♯23 光と闇のトリガー!
班ごとの給食の時間が終わって、茜はいつも昼休憩を一緒に過ごす友達を探し始める。2年A組の教室は、他のクラスに較べると静かで落ち着いた印象らしいのだが。
それでも食事を終えて、昼休憩を思い思いの場所で過ごそうとする学生の波は、結構な騒がしさである。瑠璃とも静香とも班が違うので、食事中は二人と話の出来なかった茜だったけれど。
昼休憩はまだ30分以上ある、焦る事も無い。
ところが瑠璃のいる班を見て、茜はちょっと焦り顔。同じ班の男子生徒に捕まって、瑠璃が抜け出せなくて困り顔なのが見て取れる。最近はこんな事が多いと、本人もなにやら戸惑う現象が生じているそうで。
ファンスカの限定イベントの情報や戦略を聞き出そうとする輩が多く、違う人に何度も同じ話を聞かれるそうなのだ。それは大変そうだと、ドロップアウト組の茜や静香には、言ってみれば他人事なのだが。
発見した時には、なるべく助け舟を出すようにしている最近の茜だったり。
方法は、遠くから名前を呼ぶという消極的なやり方なのだが。それでも瑠璃は一瞬嬉しそうな表情を浮かべると、男子生徒に断りを入れてこちらに早歩きで近付いてくる。
感謝の表情なのは、長年の付き合いで分かる。もう一人、静香の席を見遣ると、着席したまま動く気配はなし。それでもよく見れば、指先だけがひらひらと宙を舞っている。
どうやら、架空のピアノの鍵盤に触れているよう。
二人に輪を掛けてぽうっとした性格の静香だけに、それ程突飛な行動に見えないのが不思議である。茜はそろりと近付いて、後ろからちょんと友達の肩を突付いてやると。
長い髪がサラリと揺れて、整った顔が嬉しそうにこちらを見上げて来る。和風な感じの大人びた顔立ちなのだが、大きな瞳は性格に比例して優しさがにじみ出ているよう。
クラスどころか、学年でも評判の美人さんである。
「今日はどっちに行こうか、音楽室開いてたらそっちに行く?」
「図書室は、人がいたらお話出来ないもんねぇ。司書さんがいたら、お茶出して貰えるけど」
「取り敢えず、特別教室の棟まで行こうか?」
そんな感じの遣り取りの後、いつものように三人で連れ立っての移動を始める。生徒の中にはグランドや体育館で運動するもの、そのまま教室で座談するもの、学内の空いている部屋で談話するものなど、それぞれ好きに昼休憩の時間を費やしている。
皆が好きに時間を過ごす事を前提に、昼休みは校内の施設も割と自由に使わせて貰えるようになっているのだ。そんな訳で瑠璃達も、音楽室のピアノを目当てに通う事もしばしばである。
演奏するのは、ピアノ教室に通っている茜と静香の役目なのだけど。去年はクラスが違ったので、こんな方法でよく昼休みをコミュニケーションの時間に使っていたのだ。
そんな名残りで、同じクラスになった今年も校舎をうろつく習慣が。
「さっきも期間限定イベントの事を聞かれてたの、瑠璃ちゃん?」
「うん……最近は最終局面に向けての予想や戦略なんかをよく聞かれるよ。みんな真剣なのは分かるけど、私はついて行ってるだけだから上手く答えられなくって」
「私と静ちゃんは、参加資格を早々に失っちゃったからねぇ。ちょっと残念だけど、ゲーム下手なんだから仕方ないか。この中学校にも、まだ頑張ってる人も多いんだねぇ」
「この中学校内では、多分5チーム位じゃないかってハズミちゃんが言ってたけど。高校生とか大学、社会人チームには押されてるみたいなのは確かなのかなぁ?」
なる程と、納得顔の茜。5チームが全員中学生での構成としたら、約20人程度だろうか? それだと1クラス平均、1~2人は未だに資格を持っている計算になる。
友達の瑠璃から話の筋や冒険内容などは、毎日聞いている二人なのだが。こちらから提供出来る話が無いのは、やっぱり寂しいと感じている茜達だったり。
基本、おっとり系で引っ込み思案な静香と茜なのだけれど。ネットゲームなどでの多人数参加でのプレイは、正直嫌いでは無かったりする。もちろん、ファンタジー系の物語の内容や冒険話も同じくお気に入り。
そこら辺は、やっぱり瑠璃の親友だけはあるのだが。
最近はもっぱら聞き役に回っていて、瑠璃から美井奈の勇ましい変貌振りを聞いて目を丸くしてみたり。今までに無い限定イベントの作り込みにも、いい加減驚かされていたが。
瑠璃の話す物語は、静香や茜にはいつも新鮮で楽しいスパイスには違いないのだ。瑠璃もかなりの語り上手で、こればかりは母親より勝っていると茜は太鼓判を押している。
瑠璃から見ても、二人のピアノ演奏を聞くのは大好きで、それはお世辞でも何でもない。二人の発表会は、小学生時代から欠かさず招いて貰って通っている経歴もある事だし。
そんな感じで、良関係を続けている三人である。
「大樹の試練って、何だか不思議な気もするよねぇ。瑠璃ちゃんは、環境問題の提示が根本にあるんだって推測してるんだっけ?」
「うん、魔女が敵だってポスターやタイトルで打ち出している割には、あんまり出て来ないし。どっちかって言うと、人と大樹との関係性? に重点が置かれてる気がするの」
「悪い魔女って、もっと意地悪でもいいって気もするよねぇ? 大ボスだから、あんまり先回りして出て来れないのかも……そう言えば、最近メイン世界にも大樹と魔女の噂が流れてるよ?」
「えっ、そうなのっ? 限定イベントとリンクしてるって事?」
ビックリ仰天な瑠璃は、思わず大きな声で聞き返してしまう。最近はメイン世界で、茜や静香たちドロップ組同士で、よくレベル上げを開催しているらしいのだが。
その合間の息抜きに、最近新しく追加されたマップで冒険を楽しんだりしていると。そういう限定イベント関係の噂的なモノが、たまに耳に入って来る事があるそうな。
そんな事実も手伝って今度のバージョンアップで、ひょっとしたらイベントで使用されたエリアとメイン世界が、繋がるんじゃないかと皆が推測しているそうなのだが。
そしたら今度は皆でワイワイと楽しめるねと、無邪気に喜ぶ三人だったり。
目的地の音楽室についても、そんな取り止めのない話がメインになってしまい。ピアノが他の学生が陣取っていて使用出来ない事もあり、雑談ばかりで昼休みを過ごす結果に。
それでも意外に盛り上がりを見せる、ゲーム関連の話題。普段の学生生活では、毎日同じ日課と言うか時間割りばかりでときめきなど無いのは当然なのだが。
ファンタジー世界での冒険のドキドキ感は、自分達に非日常を提供してくれる。元々が内向的で、あまり出歩く機会のない少女達でも、ネット世界ではいっぱしの冒険者なのだ。
何とか試験週間前には、自分達のキャラをレベル55にしたいと告白する二人。
「そしたら、私とのレベル差もあまり気にならなくなるねぇ。ほら、前に話した女子ばっかりの高校生ギルドみたいに、女の子ばっかりで冒険を楽しめるかも知れないよっ」
「あ~っ、それはいいかもっ。この間、初めてエリアに開設された擬似美術館とか音楽ホールを訪ねてみたんだけど。やっぱり男の子と一緒じゃ、間が持たないと言うか……」
「そうだねぇ、鑑賞する時間が全然違うから、こっちも落ち着いて滞在できなかったよ」
ファンスカ内には、その大容量の回線速度を活かしての、色々な催し物も存在していて。現実開催されている美術館の展示物を一部紹介したり、有名なクラシック音楽を解説付きで楽しんだり、はたまた市民アンケートに参加したり。
実に門戸の広いつくりも、ケーブル回線の恩恵と言えるのだが。最近は限定イベントエリアばかりでのプレイの瑠璃も、ちょっとメイン世界での冒険を思い起こしてほんわかしつつ。
順調にメイン世界でのキャラを成長させている二人に、頑張ってとのコール。
珍しく、ゲームの話ばかりで昼休みを過ごしてしまった一行だったが。またこの前みたいな、大掛かりなギルドでのオン会をしたいねと、架空世界では積極的な意見も出してみたり。
ネットの中の自分の分身に、かなり愛着も湧いて来た感のある静香と茜なのだが。まだまだ育成方針も固まっておらず、色々と聞きたい事もあるような素振り。
今度、知り合いから貰ったデータ集の同人誌を見せてあげると、瑠璃は何とか先導役を果たせそう。この前の日曜日の大学での出来事も、弾美だけが得をした訳でもないようだ。
一晩で読み終えた瑠璃にも、満足の行く内容だったのだ。
女性陣の企みは、そんな感じで無邪気な事この上ないのだが。ゲームを楽しんだり愛している気持ちは、他の男性ギルドメンバーと同じ程度には強いよう。
いつか頼れるキャラになるのかは、不確定な未来予想図ではあるけれども。
レベルアップと修験の塔でのスキルポイントの取得で、一気に武器スキルが上昇したハズミン。取得スキルも一気に2つ増えて、補正スキルの《追撃》で、手数も少し増える事となった。
さらに複合技の《グランバスター》は、土属性の範囲ダメージ技である。先に覚えている《ドラゴニックフロウ》ほどは強力ではないものの、先に竜魔法を掛ける手間が無いお手軽さが良さげではある。ただし、土属性なので、飛んでいる敵には無効のようだ。
以前に取得していた《ニ段斬り》の強化も、なかなかに使い勝手が良くなってグッド。さらにマントの交換による攻撃速度の上昇も、前衛としては有り難い仕様なのだが。
ボスキープが、最近はメインの仕事となってしまったハズミンにとって。攻撃力の上昇よりはHPや防御力のアップの方が、実はありがたい気もする今日この頃である。
レベル上昇のステータスの補正ポイントを、結構な確立で体力に注ぎ込んでいる甲斐もあって。HP総量は、美井奈のほぼ倍にまで達しているハズミン。
パーティの盾役として、まさに真価を発揮出来るキャラとなっている。
名前:ハズミン 属性:闇 レベル:33
取得スキル :片手剣75《攻撃力アップ1》 《三段斬り》 《複・トルネードスピン》
《下段斬り》 《種族特性吸収》 《攻撃力アップ2》
《上段斬り》 《複・ドラゴニックフロウ》
《複・グランバスター》 《追撃》
:闇73《SPヒール》 《シャドータッチ》 《闇の断罪》
《グラビティ》 《闇の腐食》 《闇の刺針》 《ダーククロス》
:竜10《竜人化》 :風20《風鈴》 《風の鞭》
:土25《クラック》 《石つぶて》
種族スキル :闇33《敵感知》 《影走り》 《SPアップ+10%》
:土10《防御力アップ+10%》
装備 :武器 破邪の剣 攻撃力+21、HP+20、耐呪い効果《耐久15/15》
:盾 龍鱗の盾 耐ブレス効果、防+18《耐久15/15》
:筒 絹の腰袋 ポケット+4、HP+10、SP+10%
:頭 暗塊の兜 闇スキル+5、土スキル+5、HP+25、防+15
:首 番人の首輪 攻撃力+3、腕力+2、体力+3、防+8
:耳1 黒蛍のピアス 闇スキル+3、SP+10%、防+4
:耳2 白豹のピアス 器用度+3、HP+10、落下ダメージ減、防+5
:胴 暗塊の鎧 闇スキル+5、土スキル+5、HP+25、防+25
:腕輪 暗塊の腕輪 闇スキル+5、土スキル+5、HP+25、防+15
:指輪1 サファイアの指輪 腕力+3、SP+10%、防+5
:指輪2 闇の特級リング 闇スキル+4、SP+10%、SP上昇率UP、防+4
:背 白翼のマント 器用度+4、HP+10、攻撃速度UP、防+11
:腰 闇のベルト ポケット+4、闇スキル+3、SP+10%、防+10
:両脚 魔人の下衣改 攻撃力+5、体力+3、腕力+3、防+15
:両足 暗塊のブーツ 闇スキル+5、土スキル+5、HP+25、防+10
ルリルリもレベルが1つ上がって33へと達した上、個人強化によって武器スキルも上昇。それによって、補正スキルの《クリティカル2》を獲得して、さらにクリティカルが出易くなった。
嬉しい強化なのだが、やはり依然として出現しない二刀流のスキルに、弾美などはイライラ。本人はここまで来たら、今更変更されても対応し切れない部分もあるのだが。
メンバーからのジェルの融通で、氷魔法の取得もあったルリルリ。これは裏技的なやり方で、+5の装備を強引にカメレオンジェルで同化させてしまう方法なのだけれど。
ジェルは金貨3枚の価値、それで術書5枚分の取得は+2お得なまさに裏技である。こんな方法を見つけるのも、まぁゲーム世界では楽しいイベントではあるのかも。それにより取得した新魔法は、何と《ブリザード》という範囲攻撃可能なもので、パーティとしても頼もしい限りである。
装備面では、グローブで防御力やHPが上昇したのだが。手と足の部分が炎系の暖色のグラフィックに変化して、見た目も結構統一感が出て来た感じだろうか。
本人的には、実はそれが一番嬉しい事だったり。
名前:ルリルリ 属性:水 レベル:33
取得スキル :細剣66《三段突き》 《クリティカル1》 《複・アイススラッシュ》
《麻痺撃》 《幻惑の舞い》 《Z斬り》 《クリティカル2》
:水71《ヒール》 《ウォーターシェル》 《ウォータースピア》
《ウォーターミラー》 《波紋ヒール》 《アシッドブレス》
《水の分身》
:光30《光属性付与》 《エンジェルリング》 《ライトヒール》
:氷50《魔女の囁き》 《魔女の足止め》 《魔女の接吻》
《氷の防御》 《ブリザード》
種族スキル :水33《魔法回復量UP+10%》 《水上移動》 《MP量+10%》
装備 :武器 戦闘ネコの細剣 攻撃力+15、敏捷度+2、MP+8《耐久12/12》
:盾 氷の盾 知力+4、MP+20、防+14《耐久12/12》
:筒 絹の腰袋 ポケット+4、HP+10、SP+10%
:頭 流氷の髪飾り 水スキル+5、氷スキル+5、MP+25、防+8
:首 サファイアのネックレス 腕力+3、SP+10%、防+5
:耳1 天使のピアス 光スキル+3、知力+2、MP+8、防+3
:耳2 流氷のイヤリング 水スキル+5、氷スキル+5、MP+25、防+5
:胴 流氷の鎧 水スキル+5、氷スキル+5、MP+25、防+18
:腕輪 炎のグローブ 攻撃力+4、HP+14、時々炎獄効果、防+14
:指輪1 光の特級リング 光スキル+4、HP+15、攻撃距離+4%、防+4
:指輪2 プラチナの指輪改 腕力+4、HP+20、攻撃速度UP、防+8
:背 精霊封入の人形 HP+50、MP+50、SP+10%、防+1
:腰 複合素材のベルト改 ポケット+4、器用度+5、MP+13、防+11
:両脚 流氷のスカート 水スキル+5、氷スキル+5、MP+25、防+10
:両足 炎獄のブーツ 炎スキル+2、腕力+2、HP+10、防+12
レベルの上昇こそ無かったが、個人強化で弓術スキルが9つも上昇したのは大きな点である。《みだれ撃ち》にも強化が入り、お得意の連続スキルでの追い込みにも拍車が掛かる事に。
固定化された装備が多過ぎて、装備の変更が容易でない現状のミイナなのだが。取り敢えずは矢弾の変更によって、色々と戦闘の幅を広げる手段をマスターしている。
最初の頃のビギナーっぽいヘボ振りからは、考えられない成長を見せる雷娘だが。最近の瞬発力の高い削り力は、弾美さえも目を見張るものがあるのは確かである。
弾美からは『キラービー』の愛称も賜って。益々図に乗る美井奈だった。
名前:ミイナ 属性:雷 レベル:31
取得スキル :弓術59《みだれ撃ち》 《近距離ショット1》 《攻撃速度UP1》
《貫通撃》 《複・スクリューアロー》 《影縫い》
:光50《ライトヒール》 《ホーリー》 《フラッシュ》
《フェアリーウィッシュ》 《フェアリーヴェール》
:風24《風の陣》 《風の癒し》 :水10《ヒール》
:雷33《俊敏付加》 《俊足付加》 《スパーク》
種族スキル :雷31《攻撃速度UP+3%》 《雷精招来》 《落下ダメージ減》
装備 :武器 神樹の長杖 攻撃力+25、知力+5、MP+28《耐久14/14》
:遠隔 雷鳴の弓矢改 攻撃力+20、器用度+5、敏捷度+5《耐久14/14》
:筒 朱塗りの矢束 攻撃力+20 追加炎ダメージ
:頭 妖精のクラウン 光スキル+4、風スキル+4、SP+10%、防御+12
:首 サファイアのネックレス 腕力+3、SP+10%、防+5
:耳1 白蛍のピアス 光スキル+3、HP+25、防+9
:耳2 陰陽ピアス 精神力+5、知力+5、MP+15、防+6
:胴 妖精のドレス 光スキル+4、風スキル+4、MP+20、防御+20
:腕輪 星人の腕輪 光スキル+2、闇スキル+3、MP+8、防+8
:指輪1 雷の特級リング 雷スキル+4、器用度+4、攻撃速度UP、防+4
:指輪2 サファイアの指輪 腕力+3、SP+10%、防+5
:腰 複合素材のベルト ポケット+4、器用度+4、MP+8、防+6
:背 白豹のマント 雷スキル+4、器用度+4、MP+10、防+10
:両脚 妖精のスカート ポケット+2、光スキル+3、風スキル+3、防御+12
:両足 戦闘ネコの長靴 敏捷度+2、MP+6、防+10
美井奈同様、カオルもへレベルの上昇は先送り。その代わりに個人強化でのスキルポイントの取得によって、武器スキルの上昇を見せた。それによって取得した《大車輪》は、待望の多段スキル。これで武器の耐久度を消費する《貫通撃》を乱用しなくて済むようになった。
もう1つ覚えた《幻影神槍破》は、どちらかと言うと防御的な技のよう。ダメージを与えると同時に、自分の幻影を纏いつつ、敵の反対側に移動してしまうのだ。
1対1の戦闘だと、確かにかく乱に持って来いの技なのだが。弾美がタゲを取っている敵相手だとあまり意味が無い。そういう点では、やはり威力のある《貫通撃》は手放せない必殺技。
防具では待望の特級リングの取得で、炎スキルと攻撃力が両方ともかなりの上昇を見せた。他の防具はほぼ同化してあるので、もう弄れる場所も少なかったりするのだが。
限定イベントもゴールが近い。チームの何でも役をこなしつつ、頑張る気満々の薫であった。
名前:カオル 属性:風 レベル:31
取得スキル :長槍73《三段突き》 《攻撃力アップ1》 《脚払い》 《石突き撃》
《クリティカル1》 《貫通撃》 《複・竜巻チャージ》
《大車輪》 《複・幻影神槍破》
:炎47《炎属性付与》 《炎のブレス》 《レイジング》 《炎獄》
:雷20《俊敏付加》 《パラライズ》 :風20《風鈴》 《風の陣》
種族スキル :風31《回避速度UP+3%》 《魔法詠唱速度+6%》 《移動速度UP》
装備 :武器 赤龍の大槍 攻撃力+32《耐久15/15》
:筒 絹の腰袋 ポケット+4、HP+10、SP+10%
:頭 迅速の兜 炎スキル+4、雷スキル+4、器用度+2、防+7
:首 進みがちな懐中時計改 SP+15%、攻撃速度UP、防+8
:耳1 サファイアのピアス 腕力+2、SP+10%、防+3
:耳2 白蛙のピアス 器用度+2、MP+15、防+6
:胴 迅速の鎧 炎スキル+5、雷スキル+5、腕力+5、防+20
:腕輪 迅速の腕輪 炎スキル+4、雷スキル+4、腕力+2、防+7
:指輪1 迅速の指輪 炎スキル+3、雷スキル+3、防+4
:指輪2 炎の特級リング 炎スキル+4、腕力+4、攻撃力+20%、防+4
:腰 獅子王のベルト ポケット+2、攻撃力+4、HP+15、防+8
:背 迅速のマント 炎スキル+4、雷スキル+4、防+7
:両脚 朱色の袴 ポケット+2、精神力+5、MP+20、防御+12
:両足 炎獄のブーツ 炎スキル+2、腕力+2、HP+10、防+12
『何か、学校で聞いたんだけど……木の葉8枚集めただけじゃ、イベントエリアを制覇した事にはならないらしいなぁ。最後のゲートを潜って、果実に換えて貰わないと駄目らしい』
『へ~っ、そうなんですかぁ。じゃあ後で行きましょうか、今はタウロス族の集落ですし』
『あれっ……でもクリア順位も、確か総合順位の対象になるんじゃなかったっけ?』
薫の意見は確かに的を得ていて、返す言葉も無い一同。弾美もクリア条件を満たしていなかった事を耳にした時には、愕然としてやっちゃったと後悔したのだけれど。
昨日の内に10分ちょっと掛けて、タウロス族の集落に既に来てしまっているのだ。今更後戻りは出来ないと、今夜は前もって決めてあったルート通りに冒険を行う事に決定。
その後に、時間を作って果実の交換に行く事に。
そんな訳でのタウロス族の集落からのスタートに、ちょっとケチのついた形になったけれども。今夜最初の戦闘予定の、光のトリガー使用場所はもう目と鼻の先だったり。
薬品の補充もバッチリで、メンバーのヤル気も充分。様々な冒険でパワーアップを果たした一行は、後は突入の指示を待つのみ。時間は夜の8時過ぎ、明日から待望の週末に入る。
前もっての打ち合わせでは、その3日間でクリアまで持って行く予定だ。
『んじゃ、入るぞ~っ。瑠璃、トリガーぶち込めっ!』
『ほいほい~っ、みんな用意はいいかな?』
『オッケ~、いつでもどうぞっ!』
まずは今夜の初戦、カバンの中の残り少なくなったトリガーを使用する瑠璃。何が待ち受けているのかと、ドキドキしながら待ち受ける一行。お決まりの円形のフィールドに転送されて、さすがに集落でドンパチやる訳では無くてほっとしてみたり。
フィールド内には、2つの敵影。ひとつは人型で、女性のようだが仮面を被っていて顔までは窺えない。ただ、頭上には天使の輪が浮かんでいるので、正体はバレバレだ。
もうひとつは、真っ白な有翼の豹のようだ。イベントエリアのボスで相対した記憶が、一行の脳裏に蘇る。かなりの強敵だったが、飛行さえ封じれば何とかなった筈。
弾美は光属性の敵相手だと文句を言いながら、仮面の天使をブロックに。
戦闘はいきなり痛烈な技の応酬から入った。仮面の天使の範囲バニッシュから、白豹の飛行モード。薫が白豹にブレスを打ち込むと、上空からの三連撃の特殊技が炸裂。
怯むパーティだが、何とかタゲをそれぞれキープ。ところが仮面の天使とハズミンの相性は最悪なのがすぐに判明した。光属性の削りで、相手のダメージが倍化してしまうのだ。
特に止められない詠唱の短い連打魔法は、弾美をこの上なく苦しめる。
『ぐわっ、もうHP半分喰われたっ! こいつ魔法の連撃を通常攻撃に混ぜて来てるっ!』
『属性の相性が最悪だからねぇ……盾役替わった方がよくない?』
『私が行こうか……? マラソン出来る相手なら、美井奈ちゃんがいいのかな?』
『妖精魔法掛けて、私がマラソンしましょうか! お姉ちゃまは回復役で必要でしょうしっ!』
そんな訳で、のっけからの作戦変更。光球を4つまとわり付かせたミイナが、スキル技の連打でタゲを取って行く。俊足魔法も《スパーク》も全て掛け終えていて、マラソン対策はばっちり。
それでも、お怒りの仮面天使が近づいて来ると、美井奈は悲鳴を上げて逃げて行く。
ようやく相性の重荷から解放された弾美は、回復後に白豹の削りに参加する事に。しかし、こちらも素早い動きの敵に翻弄されて、思うような成果が上がっていない様子。
何しろ、敵は左右のステップの他にも、上空にまで逃げ込む事が可能なのである。反対に、敵の咆哮と白雷のブレスは、範囲仕様なので完全に防ぎ切れないのだ。
盾役の弾美の戦闘参加に、正直有り難い思いの薫である。自分がなかなかダメージを与えられず、削りを美井奈に任せてしまうと、タゲの移動が厄介なのだ。
その点、弾美とタゲを取り合っても何の問題も無い。
しばらく美井奈の様子を窺って、フォローが必要ないかのチェックをしていた瑠璃だったけれども。順調なのを確認すると、安心して白豹の削りに参加する。削りでは特に、弾美の《ダーククロス》は抜群の効きを見せている様子。
三人相手でも、全く怯む様子の無い白豹のHPを、闇の魔法は一気に削って行く。さらに囲い込んでの3方向からの直接攻撃で、次第に白豹のHPは減って行く事に。
痛烈な牙と爪の攻撃を何とかいなしながら、息を合わせての追い込みは続く。白豹のHPが半分を切ると、今まで使って来なかった特殊攻撃も解禁されたようだ。
翼から放たれる矢羽根が、一行の動きを麻痺させて行く。こっちの攻撃の封じ込めに、麻痺を解きながらの必死の反撃。瑠璃の天使魔法の発動で、ようやく麻痺攻撃を封じたと思ったら。
今度は白豹の2つの翼が、大きなゲンコツに変化。加速する連撃。
『うわっ、麻痺から逃れられたと思ったら、今度は連撃かよっ!』
『まだ終わりませんか~っ、天使の魔法がびゅんびゅん飛んで来て、チョー怖いですっ!』
『もうちょっと我慢してっ、美井奈ちゃんっ。あとちょっと、頑張って~っ!』
互いの状況を確認しつつ、お互いを励ましあって戦闘は続く。白豹相手でもキープを苦戦している弾美だが、直接攻撃ならば盾の防御が有効な分マシである。
先ほどの天使の魔法連弾に較べれば全然平気と、がっちりキープしつつ。こちらも連撃での反撃、複合スピン技から一気に追い込みを掛けて行く。壮絶な肉弾戦は、お互いの身を削り合いながらもパーティ側に有利に傾きつつあるよう。
残りHP2割で、とうとう白豹が宙へと逃げ出した。今度はその場からの咆哮とブレス攻撃に、一行も仕方なく魔法で応戦する。数の差で何とか最後の止めを目論むパーティ。
最後は弾美の《ダーククロス》のダメージで、白豹はノックアウト。
壮絶な削り合いのダメージを、何とか身内で補完し合って。続いては最大に厄介な敵、仮面の天使に相対するパーティ。美井奈の妖精魔法は、既に3回目の掛け直しらしい。
その掛け直し最中に受けた魔法のダメージで、結構HPがズタズタになっている美井奈だが。弾美と薫のタゲ取り合戦が加わって、ようやく瑠璃の回復に救われる形に。
最後のボスは、タゲフリーで行こうとの話し合いに。
『コイツはもう、全員で殴って倒すしかないな……とにかく速攻で倒そう!』
『了解ですっ、私も遠慮せずに行きますよっ!』
『範囲魔法が強烈だから、何とか阻止してみるね~』
各々やる事を相談しつつも、まずは手始めにちょっかいを掛け始める一行。仮面の天使のHPは、強烈なオート自己再生によって完璧に回復しているよう。
削るのならば一気に持って行かないと駄目だと、弾美が《グラビティ》を掛けて美井奈に全力を出させる構え。削りの主力は、あくまで美井奈と薫なのだから。
弾美と瑠璃も、タゲがぶれても魔法で削れるよう、エーテルで魔力を回復済み。
調子を合わせての一斉攻撃は、仮面天使を完全に翻弄していた。手に持つ細剣が獲物を求めて宙を切り、魔法の詠唱はパーティのスタン技で寸前でせき止められる。
仮面の天使のHPは見る見る減って行き、パーティの底力を見せつける展開に。翻弄されて反撃の手段を見出せない仮面の天使は、やはりHP半減から奥の手を披露する。
局面打開の特殊技は、まずはフラッシュからの目潰し効果から。その隙を突いての即時召喚で、天使の背後に宙に舞う妖精が2体出現する。小さくて遠目では判然としないが、それぞれ武器に弓矢を持っているよう。
その代償として浮遊能力を失った仮面の天使の反撃が始まる。
妖精の弓矢による遠隔攻撃の矢面に立ったのは、遠くから順調な削りを見せていた美井奈だった。小さな2体の同時攻撃は、これでなかなかの強烈振りを発揮しているようだ。
あっという間に張り巡らせていた妖精魔法の光球が、1つ2つと輝きを消して行く。美井奈の悲鳴に、弾美がフォローに入って妖精に殴り掛かってみるのだが。
すかさずワープでフィールドを逃げ回る妖精達。
『うわっ、どこに行った? 妖精を捕まえろっ!』
『妖精は攻撃力ありそうっ……でも、天使もフリーに出来ないよっ?』
『妖精は俺が1匹受け持つから、もう1匹は美井奈が撃ち落とせっ!』
『りょ、了解しましたっ、隊長!』
弾美の闇魔法と美井奈の遠隔での反撃が開始され、ようやく妖精に少なからぬダメージが。一方、パーティの攻撃の手を緩められた天使も、薫に対して反撃の構え。
辛うじて瑠璃が魔法を止めるのだが、詠唱の速さにそれも次第に厳しくなって来た。天使の攻撃に細剣のスキル技も加わると、瑠璃も薫も徐々に翻弄され始め。幻惑技で、こちらの攻撃をヒラリと余裕でかわし始める天使。
さらに、スタンを無効にしてからの再度の魔法連弾が一行に浴びせられる。
弾美の叱咤も何のその、天使の追撃は止みそうに無い。いつしかHPも徐々に回復しており、7割程度まで上昇している始末。頭に来た弾美が、範囲攻撃での戦術に切り替えるように指示。
まずは先陣を切って、瑠璃の《ブリザード》が炸裂。範囲に敵が全て入るように計算して、氷属性のダメージが炸裂する。追い討ちを掛けるように、弾美の《ドラゴニックフロウ》が見舞われて。
たまらずに動きを止める、天使と妖精達。
美井奈の《スクリューアロー》と薫の《竜巻チャージ》で、天使はともかく妖精はヘロヘロに。作戦通りの流れに気を良くして、弾美が《ダーククロス》で妖精達にとどめを刺して行く。
こうなればこちらのペースだと、再度天使を囲い込むメンバー達。これ以上の魔法連弾の的にされると、薬品の消耗具合からして本当にヤバイ状況になってしまう。
頼みの瑠璃のエーテル保有数も、そろそろ打ち止め状態だとの報告が入っており。弾美や美井奈にしても、今回はやたらと魔法に頼る戦法で、MPがもうあやしい状態となっている。
この追い込みで決めないとジリ貧に陥ると、弾美の再度の檄も熱い。
『もっかい足止め行くぞっ、今度こそ最後まで削り切れ~っ!』
『了解ですっ、隊長! 今回は、全て注ぎ込みますよっ!』
『頑張るよ~っ、もうMPが持たないから決めないと不味いよ~っ』
そんな悲壮な台詞の後押しも手伝って、全力でスキル技を撃ち込む四人のメンバー達。反撃の魔法を何とか封じつつ、とにかくHPを削る事のみに意識を集中させて行く。
再度、仮面の天使の体力が半分を切ったが、今回は何も無くて一安心。HPの減少に、段々と天使の頭上の輪っかの光が増して行くのを除けば順調そのものなのだが。
どうやらそれに比例して、仮面の天使の細剣にクリティカルが乗るようになる仕様のようだ。モロにそれを喰らった薫と弾美は、自分の喰らったダメージにぞっとする思い。
残り2割の天使の反撃は、ある意味見ものだった。
急にスピードのギアを変えて、天使は自分の幻影をばら撒き始める。分身によって追撃のスキル技を次々とかわし、クリティカルの一撃で弾美のHPを一気に半減させる。
ところが、この華麗な動きが結局は仇となったようだ。美井奈の懐に滑り込むように飛び込んだ天使が、必殺のレイピア弾をお見舞いした途端。何と削り過ぎて、反撃の雷精召還でのスタン状態に追い込まれてしまう。
天使の一瞬の動きの制止を、見逃す冒険者達ではない。薫の《竜巻チャージ》から始まって、弾美と瑠璃の追い込み魔法で、さすがの仮面の天使も動きを止める。
フィールドに鳴り響くファンファーレは、ちょっと場違いな感じも。
とにかく長い激闘を制した一行は、ようやくフィールドから排出された。それと同時に獲得アイテムがパーティのドロップ所持欄に表示され、ようやく歓喜のコメントがちらほら湧き上がる。
報酬の中には優秀な武器や、金のメダルやカメレオンジェル、光の術書や水晶玉などが。武器はレイピアや弓矢、さらには矢束のセットで、瑠璃と美井奈が仲良く分け合う事に。
特に妖精の弓矢はポケットのついている、世にも珍しい武器となっている。
――光のレイピア 攻撃力+17、器用度+4、MP+25《耐久14/14》
――妖精の弓矢 攻撃力+23、ポケット+2、敏捷度+5《耐久15/15》
最初のフィールドに要した所要時間は、だいたい20分程度。てこずった感はあるものの、まだまだ時間はたっぷりあると言って良い。しかし、次の現場に行くのに少々困ったトラブルが。
薬品の買い込みは、この地でも出来るので問題ないとして。聖水のパーティ保有数が、意外と少ない事が判明。今から闇のトリガーを使うと言うのに、これでは心許ないとの意見が上がる。
闇系の敵が全て呪いを使う訳ではないのだが、やはり心配ではある。
『どうしよう、ハズミちゃん……一旦中立エリアに戻って、買い足した方が安全かなぁ?』
『時間が勿体無いだろ、それじゃあ。初志貫徹、このまま進むぞっ!』
『そうですねぇ、呪いを使って来ない敵かもしれないですし。この集落から近いんなら、時間節約で行きましょうかっ』
多数決で押し切る形で、一同は準備不足のままフリーエリアに乗り込む事に。それでもやはり、心配だし怖いのは仕方が無い。念の為、他の薬品はかなり多めに買い込んでおいた瑠璃。
何しろ初っ端の光のトリガー戦で、かなりの苦戦を強いられたのだ。次の闇のトリガー戦でも大変だろうとの思いは、メンバーの胸中に芽生えているのは確かである。
それでも、トリガー使用場所の捜索に入ってしまうと、そんな思いはどこ吹く風。トレード場所はどこだと、ワイワイガヤガヤ騒がしく。道中も賑やかにエリアを突き進むのだが。
タウロス族の縄張り横断は、それなりの気苦労と戦闘を生む結果に。
一行が、と言うか瑠璃が逃がしたインプから聞き出した情報では、トレード場所はタウロスの集落から真っ直ぐ南下した場所らしいのだが。それらしき場所に辿り着くのに、たった5分で済んだのは僥倖だったのだろう。
何と言っても、どこから見ても怪しい場所はここしか無いとの全員の意見。黒く濁った水溜まりと、天と地とにはびこる禍々しい形状の蔦の群れ。かなり目を引く、沈滞した場所。
そこに彩りを添える、鮮やかな毒々しい色の花の乱舞も目立つ事この上なく。美井奈が見つけた植物の大きな果実の形状が、一同に嫌な想像を巡らせてしまうのだが。
『かぼちゃに似てますね、ここに生えている果実ですけど……』
『そうだなぁ……いや、そこのトレード場所とは関係無い……だろ?』
『関係無いといいけどねぇ……パンプキンヘッドは呪いとか嫌だもんねぇ……』
招くから口にするなと、何となく逃げ腰な弾美なのだが。取り敢えず、闇のトリガーの使用場所は判明したのだ。持ち数の少ない聖水を、各々念のためにとポケットに放り込みつつ。
それではトリガー使うよと、あまり緊張感の無い瑠璃の一言。
出現した敵は、案の定のパンプキンヘッド。一同からやっぱりとかヤメロとかの怒声が響く中、強制的に戦闘は開始される。フィールドの転移は無し、敵はカボチャ頭1体のみ。
弾美が進み出て、まずはタゲ取り魔法を放つのだが。妙な力場が働いているのか、後退を始めるパンプキンヘッド。手にした小柄な傘を持ち、飛ぶように、跳ねるように。
美井奈が遠隔で、まずはお試しのジャブ攻撃。敵の呪い攻撃が嫌なので、近付いているのは今のところ弾美のみ。その間にと、瑠璃が天使魔法で呪いの阻止に掛かるのだけれど。
輪っかの光に反応して、周囲の植物が活性化。驚いた瑠璃は、思わず後ずさり。
『は、ハズミちゃん……蔦のモンスターが、光に誘われてこっちに来てるっ?』
『え~っ、そんな仕掛けってアリ? ひょっとして、美井奈ちゃんの妖精魔法も駄目って事?』
『うっ、数が多いな……範囲攻撃で一気に倒すか、魔法を引っ込めるか……』
『私も魔法を使いたいですし、ここは倒しちゃいましょう、隊長っ!』
そんな美井奈の我が侭後押しもあって、取り敢えずは弾美の《グランバスター》からの《闇の刺針》が炸裂する。蔦のモンスターは、その攻撃であっという間に散り散りになりはしたのだが。その間に放置していたカボチャ頭も、そろそろ始動の予感。
手始めに呪いを振り撒きながら、飛ぶようなステップでパーティの周りを跳ね回る。
まだまだ瑠璃の天使魔法が掛かっているので、呪い攻撃は平気なパーティ。薫と美井奈で攻撃を仕掛けながら、瑠璃が足止め魔法を必死に掛けようと試行錯誤する。
しかし敵も然るもので、瑠璃の魔法はレジストされてちっとも止まらない。逆にカボチャ頭は闇魔法の《闇の刺針》での反撃に転じて来て、全員少なからぬダメージを受けてしまう。
取って返した弾美の攻撃も、軽やかなステップでかわすカボチャ頭。戦場のエリアに変化が無い訳ではなく、再び蔦の生長がパーティの背後から襲い掛かって来そうな気配。
さらには、転がっている自然のカボチャが、ウルウルと不気味な蠢きを見せ始める。
『えっ、弾美君……カボチャが動いてるっ! これはちょっとヤバくない?』
『むむうっ、光系魔法潰しが露骨だなぁ。仕方無い、カボチャ2体はヤバ過ぎるっ……瑠璃、魔法を止めてくれっ!』
『う、うん。じゃあ、これからは光魔法は禁止だね?』
仕方ない決断とは言え、かなり厳しい制限を負ったのは確かである。その犠牲の甲斐あって、取り敢えず背後からの飛び入り参加の敵は、招かずに済みそうなのだが。
取り敢えずの数の有利を確保した一行は、それに乗じて敵を削りに掛かるのだけども。大きなダメージを稼げる光魔法が使えないのが、一行に微妙に影を落としているのも確かである。
弾美の《グラビティ》もレジストされて、ステップを潰す手段にも限界が。それでも、作戦変更での美井奈の吹き飛ばし技からの隅への追い遣りが効を奏した。端に追い詰めて、弾美と薫でガリガリと削り始める戦術は有効と思った瞬間。
手に持つ傘がパッと開いて、よく分からないガードを始めるカボチャ頭。ところがこれが、カウンターへの呼び水となっていたようだ。攻撃の素振りの無い敵からの、よもやの反撃。
それがまた強烈この上ない。恐るべしカウンター攻撃。
それでも敵の体力が減って行くのは、確実に感じる一行。美井奈の遠隔攻撃は、カウンターの餌食にもされずにパーティの大事な与ダメージ源となっている。
その結果、とうとう後衛の美井奈がタゲを取ってしまう不味い事態に。横着なカボチャ頭は、地面に伸びた蔦を使って、ミイナを自分の面前まで運んで行くという荒業を使用。
そして振り撒かれる呪いの言葉。瑠璃を除く三人が餌食となってしまい、頭に大きな花が生えて来て戦闘不能状態に。養分を吸われているのか、HPがどんどん減って行っている。
慌てて全員、聖水を使用。これで在庫切れの者が多数出現。
『やばいですっ、聖水を使い切っちゃいましたよ、私っ! お姉ちゃまっ、どうしましょうっ!?』
『私はまだあるけど……他の人はまだ平気なら、美井奈ちゃんに1個渡すよ?』
ところが薫も在庫0だとの白状に、これはヤバイ感が急上昇。勢いに乗ったカボチャ頭は、積極的に攻勢に出て来たよう。傘を折り畳んで、レイピアのような突きを見舞い始める。
これがまた、クリティカル込みの嫌なダメージを弾美に与えて来て嫌な仕様この上ない。さらには美井奈の下手な反撃で、カボチャ頭のHPが半分を切ってしまった。再度の特殊技を警戒する一同に、本日何度目かの呪い技が降りかかる。
今度も呪いを受けたのは、瑠璃以外の三人であった。何故かパンプキンヘッドを含んで、四人が仲良く輪になって。皆で踊りつつ行く先は、暗く濁った底なし沼のような水溜まり。
その中へと、何の迷いも無く楽しそうに踊りながら進む一行。
『わっ、みんな……何でそんなに楽しそうなのっ?』
『助けてっ、瑠璃ちゃんっ! 好きで楽しそうに踊っている訳じゃないのw』
『う~ん、このまま沈んで行くのも人生か?w』
『何を諦めてるんですか、お兄さんっ! 私は絶対に、最後まであがきますよっ……ってか、聖水が無いですっ!』
瑠璃が何とか《水の分身》からの《ウォータースピア》で、敵の注意を惹き付ける事に成功すると。パーティの踊りもようやく中断して、変てこりんな入水自殺も未遂に終わる。
そのまま分身で時間を稼いで、呪いの自動解除を待つルリルリ。目論見通りに何とか自由の身に戻って来た三人は、ここぞとばかりに恨みのこもった総攻撃を再開する。
特に美井奈は、闇の秘酒を使い潰しての総攻撃。スキル技の連続使用に、取り替えたばかりの弓矢が唸りを上げる。負けじと薫も、次々とスキル技の連弾を見舞って行く。
二人のアタッカーの頑張りに、カボチャ頭もタジタジな様子。そして残りHP2割で見せる、物凄い最後の悪あがき振りは。一同を騒然とさせるには充分な迫力だった。
いきなり巨大化した、カボチャ頭。巨大化したのは、頭の部分だけだったが。
『うわっ、カッコ良いですねっ! ……そうでも無い?』
『美井奈、お前の感覚はよく分からんな。とにかく潰すぞっ!』
『最後の追い込み、行くよ~っ!』
己の発した合図と共に、必殺の《竜巻チャージ》を敢行する風の申し子だったけれども。何と巨大頭がカウンターでの頭突きを見舞い、逆に大ダメージを受けてしまう薫。
驚きの声は誰のものだったか。それでも自分には無効だろうと、美井奈が《貫通撃》をお見舞いする。確かにダメージは通ったが、お返しの魔法攻撃で、何と金縛り状態に。
闇の霧がミイナの身体を覆い、移動どせころか攻撃も不可能になってしまったと嘆く美井奈。敵のHPはあと少しだと、反撃を恐れずに弾美の《三段斬り》からの《トルネードスピン》。
実に8連撃の多段攻撃に、カボチャ頭のHPもあと数ミリ。
この連撃にはカウンターを取る暇も無かった相手だけれど。しかしカボチャ頭の反撃の頭突きは、技の撃ち終わりに待ちうけていた。多大なダメージと座り込みスタン状態のハズミンに、黒い霧の監獄が追い討ちを掛けて来る。
残ったのは瑠璃だけだったが、その少女は既にカボチャ頭の背後を取っていた。他のキャラには削り力は劣るとは言え、これでも皆に頼られている存在には変わりないのだ。
クリティカル込みの《三段突き》と、それに続く《アイススラッシュ》で、厳しい勝負はようやく決着がついた。弾美達を囲っていた闇の呪縛も、次第に薄く霧散して行く。
難敵の撃破に、一行から上がる歓声。
祝い合うパーティの中で、薫が待望のレベルアップ。32への上昇に、ちょっとだけキャラの風格も増したようである。肝心のドロップには、武器装備の類いは無かったとは言え。呪いのマントは良品に化ける可能性はありそうな気配。
その他のアイテムを見てみると、金のメダルや闇の術書や闇の水晶玉。その他にも、大物アイテムの命のロウソクまでは定番でありふれた物だったのだが。
ドロップの中に裏チケットと怪しいお供え物を見た一同は、揃って首を傾げてみたり。
『裏チケットとお供え物のセットって……これは、闇市から入る例の裏エリアの事?』
『むうっ……ここまで40分くらいか? まだまだ余裕はたくさんあるけどなぁ』
『取り敢えず、中立エリアに戻って補充とか休憩入れようか……おトイレ行っていい?』
そんな訳で、思いがけないルートへの扉が開いてしまった形となった弾美パーティ。本当は、時間があればどこかのクエストエリアを散策しよう程度の申し合わせだったのだが。
転移の棒切れで中立エリアへと戻った一行は、トイレ休憩と薬品の買い込みで各々の時間を使う事に。使い切ってしまった聖水の買い込みも、もちろん教会で忘れずに。
何しろ、お金は充分にあるのだから。
『あれっ……裏チケットの確認より先に、イベントエリアのクリアが先かな、弾美君?』
『おっとそうだな、何か樹上に小さな街があるらしいんだけど。売店とかもあるみたいだぞ』
『ただいま~っ、今夜はちょっと冷えるね~』
『おかえり~っ、確かに肌寒いねぇ……また風邪をひかないようにね、瑠璃ちゃん』
そんな気遣いも欠かさない、最年長の薫である。美井奈もモニター前に戻って来て、ようやく皆での移動が開始されて。先にイベントエリアのクリアを行うと、案内役を買って出るお姉さん。
何度もくぐった例のイベント入り口を通り抜け、細い螺旋状の上り階段を列を作って上がって行く。5つのエリアの入り口を横目に見ながら、辿り着いたのは行き止まりの小さな門。
門に触ってみると、それぞれの画面で強制イベントがスタート。今まで苦労して集めた8色の木の葉が、小さな門を前にしてキャラのカバンから舞い上がって行く。
気が付くと、木の葉は光り輝く果実に換わっていた。小さな門も消えていて、その先の景色が目に飛び込んで来る。キャラが輝く果実を手に取った所で、映像は終了。
側に立つNPCが、ようこそとパーティを歓迎する素振り。
『おっ、みんなちゃんとイベント見たか~? 果実を貰い損なった奴はいないよな?』
『ちゃんと貰えましたよっ、何だか感無量? ですねぇ……ここまで長かったですよっ』
『まだ終わりじゃないよ、美井奈ちゃん……あれっ、NPCが23番目の突破だって言ってるねぇ』
『うわぁ、結構クリアしてるパーティ多いんだねぇ。私達は遅い方?』
一概にそうだとは言えないとは、弾美の言葉。何しろ、10日以上前に中立エリアで活動していたパーティは、実に90近くあったのだから。振り落としの熾烈さ故に、今の活動パーティは3分の2程度までに減っている状態らしく。
それを考えると、むしろ良く巻き返したと言えるかも知れない。
一行は少しだけ時間を使って、小さな街中を見学して歩く事に。ここも中立エリアと同じく、2時間縛りとは関係無いエリアらしい。安心してNPCに話し掛けたり、お店の売り物をチェックしたり。各々が好き勝手に、見知らぬエリアでの時間を過ごして行く。
NPCには人型の者は逆に少なく、妖精の姿が多くて変な感じだ。限定イベントの得点ルールを話してくれるNPCも見付かったが、そいつは何故か眼鏡を掛けたキノコ人間だった。
武器や防具屋の類いは無かったが、薬品系のアイテムは一箇所で完璧に購入出来るようになっていて便利ではある。中立エリアでは、クエスト攻略時のNPCにわざわざ話し掛けて、そこで購入していたのだ。
あとは鍛冶屋とか中立エリアと繋がっている転移の魔方陣とか。
『みなさん、ここから下の街に戻れるっぽいですよ~っ。あと、もう一つ魔方陣があるんですけど、これは……何?』
『もう一つは、確か次へ進むルートだったかな? 何か、果実が大事だって進が言ってたような』
『明日から3日間で、ちゃんとクリア出来るのかな? まぁ、予備で1日あるから平気かな?』
行く末が心配なのは、誰もが同じ事。妙な緊張感も押し寄せて来て、何だかドキドキしてみたり。小さなエリアなので、全て見終わるのに10分もあれば事足りてしまう。
一同は美井奈の見つけた魔方陣で、中立エリアに戻る事に。
中立エリアでも、少々時間を取ってのキャラ修正。瑠璃の使っていたバトルグローブを美井奈がお古で貰って。カメレオンジェルで同化を促進しての交換作業を行っていたのだ。
先ほど出た術書などの類いも全て配布を終わらせて、キャラの強化も一通り終了。そんなこんなで弾みをつけて、残り時間を使って怪しげな裏のエリアへと向かう事に。
正しくは、裏チケットの使用場所はそこしか無いとの推測なのだが。闇市に入室した一行は、恐る恐る門番にトレード。かつて何度も通ったやり方で、裏エリアの扉は開いてくれた。
ちゃんと入れた事に、何となく感動する一同。
『わ~い、ちゃんと使えたねぇ、チケット。本当の裏エリアになるのかな、これって?』
『そうだろうな、発見出来たパーティは、かなり少ない気もするけど……問題はここからか?』
『お供え物のトレード場所? でも、今回は台座1つしか無いよ?』
『あっ、本当だ、悩まなくて済んだねっ。それじゃあ、トレードいいかな?』
何の問題もひねりも無く、チケットと一緒に出た怪しいお供え物を台座にトレードする瑠璃。今回の裏ルートに限っては、恒例となっていた最初の謎解きは必要ないようだ。
早速転移したパーティは、薄暗く不気味なフィールドに排出される運びに。どことなく気味が悪いのは地面も天井も一緒で、かなり大きな洞窟の中のような感じなのだが。
所々聳え立つ柱は、骸骨のようなものでデコレーションされているよう。地面には、所々にダメージ池が。遠くの壁や地面には、恐竜か何かの巨大な骨が半ば埋もれているのが伺える。
何より目を引くのは、近くに浮遊するNPCのインプ。
――久シ振りだナ、人間。キっと来ると思ったゼ。ここのルールハ簡単だ、強い奴が生き残ル。脱出したケリゃ、もウ一度俺に話し掛ケルか、向こウノ集落の反対側かラ抜け出シナ。
たダシ、集落ノ中も外モ一筋縄ジャ行かなイケどナ。ソノ後は、俺ハ知らン。
『あの時のインプだ~っ、ちょっと親切? 集落が向こうにあるらしいね~』
『あっちに見える、あの変な構造物かな? 壁がちょっと、グロテスクだけど』
『敵が結構、ウヨウヨとしてるなぁ……ちょっと進みながら、経験値を稼いでみるか?』
『了解しましたっ、魔法強化したら、ちょっと釣って来ますよっ!』
インプによるおざなりで投げやりなルール説明に、何となくやるべき事を見出した一行だが。敵がいるなら経験値を稼いでみようと、ちょっとやる気モードに突入の面々。
不気味なエリアに点在しているのは、やはり闇属性の敵が多いようだ。インプはもちろん、そいつが呼び寄せる魔人系の敵やら、鎧を着込んだ、隙間から青い炎を発している敵やら。
そして、裏エリアで見た鬼形の敵に、鬼面の獣人もチラホラ。
どいつも結構な強さで、必ず3~4体セットで列をなしている様子だ。その反面、ドロップと経験値はかなり良好。金属製の武器装備とか、さらには金や銀のメダルもチラホラ稼げる感じ。
こいつは凄いぞと、さらに狩りにも拍車が掛かる。割と良い確率でドロップする武器や装備も、売れば幾らかは稼げそう。30分も続けると、いよいよ集落が面前に見えて来た。
そして集落の入り口には、鎧を着込んだ敵とインプのセットが。
『結構稼げたね~、美井奈ちゃん、レベルアップおめでとう~♪』
『有り難うございますっ! メダルも結構稼げましたね~(^-^)/』
『えっと……金が4枚、銀が7枚かな? また20枚まで増えちゃった』
『う~ん、最終ステージでメダルは必要無いだろうし……使い切っちゃった方がいいのか?』
集落の門番を前に、そんな事を話し合う一同。集中して行った狩りの結果、美井奈も32へとレベルアップ。その結果、遠隔ポイントが区切りの60を迎えて、補正スキルの《速射》を習得したそうで。メダルの収集も上々で、最後のキャラ強化に注ぎ込めと言わんばかり。
このまま門番を倒して集落に入るか、もう少し狩りを続けるかを話し合うパーティだが。中の方もちょっと面白そうでもあり、何より外の敵の数がかなり減って来ているし。
時間はあるが、入ってしまえと門番との戦闘開始。
鎧武者は中身は空洞のようで、隙間からは青白い炎を発している。見た目硬そうな上に、手にした大斧の威力も高そうだ。こいつは弾美が請け負って、キープしておく事に。
インプの方は、先ほど散々相手して戦い方も分かっている。不利になれば絶対に魔人を呼ぶコイツは、本体はそれほど強くない。さっさと倒してしまいたいが、一撃で落とせる程弱い訳も無く。
弾美はちょっと考えて、今回は自分がマラソン役を受け持とうと口にする。マンネリの戦闘方法より、新しいチャレンジも必要。薫の盾役で機能するならば、その方が殲滅速度は速いはず。
何しろ専属アタッカーが二人も削りに参加するのだ。
互いの接近から、案の定のインプの魔人召還。鎧武者と途中参加の魔人のタゲを取って、マラソンを開始するハズミン。それを見ながら《俊敏付加》とタゲ取り魔法の《風鈴》を自分に掛けて、張り切って盾役を担う薫だが。
ステップは完璧で、インプの通常攻撃を次々とかわして行く薫。ところが防御が一級過ぎて、タゲもちょっと微妙な感じに。攻撃に割く時間も減ってしまって、結果として美井奈が完全にタゲを取ってしまう事に。
瑠璃は回復に手が掛からず、大助かりだったのだが。
『うっ、やっぱりアタッカー二人だと、チェンジ使えないと無理っぽいかもっ。美井奈ちゃん、逃げてっ! こっちSPまだ貯まってないっ!』
『わっ、ごめんなさいっ! よく加減が分からなくてっ……ひあっ、魔法使ってきた!』
『足止めするねっ、それともハズミちゃんと交替しようか?』
交替ならば自分がと、薫がようやくSPを貯め込んでの《竜巻チャージ》で、2体の敵をがっちりキープに回る。新しい戦術が実らず、ちょっと気落ちした弾美が殲滅組に合流。
殲滅スピード重視ならば、この組み合わせの方が確実に速いのは事実だろうけど。やはり遠隔使用のキャラの立場は、使い方が難しいと思い知る羽目になってしまった。
攻撃の威力は物凄く高いのだが、それが仇となり易いのだ。
インプの闇の監獄という魔法に苦しめられていた殲滅組だが、弾美の参入で何とか立て直しを図る。タゲの固定が済んでからの削りも上手く行き、インプのHP半減の特殊技も単なるダメージ技で済んでホッとするパーティ。
再度の召還技だと、洒落にならないとのパーティ会話だったのだが。
『もうすぐ終わるけど、そっちは大丈夫か、薫っち?』
『平気だけど、ちょっと魔人の挙動が変かも? 時々そっちに向かいそうになる?』
その度にブレスで攻撃しているらしいが、召喚者の意向も気になっている様子な律儀な魔人。インプが倒れる際には、完全にそちらに向かい始めており、薫のちょっかいも完全無視。
次の獲物が向こうから来てくれるのは、それは全く問題無いのだけれど。インプが倒れる際に2体目の魔人を呼んだ事で、事態は思わぬ方向へ転がり始める。
混乱するパーティは、2体の魔人が無敵状態なのに気付いて、さらに大混乱に。
『えっ、攻撃が通じませんよ、この2体の敵っ!』
『うおっ、何でだっ? 何か条件が揃ったのか?』
『前にもこんなのがあったね~、あの時は同時攻撃で削れたんだっけ?』
『おおっ、ちょっとやってみようか? 美井奈は光属性試してみろっ!』
試した結果、弾美の《グランバスター》はダメージ有り、美井奈の《ホーリー》はダメージ無し。前回の双子座の敵の仕様と一緒だと、それぞれ範囲攻撃をスタートする一行。
ついでに薫の連れていた敵も範囲内に引き連れての、範囲攻撃のオンパレード。瑠璃の氷魔法から薫のブレスなど合わさって、一見派手なエフェクトが炸裂するのだが。
範囲攻撃のコストはバカにならない為に、連続攻撃で追い込む事など不可能である。魔人のHPは多くて、先に尽きるのはどうしてもパーティ側のMPやSPになってしまう。
それでもようやく、弾美の《ドラゴニックフロウ》で魔人達のHPが半減。それがきっかけで、魔人達の身体に変化が起きた。1体はコウモリの様な翼を生やして、もう1体は腕がムチ状に。
敵はハイパー化の代わりに、無敵状態を手放したようだ。
攻撃力は数段上がったが、今度は通常攻撃が通じるようになった訳である。今度こそ敵をマラソンで分散させて、一行はようやくの集中攻撃。痛烈な反撃を受けながらも、フィニッシャーの美井奈が大技でとどめを刺して行く。
魔人が片付くと、最後まで残った鎧武者が大斧を振り回してパーティを威嚇して来る。範囲攻撃での削りの結果、既にHPは半分近くまで減ってしまっているのだが。
雑魚の鎧武者は、道中に何匹も倒しているため。それ程には、注意も注目もしていなかったパーティだったりする。ところがこちらの中ボス仕様の鎧武者は、少々多芸な様子。
HP半減からの特殊技で、パーティは大パニック。
『うわっ、敵が分解したっ! 鎧の一部に捕まっちゃった!』
『これって操られ状態? 勝手に変な方向に向かってるよっ?』
『私は味方に攻撃してるっ! 鎧の部位によって、操られ方が違うのかもっ?』
薫の推測通り、鎧の足の部位に捕らわれた瑠璃は戦線離脱を始める始末。手の部位に捕らわれた薫は、味方の瑠璃を追い掛けながら攻撃し始める。手と足の部位を飛ばした鎧武者は、案山子のような立ちんぼう状態。
唯一フリーな美井奈が、皆の状況にパニック寸前。慌てながらも敵を倒そうと、遠隔攻撃を仕掛けるのだが。実はそれも巧妙な罠で、鎧の胸の部位に捕らわれていたのはハズミンその人。
身代わりに攻撃を受けて、弾美のHPは一気に半減して行く。
『うわっ、俺を殺す気か、美井奈っ! ってか、俺も捕らわれてるっぽいぞっ!』
『わ~っ、ごめんなさいっ、隊長っ! どっ、どうすれば良いんでしょうっ!?』
『あっ……聖水で解除出来たっ! 今から戻るねっ、ちょっと敵に絡まれたけどっ』
瑠璃の素っ頓狂なコメントも、状況を変化させる大事なアドバイスには違いない。続いて薫が呪いの解除に成功し、瑠璃の連れて来た雑魚を受け持つ事に。
次いで弾美が呪いの解除に聖水を使用。今までのお返しとばかりに、多段スキルでの反撃に踏み切る。硬い外殻の鎧武者も、仕掛けを破られてからは勢いが無い。
呪いが来るのを計算していなかった瑠璃は、慌てて天使魔法をスタンバイ。
絡んで来た雑魚の討伐に続いて、何とか曲者の鎧武者も倒し切る事に成功したパーティ。安堵の空気が流れる中、ドロップ品の確認などに追われる一行であった。
金のメダルは2枚もドロップ、さらには闇の術書や闇の秘酒、土竜の尻尾や呪いの大斧など。ギルもこの裏エリアで順調に増えており、瑠璃の顔もほころびっ放し。
集落と言うからには、色々と便利なものが売ってるかも知れない。一同は各々期待しながら、門番がいなくなった扉を潜る事に成功。エリアチェンジの暗転後に、一同が目にしたのは。
闇市よりもダークな、そこは確かに集落だった。
『うわっ、ちょっと気持ち悪いかも……ダークな感じだねぇ? 牢獄みたいな部屋がいっぱい』
『だなぁ、ひょっとして襲撃とかあるかも。一応、警戒しながら進もうか?』
『了解ですっ、後ろからついて行きますねっ!』
案外ビビリな美井奈は、この場の雰囲気に呑まれたのか尻込みしている感じを受ける。そんな訳で弾美が先頭に立って、奇妙なつくりの集落探検へと進み出す。
通路は行き止まりも多く、ちょっとした迷路模様。何とか見つけ出した先に続く道は、牢屋のような一室へと続いていた。そこに佇んでいたのは、小さなインプNPC。
一行が話し掛けると、相手はおもてなしをと近くのテーブルを指し示した。
――よク来たナ、客人。何モ無いが、テーぶルのもノは自由に口にしテクれ。そノ後何が起こってモ、俺ハ知らンがナ、ヒっヒッひッ……。
『いかにも怪しいな……いらないから、お前が食えっ』
『あれっ、弾美君はチャレンジしないの? 1個くらい当たりがあるかもよ?w』
『あるのかな? 無視しても、この人は怒らない?』
NPCのインプ相手に何の気遣いなのか、無視は失礼だと熱く語る瑠璃。真面目な少女らしい感想だが、怪し過ぎるとパーティには不評のよう。こんなの放っておいて先に進もうとした一行は、面前で閉まる鉄格子に愕然の表情。
相変わらずにこやかなインプだが、台詞はやや刺々しくなっている。これには、ますます不信感を募らせる一行。それでも誰かがおもてなしを受けない事には、先に進めないらしい。
意を決して、弾美がテーブルに5つ置かれた皿から1つをチョイス。その結果は、やっぱりな感じの毒ダメージ。インプは高笑いを残して、ドロンと消えてしまう。
道は開いたが、毒ダメージは消えず。インプの捨て台詞によると、エリア滞在中は消えない様。
毒づきながらも、とにかく先へと進む一行。しばらくは牢屋の繋がったような、奇妙な迷宮みたいなつくりが続く。道の繋がりを確かめながら、集落の核心部へと向かおうとするのだが。
上へと向かう二人乗りの昇降機に突き当たり、一行はちょっと躊躇してみたり。2台あって、一度に進むのに問題無いのだが、果たしてどちらとも同じ場所に運んでくれるのだろうか?
他には道が無いので、仕方なく二手に分かれて昇降機に乗り込むパーティ。同じ場所に辿り着けて、ホッとするのも束の間、美井奈と薫の乗った昇降機に毒ガスの仕掛けが。
弾美が喰らったのと同じく、エリア滞在中は消えないタイプのよう。
一行はさらに毒づきながら、継続ダメージを受けたまま道を進む。2時間縛りのダメージのようで、気が気ではないのだけれど。階段を上っていくと、またも牢屋のような小部屋が。
そこにデンと座り込んでいたのは、闇市にもNPC店員で見掛けたソウルイーターだった。ここで見るとさらに不気味なのだが、お前怖いぞと文句をつけてもどうしようも無い。
代表して弾美が話し掛けると、そいつは強引に取引を持ち掛けて来る。
『うわっ、また選択しろだって……後ろの宝箱の中から、1つ選んで開けろってさ』
『どれどれ……ライフ-1かレベルアップ果実か、それとも命のロウソクが貰える? 当たりが2つとは言え、ライフ取られるのは嫌かなぁ?』
『でも、予備のロウソクがカバンに2つあるし。今度無視したら、襲い掛かられるかもよ?』
瑠璃の脅しのような言葉に、メンバーの顔は引き攣りまくり。昔に対戦した時の苦戦を思い出して、冷や汗をかきつつ作戦会議。あの時は瑠璃の天使魔法で、辛うじてライフのロストを防ぐ事が出来たのだったが。
こんな狭い部屋の中で、再戦などしたくは無いのが皆の本音である。これでは美井奈の遠隔攻撃が全く期待出来ない上、敵の呪いやその他諸々から逃れようも無い。
何より、毒ダメージを受けている者がパーティに三人もいるのだ。
『じゃあ、美井奈まず選べ。代表して俺が開けるから』
『えっ、例の方法ですか……私、最近は的中率高いですよ?』
『外れてもロウソクで補充出来るから平気だよ、美井奈ちゃん。外したらハズミちゃんのせいだし』
それもそうかと、気楽に真ん中の宝箱の前に立つ美井奈。それを受けて、弾美は左端の宝箱を勢い良く開け放つ。その瞬間、背にしたソウルイーターが不穏な動きを。
思い切りビビリまくるパーティだが、入手したのはレベルアップ果実だったよう。そのせいで相手が怒ったのかと、不利な状況ながらも対応しようと動くメンバー達だったが。
ソウルイーターはそのまま大人しく消えてしまい、良かったと心底安堵する一行。怖かったとの台詞も漏れる中、さっさとこの小部屋を離れたい気満々の一行である。
移動の道順は、今度は下りになっている。その一本道を、逃げるように進んで行く一行。
何だかんだと怖い思いをしながらも、一応は順調にアイテムを入手しているパーティなのだが。払った犠牲が大きい気がするのは、仕掛けの嫌らしさ故だろうか。
集落のくせに全然人がいないと文句を言いながら、取り敢えずは正しい道順だと信じて進むパーティ。毒のダメージも気になり始め、そろそろゴールを見つけたい気もし始めたり。
そんな中、ようやく人やお店の姿がチラホラと見え始めて来た。
『おっ、ようやく集落っぽくなって来たなぁ。ってか、そろそろ出たいぞ、ここ!』
『ですねぇ、NPCもいっぱい出てきたけど……話し掛けないと駄目?』
『お店っぽいのもあるから、取り敢えず話し掛けてみた方がいいんじゃない?』
仕方なく、付近の聞き込みを開始するメンバー達。その結果、この辺りは屋台の通りだと言う事が判明。見てみると、意外と面白い店が多い事が分かって、弾美の機嫌も一気に良くなる。
まずは呪いのアイテム売り場。呪いのピアスや指輪はメダル1枚、兜やブーツやグローブなどの装備品はメダル3枚。呪いの人形や盾は、金のメダル5枚もするらしい。
呪いの武器を売っている店も別にあったが、そちらは片手武器が2枚、両手武器が一律4枚での販売との事。呪いの装備は大体の性能の予想がつくが、武器となるとハテナな感じ。
それぞれ既に良い武器を持っているので、ここで大枚をはたく価値があるかどうか。
他にも打ち直しの鍛冶屋があって、何と銀のメダル2枚で改装備にしてくれるらしい。これは全員でしようとの話し合いでの決定だが、やっぱり一人1回のみとの話のようだ。
金のメダルで買い物出来るショップは、なかなか大した品物が並んでいた。写し身の鏡とか悪魔の尻尾、他にもグランドイーターの果実も売り切れておらず販売中。
武器装備の類いも、裏エリアでドロップする物は店頭に並んでいる。
一行はワイワイと相談しながら、買い物プランに夢中になっていたのだが。薫がある宝珠と術書の取扱店の中に、見た事の無い『魔の宝珠』というアイテムを発見して。金のメダル10枚で販売されているそれは、かなりのレア物っぽい雰囲気がバリバリ。
これは竜の宝珠以来の当たりアイテムだと、騒然となるメンバー。買うのは当然として、誰が使うかで大モメ。魔という響きとこんな物騒な場所での購入に、とんでもない物の予感がヒシヒシ。
MPの多い瑠璃が持つのが良いと、弾美が交渉に入るのだが。
『瑠璃、お前が使って覚えろよ。MPコストが高かった場合、やっぱり有利だからな』
『そ、それは嫌かなぁ……天使魔法を持つ身としては、そういうのはちょっと……』
『わ、私も嫌ですっ! これって拒否権ありますよねっ!?』
『二人の内、どっちかだなぁ……取り敢えず今日は買っておいて、明日じっくり話し合おうか?』
むしろ優しげな弾美の台詞に、瑠璃と美井奈は身の危険を感じてしまったり。それよりも時間とダメージで死なない内に、とにかく買い物を済ましてしまおうと話し合いはヒート模様。
相談の結果、まずは銀のメダルを使っての装備の打ち直し。
――白豹のピアス改 器用度+4、HP+15、落下ダメージ減、防+8
――炎獄のブーツ改 炎スキル+2、腕力+3、HP+15、防+17
――複合素材のベルト改 ポケット+4、器用度+5、MP+13、防+11
――獅子王のベルト改 ポケット+2、攻撃力+6、HP+20、防+13
それから問題の魔の宝珠と、呪いのブーツとグローブをセットで購入。ややお高い呪いの盾も、ついでに購入してしまうと、金のメダルはほぼ使い切った形になった。
その後に、命のロウソクをメダルに交換して、レベルアップ果実を1つ購入。これで全員がレベル33へと、足並みが揃った格好だ。これで、心置きなく最終試練へと臨める事に。
この裏エリアに突入して、そろそろ50分。退出しても良い時間だ。
『退出魔方陣はこれだな。それじゃあ買い物もおわったし、ここを出ようか』
『品揃えの凄くいい出店通りだったねぇ。もっと早い時期に来たかった気もするかな?』
『そうですねぇ……でも、裏でも隠しエリアっぽいから、やっぱり簡単には来れなかったかも?』
『あ~、それはあるかも。レベルアップ果実も売り切れてなかったしねぇ』
そんな感想を口にしながら、一同は長居していたエリアを脱出する。突入した闇市に出た後に、一同はそれぞれ買い物や休憩に時間を費やして英気を養うのだが。
まだ時間が残っているのをどうするかと、のんびり全員で話し合った結果。取り敢えず2つほど候補が挙がったのは、クエストエリアの探索と妖精の泉での呪い解除。
妖精の泉は、既に3日は経過しているので時間的な問題はナシ。ただし、今となっては貯まったギルもあまり使い道が無いので、お金を使用して教会に頼んでも良い感じはするが。
クエストエリア捜索の場合は、NMが見付かるかも知れない期待に賭けて、30分程度うろつく事になるのだが。何も見付からなかったら、完全に時間の無駄となってしまう。
しかし、上手く行けばまた複合技の書が手に入るかも知れない。
終了予定の10時には、まだちょっと時間があるので。どちらかに行くのは決定しているのだけれど。パーティ内で多数決を取ったら、弾美と薫がクエストエリアが良いと言ったので。
瑠璃と美井奈も、つられる形でそちらに賛同してしまう。どう考えても、波乱が起こりそうなのはそっちには違いない。そんな妙な期待を皆がしてしまうのは如何なものか。
何にしろ、全員一致で波乱の最終戦を選択するパーティ一同。
週末の夜は、そんな風に過ぎて行き。それぞれ離れた場所でプレイするメンバー達だったが、孤独とは全く無縁である。心は確かに同じ場所にあるのを、何となく確認出来てしまうから。
明日の予定を確認し合いながらも、楽しみだねと合同インの良さを思い出す素振り。やっぱり離れながらのログでの会話は、ちょっと味気ない気もするメンバー達だったり。
――最終ステージに向けて、心のベクトルは奇麗に揃う四人であった。