♯25 平凡な休日・非凡な日常
大井蒼空町の住宅街の一角にある平野家では、朝っぱらから騒々しい遣り取りが場を賑わせていた。その大半は来客によるもので、それはまぁ仕方ないとして。日曜日の朝の10時から兄妹によるリビングの掃除も、何とその来客を交えてのものだったりして。
平野家の両親は今日も仕事で、家を占拠しているのは小学生から中学生までの男女に限られている。とは言っても、唯一の女子は平野家の長男である弘一の妹、美咲だけ。
小学6年生ながら、美咲も立派にギルド『蒼空ブンブン丸』の一員である。兄の影響で始めたネットゲームながら、今や兄より上手だとの評判もメンバーからちらほら上がるほど。
今日の来客も、全てそのギルドメンバーが占めている。
その中には当然の如く、ギルドマスターの弾美も混じっていた。事の成り行きは、土曜日の他愛も無い会話から。来週からテスト期間の発表があって、そうなると2週間は遊べなくなる訳で。
そうなる前に皆で遊ぼうぜと、言い出しっぺの弘一の家にお邪魔する事になったのだが。兄弟を含めて結構な人数なので、快適に過ごせるようにちょっと家具の配置換えなど。
出た埃を掃除機で回収、子供達の手際もなかなかのもの。
とにかく、そんなこんなで何とかリビングに五人分のスペースを確保した一行。弾美は弘一の妹の美咲と、呑気にテレビで対戦ゲームを始めている。美咲は小柄だが活発な性格で、お蔭でこの男の子だらけのメンツにも全く物怖じしていない様子。
その兄の弘一はと言えば、弾美チームの最近の状況の詳細を、自分のHP用にインタビューしていたりして。レースゲームに夢中な弾美は、気もそぞろな話しっぷりなのだけど。
怒る風でもなく、弘一のメモも適当な様子。
「また試験期間が終わったら、詳しく聞くからその時はよろしくな、弾美。でも気になる点がちょっとだけ、この裏の隠しステージって何?」
「あ~、それは確か……タウロスの集落のクエで、瑠璃が偶然闇のトリガーを入手して、むっ、抜かれたっ! そんで、それで湧かしたNMが裏チケットとお供え物をドロップして……くっ、隠し裏ステージみたいな所に入れた」
「おおっ、裏ステージはレア装備がご褒美だけど、そこは何か貰えたのか?」
「集落があって、レベルアップ果実とか売ってたなぁ……あと、魔の宝珠ってのとか、呪いの武器や装備一式とか」
それは凄いと、進チームのメンバー達。もっとも、この終盤で金のメダルを10枚単位で持ち合わせてなどいない進チーム。仮に条件を満たしても、買い物は出来ないと嘆いている。何でそんなにメダルがあるのとの問いに、自然に集まるのだとの弾美の答え。
弾美自身にも良く分からないのだが、自分のパーティが非常に運が良いと感じるのも確か。トリガーなどが良い例で、用意されたのはほとんど入手したのではないかと言う手応え。
エリアも同様、行っていない場所もほとんど無い気が。
進チームの状況はどうなのかとの弾美の問いには、進は微妙な表情。今日は、淳が家族の買い物に付き合って、ここには不在。もう一人の村っちは、年上のフリーターで招かれておらず。
即席のチームにしては雰囲気は良いのだが、皆がイケイケの性格なのが玉に瑕のようで。無茶な戦闘も多いらしく、その結果、全滅の数が増えてしまって大変だとの事。
リーダーの身としては、そんなメンバーの統制に、毎回胃が痛いと愚痴をこぼす進である。その気持ちは良く分かると、弾美は何となく労わるコメントを発しつつ。コーナリングをミスったと、続けて大声で舌打ち。
とにかく2チームとも、最終ステージに残れて何よりと一同。
「淳は隣街まで出掛けたのか? 散髪に行くって言ってたけど」
「姉ちゃんの買い物にも付き合わされるって言ってたけど。三人もいるから大変だな」
「そりゃ大変だ、持つなら断然妹だよなぁ」
「妹だって、性格によるけど……痛てっ!」
発言に不注意のあった弘一は、妹に蹴られて悲鳴をあげる。弾美は笑いながら、容赦なく美咲との距離を一気に詰める。侮れない少女のコントローラー捌きに、弾美は劣勢だったのだ。
美咲は小柄で癖っ毛が特徴の、弘一とは2歳年下の愛嬌のある少女である。そう言う点では兄妹の外見は良く似ており、兄の弘一もメンバーの中ではやや小柄な方だ。
ギルド『蒼空ブンブン丸』の広報係でもある弘一は、HPやブログの更新もマメである。最近は限定イベントであぶれてしまった晃も手伝いを買って出ているらしく、その活動は衰えていない。
美咲が弾美に、その二人の行動振りを咎めるような発言。
「弾美兄ちゃん、この二人ったら、最近ずっとつるんでてチョー気持ち悪いんだけど。間違いが起きないうちに、弾美兄ちゃんからも言ってやってよ!」
「どんな間違いが起きるってんだ、アホッ。だからHPの大幅更新を手伝って貰ってるって、この間も話しただろっ!」
「晃もイベント権利失って寂しいんだろ。あっ、そう言えば今日持ってきた同人誌、弘一のHPでも宣伝してくれっ。大学のサークルで売ってるって」
「これ凄いなぁ、結構な最新情報まで網羅してるし、読みやすいし。どんだけ時間とか人員掛かってんだろう?」
良く分からないがと、弾美が訪れた時の状況を思い出しながら。編集作業は、確か4~5人でやってた様子だと口にする。情報の収集には、他のサークルの手伝いを得ていたようだが。
やたらと静かだった進は、弾美の持って来た同人誌を熟読していた最中。晃も同じく、装備イラスト集を読み耽っていた様子。美咲と弾美から話を振られて、やや慌てて顔を上げる。
眼鏡を掛けてやや太り気味な晃は、こんな感じでいつも弄られ役を担っている。それでもギルド随一の金策能力を備えており、メンバーからは重宝がられているのも確か。
合成などを中心に、とにかくギルドの財政係的な存在であるのだ。
進は短髪で、外見は爽やかな印象の好男子だ。やや神経質で、メンバーの誰よりも几帳面な性格をしている。そのせいでサブマスの任を仰せつかっていて、それはまぁいいのだが。
最近は暴走気味のメンバーの素行などに、ややその神経をすり減らしている感も。リーダーの弾美がギルドの運営には無頓着なので、その分進が割を食っている気もする。
とにかく楽しめればよいと言う、メンバーのお気楽な行動振りに。何とか秩序をもたらすべく、毎回の如く知恵を絞っている存在が進である。そんな苦労を理解する者も多くなく、あまり報われていない悲しいサブマスとも言えるかも。
それでも、ギルドを誰よりも愛しているのもこの進であろう。
「そう言えば、晃も最近はメイン世界でさぁ、相沢や林田と結構冒険してるみたいだぜ」
「何っ、お前ひょっとして……点数取りに貢いでいるんじゃ無いだろうなっ!?」
「えっ、あ~う~んっ……」
コイツは絶対貢いでいると、何故か答える前から決定事項で叱責されて。女の子の気を引くためには何でもするのかと、メンバーから槍玉に挙げられる晃。本人は必死に、レベル上げの手伝いをしているだけだとあたふたと反論する。
メイン世界での、この間のオン会のような場面で役に立ちたいとの願いを受けて。レベルを上げたりキャラの成長にアドバイスしたりと、同級生の少女達に指南をしているそうなのだが。
弾美達が限定イベントに関わっている今こそ、こっそりとレベルを上げて驚かせるチャンスと見たようで。コツコツと真面目にレベルを上げて、今や50程度までに達しているそう。
それを聞いた弾美達メンバーは、思わずホロリとしてしまう。
「くうっ、静香も茜も、なかなか泣かせるなぁ……晃、今の話は聞かなかった事にするぜ!」
「酷っ、散々弄っておいてそれっ!? まぁ、彼女達が強くなれば、実際ギルドも心強いよね」
「そうだなぁ……弾美の今組んでるメンバーも、限定イベント終わったらウチのギルドに入りたがってるんだろ? 小学生はともかく、薫さんは凄い戦力だよなっ」
「まあな、村っちは今のギルドに情があるから無理だけど。ほぼフリーの薫っちと美井奈は、もう入る予定で動いてるかな」
おおっと、男性陣の嬉しそうなどよめき。美咲も女性が増えて嬉しいだろうと、弾美が話を振ってみると。美井奈ちゃんとは、学校でも見掛ければ話をする仲だと報告して来る。
ゴールデンウィークのオフ会で、すっかり仲良くなったのだそうで。小学生のプレイ人数も、最近は上昇傾向にあるらしい。そんな動きの中心に、有名ギルドのメンバーの自分達がいるのだと、美咲はとても鼻が高そう。
そのうち小学生中心のギルドも出来るかもと、美咲は楽しげに話す。
毎週張り切ってメンバーに遊びの計画を持ちかける、先ほどから話に出て来る美井奈はと言えば。今日は母親に仕事のお手伝いを頼まれたとの事で、午前中いっぱいは忙しいそうだ。
薫もゼミのごたごたで、ちょっと時間を取られるとの話で。それなら合同インは夕方からにしようと打ち合わせをして、やや変則的な午後の3時からのスタートに決まったのだった。
場所はお決まりの弾美の家、まだ4時間以上時間はある。
「それにしても、弾美はいいよなぁ。他のメンバー、全員女性だぜっ? しかも、みんな可愛いし……ウチの妹なんか目じゃ、痛てっ!」
「パーティの役割構成が、即席にしてはまとまりがあるよなぁ。盾役と回復支援と、アタッカーが前衛と後衛だろ? バランスがいい気がしないか?」
「凄いよね、小学生で残ってるの、美井奈ちゃんくらいじゃないかな? 少なくとも、6年生にはもういないって話だよ、友達とか凄い羨ましがってた」
「へえっ、そりゃあ鼻が高いな。まぁ、メンバーが女ばっかりってのも良し悪しだぞ。正直、瑠璃がいるから助かってる部分はあるけどな。パーティバランスは、俺も大満足かな?」
何しろ、限定イベントで宝物庫の番人のドラゴンを倒した実績は伊達ではない。その知らせと謎解きの仕掛けを教えて貰った進チームも、一度はトライしてみたものの。
あっさりと返り討ちにあって、結局は泣く泣く討伐を断念したのだった。範囲攻撃や数の多さで押されると、スイッチで前衛を支える戦術は、回復の手段的に辛いものがあるのだ。
何しろ、ポケットの薬品を入れ替える時間が取れないと、防御の低いアタッカーはあっという間に火だるまになってしまう。大物と対峙する場合には、盾キャラや回復支援キャラがパーティに混じっていた方が断然に有利なのだ。
それなのに、限定イベントではそんな理想な組み合わせは滅多に見れない。
そんな感じで、ファンスカの限定イベントの互いの冒険を語り合いつつ。もう目の前に迫ってる、最後の戦闘などを予測してみるメンバー達。短期間で育てた、キャラの熟成振りはどうかとか、あのスキルが自分のキャラに欲しかったとか。
クリアは無事にしたいと願う、2組の生き残りパーティなのだが。果たして魔女に勝てるだけの力は、既に備わっているのだろうか。ここまで来て脱落は嫌だと、進から本音がポロリ。
確かにその通りだと、あちこちから追従の声。
「あと3日だもんな、今日を入れて。弾美の方は、今日は昼からインだっけ? こっちは今夜、初の最終ステージのイン攻略だよ」
「おうっ、色々な所で選択肢出るから気をつけろよっ。特にレベルアップ果実とレベルイーターの所なんか、恐らく欲張ると危険だからな。ってか、他の選択肢だとどうなるか試してみてくれっ」
「ここでレベル落とされるのは、チョー嫌だよっ。戦闘はやっぱり、かなり厳しい感じ?」
「いや、選択肢次第では楽になったり。むしろイベントが多いかなぁ……今日はどんなだろう?」
予想よりも今までの冒険内容を話してくれと、メモを取りながら弘一が文句を言って来る。レースゲームが一段落ついた弾美は、今度は4人プレイをしようと持ちかけて。
結局は、ゲームをしながらの対談形式が続行された形となって。何だかよく分からない騒がしさ、それもまぁこのメンツでは毎度の事なのだが。ハイテンションで、遊ぶ事数時間。
そろそろお腹が減って来たと、メンバーから声があがる。
それじゃあ出前を取るか、食べに出るかと弘一はあっけらかんと提案して来る。もてなす気配りは無いのかと、弾美は却下の構え。だけど料理など出来ないと、お客を前に戸惑う兄妹に。
スパゲティくらいなら作れるから平気だと、率先して買い出しカンパを募るギルドマスター。以前に瑠璃に作って貰った、チョー簡単なパスタレシピを思い出したのだったが。
美咲以外が500円を出し合って、弾美ともう一人買い物の荷物持ちを募ると。それ位は手伝うよと、美咲が元気に手を挙げる。出発前に念の為にと、幼馴染に電話を掛ける弾美。
ところが瑠璃は自宅にいない、一体どこへ?
その頃瑠璃は、ご近所で子供の頃からの友達の相沢さん家にお邪魔していた。昨日の夜に、メールと言うかファンスカのオンラインで、お互いの今日の予定を確認した女性陣なのだが。
つまりは瑠璃とその友達、相沢静香と林田茜の毎度の三人でチャットを楽しんだ訳である。そして暇なら会って何かしようかと、こちらも女同士での集会を計画していたのだった。
子供の頃から、だいたい遊びに訪れるのは静香の家がお決まりのパターンの三人。昨日の夜の会話では、日曜日の家の人の予定が、今ひとつはっきりしなかった静香だったのだが。
結局は両親が出掛けてしまい、思いっきり暇になった静香から電話でコールを受けた瑠璃。こちらも暇を持て余していた瑠璃は、読んでいた本を中断し、茜と一緒に相沢家に伺う事に。
静香の家は割と近所で、歩いて3分の場所にある。
こちらも一応の動機は、来週から試験週間だからと言う事もあるのだが。外に遊びに出掛けると、高確率でナンパされるので、遠出は嫌だと皆の意見は一致していて。
そんな理由で静香の家に集まった三人は、いつもの様にほんわかと談笑に耽ったり、ピアノの演奏を披露したりと時を過ごす。来週の日曜日にはピアノ発表会が控えていると言うのに、二人とも表情は至って呑気である。
静香の家には、何と小さいが防音室があるのだ。ピアノももちろん備え付けられていて、他の楽器も色々と置いてある。そのため三人も室内に入ってしまえば、ちょっと手狭に感じるのは仕方が無いとは言え。
思いっきり音も出せるし、歌だって歌える。
「あ~っ、スッキリしたっ。思いっきり声出して歌うとやっぱり気持ちいいねぇ」
「今度は茜ちゃんが伴奏する? あっ、電話が鳴ってるのかな……ピコピコしてる」
「あっ、本当だ……歌詞カード見てたから気付かなかった」
ピコピコとは、防音室からも電話が鳴っているのが分かるように設えた装置の事。もし電話が掛かってくれば、この装置が赤い点滅で室内の者に知らせて来るのだ。
そんな訳で、ピコピコに急かされて慌てて電話口に駆け寄る静香。おっとりした少女だけに、本人は慌てる素振りも、他人が見たらそうは見えない事がしばしばなのだが。
今回は何とか間に合ったようで、受話器を片手に誰かと話しているのが瑠璃と茜からも伺える。楽しそうな話し振りは、恐らく親しい友達か誰かからのようなのだけど。
はたと気付いてこちらを向いた静香が、パタパタと手招きする仕草。
何事かと二人で近付いて行くと、上機嫌の静香はウチに遊びにおいでと相手をしきりに誘っていた。これは余程親しい友達に違いないと、二人は推測を始めるのだが。
何となく分かった瑠璃は、受話器を渡されてその推測の正しさを知る事に。
「あ~っ、ハズミちゃん? えっ、だってずっと話してたから……静ちゃんに用事じゃなかったの? スパゲティの? うん、大きなお鍋でたっぷりお湯を……うん、ちょっとお塩を事前に入れて……そんなに必要無いよ! 450グラム入りなら1束か2束で充分だって……ツナ缶も4個パック売ってるから……そうそう」
「あっ、昼食の相談? そう言えばもうそんな時間だねぇ。私達はどうしようか?」
「弾美ちゃんは平野君の所で、スパゲティ食べるみたいだね。こっちもそうする?」
呑気に瑠璃の後ろで、今日の昼食の相談を始める静香と茜。瑠璃の電話はすぐに終わって、今度はこちらの会話に加わるのだが。外に食べに出るという選択肢は全く存在しないよう。
部屋の時計を目にすると、確かにもう12時を廻っていた。カラオケで盛り上がっていたので、すっかり時間間隔を失ってしまっていたらしい。気付けば確かに、ちょっと空腹かも。
こちらはさすがに、料理の経験もある女の子三人組。何をつくろうかと、色々とレパートリーからの相談を普通に始める。おっとり屋さんの静香でさえ、こう見えても料理は得意なのだ。
お昼は簡単なのにして、ついでにお菓子を作ろうかと、棚の材料を調べながら静香。
「薄力粉あるから、ケーキとかクッキータイプにする? それとも、プリンとかプティングとかのプニっとしたのにする? この間、ババロアをママと作ってみたよ」
「クッキーにして、ちょっと多めに作ろうか? お土産にして、パーティのみんなにも持って行ってあげたいから。今日は3時から合同インだけど、間に合うかな?」
「滅茶苦茶見た目に拘らなかったら、余裕で間に合うと思うよ。よしっ、弾美ちゃん用にチョー大きいの作ろうかっ!」
それは面白いと、何故か盛り上がる三人娘。そうと決まれば担当を選ぼうと、張り切って台所のテーブルに材料を並べ始める静香。どうやら彼女のお菓子担当は決定らしく。
それなら昼食は自分が担当しようかと、勝手に友達の家の冷蔵庫を漁り始める瑠璃。他人の家の台所は、使い慣れていないせいで本当は嫌いな瑠璃なのだけれど。
小学生時代から通い慣れた静香の家は、それとは話がまるで別である。何しろお菓子作りは、静香の母親から学んだのだ。もちろん、場所は今ここにいるこの場所で。
専業主婦の静香の母親は、そんな感じで皆の料理の先生役だったのだ。
茜は結局、二人の助手役を買って出て。あれこれと言われたものを用意したり、材料を切ったり混ぜたりのアシスタントを担当する。そこら辺、三人のコンビネーション振りは素晴らしく。
程なく、瑠璃の手によって和風スパゲティとサラダのセットの出来上がり。クッキー生地を寝かせている間に、仲良くそれを頂く事にした少女達。昼食を食べながら、今度の話題はゲームのキャラ作成のあれこれに。
“お気に入り”に育てるには、まだまだ情報が少ない訳で。
「街の中で、戦闘ペット連れて歩いてる人がいたのよ。あれって、どうやったら持てるようになるのかなぁ? あと、強さはどれくらいか分からないかなぁ?」
「あ~っ、普通の愛玩用のペットよりは可愛くなかったけど、実用的なら欲しいかなぁ? 見た目はちょっと、強そうだったよねぇ?」
「ん~、そう言えばブンブン丸のメンバーには、ペット持ちの人いないねぇ。それ程実用的ではないみたいだけど、強化次第では強くなるって話を聞いたような? 自分の属性の魔法スキルから出やすいとか、姿の固定化に特別な宝石が必要だとか聞いた覚えがあるかなぁ?」
面倒そうなら、メンバーの誰かに手伝って貰おうと、既にペットを所有する気満々の少女達。最近は限定イベントの資格を失った晃君に、色々と手伝って貰っていると静香が口にする。
どちらにせよ、中間試験が終わるまでは、ゲームは当分お預けになるのだが。目標があった方が面白いし、何より張り合いが出来るのは確か。例えば、近い将来ギルドの戦力になるとか。
そういう意味では、強くなり始めの今が一番楽しい時期かも知れない。
食事が終わっても、そんな事を話し合っていつもの少女達のペースは続く。それから、頃合いを見てお菓子作りを再開する少女達。生地を取り出して型を取って、専用の鉄板に並べて行く。
一つだけやたらと大きな型は、ちょっと歪な形だが楽しいイラスト入り。みんなで描いた合作なのだが、焼き上がりは散々の結果に。見事に割れてしまって、大失敗という他ない。
欠片を手に取り、茜がそれを口に放り込んで一言。
「割れちゃったねぇ、さすがに大きさを欲張り過ぎたかも?」
「そうだねぇ……でも、味にはそんなに変わりはないよ? 瑠璃ちゃん、お土産用に包むから、クッキー持ってってね」
近くのスーパーに買い物に出かけ、瑠璃に言われた分量の材料を買い物カゴに放り込んだ弾美は。頭の中で値段を計算して、何と千円ちょっとしか掛かってない事を再確認。
それでも絶対余るからと、瑠璃はそれ以上必要無い事を強調していたけれど。お金が余ってしまうとは、これまた計算外の出来事。どうしようかと、荷物持ち役の美咲に相談すると。
ジュースとお菓子のコーナーを、素早く見つけて指差す小学生。なる程その手があったかと、何となく感心してしまった弾美。結局少女の好きなのを、気ままに幾つか選ばせてやる。それでも2千円には届かず、自炊って凄いと改めて感心する次第である。
まぁ余ったお金は還元すれば良いと、思い直す買い物リーダー。
戻ってからも、食事にありつくまでかなりの騒動が起こったのだけど。買い物リーダーからシェフに昇格した弾美は、平野家の台所で傍若無人の司令官振りを発揮する。
美咲に大きな鍋を用意させて、ガスコンロでたっぷりのお湯を沸かしている間。暇そうな男衆に大根をおろす作業を命じて、丼一杯になるまで容赦なく作業を続けさせる。
用意された人数分の平皿には、未だに何も乗ってはいないけれども。期待してろよと、弾美は自信たっぷりの笑み。ようやく沸騰したお湯に、どかっとパスタを放り込む。
それを見ていた美咲が、やや批難めいた口調。
「ちょっと、弾美兄ちゃん! そんなに一気に入れていいの? ここに目安が書いてあるのに読んでないでしょ? ホラ、100gに対してお湯が1リットルだって!」
「なにっ、そういう事は先に言えっ! ってか、説明書読んだ時点で負けだろうっ!」
「いや、説明書は読んだ方が……まぁ失敗しても、大根おろしはたっぷりあるしな?」
「うっ、大根おろしを腹いっぱい食べるのか……それはそれで嫌だな」
ヘルシーで良いだろうとか、ツナを混ぜたらいけるんじゃないかとか、早くも失敗を前提な会話が繰り広げられる中。美咲が何とか、袋に記載されている説明を頼りに軌道修正に入る。
何とか沸き立つ大きな鍋の中で、均等に茹で上がる450gのスパゲティ麺。出来上がりの硬さをチェックしつつ、これなら問題ナシと代理シェフの美咲が太鼓判を押す。
シェフの座を追い遣られた弾美は、ちょっとだけ寂しそう。
「うわっ、コレだけでも結構量があるね……ひょっとして全員分に行き渡るかも?」
「このお湯、もう使えないの? 面倒だから、もう一回これ使ったら駄目かな?」
「やっぱ不味いんじゃないか? 洗濯物だってホラ、濯ぎの水は換えるじゃんか」
「ザルに上げてお湯切って、それから直に皿に移せばいいのな? じゃあ俺がやろう」
男性陣は、慣れない料理進行に行き当たりばったりな意見の交換。弾美はすっかり蚊帳の外な感じに、憮然の表情ながら。皿に盛られるスパゲティを目にして機嫌もそこそこ回復を見せる。
結局は手伝いを申し出た進が、几帳面な手つきで分配役に。それによって、一気にはかどる昼食準備だったり。茹で上がりの麺を均等に五等分しつつ、それを見たメンバーからも期待の声が上がる。
これならさっきの心配も取り消し、やっぱり料理は几帳面さが必要だよね。まぁお店と較べるにはアレだけど、食べられるかな的な意見がメンバーから発される。好評な評価の声に、しかし弾美は不服そう。
何故に自分がつま弾きに?
「ちょっと待て! 俺が考案した昼食だろうにっ……何故美咲と進が仕切るっ?」
「えっ、いや、だって……普通に美味しく食べたいから?」
「あっ、ホラ……弾美はトッピング担当だろ? コレだけじゃ、味がついてないからっ」
進が何とかフォローに廻り、機嫌を損ねた弾美を宥めに掛かる作業。ちょっと出過ぎたかなと思いつつも、盛り付けの手伝いをしただけなのだが。こんな所でも、気遣いの絶えない進である。
まぁ、弾美にこのまま任せるのは、危険と判断したのは確かではあるのだが。そんな事を口にするのは、いかにも信用していない感が漂っていて不味いのは確かである。
そんな空気を読まずに、晃が抜け駆けで盛り付けを始める。
スパゲティ麺の上に大根おろしを乗せて、さらにその上にツナ缶の中身をトッピング。飾り付けにカイワレ大根を添えて、とどめに醤油を少したらせば、それでもう出来上がり。
箸を取ろうとした所で、弾美のチョップが炸裂。何で一人で食べようとする?
ゼミの一室で、薫は研究のデータ解析に追われていた。ちょっと前に最新式の筈の機械がヘソを曲げてしまって、研究の進行が大幅な遅れを見せていたのだ。その結果、日曜日の午前中だと言うのに、ゼミ室に閉じ込められている始末。
遠心分離機だとか研究用の高級機材など、無くても普段の生活に困らない筈なのに。冷蔵庫とか洗濯機とかの類いなど、ハードな使用にも滅多に故障などしないというのに。
高い機材ほど頻繁に故障して、お蔭でこちらの研究は大幅に遅れる破目に追いやられて。大学院生は試験の苦労は無いとはいえ、論文からは逃れられない。研究の結果を突貫でまとめつつ、ままにならない運命にため息をつく薫。
午後からは限定イベントが待っている、それまでに区切りを付けないと。
遺伝子だとか成分だとか掛け合わせだとか、そんな語彙を氾濫させながら。実験の数値は果たして正しいのかとか、もう少し練りこむべきなのかとか、考え出したらきりが無い。
論文の締め切りも間近に迫っており、背負い込んだ完璧な完成のイメージは取り外して行くべき。完成させてしまえば、取り敢えずはそのタイトルは自分のもの。
研究発表とは、学会に名を残してナンボなのだ。
朝から詰めての作業のお蔭で、何とかお昼には目処が立って。モニター前で固まっていた筋肉をほぐしつつ、ゼミ室を一人後にする。お昼を取っても、今日はまだ約束の時間には間がある。何をして過ごそうかと考えつつ、薫の足は無意識に食堂に向かう。
通い慣れた道のりなので、そこら辺は何の心配もない。日曜日の学食は、いつものような賑わいも無く静かなもの。何を食べようかとか、知っている顔は無いかとか、薫の脳内で瞬時に思考は働くものの。
無意識に食事を取ってしまうのが、実はいつものパターン。
ところが今日は、食堂の窓際に固まって食事をする一団が目に入って来て。それが同じ学部の知り合いの顔だと知って、オーダーをお盆に載せて何となく近付いてみると。
向こうも気付いて、会釈しながらも席を勧める素振り。ゼミの後輩とそのサークル仲間、ぶっちゃけると例の編集ゲームサークル『ネット研究会』のメンバー達である。もちろん春日野もいて、偶然の出会いに向こうは少し嬉しそう。
薫がいつもと雰囲気が違うのは、朴念仁の野郎の集まりでも分かるらしく。美井奈の母親の沙織さんのお下がりの服は、薫の魅力アップに早速効果をもたらした様子。
いつにも増して、ボーっと反応の鈍いサークル連中。
「この席にどうぞ、辛島さん。あのっ、いつもよりその……華やかじゃないですか?」
「あぁ本当だ、これからひょっとして……お出掛けとか?」
「うん、ネットゲーム仲間と限定イベントの合同イン予定なんだ。この服も、その知り合いのお母さんに貰ったお下がりなんだけど。お洒落っていうのも、してみると結構面白いねぇ」
そう口にした薫は、何故だかちょっと照れてしまっているよう。天然な発言に、しかし男連中は内心胸を撫で下ろす。ひょっとしてデートなのかと、いぶかしんでいたのだけれど。
どうやらそうでは無い様で、自然発生的に出来上がった薫のファンクラブの一同は何となく安心模様。ゼミ内では、知的で天然で容姿の整った薫は、本人の知らぬ間にマドンナ的な存在に祭り上げられていたりして。
本当に、知らないのは本人だけである。
そんな内心の葛藤はさておき、話題は何となく限定イベントの攻略に偏って行く。春日野達もこれから合同インをする予定らしく、自然とそんな話の流れが出来てしまった感じで。
一応ライバル視していた、大学内の大型サークル『ネットゲーム同好会』の話になると。向こうの連中も通う大学内だけに、声を潜めてのやり取りに。それと言うのも、向こうは攻略が上手く行ってなくてピリピリしているとの噂だから。
最新情報では、たくさんあったサークルのパーティも、軒並み資格を失っているそうな。
「早解きコースは、それ自体が罠じゃないかって、今になると思っちゃいますよね。レベルアップ果実にメダルを使わせて、そのせいでパーティの動きが制限されちゃう感じですか」
「今までのイベントでも、特に早解きは評価されてた訳じゃなかったですし。一度何分以内のクリアおめでとうって、妖精にアイテム貰っちゃうと。それ以外のアイテム獲得手段が見えなくなっちゃうのが、まぁ確かに罠って言われればそうかも知れないですねぇ」
同好会のパーティの、資格を失った連中の言い分がそんな感じらしいのだけど。まだ資格を持っている、この席で昼食を食べている面々は至って呑気なものである。
地上エリアに出た時には、編成しなおして5チームも存在していた同好会のメンツだったのだけれど。レベル不足からの無理が祟って、どのパーティもライフを失うサイクルに陥った様で。
挙句の果てにイベントエリアのふるい落としに掛かって、4チームも脱落して行ったらしい。限定イベントの開始時には、上位3位以内は自分達が名を埋めると豪語していた連中も。
気付けば辛うじての生き残りが1チーム、有言実行には至らず仕舞い。
やっぱり着実が一番だよねと、薫がしみじみと言葉を発する。自分は時間が無くて、地上に出るまで早解きルートをやむなく選択したけれど。運良く弾美チームに拾って貰って、もう少しでエンディングを見れる位置まで辿り着けている。
春日野チームも、薫達と大体同じ進み具合らしく。今日の午後に最終エリアの2回目にトライして、明日が本当のラストインになる予定。ライフポイントも、聞けばたっぷり残ってるらしい。
案外優秀な進行具合に、薫は冗談半分にライバル宣言。
「そっ、そんなに優位な位置には、僕らはいないですよっ。地下エリアでレア装備を集め損なってるし、辛島先輩の言ってた隠し裏エリアにも行けてないですし……その代わり、確かにクエストエリアでのNM遭遇数は凄いとは思いますけど」
「威張れる数字かなぁ、3つとも4回以上は入って探索し尽した感じだものねぇ。確か、遭遇して倒したNM数は、イベントNMも含めて20匹以上だった気が」
「えっ、そんなにいたのっ? トリガーNM含めても、私達は……あれっ、結構倒したかなぁ?」
あやふやな記憶だが、トリガーNMを含めたら、こちらも10匹以上は倒しているような気がする薫。何しろ、指輪トリガーのNMだけで3回、普通に遭遇したのとかイベントNM、トリガーNMも合わせれば、やっぱり10匹は倒しているような。
メイン世界では考えられない大盤振る舞いに、こちらの思考は麻痺していたようだ。それは仕方無いですよと、春日野も同意の頷きを見せる。倒した端から、複合技の書がポロポロと入手出来る事態は、やっぱりメイン世界の常識に照らし合わせると異常である。
麻痺したままメイン世界に戻ったら、それこそ大変だ。
それから話題は、薫の今日の服装について。自分の所属するゼミは、何となく清貧がモットーになっていて。理系だけに学費が高い印象で、実験にもそれなりにお金の掛かる学部なのだが。実際周囲を見回してみると、金持ちの学生など皆無である。
目の前の連中の服装からしても、実に質素。学生なのに貧乏学者然としていて、莫迦にする訳では無いけれどちょっと笑える。実際自分もその仲間だし、自分の服装も以前はこんな感じだったのも確かであるし。
それでも今となっては、美井奈の最初の苛立ちも分かる気がする薫である。外見に無頓着なのは、行き過ぎると損な事には違いなく。知り合いがそんなだと、苦言も呈したくなると言うもの。
自分の知り合いは、やっぱり他の人にも良く見て貰いたいのだ。
そのためには、やっぱり第一印象は大事なのはもちろんの事だ。そこから不味いと、せっかくのその人の内面の良さまで見て貰えなくなる恐れも。何日も同じ服を着てるなど言語道断。
あなた達もせめて小ざっぱりした服を着なさいと、何となくお説教などしつつ。これからはゼミで取り組みますと、最年長の特例を発する薫。それを聞いて、何となく小さくなる後輩達。
彼らにしたら、ゼミの教授よりもある意味権威を持つ女性である。
「そ、そう言えば、今回の限定イベントの褒賞の事なんですけど。どうやら新しく郊外に建設する、アウトレットモールの特別スタッフへの推薦が貰えるらしいんですよ。素人の知恵ってのも、案外莫迦に出来ないですからね」
「この街って、本当に規格外の事をしでかしますよねぇ。街ぐるみでゲームを流行らせてると思ったら、そのゲームの上位者を街の環境スタッフに取り立てるなんて。学生が権利取った場合とか、どうするのかなぁ?」
「えっ、本当に街の環境スタッフに抜擢されちゃうの? そこって、大企業がいっぱい運営に携わってるんでしょ? この大学も無関係じゃないって話だし、そんな事ってあるのっ?」
さすがにそれは無いだろうと、慌てた感じで報酬の予想修正が行われて。多分、街の住人のアイデア窓口みたいに扱われるのではと、こちらはありそうな話ではあるのだけど。
どちらにせよ、大プロジェクトとの渡りがつくのは凄いと、就職を控えるゼミ生徒達は思っているそうだ。生々しい話だけど、どこの世界でもツテとか渡りが在る無しでは将来性が全然違うのも当然の話。
ゲームとは言え、大学のサークルギルドが目の色を変える価値は、実は充分にあったりするのだ。まぁ、それも今は潰え掛けているのは、悲しい話ではあるけれども。
まだ結構な望みのある春日野チームだが、そこまで気張った欲も無い様子。
同人活動でも分かるように、彼らの大半は出版関係の分野に強く惹かれているようで。データ取りからの編集技術は、確かに理系の学部で手に入れたモノではあるのだが。
普段から熱く語るのは、植物関連や薬理関係の出版物の少なさについて。一般の人向けにも良タイトルのものを作りたいと、学問を修めるにつれて思うようになっていったらしい。
薫もそれは理解出来るし、彼らの理想に対して全面的に賛成ではあるものの。自分達の学んでいる分野の布教については、とても簡単に一筋縄ではいかない事も分かっている。
そう思っているからこそ、簡単に頑張れとは言えないのも確かである。
限定イベントの変な褒賞から、思わず就職活動の話にまでなってしまったけれども。重い話は胃にもたれると、皆でコーヒーを飲みに行く事に。まぁ、節約のためにとゼミ室のコーヒーメーカー頼りではあるのだけれど。
薫たちの語らいは、そんな感じでもうしばらく続くのだった。
弾美たちの料理製作は、かなりの波乱を巻き起こしつつ。それでも出来上がった人数分のパスタ料理、それに群がる少年達の食事風景はつつがなく終了となって。買い過ぎた材料は、平野家の食料保存棚へ。さらに、取り過ぎた代金は適当に還元する事に。
麺を茹で過ぎた状態で余らなくて良かったよと、美咲などはホッと一息付いているよう。足りない人はこっちを食べてねと、先ほど買っておいた袋からおスナック菓子などを取り出して。
晃が一瞬反応したが、弾美に睨まれ思い留まってみたり。
「みんなで料理もいいもんだよな、弾美? また簡単料理のレシピ、津嶋からでも仕入れといてくれよ。試験が終わったら、新入りメンバーの歓迎会も企画しなきゃな」
「ギルドの人数が増えたら、単純に出来る事も増えて来るよなぁ! 特に薫さんなんか、即戦力だしなぁ……いいよなぁ」
「何がいいんだ、弘一っ! 薫っちはともかく、美井奈は鍛え直さないと駄目だからなぁ……美咲も面倒見てやれよ?」
もちろんだと、意外とお姉さん肌な美咲は実に楽しそう。初めてギルド内に妹分が出来た事に対して、素直に喜んでいる様子である。栄えるとはこういう事かと、メンバーの追加には他の面々も意気揚々な感じである。
昼食後のだらけた感じで、その後は気の抜けた雑談に突入する一行。欲しいスキルがなかなか出ないとか、6月にはバージョンアップがあるらしいとか。ゲームの話がメインだが、もう宿題終わらせたかとか、夕方に買い物行かないかとかの話題もチラホラ。
弾美が3時からイン予定を控えているので、大きな予定も組めないのも事実。
それでもバージョンアップの情報は、メンバー全員が興味を示す。進が朝方にチェックした、限定イベントの生き残りパーティ情報も、もちろん皆が知りたいところだ。
まずはバージョンアップ情報を耳にした弘一と晃が、この後のメイン世界の推移を報告する。限定イベントで実験的になされた、スキルポイント+10毎のスキル技取得などは、メイン世界でも取り次がれるらしいとの事。
今まで20貯めないと取得出来なかったので、単純に倍の速度で取得が可能になる訳だ。今まで貰えなかった分はどうなるんだと、メンバーからは質問が飛び交うのだが。
何らかの救済措置はある筈と、まだまだ情報は不透明な様子。
進の持って来た情報は、もっとちゃんとしたモノらしい。今現在生き残っているパーティ数を、限定イベントの専用掲示板でチェックしたとの話なのだが。そんな僅かな手間を惜しまないのが、メンバーの中で進だけというのも情けない話。
そういう細々とした雑事を、進が性格的に担ってしまうのも事実ではあるのだけれど。メンバーも困ったら進に聞けばいいやみたいな感じで、甘えている部分も確かに存在する。
幼馴染の馴れ合いは、普段の生活においてもこんな感じ。もう完全に固定してしまった役割分担で、テスト範囲とか宿題の内容とか、聞きそびれた大事な事は皆が進を当てにするのだ。
それは弾美も同じ事、まぁ弾美はお隣さんの瑠璃も優秀なのだけど。
「今朝の時点で、最終ステージに生き残ったパーティは、40ちょっとだって発表だったよ。3分の1のパーティが、イベントエリアの15分制限に引っかかった勘定かな。クエストエリアで、複合技の書を落とすNMが出現するって噂が立ってさ。それは本当だったんだけど、中には強力な奴も混じってて、そこで全滅を喰らうパーティもいたらしい」
「大学サークルの連中も、もうほとんど資格を失ったって話だよ。僕はゲーマーの大学生のブログを愛読してるんだけど、そこに暴露する感じで書いてあった。全員で早解きに偏って攻略した結果だって、そのブログでは分析してたけど」
「内部情報っぽいから、その情報は信頼出来ると思うよ。ライバル視するほどじゃなかったよね、連中は統率が取れてるようで取れてないもん。団結力が希薄だよね」
連中は、団結すれば優位に立てるからしているだけだと、進や弘一の厳しい意見。狩場や特定のイベントでは、確かに数の優位は何者をも上回るのは確かなのだけれど。
助け合いや謎解きに沿って動くイベントとなると、パーティ内での役割分担や意思の疎通が何より大切になって来るのだ。中学生の青臭い経験値でも、その点では大学生には負けてはいない。
イベントの順位で上回ってそれを証明するのだと、団員達の息も荒い。
「弾美のパーティの、平均残りライフ数は幾つだっけ? こっちは1とか2ばっかりだから、実はかなりきついんだけどさ。何とか無事にクリアして、エンディングをみんなで見たいよなぁ」
「俺達のパーティは、全員4つ残ってるかな。イベントエリアで全滅喰らった時は、さすがに皆でへこんだけど。命のロウソクが人数分貯まってたから、全然問題なかった」
「うっ、羨ましい……こっちは戦闘の度に、死なないようにって毎回ビクビクしてるのにっ。にわか仕込みの弾美の盾役、ちゃんと機能してるのか?」
にわか仕込みは言い過ぎだと、弾美はムッとして反論するのだが。本当に怒っているのではなく、盾役もやってみると面白いなとアピールする感じ。最近覚えた盾のスキル技で、さらに活躍の度合いも上がったせいもあるのだけれど。
メイン世界で盾役をしている弘一も、その話にはしきりに同意の構え。パーティ戦では盾役がしっかりキープしてないと、他の削り役がせっかくのパワーを発揮出来ないのだ。
ある意味肝なジョブだけに、遣り甲斐もあるというもの。
そんな感じの歓談はさらに続き、本当に他愛の無いだらけた感じのお喋りに終始する一行。スナックをついばんだり、持って来た同人誌を回し読みしたり。美咲は今度は進と対戦ゲームを始めており、リビングが一部盛り上がっている。
弘一の家のリビングは、家の人の趣味のオーディオ器具とCDラックがとにかく凄い。クラシックのポスターに混じって、美咲が集めたらしいヌイグルミの集団が。アンバランスこの上ないが、家族の集合するリビングとはそういうものなのだろう。
CDラックもヌイグルミも、それぞれ自分の部屋とかオーディオ室からはみ出して来た移住品なのだろう。母親はさぞ迷惑しているだろうが、まさか捨てろとは言い出せないだろうし。
そのクラシックのタイトル郡を、何気なく見ていた弾美。
不意に立ち上がって、ジャジャジャジャ~ンとか大声を出して一人で盛り上がり始め。驚いた一行が弾美に注目する中、今度は指揮者の真似事を始めてみたりして。
リーダーの突飛な行動は、既に慣れ親しんでいるメンバー達。
「そう言えば来週の日曜に、茜と静香のピアノ演奏会があるんだった。みんなで聴きに行くから、ちゃんと予定を空けておく事っ!」
「あぁ……中間試験前の、最後の行事かな。そう言えば来週だったな。時間と集合場所、決まったら皆に知らせるから」
最後は進がしっかりと締め、弾美がそろそろ合同インの時間だと報告する。他のメンバーは夕方までアーケードを遊び歩くらしく、弾美と一緒に外出準備を始めている。
それぞれがバタバタしながら、動かしたリビングのソファなども元に戻したりと忙しい。ぐうたらに過ごした休日だったが、毎週ハイになって遊び廻るのもそれはそれで大変な事だし。
要するに、親しい友達と気分転換出来ればそれで良いのだ。
――よい感じに気分をほぐした一行は、笑顔で街に飛び出すのだった。