♯25.5 最終ステージ~魔女の章・前編
弾美が自転車を飛ばして家に戻ると、30分前だと言うのに既に家の前に人影が。門の前まで出張っているマロンと戯れているのは、見覚えのある身長差のある二人。
コロンもそのお客の姿には気付いており、忙しなく構ってくれと鳴き続けている。その原因となっている美井奈と薫は、その大きな声にド肝を抜かれて困っている様子。
何しろ大型犬の吠え声は、近くで聞くと腹に響くほど。
かと言って、知り合いの家だからと門を開けて宥める度胸も無い二人である。もう少し大人しくはしゃいで頂戴と、薫が垣根越しに必死に説得しているのだけれど。
一度上がったテンションは、そんな事では治まるはずも無く。マロンまで、弾美の気配を感じて一緒に吠え立て始める始末。弾美の姿に気付いて、思いっきり安堵の表情の二人。
弾美が自転車を納めに車庫に廻ると、今度はクゥーンと甘えた声を出すマロン。待たせてゴメンと、人間同士の会話が始まってしまい、除け者にされた寂しさを付きまとって表現している。
一緒に入って来た美井奈が、しゃがみ込んで頭をナデナデ。
「わっぷ、この子は甘えん坊さんですねっ。きっと私の事好きなんですよっ」
「顔を近付けたら、舐められるに決まってるだろ。仕方ない、ちょっと散歩させよう。あれっ、薫っちは今日はお洒落だなっ?」
「えへへ、昨日沙織さんに貰った服なのよっ。ほらっ、昨日残ってお礼したいって言ってたの、これの事だったの」
昨日は四人での合同インが終わって、美井奈の母親の沙織さんが戻って来る前に、弾美と瑠璃はおいとましたのだったが。薫だけは沙織さんにお礼がしたいし、美井奈ちゃんが独りで母親の帰宅を待つのは可哀想と言う事で、そのまま残ったのだった。
その後にどういう遣り取りがあったかは知らないが、とにかく薫はご機嫌な様子。マロンのリードを受け取って、弾美がコロンを隣家からかっさらうのをニコニコと眺めている。
普段よりアダルトな服装のせいか、醸し出す雰囲気もいつもと違う気も。
予備のリードでコロンを捕獲した弾美は、瑠璃が留守をしてるのはとっくに知っていたのだが。特に伝言を残すのもバカらしいと、そのまま散歩に出かける素振り。
美井奈がお姉ちゃまを待たなくて良いのかと尋ねると、運が良ければ途中で出会えると弾美の返事。コロンが嗅覚で追跡してくれるかもと、そちらのリードを持ちたいと言い出す美井奈。
そんな上手く行くものかと、弾美は半信半疑。兄弟犬はおバカでは決してないが、そんな訓練など受けた事も無い。まぁ、美井奈の気の済むようにやらせてみようと、薫も助け舟を出す。
そんな訳で、擬似追跡ゲームのスタート。
「さあっ、ご主人の居場所を突き止めて下さいっ! えっと……お兄さんっ、お姉ちゃまのハンカチとか靴とか、そういう追跡の必需品はありませんか?」
「玄関にいっぱいあるだろうけど、鍵が無いもんな。どっちにしろ、コロンは覚えてるだろ? 話し掛けて説得しろ、美井奈」
「む、難しいですね……瑠璃お姉ちゃまですよっ、分かりますか、コロンちゃん?」
分かるわけ無いだろと、自分から振った癖に弾美は白けた表情。コロンが不思議そうに、美井奈ではなく弾美を見上げて来る。この娘っ子は何の遊びをしたいの? みたいな表情。
弾美が見兼ねて歩き出すと、二匹もつられて歩き出す。自分の言葉が通じたと、嬉しそうな美井奈の嬌声に。薫は一歩引いた場所で、笑い出しそうになるのを必死に堪えている。
いつもと違う道を弾美が選んだ途端、兄弟犬も要領を得た様子。
「おおっ、完全に私の言葉が通じてますよっ! わっ、そんなに引っ張らないでっ!」
「あっ、あれは……瑠璃ちゃんじゃないかな?」
思わぬ力に、ついリードを離してしまった美井奈。放たれたコロンは、一目散に飼い主の元に駆け寄って行く。驚いたのは向こうも同じ、飛びつかれて小さな悲鳴を上げている。
弾美は二人が小学生の頃に、よく散歩のついでにこの道を通って友達の家に遊びに行っていた事を知っていたので。まぁこうなるだろうとの予測は、当然ながらついていて。
残念ながら、美井奈と犬の意思疎通のせいではないと種明かし。
「なんだっ、残念ですねっ。でも、お姉ちゃまと合流出来たから、結果オーライですよっ」
「それもそうだな、じゃあ散歩の続きをして、合同インしようか」
「そうだねっ、四人揃ったしね……瑠璃ちゃん、大丈夫かな?」
ハイになった大型犬の飛びつき攻撃に、瑠璃は見事に尻餅をついていた。慌てて駆け寄る薫とマロンだが、その頃には何とか自力で立ち上がる事には成功していて何より。
美井奈も近付いて、ついでに抱きついての挨拶。リードを離して迷惑を掛けた事は、すっかり忘れているらしい。コロンのリードも薫が回収して、ようやく場は落ち着きを取り戻す。
弾美も合流、目的を果たした犬達は褒めて欲しくて周囲を飛び回る。
宥めるついでに弾美がたっぷり褒めてやった後、一行は揃っていつもの公園へ。午前中にあった事をお互いに報告し合ったり、純粋に散歩を楽しんだりの時間を過ごして。
コロンの襲撃から捨て身で守った袋を、瑠璃は大事そうに胸に抱えていた。薫が袋の中身を聞くと、さっき友達と一緒に作ったクッキーだと嬉しそうに答える。
今日のおやつにと、用意したものらしい。
「私も持って来ましたよっ。お兄さん家の玄関に、置いて貰ってますけど。最近はお母ちゃまも、結構張り切って作りおきしてるんですよっ!」
「昨日あの後でちょっと、沙織さんにハーブティの事聞かれたんだけど。やっぱり、料理とかお菓子作りが好きな人は違うよね~」
「あ~、ハーブティの事は私も聞きたいなぁ。私は胃が弱いから、コーヒーは1日1杯にしてるの」
「うんうん、そう言う人多いから、私も普及に努めてるんだけど。お洒落とか健康とかから入ると、やっぱり長続きしないのよねぇ。最初から頑張って、自分の好みの味を見つけなきゃ。素人でもいきなりブレンドに挑戦しても、いい位じゃないかな?」
薫の趣味のハーブ関係レクチャーが始まっている中、弾美と美井奈は犬達の相手に忙しい。二人で本当の兄妹のようにはしゃぎながら、公園の中を犬と駆け回っている。
最近、散歩の付き添い人数が多くて、やっぱり嬉しい兄弟犬達も。物凄くはしゃぎながら、公園内を元気に疾走している。遊ぶ友達が増えると、こちらも純粋に嬉しいらしい。
そんなこんなで、少し時間的に早い夕方の散歩は終了。
前回は、冒険前に良く分からない成長振りを見せたハズミン。自分のいない間に、スキル技が急に増えてしまったため。幾つかスロットに収まらず、使用を断念したものも出て来ている。
《上段斬り》がその封印対象で、その代わりに入った盾スキルの《ブロッキング》は、文句の無い使い心地。さらには複合スキルの《闇喰い斬》には、防御力無視の特性があるらしく。これもかなり使い勝手が良くて、削り用のメインスキル技となっている。
補正スキルの《闇系コスト減》のお陰で、闇系魔法も使いやすくなった。操作性は向上しているのは間違いなく、パーティの盾役としての安定感も比例するように増している感じ。
盾の交換に加え、レア装備の暗塊セットの防御力上昇で、その安定振りにもさらに拍車が掛かっている。盾の性能の附加効果の、HPやMP上昇も素直に有り難い。
最終ボス戦に向けて、文句の無い成長のハズミンであった。
名前:ハズミン 属性:闇 レベル:34
取得スキル :片手剣76《攻撃力アップ1》 《三段斬り》 《複・トルネードスピン》
《下段斬り》 《種族特性吸収》 《攻撃力アップ2》
《上段斬り》 《複・ドラゴニックフロウ》
《複・グランバスター》 《追撃》 《複・闇喰い斬》
:盾10《ブロッキング》
:闇80《SPヒール》 《シャドータッチ》 《闇の断罪》 《グラビティ》
《闇の腐食》 《闇の刺針》 《ダーククロス》 《闇系コスト減》
:竜10《竜人化》 :風20《風鈴》 《風の鞭》
:土30《クラック》 《石つぶて》 《レイジングアース》
種族スキル :闇34《敵感知》 《影走り》 《SPアップ+10%》
:土10《防御力アップ+10%》
装備 :武器 破邪の剣 攻撃力+21、HP+20、耐呪い効果《耐久15/15》
:盾 神木の盾 HP+30、MP+15、防+23《耐久10/10》
:筒 絹の腰袋 ポケット+4、HP+10、SP+10%
:頭 暗塊の兜 闇スキル+5、土スキル+5、HP+25、防+20
:首 番人の首輪 攻撃力+3、腕力+2、体力+3、防+8
:耳1 黒蛍のピアス 闇スキル+3、SP+10%、防+4
:耳2 白豹のピアス改 器用度+4、HP+15、落下ダメージ減、防+8
:胴 暗塊の鎧 闇スキル+5、土スキル+5、HP+25、防+30
:腕輪 暗塊の腕輪 闇スキル+5、土スキル+5、HP+25、防+20
:指輪1 サファイアの指輪 腕力+3、SP+10%、防+5
:指輪2 闇の特級リング 闇スキル+4、SP+10%、SP上昇率UP、防+4
:背 白翼のマント 器用度+4、HP+10、攻撃速度UP、防+11
:腰 闇のベルト ポケット+4、闇スキル+3、SP+10%、防+10
:両脚 魔人の下衣改 攻撃力+5、体力+3、腕力+3、防+15
:両足 暗塊のブーツ 闇スキル+5、土スキル+5、HP+25、防+15
前回の冒険の経験値によって、1つレベルが上がったルリルリ。それによるスキルや魔法の取得こそ無かったものの、基本能力に不満は無いので文句も無い感じ。
魔法で新しく覚えた《マジックブラスト》が、いい感じでダメージを出してくれるのがグッド。戦闘での追い込みに加えて、酔っ払い効果の付加も嬉しい点だ。頑張って伸ばした、スキル74の水属性の《ウォータースピア》よりも強烈なダメージなのは、正直複雑な心境ではあるのだが。
それでも今では大事なダメージ源、強過ぎると文句も言えず。魔法の種類も範囲攻撃、回復や支援と一通り揃って来ていて、使う方としてもこの豊富な品揃えは自慢出来る。
装備の変更も無いが、豊富なMPと魔法の存在は全く揺るがないルリルリである。
名前:ルリルリ 属性:水 レベル:34
取得スキル :細剣69《三段突き》 《クリティカル1》 《複・アイススラッシュ》
《麻痺撃》 《幻惑の舞い》 《Z斬り》 《クリティカル2》
《複・ハニーフラッシュ》
:水74《ヒール》 《ウォーターシェル》 《ウォータースピア》
《ウォーターミラー》 《波紋ヒール》 《アシッドブレス》
《水の分身》 :魔10《マジックブラスト》
:光30《光属性付与》 《エンジェルリング》 《ライトヒール》
:氷50《魔女の囁き》 《魔女の足止め》 《魔女の接吻》
《氷の防御》 《ブリザード》
種族スキル :水34《魔法回復量UP+10%》 《水上移動》 《MP量+10%》
装備 :武器 光のレイピア 攻撃力+17、器用度+4、MP+25《耐久14/14》
:盾 精霊封入の盾 HP+40、MP+40、防+10《耐久7/7》
:筒 絹の腰袋 ポケット+4、HP+10、SP+10%
:頭 流氷の髪飾り 水スキル+5、氷スキル+5、MP+25、防+8
:首 サファイアのネックレス 腕力+3、SP+10%、防+5
:耳1 天使のピアス 光スキル+3、知力+2、MP+8、防+3
:耳2 流氷のイヤリング 水スキル+5、氷スキル+5、MP+25、防+5
:胴 流氷の鎧 水スキル+5、氷スキル+5、MP+25、防+18
:腕輪 炎のグローブ 攻撃力+4、HP+14、時々炎獄効果、防+14
:指輪1 光の特級リング 光スキル+4、HP+15、攻撃距離+4%、防+4
:指輪2 プラチナの指輪改 腕力+4、HP+20、攻撃速度UP、防+8
:背 精霊封入の人形 HP+50、MP+50、SP+10%、防+1
:腰 複合素材のベルト改 ポケット+4、器用度+5、MP+13、防+11
:両脚 流氷のスカート 水スキル+5、氷スキル+5、MP+25、防+10
:両足 炎獄のブーツ改 炎スキル+3、腕力+3、HP+15、防+17
レベルアップは無かったものの、前回から《影縫い》での敵の特殊技の妨害を勉強し始めたミイナ。これがある程度出来るようになると、接近して毎回危ない目に合う、スタン要員のルリルリがフリーになって大助かりなのだが。
そんなに急には上達は望めず、本人は未だに混乱模様なのがアレなのだけど。それでも前衛の支援役は面白いと、本人的にはやる気を見せている点は評価出来る気がする。
装備ではジェルが出たので、融通して貰ってマントを同化完了に。前回ドロップしたマント装備に変更して、これで防御とか攻撃力の強化はかなりの上昇を見せる事となった。
アタッカーとしての数値は伸びたが、支援役としてはまだまだ下手っぴいな美井奈である。
名前:ミイナ 属性:雷 レベル:33
取得スキル :弓術64《みだれ撃ち》 《近距離ショット1》 《攻撃速度UP1》
《貫通撃》 《複・スクリューアロー》 《影縫い》 《速射》
:水10《ヒール》
:光51《ライトヒール》 《ホーリー》 《フラッシュ》
《フェアリーウィッシュ》 《フェアリーヴェール》
:風24《風の陣》 《風の癒し》
:雷35《俊敏付加》 《俊足付加》 《スパーク》
種族スキル :雷33《攻撃速度UP+3%》 《雷精招来》 《落下ダメージ減》
装備 :武器 神樹の長杖 攻撃力+25、知力+5、MP+28《耐久14/14》
:遠隔 妖精の弓矢 攻撃力+23、ポケット+2、敏捷度+5《耐久15/15》
:筒 朱塗りの矢束 攻撃力+20 追加炎ダメージ
:頭 妖精のクラウン 光スキル+4、風スキル+4、SP+10%、防御+12
:首 サファイアのネックレス 腕力+3、SP+10%、防+5
:耳1 白蛍のピアス 光スキル+3、HP+25、防+9
:耳2 陰陽ピアス 精神力+5、知力+5、MP+15、防+6
:胴 妖精のドレス 光スキル+4、風スキル+4、MP+20、防御+20
:腕輪 サファイアの腕輪 腕力+5、SP+10%、攻撃力+5、防+12
:指輪1 雷の特級リング 雷スキル+4、器用度+4、攻撃速度UP、防+4
:指輪2 サファイアの指輪 腕力+3、SP+10%、防+5
:腰 複合素材のベルト改 ポケット+4、器用度+5、MP+13、防+11
:背 攻防のマント 腕力+5、体力+3、攻撃力+5、防+14
:両脚 妖精のスカート ポケット+2、光スキル+3、風スキル+3、防御+12
:両足 サファイアの長靴 腕力+5、SP+10%、攻撃力+5、防+12
カオルもレベルの上昇こそ無かったものの。武器を新調して、これで念願の攻撃力40超えが叶った事に。両手武器使いだけに、こういう数値にはやっぱりこだわりがあるのだ。
新しい武器は見た目は白木の槍なのだが、紋様が処理されていて神秘的でグー。HP増加の付加効果も嬉しいが、どうやら隠し効果で魔法防御も上昇している感じもする。
赤い袴と白木の槍で、外見はちょっと古風な女性神官っぽく見えてしまっているのだが。そんなカオルの最新グラを、本人は割と気に入っているようで何より。特にチャージでの素早い特攻振りは、見た目も勇ましくて自ら絶賛している程。
美井奈と較べると、ちょっと地味な削りキャラに見えてしまうのは否めないが。本当は、パーティで一番融通の利く万能ファイターである事は、ベテランの目から見れば一目瞭然。
前回のまとめ役振りのように、もっと前に出ても良いキャラなのは確かである。
名前:カオル 属性:風 レベル:33
取得スキル :長槍80《三段突き》 《攻撃力アップ1》 《脚払い》 《石突き撃》
《クリティカル1》 《貫通撃》 《複・竜巻チャージ》
《大車輪》 《複・幻影神槍破》 《種族特性吸収》
:風20《風鈴》 《風の陣》
:炎45《炎属性付与》 《炎のブレス》 《レイジング》 《炎獄》
:雷20《俊敏付加》 《パラライズ》
種族スキル :風33《回避速度UP+3%》 《魔法詠唱速度+6%》 《移動速度UP》
装備 :武器 神木の槍 HP+30、精神力+3、攻撃力+40《耐久11/11》
:筒 絹の腰袋 ポケット+4、HP+10、SP+10%
:頭 迅速の兜 炎スキル+4、雷スキル+4、器用度+2、防+7
:首 進みがちな懐中時計改 SP+15%、攻撃速度UP、防+8
:耳1 サファイアのピアス 腕力+2、SP+10%、防+3
:耳2 白蛙のピアス 器用度+2、MP+15、防+6
:胴 迅速の鎧 炎スキル+5、雷スキル+5、腕力+5、防+20
:腕輪 迅速の腕輪 炎スキル+4、雷スキル+4、腕力+2、防+7
:指輪1 迅速の指輪 炎スキル+3、雷スキル+3、防+4
:指輪2 炎の特級リング 炎スキル+4、腕力+4、攻撃力+20%、防+4
:腰 獅子王のベルト改 ポケット+2、攻撃力+6、HP+20、防+13
:背 迅速のマント 炎スキル+4、雷スキル+4、防+7
:両脚 朱色の袴 ポケット+2、精神力+5、MP+20、防御+12
:両足 サファイアの長靴 腕力+5、SP+10%、攻撃力+5、防+12
部屋に戻って、早速いつもの位置取りに動くメンバー達。順次インして行きながら、昨日と同じ樹上のポイントに姿を現して行く。瑠璃が妖精の運営するお店の前で、薬品類の購入。
パーティに配って行きながら、ついでに昨日のドロップの分配などを。
昨日の最終戦闘のボス戦では、大ポーションや大エーテルが多数ドロップ。貴重な薬品の補充は、素直に有り難い。他にはカメレオンジェルや、両手武器の大ハンマーやマントなどなど。
ハンマーの攻撃力は物凄いものの、スキルや熟練度が高い設定のため誰も装備出来ず。防御やHPも付加されていた為、美井奈の持つだけ装備にもお薦めだったのだが。
装備も出たが、マント以外は良品とは言えず残念な結果。土スキルの付いた微妙な性能の脚装備とか、腕輪装備とか。誰も欲しがらなかったので、瑠璃はお金に変えてしまう事に。
何しろ今は、本当に他のパーティと連絡すら取れない状況なのだ。地上への魔方陣も完全に壊れていて、戻る事も不可能。樹上の街並みは、人影も無くとても悲しくうらぶれた雰囲気だ。
前に進むしかないという状況、クリアまであと2ステージ。
「ジェル使っちゃいますね、これでまた防御とか攻撃力が上がりますよっ♪」
「今日も美井奈は、敵の特殊技止めの訓練な。瑠璃が薬漬けになれば、結構新魔法での追い込みが凄い事が判明したから」
「氷の蜜酒を常時使えば、後衛からのサポートが可能だねぇ。こっちの方が慣れてるし、リスクは少ないかなぁ?」
「ふむふむ、範囲攻撃が面倒な敵は、そっちの方が断然いいよね。瑠璃ちゃんは前衛でも削り力が出て来たから、ちょっと勿体無い気もするけど」
そこら辺は臨機応変にと、ステージ前の打ち合わせは終了。かなり寂しくなった樹上のフィールドを移動して、パーティは残った魔方陣に入り、カバンから輝く果実を使用する。
2つ目の最終ステージ攻略を前に緊張しつつ、メンバーで力を合わせて挑みに掛かる気概を上げる。まず最初に待っていたのは、毎度お馴染みな強制ムービー動画の差し込み。
それはド派手に始まる、空中での戦闘シーンだった。魔女の魔法が天を焦がし、天使の周囲には光の防御魔法が。全てのダメージをキャンセルしつつ、しかし天使の顔には焦りの表情。
壮絶な空中での戦闘は、魔女が上になり天使が高速で間を詰めて武器を振るい。近付く度に両者の魔力は、その丁度中間で桁違いの反発力を生み出す。
天使が不利に見えた戦闘も、時間の経過と共に魔女に翳りが見え始める。
一度は姦計で、天使を捕らえた事もある魔女だったが。大樹が力を失って来たせいで、その魔力に逆転傾向が見えて来たようだ。それを悟った魔女は、舌打ちしながら転移を図る。
残された天使は、ようやく息を整えて空中で停止する。それから背後を振り返って、巨大な枯れかけた大樹を眺めやる。何を思うのか、その瞳は悲しげに曇っているようだ。
半分以上葉の落ちた大樹は、落日間近の城のよう。
一方、住処を追われた魔女は、今は大樹の精神体と対峙していた。魔力の安定供給の鍵である四天王の一角を失い、その巨体はゆるやかな滅びを迎えようとしていた。精神体の浮き出る樹の根元に、魔女は天使から逃れて辿り着いたのだった。
今の姿を責めるように、魔女は大樹に語り掛けていた。あなたの力を一時的に四天王に貸してやれば、この事態は防げた筈だと。泣きそうなその口調は、しかし追い詰められた響きは無い。
魔女は本当に心配しているのだった。その強大な力を失いつつある、自分の護り樹の事を。自分の危険などとは関係なく、純粋に大樹の延命に全てを注いでいるのだ。
それは魔女の、歪んだ愛情だった。その事実に大樹は気付いていて、だから敢えて何も語らなかった。この結果は定めであり、命の終焉は全ての生物に訪れるのだと説き伏せるだけ。
魔女の心には、しかしその言葉に隠された本心は届かない。
大樹もまた、魔女の事を心配していたのだ。道を踏み違えた彼女が、自分の事で苦しむ姿は見たくない。強大な力に翻弄され、数々の命を犠牲にした魔女。それは昔の自分の姿そのものでもあり、消え行く前に清算しろと突きつけられた懺悔の念のようでもあり。
それ故に、大樹は魔女を突き放す事も出来ない。ましてや、一緒に滅びようといざなう事も。うまく伝えられない大樹に、魔女が焦れたように一つの回答を見い出す。
天使とその手下の冒険者、大樹を唆すこの存在を消してしまえば良いのだ。
身を翻した魔女は、四天王の一人を呼び寄せる。それから天使討伐に手を組んでいた魔族を召喚して、引きつった口調で冒険者の抹殺命令を下すのだった。
――こんな魔女に①同情はするけど、間違っている
②返り討ちだ、魔族と組むなんてとんでもないっ!
③大樹が気の毒だ、会ってひとこと言ってやる
「おっ、最初の選択肢が出たぞっ。これもまた微妙だなぁ、どれを選ぼうか?」
「単純に否定するか、積極的に討伐するか、積極的に否定するかって感じかな? 昨日は結構、大樹に肩入れした選択肢を選んだよねぇ、私達って」
「そうですねぇ、だったら変に方向転換しないように③がいいのかなぁ?」
薫と瑠璃の遣り取りに、美井奈もそれで良いとの意見を提出。パーティ意見の決定で、③のルートで物語は進行を見せる。今の所それは反映されず、キャラが勝手に移動する動画が。
円形の巨大な空洞の内側に備え付けられた、ややいびつな形の階段を下って行く冒険者一行。大樹の内側とはとても思えない、巨大な空間に存在するその風景は。どこか懐かしい、片田舎の一軒家の佇まいが終点に見えて来る。
煉瓦と漆喰の造りの、そんなに大きくない田舎の家だ。周囲の景色も、似たようなのどかな風景が広がっている。家に寄り添うように、立派な樹木が枝葉を生い茂らせている。
その家の前に辿り着くと、動画は終わりを迎えた。
キャラの操作を取り戻したメンバーは、取り敢えずは行ける場所をチェックする。単純に垣根や草むらが家の庭から先をブロックしていて、それはまぁ予想の範囲内。
古い家の中には入れるようだが、それ以前に郵便受けがクリック出来るよう。何の仕掛けだろうと用心しつつも、弾美が試しにと自分のキャラで確かめてみると。
早速に、2つ目の選択肢が出現。
――人のいない館への配達物を①気になるので調べてみる
②罠かも知れない、無視する
建物に入る前の、更なる選択肢の出現に。一行は過剰に反応して、これこそ罠だろうとの大半の意見。郵便受けに刺さっているモノは、しかし新聞紙のようにも見えるのだけれど。
そういう仕掛けが、どうにも人一倍気になる弾美。とうとう、罠に掛かっても良いから調べてみようとキャラに指令を送る事にして。我侭に慣れた他のメンバーも、用心しつつ周囲で警戒。
特に襲撃の類いはないものの、示されたログはやっぱり罠。
「わっ、あさっての新聞だって! 一面に、私達が魔女に倒された記事が載ってるって!」
「あさっての新聞、懐かしいなあっ……昔テレビで放送してたの知ってる?」
「何ですか、それ? あさってに何が起きるか、予知して盛り上がる番組ですか?」
呑気に喋っているメンバーだが、画面の中はカオス状態。呪い効果が振りまかれて、キャラの頭上にはお馴染みのカウントダウンされる数字が。慌ててルリルリが天使魔法を使用すると、呪いの数字と一緒にあさっての新聞も塵と化してしまった。
大量のMPをのっけから消費して、ヒーリングをしても良いものか迷う瑠璃。今までの経験からして、大体こんな仕掛けはヒーリング潰しとセットになっている事が多いのだけど。
薬品消費も勿体無いので、メンバーに断って休憩に入る事に。
幸い、周囲に変化はなし。その間の薫の説明の方が、ある意味年少組に波紋を投げかけたというべきか。いつもの元ネタばらしなのだが、それがかなり衝撃的だった様子である。
必死に説明する薫にしても、疑問符が脳内を駆け巡る結果に。
「だからっ、元ネタは某番組の人形劇でね……ある一家の郵便受けに、ある朝あさっての新聞が配達された所から始まって」
「なんだそりゃ、ホラー人形劇か? その一家の不幸が掲載されてて、それを防ごうと心が病んで行く話とか?」
「宝くじを当てて、幸せになる話なんじゃないですか? 私なら絶対、そうしますけど」
「洋画で、触った相手の未来が見える能力を持った人の話があったけど。その人も幸せにはなれなくて、能力に振り回されてた感じだったねぇ?」
薫は困ってしまって、そんな高尚な話ではないと改めて説明。その一家は、その不思議な新聞で折り紙で船を作ったのだと話すのだが。ポカンとして、全く意味不明な感じの年少組。
不思議系の人形劇で、その新聞で作った紙の船で、一家は揃って海に航海に出るのだと力説するも。自分でも何を訴えたいのだろうかと、ちょっと悲しくなってしまった薫。
航海の先に何か掴めたのかと、瑠璃が核心を突いて来る。
実は物語の終わり方など、全く覚えていない薫は。達成感はあったんじゃないかしらと逃げ口上。全然辻褄の合わない物語に、美井奈は全く納得が行かない様子である。
絶対ナンバーズを買うべきだと、最年少らしからぬ発言。
「お母ちゃまと、外出した時はスクラッチとか買うんですよっ! 最高だと、4回連続当たりクジに当たった事もあるんですよっ、私!」
「そのクジ運が、ゲームに反映されないのは何でだろうな? 当たったって言っても、100円とかだろ、どうせ」
「確かその時は、200円と1千円が交互でしたっけ? スクラッチはすぐに結果が分かるから、面白いですよねえっ!」
そんな頓珍漢な会話をしている間にも、瑠璃の休憩は完了する。天使の輪の効果で、実はあっという間で冒険準備は出来ていたのだけれど。初っ端から変な話で調子を狂わせるなと、弾美に怒られた薫はシュンとしてしまっていたりして。
ようやく開け放たれたままの屋敷の入り口に立つ一行、実はここからが攻略の開始に他ならない。リーダーが怒るのも無理も無い事、何だかんだで変な仕掛けの威力は絶大だったよう。
室内に動く影は、どうやらゴーストタイプの敵らしく。
こうなったら、天使の輪の効果も絶大である。怯みまくる敵を相手に、ガシガシ削って敵を減らしていく一行。家具の類いが移動の邪魔で、狭い間取りの戦闘は一見不利に思えたのだが。
部屋の隅に逃げ惑う敵を、追い詰めて殴れば良いのだ。簡単過ぎる戦闘に、ドロップも順調。記憶と後悔の残滓と言うイベントアイテムが4つ、前回のフィールドと似たような作りらしい。
それだと、どこかにトレードする場所がある筈。
弾美の言葉に、2階がまだ未探索だと返事をする美井奈。1階は敵を倒しながら、ほとんど見て廻ったパーティである。宝箱も数個回収して、薬品類をゲット出来たのは良いけれど。
天使の輪っかの効果が切れた途端に、ポルターガイストの反撃に見舞われたりと忙しかったのも確か。他にもドアや石像に厄介なトラップが存在していて、軒並みキャラのHPに被害が。
何とか全ての仕掛けを片付け終えたのが10分後で、残ったのが美井奈の言う2階と離れの温室。小さな温室内にはパッと見、敵の姿もトレードポイントも存在しなかった。
階段の場所も既に判明している、一行は用心しつつ2階へ。
2階の敵は数こそ少ないが、かなり強くてタフな感じ。それでもパーティの行く手を阻むには役不足で、あっさりと全滅コース。トレード出来る場所は程なく見つかり、全員集合の運びに。
それは主のいない椅子だった。かなり古びてはいるがアンティークな感じで、味と言うか個性が滲み出ている。それだけに、人の気配の途絶えた屋敷に残された今、物悲しさは拭えない。
瑠璃がドロップした記憶の残滓をトレードすると、予想通りに4つのタイトルが宙に浮き出て来た。メンバーはそれぞれタイトルを読み上げながらも、最初のイベント動画のヒントと合わせて。
ひたすらに、ステージ内容の解析に走ってみたり。
「前回は、廻る順番も関係なかったっけ? お供え物が入手出来てなくって、余計な戦闘をした記憶があるんだけど」
「そうだねぇ、でも戦闘を回避するようなアイテムとかヒントって、凄く入手が困難な気もするけど」
「確かにそうだな、順番はあんまり気にせず、タイトルの怪しい奴から廻って行こうか」
それなら最初はここかなと、瑠璃が4つの中から『魔女の過去』というタイトルを指し示す。確かにそれは全員の気になるところ、彼女の過去にどんな事ががあったのか?
少ない情報を整理すると、魔女は過去に何らかの事情で、力を封じられて街を追放されたとの話だった筈。その後生命の枯れた荒野で緩やかな死を迎える運命だった魔女は、奇跡的に大樹の導きによって命を救われたとの事らしく。
大樹の魔力を得ての復讐に、冒険者達が巻き込まれたのは周知の事実。
メンバーは気を引き締め直して、このフロアを最初の攻略ポイントに設定。パーティが通されたのは、意外にものどかそうな田舎町だった。ただしメンバーの視点は、完全に固定されててムービー動画を見る感じである。
戦闘は当分無いようなので、皆が気楽にコントローラーを置いての観賞モード。選択肢が出るまでは呑気に構えていようと、緊張感も程よく抜けている感じである。
しかし今回の動画は、かなりシビアだった。
――魔女には、一人の娘がいた。連れ合いの夫には早くに先立たれていた魔女は、その娘に愛情の全てを注いでいた。その娘は勝ち気で、そして母親譲りの強大な魔力を持っていた。
小さな田舎町で有名なその力は、国の警護隊にも知れ渡るほど。獣人や蛮族の危機に常に晒されている辺境の町では、個人の力こそ当てにされる事がざらなのだ。
獣人の脅威がピークに達したある日、駐屯していた国の警護隊から支援の要請が届いた。魔女は不安そうに顔を曇らせるのだが、無碍に断る訳にもいかない雰囲気。
小さな町は、それ以上に不安に震えていた。年老いた魔女も、もちろんその空気を感じ取ってはいたのだけれど。町の住民以上の人員を送られて来た軍隊は、頼もしくもあり恐ろしくもあり。
しかし魔女の娘は、別の事に気をとられている様子。
まだ若い軍隊長は、凛々しい感じのハンサムだった。ロマンスの始まりは、若い二人にはそれだけで充分だったのだろう。任務とは別のところで、惹かれ合い急接近する二人。
討伐に同行した魔女の娘と若い軍隊長、二人は魔女の知らないところで距離を縮めて行った。最初の行軍討伐は何とも無く成功して、小さな町に束の間の平和が戻って来る。
だがそれは、本当に束の間でしかなかった。獣人の攻勢に盛り返されて、国の警備隊は大打撃を受けてしまう。討伐から行動を共にしていた魔女の娘も、若くしてその命を散らしてしまった。
魔女の嘆きは、天をも貫かんばかり。
若い軍隊長は辛うじて生き延びていたが、国に増援の要請を送るので精一杯だった。悲恋の結果より任務を全うしようとした若者を、誰も非難は出来ないであろうけども。
たった一人の娘を失い、理性をも失った魔女は、その魔力を暴走させてしまう。悲しみの果ての結果は、やはり誰にも責められないのかも知れない。軍隊の駐屯地は全壊し、攻め入った獣人軍も壊滅を果たす事に。
小さな町に、もはや武器を持つ物の姿は見当たらなくなっていた。
要請を受けて辿り着いた増援軍は、その町の有り様を見て絶句する。町の生き残った民に全てのあらましを聞いた援軍の隊長は、抜け殻に近い魔女を捕らえる事で場を収集する他無く。
自国の兵にも少なからずの被害を与えた魔女を、とても無罪放免で収める事も出来ないとの判断で。結局は相談の結果、魔力を封じてから町を追放される事になったのだった。
だがそれは、魔女にしてみればどうでも良い事で。
半分意識を手放した魔女は、娘の幻影を追いかけて荒野を進む。それは辛うじて、死の行進とはならなかった。荒野の果ての大樹の念波が、孤独の者同士奇跡的に通じ合ったのだ。
それは確かに一つの奇跡だったが、同時に時の歯車が狂い始めた瞬間でもあった。そして後には、大勢の冒険者達を巻き込む、大きな事件に発展して行く事にもなるのだが。
大きな事件に発展していった、これは最初の物語。
――そんな魔女の過去に①同情する、悪くない
②やったのは悪い事、償うべき
③あれは半分事故、魔力の暴走だ
「うっ、映像ではぼかしてるけど重い話だったなぁ」
「そうだねぇ……しかも、それを判断しろってのは厳しいよねぇ?」
「ですよねぇ……映像から見たら魔力の暴走っぽかったけど、いっぱい人が死んじゃったみたいだし」
「私も大切な人が死んじゃった経験無いから、その心情は分かりませんけど。きっともの凄く落ち込んで、自分の行動に責任取れないと思いますねぇ」
最年少の美井奈も、真面目に議論に参加する素振り。それぞれが自分の意見を言い合い、数分間に及ぶ熱い話し合いの結果。結局は、一番妥当な半分事故との見解に落ち着いて。
それでも意見を存分に出し合ったメンバーは、それなりに納得した様子ではある。大切な人を亡くした挙句に、魔女が復讐心に駆られて現在の蛮行に及んだのだとしたら。
その気持ちは分かると、真面目に思う少年少女たち。
ただし、このストーリーだと、完全な悪役が存在しなくなってしまう。魔女の行動を完全否定しない限り、魔女を正義の名の下に裁けなくなってしまうのだ。ゲーム的には、このルートは矛盾が生じる事になりかねないのだが。
そんな心配とは無関係に、選択肢の決定と共に開放されるキャラ一行。5分程度の動画は終了、メンバーが放り出されたのは滅びた町の中の広場らしい。物寂しい雰囲気で、生きる者の姿はまるで無い感じ。
町の建物は、自然に朽ちて行った物もあるし、不自然な力で壊された物もあった。視界の半分は、赤茶けた外敵用の塀が行く手を覆っている。反対側には小高い丘と、半壊した建物郡が。
丘の向こうに朽ち果てたテントのシートが、幾つも風になびいている。
軍隊用らしいその大きな布地のテントは、誰かの血に染まっていてまるで古戦場跡地のような雰囲気。メンバーで相談しつつ、ここで何をすれば良いのか推測を並べていく中。
お邪魔な敵は、絶対出てくる筈との弾美の言葉に呼応するように。以前は軍の駐屯地だったらしき場所にパーティが入ると同時に、土がモコッと盛り上がって骸骨兵士団が出現して来る。
雑魚とはいえ、しっかり甲冑を着込んでいて武器も様々である。特に後衛に位置する弓矢持ち兵士と魔法使いは厄介と見た弾美と薫。何しろ囲むように現れた敵は、パーティの四方に配置されているのだ。
そのまま攻め込まれては、瑠璃はともかく美井奈が不味い事になってしまう。そんな訳で、強化を貰った弾美が、まずは敵の前衛を引き付けている間に。薫がチャージ技を駆使しながら、相手の虎の子の後衛陣に突っ込んで行く作戦に。
美井奈も後ろから、薫の殲滅サポート。
その間に弾美と瑠璃が、1ダース以上いる骸骨兵団のマラソンキープ。試しとタゲ取りにと一度は範囲スキル技を放った弾美だが、敵のHPも雑魚とは言え補正がかなり効いている。
範囲攻撃で一気にと言う訳にも行かず、しばらくはこのまま我慢する事に。薫と美井奈が敵の遠隔使いを殲滅するまでは、無理をしない運びに。ところが薫も、4体いた敵の骸骨魔術師に苦戦しているようでちょっとピンチ。
くっ付いても魔法は関係なく飛んで来るし、骸骨弓兵は短剣に持ち替えて応戦して来るし。4体の弓兵を合わせて、合計8体の敵を一度に相手するのは、さすがの薫でも厳しかった様子。
奇襲で2体ほど弓兵を倒したが、反撃を喰らってHP半減のピンチ。
「ひあっ、弾美君が雑魚って言うから油断しちゃった! コイツら結構強いよっ、HPも豊富だし魔法がキツイかもっ!」
「魔法使いから潰せば良かったのに、絶対そっちのがHP少なかった筈だし。何で弓兵に突っ込んで行ったんだよ、薫っち?」
「だって、弓兵の方が強いイメージあって……ううっ、こんな数が多いとステップじゃ捌けないっ」
「わ、私もサポートに廻って平気かな、ハズミちゃん? 回復しばらく無いけど頑張れる?」
頑張るしかないよな~、との弾美の呑気な返事に。瑠璃は慌てて薫チームに合流。美井奈も回復が追い付かないと悲鳴を上げているし、薫の持ち合わせのポーションもポケットからどんどん減って行っている様子である。
魔法範囲に入るなり、瑠璃はピンチの薫に回復を飛ばす。それから骸骨魔術師に《ウォータースピア》で援護の構え。相手は弱りながらも、闇系の魔法で反撃して来る。
突っ込んで行こうとした瑠璃は、その場に足止め。
それでも薫と美井奈が、瑠璃が体力を減らした魔術師をやっつけて行くと。ようやく流れが変わり始め、殲滅スピードも急に上昇を見せて行く。美井奈が破魔矢の存在を思い出したのと、瑠璃の接近しての《ハニーフラッシュ》連打のお蔭である。
天使魔法は、奥の手と言う事で取り敢えずキープ。何しろMPの消費が多い魔法なので、敵の数が多いと最後まで掛け続ける事が困難なのだ。せめて、呪いを使われるまでは我慢の作戦。
こんな序盤で、エーテルを減らす訳にも行かない。
骸骨魔術師が壊滅すると、女性陣チームは途端にイケイケムードに。瑠璃と美井奈が交代でヒーリングしながら、薫と弾美の様子を伺う余裕も出て来たのだけれども。
弾美のマラソンも、お世辞にも順調とは言えない混乱振り。何しろ敵の数が多い上、マラソンスペースが限られている。他のメンバーの視界から消える訳にも行かず、ここのエリアの特性すら分かっていないと来ているのだ。
魔女の過去に関係する場所なのは、動画を見ていて分かるのだけど。変にうろついて、さらに新しい敵を出す訳にも行かない。その弱みに付け込んで、敵の短槍持ちの攻撃が容赦無い。
半分キレかけていた弾美は、瑠璃の殲滅終了の声が天使の囁きに聞こえたほど。
「よしっ、槍持ち兵士から抜いてくれっ! いやっ、アイツは俺が直接殴る、取っといてくれ!」
「……さっきから、ひたすら邪魔だって言ってた癖に。危ないから先に倒すよ?」
「うあっ、瑠璃っ! お前には情けと言う言葉が無いのかっ!? ずるいぞっ!」
「お兄さん、何をいちゃもんつけてるんですかっ! お姉ちゃまの優しさが分からないとでもっ?」
パーティ内の訳の分からない混乱と、幼稚な罵声の掛け合いの中。瑠璃が引き抜いた短槍使いを、ひたすら殴る薫。田舎で姉弟で暮らしていた頃は、いつもこんな具合だったと懐かしく思い出しつつの作業だったり。
お世辞にも一流家庭などとは言えない暮らし振りだったけど、仲だけは良かった家族のみんな。たまに帰郷すると、離れていた時間に照れながらも、それでも温かく迎えてくれる存在。
何となくホロリとなりながら、薫は習慣となった仲裁に入ってみる。
変な混乱と盛り上がりはあったものの、何とか雑魚らしき骸骨兵団は討伐終了。雑魚の癖に強かったとは、全員一致の意見だったのだけど。メイン世界でも実は結構多いのが、相手が雑魚だと油断してのトン死である。
休憩を挟んで、さあ次の変化は何だと周囲を探索する一同だったけど。さっきみたいな仕掛けがまだあるかもと、油断せずに固まっての移動。そのうち瑠璃が、奥のテントに人影を見付け。
半分透けた人影が、何とか原形を留めているテントの一つに入っていったとの事。
それを受けて、慎重にテントに近付く一行。生き物の気配の無かったエリアだが、巡り合ったのはやはり人間ではなかった。一組の男女は、しかし先ほどの動画で目にしたような。
勝ち気な表情の魔女の娘と、若く凛々しい軍隊長だった。どちらの顔色も、今は青白く生気が無い。それもその筈、今は思念体と言うかゴーストに成り果てているのだから。
二人は苦しそうな口調で、途切れ途切れに今の状況を語り始める。
――母の悲しみの思念が、怒りや復讐心の思念が……檻となって長年の間、私達を閉じ込めてしまっています。私達は……抜け出せないこの空間で、それが壊される日が来るのをずっと待っていました。
母……フリアイールの魔女は、自分の思念が過去を凍らせている事に気付いていない。大勢の人を犠牲にして、その後にも苦しみを与え続けている事に気付いていない。
自分の苦しみにしか気付けない、悲しい存在になってしまっています。
――数刻もすれば、私達もあなた達に牙を剥くでしょう。ここは魔女が、決して触れて欲しくない無残な過去なのですから。私達を倒して下さい……それが解放に繋がります。
私のこの剣が、魔女の娘……私の愛した女性を守れなかった事が……思えば全ての始まりなのかも知れない。私はこの思念の牢獄で、ずっとそれを後悔して来た。
あなた達は、自分の選択に後悔しないことを……我々は祈る。
二人の言葉が終わると共に、地面が嫌な振動を始めた。イベント動画が挿入されて、フィールドに新たな大きな影が出現。透明な巨体はゴーレムのようでもあるが、骨が全て透けて見える奇異な身体の造りのモンスター。
どうやら人々の骸から生まれたそいつは、鈍い唸りを発して冒険者達を睥睨する。それと同時に、急に苦しみ出した魔女の娘と若い軍隊長。土地に染み付いた邪気に操られ、魂が憎悪や怨念へとシフトして行く。
それは命を持つもの、温かさを持つ者への純粋な羨望と憎悪。
「うわっ、でっかいのが出たなぁ……今度こそ魔法使いから倒したいけど、ブロックされる気が」
「さっきのセリフから判断すると、何かそんな気がするよねぇ……どうする、弾美君?」
「美井奈がでっかいのをマラソンかなぁ……俺が敵の剣士をブロックするから、薫っちは抜けるかどうか試してみてくれ。駄目なら剣士から倒そう!」
「了解~、私は両方のサポートをしながら、最初は様子見でいいのかな?」
ボス級の敵の多さに、やや混乱するパーティだったけど。何とか各個撃破して行こうと、気合いの号令でヤル気を盛り上げるパーティリーダーの弾美。何しろ、最初は1対1のタイマン勝負だ。
瑠璃が回復要員に控えている分、こちらがやや有利かなって程度である。その分各々へのプレッシャーも相当なモノ、下手をすると逆にタイマンで倒されてしまいかねない場面である。
マラソン慣れしている筈の美井奈も、いつもより大きな相手と言う事もあってビビリ気味。追いつかれたらあっという間に瞬殺されるかもと、ネガティブ思考に歯止めが利かないようだ。
それでも始まってしまえば、瑠璃の声援と後押しに根性を見せる美井奈。
幸い、図体の大きさに比例して動きの鈍いゴースト集合体。時折立ち止まって、呪いの魔法を発動しているようなのだが。今回は瑠璃の天使魔法が、フィールド全体に効果を発揮している。
万全のサポートに、美井奈も何とか安定したキープを見せているよう。ところが肝心の殲滅班が、やっぱり思ったように事を運べない。滅びた町の軍隊長が、弾美と薫を相手取って鉄壁のブロックを披露しているのだ。
薫の必殺のチャージ技も、雷の放電陣で潰されてしまい。その後恋人の剣士の《アトラクト》という防御スキルが発動、近くにいたキャラは軍隊長しかタゲれなくなってしまった!
究極と言っても良い防御スキルには、素直に脱帽の一行である。
「参ったなぁ……こんなスキル技使ってくるとは。しかもこの幽霊剣士、かなりタフな性能だぞ」
「ううっ、魔女のタゲが私に来てるぅっ! 飛び込み損だったなぁ、今日はチャージが裏目だよ」
「天使魔法でも、キャンセルされない? あれっ、私も魔女さんタゲれないやっ」
タゲれないと言う事は、つまりは殴る事も魔法を撃ち込む事も出来ないと言う事である。まさに究極の護りスキル。スキルを使ったこの剣士を倒さない限りは、恐らく解けないのだろう。
瑠璃まで範囲内にいたらしく、これは大きな誤算である。これでいざと言う時に瑠璃がちょっかいを掛けて、タゲを取る事も不可能になってしまった。今の所は、薫が単発魔法の麻痺や毒に侵されているだけで済んでいるのだが。
絶対に強力な攻撃魔法を持っているのは、冒険者の勘で分かってしまう。
それを使って来るまでに、何とか前衛の剣士を落としてしまいたい所。剣士の装備は、固そうな鎧と盾は別として。嫌な感じに赤黒いオーラを発している片手剣は、闇の追加ダメージが強烈。
闇種族の盾持ちキャラのハズミン相手でも、平均20前後の追加ダメージを通して来る。幸い攻撃スピードはそれほど速くないので、それを幸いにとガンガン殴り返しているのだが。
肝心の薫が、魔女のちょっかいでいつもの迫力が出ない有り様。
それでも半べそ状態で、死霊剣士を殴り続ける薫。瑠璃の天使魔法で、状態異常は数秒後には解除されるのだけれど。やっぱり散漫になるのは仕方なく、魔法を気にしつつの攻撃続行。
美井奈のマラソンが平気そうだと言う事で、瑠璃も本格的なアタック参戦。ここから流れがパーティに向いて来た。光属性のスキル技が、面白いように剣士のHPを削って行く。
そして案の定、HP半減からの熾烈な反撃が。
「うわっ、魔女の雷が落ちて来たっ! 剣士も範囲攻撃使い始めたぞっ」
「魔女の攻撃は防ぐ方法無いもんね~っ。場所移動してもついてくるし、参ったねぇ」
「わっわっ、こっちのおっきい子も何か口から吐いてますよっ! 気持ち悪いっ、骸骨の塊がドロドロって流れ出て来てますっ!」
何故か一斉に特殊技を発動する敵の一団。こちらは対応におおわらわで、一体どれから取り組めば良いのやら。取り敢えず、タゲれない魔女の娘は後回しなのは間違いないけれど。
騒ぎまくる美井奈を先にしてあげようと、メンバーの意見は瞬時に一致。魔女も剣士から離れようとせず、こうなったらこのカップルを一人でキープしてやると、弾美が息巻いての宣言。
雷の魔法は避けようが無く、危ないシーンなのは変わりないのだが。平気だからそっち頑張れとの弾美の言葉に、剣士と魔女は後回しが正解だったかもとの後悔の発言も。
魔女の娘がますます凶悪になった後の放置は、確かに危ない事この上ない。
ゴースト集合体の吐き出したモノは、スライム状の新たな敵のよう。骸骨を核にしているようで、嫌なオーラを発していて。産みの親より素早い動きで、俊足魔法の切れた美井奈にたかって来ている。数匹いるそれは、恨みでもって相手を消化しようと動いているかのよう。
ゴースト集合体も、コイツを産み出したせいでHPを消耗していた。魔法を掛け直したいとの美井奈の言葉を受けて、瑠璃が全部を範囲に入れての《ブリザード》を撃ち込む。
続いて薫が、雑魚のスライムに《炎のブレス》から殴りかかって数減らしを敢行。
タゲは綺麗に瑠璃と薫に移行したようで、美井奈も《俊足付加》で瑠璃のサポート。それから強化魔法を掛け直して、薫の削りのお手伝いへと移行する。なかなか様になっているマラソンのスイッチに、今度こそ順調な敵の数減らし&HP減らし振り。
数分と経たないうちに、雑魚は一掃されて巨大な大ボスのみとなって。弾美も2体相手に何とか持ち堪えている内に、コイツも倒してしまえと意気上がる女性陣チーム。
弾美の持ち堪えている最大の原因が、魔女の娘のMP設定だろうか。時折ヒーリング状態になるのか、一切の動きを停止してしまうのだ。カップルで同時に畳み掛けられると、とても耐えられない弾美は、その隙にステップを駆使して魔女の娘から距離を取るのだが。
相手もヒーリングを中止して、テコテコと付いて来る嫌な仕様。
剣士のハイパー化も、どうやらSPの枯渇と共に普通の攻撃に戻った様子。そんな訳で、弾美からもゴーサインが出た次第のゴースト集合体退治なのだけれど。
美井奈の破魔矢での遠隔攻撃が、面白いほどダメージを出している。一見順調だが、魔法アタッカーの瑠璃は未だに止まれないマラソン状態である。薫が何とかタゲを取ってあげようと、今度も横着をしての距離詰め《竜巻チャージ》を敢行。
それが勢い良過ぎたのか、何故か敵の透明な体内に埋まってしまう破目に。
「ひあっ、なっ……何で~っ!? 埋まっちゃった、私のキャラ! もう嫌だ~っ、チャージが全部裏目に出る~っ!」
「わっわっ、薫さんっ……どうやって救い出せばいいのかなっ!? とっ、溶けない内にっ」
「いい大人が騒がないで下さいよっ、薫さん。横着して、チャージで距離詰めようとした罰ですよ」
美井奈に冷たい言葉を浴びせられるまでもなく、ひたすら恐縮しつつ猛反省中の薫だったのだけれど。キャラの方は、瑠璃が立ち止まって果敢に殴り掛かると、何とかその振動で放り出されるに至って。ところが今度は、殴った瑠璃の攻撃速度が極端に遅くなってしまう。
それがどうやら、この敵の特性のようで。直接攻撃をする相手を、ゼリー状の体内に取り込んでしまう嫌な特殊技の持ち主らしい。それが分かってしまうと、このままマラソンでいいやと呑気な瑠璃の発言に。
遠隔を駆使して削ろうと、自然と打ち合わせ終了?
そこからの戦場は、派手な事この上なかった。美井奈が《貫通撃》や《スクリューアロー》で、遠距離からタゲを奪ったかと思えば。さらに瑠璃が《ウォータースピア》や《マジックブラスト》で、やっぱり遠距離からタゲを取り戻し。
巨体の敵は、殴る相手を求めてウロウロするしかなく。HP半減からの再度の髑髏スライムの吐き出しも、薫の《炎のブレス》でこんがり焼かれてのマラソンに持ち込まれて。
体力の低い瑠璃や美井奈は、お蔭で安心して遠距離を保っていられるこの図式。ゴースト集合体の見せ場は、こうなってしまえばこれ以上ある筈も無く。何となく遠距離ピンポンのコンビ技に嵌ってしまったまま、終焉の幕引きとなってしまった。
召喚スライムを焼き尽くした薫も、何とか年上の面目を保ててホッとした様子。
「ハズミちゃん、終わったよ~っ。ヒーリング終わったらそっち行くね?」
「わっ、お兄さんっ! 苦戦してるじゃないですかっ……やっぱり敵が2体はきついですかっ!」
「アンデッドだから、闇魔法でHP吸えないしなぁ。追加ダメージが盾や防具じゃ減らせないのも、地味に痛いんだよなぁ」
「さらに、魔女の魔法を止める方法が全く無いもんねぇ……最終ステージだけあって、嫌な仕掛けだわっ!」
文句を並べつつも、美井奈と薫は休憩無しでの飛び入り参戦。先ほどの戦闘で破魔矢を綺麗に使い切った美井奈は、仕方なく属性ダメージの矢束をチョイスしているよう。
既にHPが半減している剣士は、二人のアタッカー増加にあっという間に血だるま状態。瑠璃が回復する前に、25%減まで追い込んで。瑠璃ちゃんを待った方が良くないかなと、冷静な薫の助言は一歩遅かったよう。
再度のハイパー化で、前衛の剣士がバーサク状態で範囲攻撃の乱打。前衛の弾美と薫は避ける間もなく細切れ状態に。慌てて回復を飛ばしに向かう瑠璃は、魔女が前衛まで出張っているのに気付いて戦慄する。
その魔女の超電磁スパークで、範囲に入ってしまった瑠璃もスタン状態に。
文字通り手も足も出ない状況の中、引き続きピンチの前衛陣。辛うじて、スパーク範囲外にいた美井奈。機転を利かせて《影縫い》で、死霊剣士の範囲技にスタン止めを狙うのは良いけれど。
相変わらずフリーの魔女が、続けて大技の魔法を撃つ素振り。範囲技を喰らって体力が思いっ切り低下している前衛が、これに耐え切れるかどうか。捨て身の弾美が、スタンが解けたと同時に《ドラゴニックフロウ》から《闇喰い斬》の連続技を剣士に浴びせ掛ける。
魔女の魔法が来る前に、あわよくば剣士を倒して魔女の無敵状態をキャンセル出来ればとの思いだったのだけれど。範囲技の《ドラゴニックフロウ》に、何故か剣士の隣の魔女も巻き込まれ。
詠唱もついでに止まってしまうと言う、思いがけぬ僥倖が。
「あれっ、魔女タゲれるようになってる? それとも竜スキル系だから、反則的な効き目があったのかなっ?」
「わかんないけど、魔女が怯んだ今がチャンス! 剣士に止めを刺しちゃえっ!」
「瑠璃っ、とどめをやるっ! 光属性のスキル技見舞ってやれっ!」
敵のスタンに慌てふためいて、中盤でたたらを踏んでいたルリルリだったのだけれど。弾美の号令を耳にして、それならばとダッシュで剣士に近付いて《ハニーフラッシュ》のお見舞いに。
さすがの強靭な剣士も、これには参った様子。ぐらりと身体が傾いで行って、全ての活動を停止する。喜びも束の間のパーティ、魔女の娘の反撃に備えて、それぞれが囲い込みに動き出しに掛かるのだけれども。
何だか魔女の娘の様子が変で、どうやら戦意喪失した様子。
用心しつつ、瑠璃はぼろぼろの前衛陣に回復を飛ばして行って。麻痺や毒魔法への対策にと、休憩後に再度の天使の輪っかを召喚するのだが。ちっとも動こうとしない魔女の娘に、攻撃を仕掛ける訳にも行かないメンバー達。
美井奈が恐る恐る、射掛けても良いものかと弾美に相談する。魔女の娘の周囲に真っ赤なオーラが発生していて、前衛陣は近付くのを躊躇っていたのだ。
話し掛けれるかもと、弾美は果敢に魔女の娘に近付いて行く。案の定の継続ダメージが来たが、しかし会話は出来るよう。新たな展開を期待して、人身御供も已む無しのハズミン。
定期的に瑠璃と美井奈から回復を受けつつ、魔女の娘との話を進めて行く。
――まずはお礼を言わせて下さい、時空を超えて辿り着いた冒険者の方達。魂の牢獄は、私の母親の魔女の後悔と懺悔の念から、図らずに生まれてしまった副産物でした。
私の母は、本当は手に入れた巨大な魔力で、忌まわしい過去を変えたかったのでしょう。その念が牢獄となって、今まであの町に関わった罪の無い魂を捕らえていました。
その望まない鎖も、あなた達の活躍でようやく解き放たれました。
お礼に、私の知っている腕の良い鍛冶屋の工房の地図を差し上げましょう。あなた達の目的は知っているつもりです、その為には最善の準備が必要な事も……。
これは母に対する裏切りなのかも知れません。ただ、私は母の所業を、この牢獄から全て目撃してしまいました。その愚かな行いをあなた達が裁くと言うのなら、私は止めようもありません。
大勢の人が、母のせいで人生を狂わせてしまった……。
こんな事を頼めた義理ではありませんが、どうかお願いします。母の犠牲になる人を、これ以上増やさないで下さい。大樹との関係は私には分かりませんが、あの強大な力も自然界にあってはならないものなのかも知れません。
強すぎるパワーは、大抵は周囲を不幸にするものです……。
最後にこれを……もし母と話し合う機会があったら、渡してみて下さい。ひょっとしたら理性を取り戻すかも知れません、それが母の為になるかどうかは不明ですが。
運命の歯車は、既にあなた達も巻き込んでしまっているようですね。天使と魔女と、大樹とあなた達冒険者……互いの利害のみならず、どうか生き残った者にも私達死者にも、過ごしやすい未来でありますように。
――心から祈っています、あなた方に幸あれ……。
「わっ、このステージはこれでクリアっぽいね。最後に何貰ったの、ハズミちゃん?」
「えっと……娘の形見らしいなぁ、リボンのついた古い人形だって。これはひょっとして、魔女との対決で有利になったりするのかなぁ?」
「選択肢が増えるのかもしれないですね、よく分かりませんけど。戦闘終了と一緒に、結構アイテムが入って来ましたよね、お姉ちゃまっ?」
「入って来たけど、ほとんどか呪いの装備だねぇ。樹上の町には、確か教会とか呪い解除設備は無かった気がしたけど、どうだっけ?」
「無かった気がするわねぇ……そう言えば、鍛冶屋の場所を教えて貰ったけど、そこにはどうやって行くんだろう?」
入手したアイテムの類いが、パーティの混乱を招く結果になってしまったのだけれど。地図はアイテム欄から使用も出来ないし、持っているだけでは無用の長物に違いなく。
行ける選択ステージを生み出している椅子にトレードしてみてはと、最終的には瑠璃が提案して。どうやらそれが正解で、先ほどクリアして暗く示されたステージの隣に鍛冶屋のマークが。
沸き上がる一行だが、果たして真っ先に進むべきかどうか。
鍛冶屋が呪い装備の解除をしてくれるとは思わないが、武器装備のパワーアップには役立ちそうではある。まさか罠だとは思わないが、クリアの順番で思わぬフラグ未遂が起きないとも。
それが怖いのだが、特に役に立つ情報も汲み取れない他のステージのタイトル名に。悩むのも莫迦らしいからと、先に鍛冶屋に行こうと弾美が提案。反対する声も無く、素直に従う女性陣。
美井奈など呑気に、弓矢の耐久度を上げて貰えないかと本気の思案。
そんなサービスはメイン世界でも無いと、弾美や薫は苦笑いを浮かべるのだけれども。確かに《貫通撃》を持っているキャラには、武器の耐久度上昇はかなり嬉しい補正である。
ところが早速転移した先の鍛冶屋には、経験者の思惑を上回るサービスが存在していた。鍛冶屋の工房は、一言で言えば熱気と騒音に彩られた賑やかな場所で。
一行を出迎えた鍛冶屋の主も、アクの強いマッチョな中年親父だった。どうやらここも時空の配線が他とは違うと言う設定らしく、鍛冶屋の親父は久し振りの客を歓迎してくれた。
自分に出来る補修を並べ立てながら、それに必要な品物を口にする。
「ほらっ、耐久度の上昇あるじゃないですかっ! 私はこれに決めましたよっ!」
「まぁ慌てるな、美井奈。武器防具の性能の上昇も出来るんだな、持って来るアイテム次第では」
「本当だぁ、凄いなぁ……持って来るアイテム次第では色々補修出来るんだねぇ」
「カバンの中には……あっ、さっきの魔女の家の探索で、補修リキッド1個見つけてた。何に使うんだろうと思ったけど、これが補修には必要なんだねぇ」
おおっと盛り上がる一行だが、アイテム1個だけでは全く役に立たないのも確かな事実。いったん戻って魔女の住処をもう一度探索するか、他の選択ステージでもひょっとしたら獲得出来るかも知れないと議論するメンバー達。
その間も鍛冶屋の親父は、一行の着用しているレア装備に興味津々な様子。お前達の鍛錬は素晴らしい、向上心を持って修行を怠らない事。そうすれば、いつか巡って来るチャンスに対応出来るのだと熱弁を振るう親父。
ゲームの中だけに、余計その言葉が身に染みるねとは薫の言葉。
何しろ強敵に対しては、最大限の備えで当たらないと数分後には負けが確定してしまう。備えと言うのはちょっとした工夫やチームワークや、身にした武器装備への信頼度だったりする訳だ。
それは普段の生活でも言える事で、ちょっとした工夫や向上心が世の中をどんどん便利にしていって。気付けば余分に思えていた、人間の本質には不可欠なものが犠牲になったのかも。
例えば究極の武器や装備を手に入れて、たった一人の力でボスを倒せたとしても。得られる感動は意外とちっぽけで、そんなゲームにはやがて飽きてしまうだろう。
足りない部分は、工夫やチームワークで補う位が丁度良いのかも。
そんな年長者の熱弁も、弾美や美井奈にはピンと来なかった様である。強い装備はあった方が良いに決まってると、二人口を揃えての反論に。今のは喩えなのだと、トホホな表情の薫。
このチームの戦闘スタイルやムードなどは良いのだから、このまま明日のエンディングまで頑張ろうとの薫の締めに。瑠璃がその通りですねと、年長者を立てる素振りの発言。
みんなで強くなって、みんなで良い結果を見届けるのだと珍しく意気も高い。
そんな問答の後に、揃って魔女の住処に戻って来るパーティ。一応家の中を手分けして探してみたものの、次々と湧き出る雑魚に足止めされて時間が減って行くばかり。
次のステージに飛び込んで、ちょっと様子を見てみようかとの瑠璃の提案に。進まない探索に飽き始めていた一行は、即座に乗っかる事に。そんな訳で、次なるステージにダイブ。
今日2つ目となるステージは、残された調査隊というタイトルを選択。地上の町に出れば補修用のアイテムも見つかるかもと、何とも安易な推論がその理由。
ところが始まったイベント動画は、それどころではない様子。
――調査隊が作った町は、混乱の渦中にあった。突然幹の勢いを無くした大樹からは、悲鳴のような幹鳴りが絶えず起こる様になり。不安を増徴されたように、動物や蟲の中には凶暴化する連中も続出しており。
これは不味いと、とうとう出された避難勧告。キャラバン隊は列を成して、ここまで辿って来た荒野の道を去って行く。動くものに反応して、そこに理性を失った猛獣の群れが。
未だに混乱のさなかで、統制の取れていないキャラバン隊。このままでは反撃も覚束ない、時空の裂け目を使えば助けに行く事は可能なのだけれど。
戻って来れないかも。あなた達は①護るために、猛獣の前に立ちはだかる
②注意を逸らすだけで充分、ここから援護
③天使の力を借りる、妖精に相談だ
「あれっ、戻って来れないかも知れないの? 時間制限ありなのかな、次元の裂け目って……ああっ、後ろのこれかぁ!」
「転移魔方陣とは違う設定らしいですねぇ、戻って来れなかったらゲームオーバー? それとも、ライフが減ってやり直しかなぁ?」
「遠隔での援護と言っても、限度がありますしねぇ。ここは格好良く前に出ますかっ?」
美井奈の意見は確かに格好は良いが、一番危ない方法には違いなく。次の案が妖精に相談だけど、今までの経緯からして怒られて終わりの可能性もあるのがちょっと嫌。
それなら勇ましく特攻してやろうと、何となく勢いで①を選択する一行。戻れなくなったらそれまでだと、何とも前のめりなメンバー達のチョイス。その瞬間に、本当に突進して来るモンスターの群れのまん前に放り出されるパーティ。
慌てふためきながら、強化に走る弾美達である。
急な戦闘モードに文句を並べ立てながら、それでも前衛の二人が出張ってラインを形成する。敵は雑魚のようだが結構多く、二人でのキープは心許ないかも知れないのだが。
範囲技は魔法しか持っていない瑠璃は、やっぱり後衛に位置した方が安定するので。弾美と薫で頑張るのが、ベストではあるよう。突進して来るイノシシやヒョウ、魔力を含んだせいで巨大化して魔法も使って来る蟲たちの群れは、面と向かうとやっぱり怖い。
さらに何たる事か、一度殴ったり挑発を入れた位では、相手は立ち止まってくれない事が判明して。これではフォーメーションの意味が無い、慌てて範囲スキル技で敵を弱らせに掛かる弾美と薫なのだけれども。
一度の範囲スキル程度では、倒れてくれる筈も無く。
タゲが来ないのならと、瑠璃も《ブリザード》を大盤振る舞い。美井奈も吹き飛ばしスキル技と《貫通撃》の併用で、弱った敵を倒したり、まだまだ元気な敵は吹き飛ばしたり。
最後のスイーパー役を、割と上手にこなしている少女である。意味の無くなった前線コンビは、とにかく範囲スキルを惜し気もなく使っての大暴れを見せている。闇の秘酒もあるだけ使おうと、本当に1匹も逃す気はない素振り。
やがて戦場は、目に見えて分かるほど敵の姿が減って来た。キャラバン隊からも、いつの間にか応援の護衛兵士が出張って戦線を構築しているよう。嫌な仕様の敵とはいえ、そこはやはり雑魚扱い。こちらのパーティも、チャージや毒などで被害はあったが、何とか全員無事。
最後に現れるのは、一際大きな体躯の蟲の親玉。
途端に怖気づく、キャラバン隊の護衛兵士達。戦場をよく見渡せば、天使と妖精も避難誘導に参加していたらしい。セリフが無かったので、今まで存在に気がつかなかったけれど。
瑠璃がテコテコと歩いて行って、両者に今後のお伺いを立てる。一般人の避難は任せてと言われ、戦闘をこなす役目はやはり自分達のパーティらしく。それより戦闘が終わったら、もう一度話し掛けてと意味深なセリフが。
報酬が貰えるかもと、単純に盛り上がる年少組。
「よしっ、後ろ盾は確保したぞっ! これで路頭に迷う事は無くなったかもな!」
「そうですねっ、安心してボスに立ち向かえますよっ! さすがはお姉ちゃまですっ!」
「えっ……そうかな? 天使見つけただけだけど、みんなが安心出来たなら何より?」
瑠璃もよく分からない感謝を受けて、パーティは変な盛り上がり。対する敵は大型のコオロギのような形状の虫型モンスター。魔力溜まりに酔ったように、頭をぐらつかせている。
イベントエリアで嫌というほど思い知ったのだが、この付近の虫型モンスターはほとんどが魔法を使って来る。注意しろよと警告しつつ、まずは弾美がタゲ取りへと前進。
誘われるように、巨大コオロギもこちらに反応。弾美の《ブロッキング》のスキル技から、がっちり対面しての殴り合いが始まると。薫と美井奈も援護のアタックを開始、遠慮なく殴り始める。
瑠璃はいつもの様子見で、止めるべき特殊技を見極めつつ回復支援。
巨大コオロギの攻撃力はかなり強力で、たまにジャンプからの押し潰し技が範囲ダメージで嫌な感じ。それを瑠璃が《Z斬り》で防ぎ始めると、途端に戦闘は楽になって行き。
最近ではボス戦でも、多数で来られる事が多かったりしたので。こうやって最初から四人で囲んでしまうと、何となく楽な作業に思えて来るから不思議である。
まぁ、このボス戦の前に、多数の雑魚を掃討したのも事実ではあるし。そう思うと、前半の雑魚戦に手間取っていたら、何かしらのペナルティが入っていたのかも知れない。
あながち邪推ではないかも、それとも選択肢によって難易度が高くなったり。
そんな推論を交わしながらの、割と呑気な戦闘のペース配分に。敵のHP半減からの特殊技が、容赦なく襲い掛かって来る。油断していた一行は、思い切りそのコンボ技の餌食に。
もっとも翅を震わせての不協和音で、キャラ全員が金縛り状態になってしまっていたので。押し潰し技はどうやっても防げなかったという苦い顛末である。慌てて瑠璃が範囲回復を飛ばし、弾美も遅ればせながらのスタン魔法で、パーティ立て直しの間を作る。
敵の範囲から漏れていた美井奈は、憤慨しながら追い込みの催促。
「まだ半分もあるから、もうちょっと待って美井奈ちゃんっ! 今は前線の立て直しが先だからっ」
「相変わらずせっかちだな、美井奈。頭冷やして、ちょっとは回復手伝えっ」
そう言いながら、弾美は自らも《シャドータッチ》でHPの回復作業に余念がない。美井奈も二人に諭されて、はやる心を抑えて薫に回復を飛ばすのだが。スイッチが切り替わったかのように、巨大コオロギの範囲魔法攻撃が開始され。
せっかく満タンにした前衛の体力が、再び削られて行く有り様。一人だけ範囲外で元気な美井奈は、やっぱりこれにも文句を言って来る。要するに、治してあげたのだから傷付くなという。
それは無茶だと、弱々しく抗議する薫。
お前もスタン技を持ってるだろうと、弾美の冷静な援護射撃に。それもそうでしたと、ややバツの悪そうな美井奈の返事。すっかり忘れていたらしく、ちょっとトホホな感じで場がしらけるのだが。
美井奈だから許される部分もあって、さすがの妹属性キャラ? である。その後の美井奈の下手な援護も、一応は援護には違いなく。何とか範囲被害を最小限に抑えて終盤戦へ。
巨大コオロギの最後の悪あがきの跳躍を阻止して、待ってましたの全員での追い込み作業。必殺スキル技のオンパレードに、意外にすんなりと倒されていく大ボスだったり。
そこはそれ、成長の証。全員でハイタッチで健闘を讃えあう。
お楽しみの敵のドロップは、今回は経験値とギルのみという寂しいもの。雑魚からも大した物は回収出来ず、これはいよいよラストへの最終モードだろうと話し合うメンバー達。
要するに、これからはドロップ云々ではなく、物語の収拾へと全力を注いで下さいと言う暗示なのだろう。それにしても寂し過ぎると思っていたら、キャラバン隊からお礼が貰えるというサプライズが待っていた。
喜び勇んでその内わけを見てみると。どうやら先ほどの鍛冶屋の、強化補修用素材がメインの様子。他には薬品や珍しい矢束、効果の高いパワーアップ料理などなど。
料理も効果時間は20分と短いが、戦闘直前に各ステータスや攻撃や防御力をアップ出来るのはとても有り難い。矢束は喜んで美井奈が貰って、補修素材は瑠璃のお預かりに。
そして帰り道はあるのかと、ここで初めて我に返る一行。
「わっ、出て来た穴がちっちゃくなってる! これは……妖精は通れても、キャラは通れない?」
「うっ、そんなに手間取った記憶は無いんだけど……これはやっちゃったかなぁ?」
「あれっ、誰か天使と話をした? 後で来いって言われてたような」
そうでしたっけと、軽い美井奈の返事。それならとミイナとルリルリが、この事態を何とかしてとのお伺いに向かう事に。弾美と薫は、何とか通れないかとスイカ大の穴と悪戦苦闘。
結局は冷静沈着な行動の、瑠璃組が新たなる道を拓く事に成功したようだ。全てお見通しの天使は、あのルートはもう時間切れだからと、別の次元道を用意してくれるとの事で。
変な分岐に入ったんじゃなかろうかとの心配をよそに、とにかく他に選択肢も無い訳で。大人しく天使の言いなりに、用意された道を行く事にするパーティメンバー達。
そして新たな次元道の前で、挿入されるイベント動画。
――滅びの瞬間は何度も見て来た私ですが、その度に混乱が周囲に甚大な被害をもたらします。今回はあなた達のお蔭で、それも最小限に食い止める事が出来ました、感謝します。
あなた達には、まだやる事が残っています。こんな所で足止めされている時間はありません、この道をお行きなさい。案内は妖精がします、そしてこの先に大樹の精神体が待っています。
あの子は、ずっと孤独の中にいました。最期の時も孤独で迎えさせるには、あまりに忍びありません。あなた達の魂は、孤独に共感出来る優しさに満ちているのが分かります。
最期にアドバイスを一つ、魔女の後ろに魔族の暗躍が伺えます。私が不覚を取ったのも、そのせいではあるのですが。このアイテムが、この先の指標となるでしょう。
あなたの行く先に、幸のあらん事を祈っています。
滅びの混乱のさなか、天使はそう言って少しだけ寂しそうに微笑んだ。黄色い砂煙を立ち上げながら、人間の馬車隊は荒野を逃げ延びて行く。
全ての混乱をもたらした大樹は、見上げれば相変わらずそこに存在していたけれど。力の象徴となっていた、整然とした魔力の奔流はもう見受けられない。
大気中に散って行く力の喪失は、ある意味自分達がもたらしたものなのだ。
この先のルートで、さらに四天王を倒す運びになるだろう。そうすれば一層この滅びは加速して、長い時を旅して来た大樹は終焉へと向かう事となるのだ。
大樹本人の望む術とは言え、本当にこれでよいのだろうか?
――託された任務の重大さに、改めて怯んだ様子の冒険者達だった。