の手助けを担っていたよう。
道も飛び出た根っこや崩壊した建物の瓦礫で、進みにくくはなっていた。さらに敵影が見られるようになって、パーティの進行速度は慎重になって行く。
何しろ、何度も言うようだが前衛陣の武器の耐久度が減ったままなのだ。不安で思い切り殴れないのは仕方ない。探索にもそれはあらわれて、どこかギクシャクした動き。
そんな探索の末、やがて風景と敵の種類に変化が。
「おっ、この白いナマケモノのお化けみたいな敵、残滓を落としたぞっ! 美井奈、1匹も狩り残すなよっ!」
「わっ、分かりましたっ、隊長! あれっ、前方に広場みたいな場所がありますね? さっきの白い敵も、結構いるような……?」
そこは恐らく、この避難街の中央広場なのだろう。背丈より確実に大きな岩のオブジェが中央にそそり立っており、そこにトレードポイントがあるみたいと薫の報告。
弱い雑魚は、先ほどから弾美と瑠璃が率先して討伐している。美井奈と薫は、取り敢えずボス級までは耐久度保持の作戦だ。美井奈に関しては、釣り役だけは譲ろうとしなかったが。
広い場所に出た一行は、ここを拠点と決めた様子。
近くにいた雑魚を綺麗に掃除すると、早速怪しいトレードポイントの前に集まるメンバー達。白いサル顔の敵が落とした残滓は、全部で4つ。これで全部とは限らないが、2時間縛りがある以上、これより多く見つけても廻り切れないだろうと冷静な瑠璃の意見。
それもそうかと、今度は残滓をトレードして廻る順番決めの議論に移る一行。4つの最後の選択肢は、この壮大な物語を綺麗に締めてくれるのだろうか?
そんな期待と心配を胸に、じっと出て来た選択肢を眺める一行。
「『魔女の檻』と『妖精との密会』と、『大樹との邂逅』と『最後の戦い』……最後の戦いは最後でいいよね?」
「そうだな、敵は多分、残りの四天王と唆した魔族かな? 最初に行く場所はどこがいだろう?」
「妖精に会えば、ひょっとして武器を修繕してくれないですかねっ?」
切羽詰った口調の美井奈だが、妖精と言うキーワードから『妖精の泉』を連想したのだろう。このままでは戦闘で活躍出来ない美井奈は、事実必死だったり。
妖精に会って、まぁ変な事にはならないだろうと他のメンバーも承諾の構え。どんな密会となるのだろうと盛り上がりつつ、最初に行く場所は割とあっさり決定の運びに。
そこにヘビーな別れがあるとは、露とも知らずに。
転移した場所は、思いっきりポエミーなエリアだった。花びらで出来た通路は、釣り鐘型の花が照明の代わりをしていて、遠くの稜線にはゆっくりと回転する風車が見える。
デフォルメされた植物や昆虫のオブジェが、公園の遊具のように配置されている。お目当ての妖精を探しつつ、パーティは花びらの通路を進む。
やがて一行を迎えたのは、丘の上に佇む天使だった。
確か名前をマリアベルと言った筈だと、瑠璃が思い出しながら口にする。あちこちで何度も会ってはいるが、戦闘中の動画だったり手ほどきを受けたりと忙しなかったのは確かだ。
改めて対面すると、何となく話し掛け辛い雰囲気ではあるが。近付いて行くと、それぞれのリュックから、ピヨッと妖精が出て来てキャラの周辺を飛び回り始めた。
何が起こるんだろうと、思わず身構えるメンバー達。
――ふうっ、ようやくワタシの役目はゼンブ果たし終えたようネッ☆ ここまで無事にアナタを連れてくる事が、ワタシが授かった使命だったのヨ!
頼りなかったアナタも、ようやく最後の試練に立ち向かえるチカラを取り戻したみたい。隣をご覧なさい? ナニより、信頼出来る仲間がアナタをしっかり支えてくれてるデショ♪
だから……ワタシの道案内は、ここでお終い。ううん、いなくなる訳じゃないのよっ? アナタの側で、ずっとアナタの活躍を応援しててあげるから。これからも良い行いで、みんなに喜ばれる存在でいて頂戴ネ?
……さようなら、アナタのポケットはとても温かかったよ……。
そんな言葉と共に、ゆっくりと消えて行く妖精。流れる動画を見ながら、いつしか美井奈は号泣していた。それを隣で宥める瑠璃も、なんだか瞳が潤んでいる感じ。
しばらくは収拾がつかないまま、部屋の中はしっとりとした雰囲気に支配される。弾美は何気なく、リュックの中身をチェックしてみる。いつも目にしていた妖精は、アイテム欄のどこにも無い。
その事実は、確かに重い喪失感を弾美に与えた。
妖精の旅立ちと同時に、目の前の天使が淡い光を放ち始めた。妖精の上司のマリアベルは、何事か言いたげにパーティの前に静かに真面目な表情を繕っている。
女性陣が立ち直るまでに、少しだけイベントを進めても問題ないだろうと弾美は判断して。天使に話し掛けてみると、どうやら最後のアドバイスと手助けをして貰えるっぽい。
ねぎらいと共に、今のあなた達に足りないものは何でしょうと逆に問われるのだが。答える前に、選択肢が出て来てその中から選んでくれとの事。
――欲しいのは①妖精の呼び鈴
②妖精の泉
③各種補強素材
ありがたいプレゼントだが、弾美はアレッという表情に。妖精の呼び鈴はお助けアイテム、妖精の泉は例の補修や呪い解除のアレだろう。だが、各種補強素材と言うのは異空間の鍛冶屋で使用する以外に使い道が無かったのでは。
またどこかで、そこに行ける選択肢を獲得出来るようになっているのだろうか?
「いい加減泣き止め、美井奈っ! 天使に話し掛けて話を進めてくれない事には、どこにも行けないぞっ」
「そ、そうだね……まだ先は長いんだから、頑張って物語を見届けないとねっ!」
そう言って仲間を鼓舞する年長の薫も、少し涙声だったりして。このパーティの最大の弱点は、実は感動系のイベントだった事が露呈してしまったようだ。
マジ泣きの美井奈の操作を隣の瑠璃が手伝って、ようやく全ての画面に選択肢が出揃った。今回の選択は、しかし全員が欲しいものを選んでも支障は無いと天使の助言。
そんな訳で、美井奈と薫は武器の補修に妖精の泉を迷わず選択。
パーティ内の話し合いで、妖精の呼び鈴も1つは持っておきたいとの結論が出て。瑠璃がそれを選択して、弾美は迷った挙句に各種補強素材を貰う事に。
鍛冶屋に巡り合えなければそれでお終いの可能性はあるが、攻略もまだ序盤である。これからの兆候を見逃さずにいれば、高確率で再びお世話になれそうでもある。
そんな気持ちでのチョイスだったのだが、選択が終わった後に天使の思わぬ助言が。
――最後に私が入手した情報を、あなた達に話しておきましょう。フリアイールの魔女は、どうやら部下達の離反の果てに、異空間に囚われてしまったようです。
その後ろには、魔族の陰謀が見え隠れしているのは確かなのですが。今は大樹の魔力の悪用で、私ですら不要に動けない有り様となっています。
事は、ますます一刻を争う事態になっています。冒険者の皆さん、大樹の精神体に助言を仰ぎなさい。そして、暴走しつつある魔力を、正常に戻す手助けをお願いします。
魔力の暴走は、この地に魔界への大穴を開けるきっかけになるかも……。
もう一つ、あなた達のいる避難街の遺跡の南に、鍛冶屋が作業場を作っています。色々と便宜を図ってもらうように、私からも頼んでおいてあります。
彼等は味方です、頼ると良いでしょう。
これで鍛冶屋の場所も、捜索前に分かってしまった。貰った素材を見てみると、今までに見た事も無いアイテム名も入っている。どうやら巻き戻りの風呂敷を作るための素材だと、薫がノートを見ながら答えて来る。
以前に書き写した鍛冶屋のレシピは、完璧だった模様である。そのアイテムは武器や防具の耐久度を、自分でカバンから直す事が可能な性能らしく。最終戦を前に、持っておいて損は無いと意見は一致する。
そんな話をしながら、後ろに湧いた魔方陣に飛び込む一行。
その途端、ピロリンと聞いた事のある音色が。クエスト報酬のアイテムゲットの音だと気付いて、各々がリュックの中を調べてみると。今まで妖精のいた場所に、代わりに妖精のプレゼントという品物が。
再び泣きそうになる美井奈を何とか宥めて、取り敢えず開封作業。
中からは、割と大量の薬品類が出て来て大助かり。最初にここを選んで正解だったと、弾美は胸を撫で下ろす。品物の中には、聖水や闇の秘酒に混じって、破魔矢交換券と言うアイテムも。
これはどこで交換するのだろうと、悩み顔の一行だったが。その思考を中断する、パタパタと言う羽音が岩のオブジェの後ろから。思いっきりウィンドウを開いていた一行は、その敵影を見逃していたようだ。
どこかで見た小太りインプは、手に赤い石を持って不適に笑い声を上げる。
戦闘準備をする前に、そいつはショートワープで北の通路奥へと逃げて行ってしまった。間の悪い事に、その通路は鉄格子によって塞がれている。
そして気付くのは、暗く反転した宙に浮く選択肢の群れ。どうやらインプの持って逃げたあの赤い石は、選択肢復帰に大いに関わりがあるらしい。
憎たらしい笑い声が、再び北の通路から聞こえて来る。
「あれっ、あの小太りインプ……ひょっとして昨日最後に出て来たアイツかなっ?」
「そうらしいな、完全に討ち漏らしちゃったし。ってか、アイツの持って逃げたアイテムを取り返さないと、非常に不味い気がするんだけど」
「この通路、格子で進めませんけど……わっ、ビックリしたっ!」
美井奈の驚き声は、格子が一瞬動いたためだったのだけれど。完全に開いた訳ではなく、斜めに刺さっていた片方が、右上方に引き上げられた感じ。
どうやら作動させたのは瑠璃らしく、ここにスイッチがあるよと思案顔。岩のオブジェの真後ろの、離れた場所に2つスイッチが隠されていたのだ。
どうやら思い切り近付かないと、そのスイッチは見付からない仕掛けだったよう。これでインプを追う事が可能だと、弾美はでかしたと瑠璃に賞賛を送るのだけれど。
肝心の瑠璃は、何だかしょっぱい顔付き。
「これって、スイッチから手を離すとすぐ閉じちゃうみたいなの。それから、両方のスイッチを押し続けないと、キャラは通る事が出来ないから……パーティ分断の意地悪仕様?」
「えっと、スイッチを押す人が二人必要で、通れる人が二人……ああっ、本当ですっ!」
美井奈が仕掛けの凶悪さにようやく気付き、非難の声をあげる。しかし小太りインプからアイテムを取り返さないと、最後のステージに辿り着けないのは事実のようで。
覚悟を決めて、パーティの分け方を論議する一行。
時間短縮のため、残った方も避難街の探索をする事になって。そうなったら、どちらに組み込まれても大して危険度は変わらなくなってしまう。
それなら自分はお姉ちゃまと組みたいと、久々に美井奈の我侭が発動。そんな危なっかしい組み合わせは論外だと、弾美リーダーは一度は突っぱねたものの。
残った東と南の通路を二人で探索するのなら、それもアリかもと思い直してみたり。
「んじゃ、瑠璃と美井奈が北の通路でインプ退治なっ。俺と薫っちは、手分けして東と南の通路を探索するから。南には確か、鍛冶屋があるんだっけ?」
「天使がそう言ってたね~。了解、頑張ろうね美井奈ちゃんっ」
「はいっ、お姉ちゃまと組めば百人力ですよっ!」
それは錯覚か幻想だと、やっぱり心配そうな弾美だったりして。それでも少女達の勢いに水を差すのもアレだと、敢えて口を出さない事に。薫も心配そうだったが、考えてみればワープで逃げ回る敵相手には、遠隔使い二人は良い相性かも知れない。
そう思うと、この組み合わせも悪くないかも。
そんな訳で、時間も勿体無いしレッツゴーみたいなノリで。二人掛かりで鉄格子を開通させて、そこに入り込む年少組。仲良く並んで、通路の奥へと駆けて行く。
残った二人も、ボヤボヤなどしていられない。話し合った結果、弾美が東の通路を端まで探索、薫が南にある筈の鍛冶屋の発見に当たる事に。
年少組に負けていられないと、こちらも張り切る二人である。
最初に波乱と言うか、敵に遭遇したのは薫だった。風変わりな体格のゴーレムが数体、カオルを発見すると殴り掛かって来る。次いで弾美も敵影を発見、同じく絡まれて戦闘に。
それぞれ雑魚相手の戦闘は、さほど苦労せずに蹴散らして行くベテラン陣。練りこまれたキャラだけに、囲まれたりしない限りは単独行動も平気の平左だ。
東と南の奥を目指しながら、北のペアの心配をする余裕すらあるのだが。肝心の少女ペアは、精霊っぽい敵と戦いつつ、何とか距離を稼いでいる感じ。
このルートには宝箱も置いてあって、それを見つける度にはしゃぐ声が聞こえて来る。
なるほど、閉じられた通路だっただけに、報酬も用意されていたらしい。弾美達も雑魚のドロップで、たまに補修素材が入手出来ているのだが。宝箱からの大量の素材や薬品は、パーティにも有り難い恩恵である。
はしゃぐ美井奈は、いつの間にか目的を完璧に忘れ去っている様子。肝心のインプの姿が無い事に、全く無関心のようなのだけれど。何故か知らないが、東ルートの弾美が発見してしまって、なだれ込む様に戦闘に移行する。
相変わらず厭らしい笑い声で、同じく取り逃がした魔人を2体従えて。中ボス級の敵3体との戦闘は、ちょっと洒落にならないかも。弾美は慌てつつも、バックステップで囲まれる事態を回避。
文句を言いつつも、対応に大わらわ。
「何でインプがこっちにいるんだっ? 薫っち、応援頼むっ!」
「わっ、了解っ……私のキャラ、速度アップあるけど結構距離あるなぁ。合流までしばらく頑張って、弾美君っ!」
「えっ、あれっ? ハズミちゃんの方にインプがいたって事は……こっちは引っ掛け?」
「あれっ、そうなんですかぁ……まぁ宝箱3つも見つけたから良かったじゃないですか。あっ、お姉ちゃまっ、そこの角にも置いてありますよっ!」
仲間のピンチも何のその、マイペースな雷娘は目の前の報酬に再度嬉しそうな声を上げる。弾美の危機を知った瑠璃は、そちらに気を削がれて完全に出遅れていたのだけれど。
そのせいで独り先行した美井奈は、キャラを何かにぶつけてしまってアレッという表情。宝箱は本当は別の位置に設置されていて、それに映り込んだ鏡にぶつかってしまったらしく。
二枚ある鏡は、丁度90度になるように置かれていてその前の地面に足の裏のマーク。どこかで見たような仕掛けだと、脳内アラームは危険を知らせるのだが。
肝心の弾美が自分の画面から目が離せず、警告する前に罠は作動。
「うにゃっ、鏡が割れちゃいましたっ……この仕掛けは、ひょっとして影分身の恐怖っ!?」
「なに~っ? 美井奈っ、また何かやらかしたのかっ!」
「えええっ、ドッペルゲンガーが2体湧いてるよっ、美井奈ちゃんの画面の中!」
「うえっ、本当だ……ハズミちゃん、どうしようっ!?」
そんな事知るかと突っ撥ねたい弾美だったが、そうも言っていられないのがリーダーである。実際、本当に3匹の猛攻にてんやわんやな自分の画面。機転を利かせて《グラビティ》や《闇の刺針》で、敵を上手く分散させてはいるのだが。
他の画面を気に掛ける事など、こんな状況ではまず不可能。薫と分散したのが不味かったが、まさか中ボス級が待ち受けているとは夢にも思わず。しかも不意打ちで、合流前に戦闘に持ち込まれてしまった。
侭ならない状況に、本気で各個撃破の危険が上がって行く。
弾美の状況把握の前に、瑠璃が何とか敵と美井奈の間に割って入る。ミイナの分身達は、弓術での遠隔攻撃のみなのでそれは簡単だったのだが。オマケに狙うのは、当の美井奈のみ。
肝心の美井奈の反撃は、敵が定期的に使って来る《影縫い》のスタンで上手く行かない。さらに《貫通撃》がダブルで来ると、あっという間に瀕死に追い込まれてしまう。
瑠璃が必死に回復を飛ばすが、敵への攻撃はそのせいでおざなりに。美井奈も半分パニックで、手より悲鳴の上がる口の方が忙しい感じである。
薫がそんな現状を、かいつまんで弾美に報告する。
「フラッシュとか足止め魔法とか、二人とも少しは頭を使えよっ! いや、いっそ美井奈が消えちまうのはどうだっ!?」
「えっ、消えるって……そんな魔法あったっけ?」
「あっ、ありますっ、覚えてますっ! ってか、戦闘中に使えるんですか、アレ?」
それこそ知るかの弾美は、駄目なら諦めろと冷たい言葉。美井奈以上に必死な瑠璃は、少女に駄目モトで使ってみてと魔法の使用を促してみる。MPもそろそろ辛くなって来て、目の前で美井奈を見殺しにしたくない瑠璃は本当に必死。
《フラッシュ》の使用から、何とか詠唱の長い《フェアリーヴェール》の使用にこぎつけて。瑠璃と美井奈はドキドキの時間を経て、敵の様子を伺いに画面の状況チェックに至る。
モニターに映る分身達は、的を失い活動停止。
それを見て狂喜乱舞の少女達だが、弾美に喝を入れられて現状を把握し直す素振り。分身は消えた訳ではないのだ、つまりは倒し切るなら今の内。
消失魔法が切れたら、再び美井奈は矢ぶすまになってしまう。手を出せなくなった美井奈の代わりに、瑠璃は獅子奮迅の削りを見せる。もっとも、幾ら殴っても反撃は来ないのだが。
魔法が切れるまでの3分間、果たして長いのか短いのか。
一方の弾美の方は、ようやくの追い風が舞い込んで来た。バックステップを駆使しつつ、守備に徹してその場を何とか凌いでいたのだが。飛んで来る魔法にはステップも効果なく、ポケットの薬品が心許なくなって来た所に。
ようやく薫が現場に到達、一番前に位置していた魔人に《竜巻チャージ》で殴り掛かる。軽いちょっかいしか出していなかったため、敵のタゲが完全に薫に向いてしまったが。
慌てず弾美が《ブロッキング》でタゲを取り返し、さらなる削りを促す構え。相変わらず敵3体に狙われ続ける弾美だが、心情的には随分プレッシャーは緩和された模様。
これからは、敵を1体ずつ沈めて行けば良いのだ。
弾美と薫ペアが順調に敵を屠っている間、必死の瑠璃も何とかドッペルゲンガーの1体を倒し切る事に成功した。それとほぼ同時に、美井奈の消失魔法の時間切れ。
それでも2対1の対決に持ち込めて、こちらも心情的には随分楽に。
「よ、良かった……何とか美井奈ちゃんを無事に救い出せそう。美井奈ちゃんっ、回復してあげるからコイツは一緒に倒そうっ!」
「りょ、了解です、お姉ちゃまっ! お手数掛けます、よろしくですっ!」
「よしっ、こっちもまずは1体倒したっ! また逃げ出されたら面倒だからな、薫っちはインプの方頼むっ!」
「分かった、まかせといてっ!」
怪しい動きをしていたインプも、結局は弾美の機転に逃げ道を塞がれて。さらなる嫌がらせの計画も、どうやらおじゃんになったよう。ショートワープを時折使うのだが、その度に薫の《竜巻チャージ》の餌食になってしまう巡り合わせ。
先に窮地を脱したのは、瑠璃と美井奈のペアだった。何とか2体目の分身も倒し終わって、二人で嬌声を上げで抱き合っている。それから二人は、ヒーリングしながら次の行動を話し合い。
これ以上先に進むのは怖いから、宝箱開けたら戻ろっか?
消極的な案だが、下手に動かれて新たな仕掛けの犠牲になるよりはマシだろう。何より、捜索中の筈のインプは、弾美達の方にいる事が判明したのだし。
ところが開けた宝箱からは、捜索中の『石碑の赤い石』が出て来てビックリ仰天。つまりはこちらの探索も、どっちにしろしなければいけなかった仕様らしく。
何にしろ見付かって良かったと、気楽に来た道を戻る年少組パーティ。
「あれっ……って事は、コイツを倒してもあんまり関係無い? あっ、倒れた」
「こっちももうすぐ倒せそうだけど……つまりは引っ掛けだったのかな? まぁ、時間無駄に消費しないで良かったよな」
こっちは死にそうな目に合ったんですけどと、良かったとは何事かとの美井奈の抗議。勝手に仕掛けを作動させたのはお前だろうと、弾美の返しも素っ気無い。
言い返せない美井奈は、閉じた鉄格子の前で特にする事もなく。構って貰おうと、なおも弾美に食って掛かる。その合間に、レベルが34に上がりましたと報告など織り交ぜてみたり。
実際、2体のドッペルゲンガーの経験値はかなり美味しかったのだ。ドロップはと言えば、雷の水晶玉と補修用のレア素材が数点のみの結果に。術書もメダルも出なくなると、ちょっと拍子抜けなお楽しみタイムである。
弾美と薫ペアのドロップも、補修素材と水晶玉が中心だった様子。
こちらも戦闘の終わった弾美組は、一応東の通路の端まで探索をしてみて。何も無いのを確認し終わって、中央の石碑まで取って返す事に。
合流を果たした四人は、話し合いの末にこのまま南の通路を目指す事に。赤い石を戻してまた盗まれても嫌なので、石は瑠璃がそのまま持って歩く算段で。
弾美の号令で、元気良く全員での再出発となったパーティ。薫が途中まで雑魚掃除をしていただけあって、移動は至って順調に進む。
5分も経たず、目的の鍛冶屋は発見出来た。
「おおっ、本当にあったな、鍛冶屋。瑠璃っ、素材はどれだけ集まってるんだっけ?」
「宝箱とか妖精とかさっきの敵からのドロップで、かなり集まってるよ。えっと……レア素材が10枚以上あるから、レア装備の強化を含めても一人2回は大丈夫かなぁ」
「えっと、この前素材が集まらなかった巻き戻りの風呂敷も製作可能だねぇ。自分で武器の耐久度直せる奴、今回は素材出たっぽいよ」
それはいざと言う時に持っておきたいねとの意見が多数出て。工房に入るなり、瑠璃が早速2枚ほど交換して貰う事に。その後は、適当に順番で強化したい装備を言い合って。素材が尽きるまで、恐らく最後の強化に勤しむメンバー達。
その割にはお気楽で、軽口を叩き合ったり変に譲り合ったりといつものペースではある様子。強化の終わった瑠璃が工房の奥に中庭を見つけ、好奇心から覗いてみると。
日本風の中庭の端っこに、小さな鳥居と小さな祠。そして神主風の服を着たNPCが一人。話し掛けてみると、呪い装備の解除や聖水を売ってくれるという。
ひょっとして例のアレも通じるのではと、試しにトレードしてみると。
破魔矢交換券が、見事に破魔矢へ姿を変えてくれた。最後に待つであろう魔族に対して、これ以上の奥の手はないと手を叩いて喜ぶ瑠璃だったり。その騒ぎを聞きつけて、メンバーがぞろぞろと中庭に集まって来る。
それらかは瑠璃の説明を聞きながら、入手した破魔矢を美井奈に渡す作業。ついでに聖水も幾つか買い込んで、これでこの鍛冶屋で出来る強化や補充は終わりっぽい。
しばらく時間を取って確認したのは、見逃して後で後悔したくない為。
インしてからの時間も、もうすぐ1時間が経とうかと言うくらい。中央の石碑前に戻って、改めて赤い石をトレードしてパーティが確認するに。残っている選択肢は、まだあと3つもある。
時間は足りるかなと、ちょっと心配な面々だったけれど。それより選択肢の1つが、光って浮き上がっているのは如何なものか。石碑にもルーン文字らしき光る文字が浮き出て、何かを訴えている様子ではあるのだが。
その選択肢の名前は『物語の始まり』というタイトル。『大樹との邂逅』と言うタイトルが無くなって、代わりにこれが追加されたようだ。どうやら、この廃墟と化した避難街にも関わりがあるらしいのだけれど。
この過剰な演出に多少戸惑いながら、皆の了承を得てそれを選択する弾美。
画面の暗転からのムービーは、優しい音楽に彩られて平和な光景そのものだった。どこかの栄えている大きな都市で、のどかに平和そうに生活を送る人々。
街の風景に混じって、かなり大きな大樹も時折画面に現れる。それは都市の一角に接していて、大きな洞は当時から造られていた避難街の入り口になっているようだ。
その半地下の街の中心には、人々が信仰するルーン石碑が。そこに毎日お参りに来る少女は、赤い花を一輪捧げて真剣な表情でお参りしている。
――この平和が、ずっと続きますように。
しかしその純粋な願いも、天には届かなかったようである。元々は天災を避ける為に造られていた避難街は、荒野の蛮族の突然の襲撃に、都市に住む人々を収容して行った。
不安でむせ返る半地下の避難街。大樹の意思は、その不安の波で揺り起こされたのかも知れない。純粋な祈りより本能的な恐怖の方が、より明確な意思となり得るのだ。
意思と言う不明瞭な感覚の波に、大樹は戸惑い同じく不安を味わっていた。その不安は、地下から流れてきた物かも知れないし、自分の発した初めての感情かも知れなかったが。
新たに流れて来た負の感情の奔流に、大樹は張り裂けんばかりの痛みを知る。
避難街の入り口のバリケードを破って、とうとう蛮族が乗り込んで来たのだ。ここに避難しているのは、か弱き女性や老人、そして年端も行かない子供達……。
これ以上隠れる場所もなく、次々に凶刃に倒れて行くたくさんの命。その度に、大樹の中に痛みと絶望、不幸な身を嘆く強烈な感情が流れ込んで来る。
自分の洞の中で、次々と消えて行く温かくも儚い命。大樹は負の感情に抗いながら、正気を保とうと必死に心をガードした。戦争の惨劇が終焉を迎えた頃、大樹に急激な変化が起きた。
自分の意思とは関係なく、大きく張った根や葉が栄養を吸収し始めたのだ。
根の部分は、かつては都市の住民だった人々の死骸を養分へと選択した。葉の部分は、侵攻して来て、今は勝利に酔っている蛮族の生気を吸い取る術を得たようだった。
たった一晩で、大樹の胴回りは二倍へと成長を遂げていた。麓の都市を呑み込んで、近くに活動する生物達の生気を糧にして。それは弱肉強食を遥かに越えた、連鎖無き所業。
大樹が次に味わった感情は、永きに渡る孤独だった……。
――これは、大樹が自分の意思を手に入れた時の出来事。遠い昔の、ひとつの都市が滅びた時の悲しい物語。そして……永く儚い滅びへの序章。
滅びを間近にして大樹の精神体が思うのは、ほんの数年を一緒に過ごした魔女の行く末。自分が滅びて行くのは本望だが、このままでは気掛かりでどう仕様も無い。
魔女にも未来を……少なくとも過去を清算出来る程度の希望を。
それが大樹の最後の願い。
ナレーション付きの映像が終わった時には、既に女性陣はほぼ撃沈していた。鼻を啜り上げる音と、緩んだ涙腺を何とかしようと取り繕っている仕草。美井奈はもっと単純に、自分の感情を露呈していた。
つまりは再度の号泣で、それは果たして誰を想っての涙なのだろうか。ボスを倒して爽快に終わるルートは、もはやどこにも存在しないよう。
弾美もかなりしんみりしながら、動きを取り戻したキャラで周囲を伺う。
そのエリアは、昨日も訪れた大樹の精神体の居場所だった。恐らくこのエリア内で、大樹と面会が可能なのだろうけれど。昨日は途中に虫型の敵がいたっけと、メンバーに注意を促すリーダーの弾美。
敵はもちろん、行く手を阻んで来た。何とかコントローラーを操作可能になった一行は、迫力の無い動きで戦闘をこなして行く。このしんみりした空気は何なのだと、弾美は文句を並べたくなるのだが。
虫型の敵は、黄金虫の様なまん丸な形状をしていた。幸い強くも無い雑魚の群れ、重苦しい雰囲気のままに片付けて行くと、ようやく大樹の精神体の前の広場に辿り着いた。
再度出会った大樹の酷い状況を見て、ようやく女性陣の瞳が燃え上がる。
「うあっ、また変な蟲達に寄生されてるっ! 大樹が苦しそうだよっ」
「気持ち悪い形の蟲ですねっ、はやくやっつけないとっ!」
湿った空気は一転、大樹のピンチを見て燃え上がる闘争心へと変化する。それともそれは、彼女達の持つ庇護の敬愛心の為せる業だろうか。とにかく部屋の空気が変わって良かったと、弾美は胸を撫で下ろす。
そこからは気迫も新たに、大樹救出に武器を振るう一行。雑魚らしい気持ちの悪い寄生虫は、見る見る数を減らして行く。と思ったら、枝の上から手強そうな中ボスが降って来た。
途端に、音楽は勇ましいバトル仕様に変化して。出て来た中ボスを、得意のフォーメーションで迎え撃つ構えのメンバー達。今回の中ボスは、先ほど出て来た黄金虫の巨大化版。
背中の模様が悪鬼の面のようで、何だか異様な迫力がある。
そう思っていたら、その鬼面は飾りではない事がすぐに判明。この敵はどうやら、直接攻撃モードと魔法攻撃モードの二種類の攻撃方法を持っているらしく。
しかもモードチェンジの形態中には、その攻撃しか通用しない仕様になっているようだ。何と遠隔攻撃すら別カテゴリーに仕分けされているらしく、美井奈の攻撃はゼロ行進。
魔法形態の際はともかく、直接形態では回復を飛ばすしか出来ない有り様に。
「何ですかこの敵、嫌がらせが過ぎますよっ! 早く魔法の通じる番になって~!」
「わ、私はブレスしか無いから、今の通常攻撃モードの方が嬉しいけど……」
「俺もそうだな、魔法モードはちょっと不気味だしなぁ、コイツ」
この中ボス、通常攻撃モードでは普通の六本脚の形態で噛み付きや突進がメインなのだけれど。魔法攻撃モードになると、くるりと背中を向けて宙に反り立つ感じで、背中の模様をこちらに向けてから。鬼面の模様が、恨めしそうに魔法を唱え始めるのだ。
ハズミンの《闇の断罪》も効きが悪く、相手は闇耐性が高いぞとの弾美の推測に。美井奈の《ホーリー》は面白いほどの効果を上げて、少女の溜飲は下がる気配。
その代わり、範囲魔法の潰せないパーティは被害甚大。
HP半減からのハイパーモードも厳しかったが、回復は万全な態勢のパーティである。ところが残り2割の敵のハイパー化は、今までに見た事の無い形態で一同はパニック模様。
飛行形態となった敵は、キャラの武器の届かない場所からの一方的な攻めを見せ。魔法が効果の無い事を知らせた瑠璃は、いち早く敵の攻撃範囲内から退散する。
ミイナの隣で一息ついて、出来る事は無いから回復支援に回ると報告。
「う~っ、チャージも無理みたいっ、どうしよう弾美君? ハイパー化が収まるまで、私も下がっておいたほうがいいかな?」
「殴り掛かる手段が無いのか……そうだ、俺の風魔法に使えそうなのが」
「私もダメ元で弓を撃ってみましょうか、隊長?」
とにかく知恵を出し合って、この一方的な惨状を打開しようと躍起になる一行。敵のHPはあと少しなのだし、ダメ元でも何でもやってみようと血気盛んな応答が飛び交う。
弾美が思い出したのは、風魔法の《風の鞭》からの斬撃飛ばし技。ほとんど使った事の無い魔法だったので、すっかり存在を忘れていたのだが。
これが綺麗に決まって、敵の体力は一気に削られて行く。そこに追い討ちを掛けるように、美井奈の遠隔ダメージが炸裂。どうやら今は、遠隔攻撃モードなのではと推測が飛び出ると。
勢い付いた雷娘は、遠隔スキル技のオンパレード。
最後はほとんど一人で削り切った美井奈は、得意満面でのガッツポーズ。隣に座る瑠璃に褒められて、嬉しそうに得意の抱きつき攻撃を敢行している。画面の中は沈静化したが、こちらは反面騒がしい有り様。
大樹の精神体は、昨日見た時よりも一層儚く透明化していた。正気を失いそうな所を助けられ、たった今意識を取り戻したようにも見受けられ。
話を進めるぞと、弾美が進み出て大樹に話を伺おうとする。置いていかれたら堪らないと、ようやく美井奈もログに集中。最後の最後で、話が分からなくなるのはやっぱり嫌らしい。
大樹の精神体の言葉は、どこまでも優しく悲しい願いだった。
――どうやら皆さん、ルーン石碑の干渉で私の生まれた経緯を知ったようですね。戦争で殺された多くの魂達が、私の生長を暴走させたきっかけであろう事も。
不条理な死が恐ろしくて堪らないという不の感情が、私の無意識に永遠の生を選択させたのでしょう。その結果、私は永い間孤独な存在になってしまいましたが……。
計らずもその孤独を払拭してくれた魔女に、私は本当に感謝しているのです。お蔭で私は、自分の力を制御する術もある程度学ぶ事が出来ましたし。
その魔女は、今や異界の檻に囚われの存在なのです。
魔女も本当は、私の願いに共感していたのです。恐怖も力の支配も不要な、楽園をこの地に作りたい。平和な時が永遠に続くと言う、純粋な少女の願いを実現したい。
その願いに私の魔力を注いで欲しかったのですが、魔女はどうしても心に芽生えた復讐心を振り払う事は出来なかったようです。それだけ、彼女の失ったものも大きかった証なのでしょう。
キャラバン隊には決して手を出さなかったし、追い払わなかったのも私の為でした。そう……魔女にして見れは、自分の娘に人形を与えるような気持ちだったのでしょう。
どこかちぐはぐな、私と魔女の愛情の遣り取りだったのは否めませんが。
それでも私は、可哀想な魔女を助けて欲しいのです。お願いします、皆さん。それが私の本当の願い……そして恐らく、最後の願い。聞き届けてくれますか?
――我々は①魔女の悪行の見返りだ、このまま放っておく
②約束は出来ないが、連れ戻すくらいなら
③助けてあげる、約束する
「助けるって……物理的になのかな、それとも精神的になのかな?」
「む、難しいわよね、精神的に助けるって。部下に裏切られて、天使とは喧嘩してて、おまけに大樹は滅びたがってるんでしょ? 私たちが何を言おうと、立ち直るのは無理なんじゃない?」
「確かにそうだよなぁ……それじゃあ、素直に選べるのは2番くらいかな?」
「ええっ、大樹の最後のお願いなんですから、助けてあげましょうよっ!」
美井奈の意見はもっともだが、その助ける方法が分からないのだと年長組。無理して請け負って、下手に失敗したらどんなペナルティを受けるのやら。
それでも心情的には、たとえ敵役としても助けてあげたいのは同じ考え。瑠璃がアイテム欄を見て、娘さんから貰ったぬいぐるみが役に立つのではと、確信なさ気に意見を述べる。
そんなアイテムも貰ったねと、少しだけ光明の見えて来た一行。最後は美井奈のゴリ押しもあって、結局は魔女を(精神的にも)救う選択肢に決定する。
自信は全く無いのだが、勢いって恐ろしい。
そのパーティ決定を受けて、大樹の精神体は少しだけ嬉しそうに微笑んだ。それから裏切った四天王の最後の二人の、簡単な情報を提示してくれて。
どうやらこの二人も、盗賊上がりのケチな連中だったらしい。棍棒使いと弓矢使いらしく、注意すべきはこの二人よりも、裏切りを持ち掛けた魔族の方だと知らせて来る。
それも当然だろうと、先行して裏切りの際の動画を見てしまったメンバーの思い。
ひとしきり大樹との会話が終わると、キャラの近くに転移用の魔方陣が出現した。大樹の最後の言葉は、あなた達は既に魔女を助けるためのアイテムを持っているとのアドバイス。
それが何なのか、何となく見当のついた様子の瑠璃だったり。パーティの知恵役を全面的に信頼してる他のメンバーも、安心してこの場を去る事に。
舞い戻ったルーン石碑の前では、選択肢に新たな変化が。
先ほどと同じく『魔女の檻』というタイトルが『最後の選択』と言う名前にすり替わっていた。さらに光を放っての自己主張は、一つ前の選択肢と全く同じである。
大樹と約束したのだから、次は責任を取ってコレねと言わんばかりの押し付けがましさ。それでも選択肢は、ラスボスとの戦いかこちらの二択しか、もう残っていないと来ている。
相談するまでも無くコチラだなと、それでも一応皆の了承を得て弾美のチョイス。
――波乱含みの物語は、いよいよ佳境へと突入する。




